【デジタル教科書(3)】学習者用デジタル教科書による授業づくり…iPadの例

 連載の第1回、第2回では「学習者用デジタル教科書」の現状と課題を見てきた。続いて、実際の授業づくりが「学習者用デジタル教科書」の活用によってどのようになるのか、取組みを2つ紹介したい。

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写真1 自分の考えを表現する子ども
  • 写真1 自分の考えを表現する子ども
  • 写真2 「ノート展覧会」の画面。電子黒板に児童のノートが映し出されている
 連載の第1回、第2回では「学習者用デジタル教科書」の現状と課題を見てきた。続いて、実際の授業づくりが「学習者用デジタル教科書」の活用によってどのようになるのか、取組みを2つ紹介したい。今回の第3回では、私の知る優れた実践者による「算数」での授業づくりの事例を紹介する。そして第4回では、私自身が試行錯誤しながら実践することを通して見えたことを、ありのままに紹介したい。

 新潟市の公立小学校に勤務する大関正人教諭は、小学校算数の新進気鋭の若手実践家であり、実際にiPadを児童の人数分レンタルして授業をしたり、先進校でアンドロイド端末を借りるなどして実践を行ったりと、「学習者用デジタル教科書」の可能性を探っている。そして、その研究成果を学会等で精力的に発表している。

 数ある実践の中から、一つを紹介したい。「リアルタイムLMS(Learning Management System)」というシステムを活用した実践である。

 この「リアルタイムLMS」は、児童—教師間・児童間で、タブレット端末へ教材を配信したり、それぞれが端末に書き込んだノート画面を各自の端末や電子黒板上にリアルタイムに共有したりする機能を有した授業支援システムのことである。

 大関教諭は、算数の授業の中で、まず、それぞれの情報端末上に学習の課題を配布した。児童は、配信された課題に対して、手書き機能を活用して自分なりの考え方をわかりやすく色付きで表現した。何通りも考えが思いつく児童は、保存をして新しいシートを呼び出し、2枚目、3枚目を記述する。紙のワークシートでのやりとりでは、新しい紙を取りにきたり、紙を提出したりしなければならないが、タブレット上だとその必要がない。時間が省かれ、じっくりと考える時間を確保することができる(写真1)。

 また、児童が課題に取り組んでいる間、大関教諭は、その様子を一覧表示されている画面で把握する。そして、なかなか考えが思いつかない児童のところへ行き、個別支援を行う。タブレット端末を使わない授業では、机の間を回りながら困っている子どもを探すのが一般的だが、このやり方だと一目でつまずいている子を把握でき、的確な支援ができる。

 その後、一覧の画面をそのまま投影し、お互いのノートを見合う「ノート展覧会」を行う。既存の機器を用いた授業(たとえば実物投影機を用いれば)でも友達のノートを見ることはできるが、全員のノートの一覧をざっと見て、際立った考えを教師と子どもで探すということはできない。このように、児童主体の授業スタイルが自然と生まれてくる(写真2)。

 児童たちは、「そんな考え方があったか」などと、自分には考えつかなかった多様な考え方に視覚的にふれ、新たな発見をしていた。このように、個々の児童が端末で行っていることを学級全体で共有していくことが、「学習者用デジタル教科書」を活用する利点の一つである。

【著者プロフィール】
片山 敏郎(かたやま としろう)
新潟市立上所小学校 教諭で、日本デジタル教科書学会会長。みんなのデジタル教科書教育研究会の発起人でもある。
《片山敏郎》

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