【MOOCs-2/3】誕生の経緯~発展の背景

 大学レベルの講義を誰でも無料で受講できるオンラインコース「MOOCs(ムークス)」。第2回ではMOOCs誕生の経緯、および発展の背景について述べる。

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◆MOOCs拡大の背景

 多くの大学がMOOCsを開講するようになった背景の一つは、MOOCsを含めたオープンエデュケーションの活動が、大学にとって「理念」と「実利」双方に叶うことである。

 オープンエデュケーションは教育機会の格差を是正し、高等教育の機会や教材が十分でない地域に対する「国際教育協力」の活動だと言える。そのため、欧米の慈善寄付団体はオープンエデュケーションを推進する大学や非営利機関に対し巨額の資金を援助している。また、大学は収益の一部を税金等の公的な収入で賄っていることから「公共財」の性質をもっており、大学の活動から生まれた知的な蓄積を社会に対して還元していくことは公共性の観点から見てもふさわしい。このようなオープンエデュケーションの持つ側面が、大学の参加を後押ししている。

 一方で、オープンエデュケーションの活動は大学に対して、間接的な利益をもたらす実利的な側面も持ち合わせている。たとえば、大学がインターネット上に教材や講義ビデオを無料公開することで、大学外の人々が入学せずとも大学のキャンパスで行われている教育について知ることができる。高校生や一部の社会人が教材やMOOCsを閲覧することは、志望大学についてより深く知り、結果として大学を選ぶきっかけとなりうる。

 オープンコースウェアを公開しているマサチューセッツ工科大学の調査によると、同大学の入学者のうち、講義をオープンコースウェアで閲覧したことが大学を選ぶにあたり大きな影響を与えたと答えた学生が27%を占めたとの結果がある。

 さらに、オンラインで教材やMOOCsを英語で公開することには、海外に在住する英語圏の学生に対しても大学教育の魅力を伝え、留学生を獲得する波及的な効果も期待できる。

 このように、大学によるオープンエデュケーションの活動は、インターネットを介して大学教育の魅力を発信できるメリットがある。

 また、大学は無料のオープン教材を用いることで教育コストを削減することができる。特に先進国の公立大学において顕著な状況として、学費の高騰や社会人入学生の増加など、大学がこれまでに経験したことのない課題を抱えている。大学は、大学教育をより安価により多くの人々に提供し、学生がキャンパスの空間に囚われず、多様な形で学べる教育環境を整備する必要に迫られている。

 MOOCsのようなオープンに大学教育を実施可能な学習環境は、現代の大学が抱える課題に対する解決手法としても有効であり、このことがMOOCsの普及を後押ししていると考えられる。一部の大学では、MOOCsを反転授業(※注1参照)の教材として用い、ブレンド型学習を導入することで教育効果を高める取組みもなされている。

 加えて、YouTubeに代表されるようなビデオデリバリーを簡易に行えるサービスの登場ややインターネットブラウザー上で動作するシミュレーションソフト、インターネット回線への常時接続の普及や通信帯域の拡張、受講者の利用するコンピュータ端末の性能向上など、インターネット上で学習環境をヴァーチャルに再現するインフラとハードウェアが整備されたことも、全世界に広がる学習コミュニティを実現するMOOCsの普及に不可欠であったと考えられる。

※注1(反転授業):Flipped Classroomとも呼ばれる授業形態の、授業と宿題の役割を「反転」する、すなわち授業前にオンラインで講義ビデオや資料を閲覧することで知識習得を済ませ、教室では知識確認やディスカッション、問題解決学習など、得た知識を用いる活動を行う授業形態のこと。実践研究から、学習内容の理解度上昇や落ちこぼれ(ドロップアウト)防止に寄与するなどの研究成果があがっている。

 第2回では、ビジネスモデルと国内大学の動き、またMOOCsがもたらす教育の変化への期待について紹介する。

【筆者プロフィール】重田勝介
 北海道大学情報基盤センターメディア教育研究部門准教授。大阪大学大学院卒(博士 人間科学)。東京大学助教、UCバークレー客員研究員を経て現職。研究分野は教育工学・オープンエデュケーション。大学によるオープンエデュケーション事業に携わりながら、教育のオープン化と大学教育の関わりと可能性についての研究を進めている。著書に「職場学習の探求」(日本生産性出版・共著)、「デジタル教材の教育学」(東京大学出版会・共著)など。
《重田勝介》

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