iPadは文房具、ガジェットに埋もれない広尾学園のICT活用

 12月21日、広尾学園は、「広尾学園×iPad×ICT教育」と題された公開授業とカンファレンスからなるイベントを開催した。今年は開催が土曜日とあり、現役の先生たちの参加も多く盛況なものとなった。

教育ICT 中学生
公開授業とカンファレンスに集まった教育関係者
  • 公開授業とカンファレンスに集まった教育関係者
  • 医進・サイエンスコースの研究発表の準備をする生徒
  • 3つのサイエンスラボ
  • プレゼンのリハーサルをする生徒
  • 表計算で実験データ等の整理
  • 医進・サイエンスコースの発表風景
  • 課題発表のポスター
  • インターナショナルクラスの情報技術授業:人工知能について学ぶ
 授業を担当するマーク・マクルアー先生によれば、この授業の目的は、人工知能の基本的な考え方やチューリングテストなどの知識を学ぶことだが、ログを生徒たちが分析し知能や感情といったものを議論し、理解するために必要な論理的思考を身に着けてもらうことにもあるという。マインドマップはそのために有用だと話す。

 広尾学園高校には、理系進学に特化した「医進・サイエンスコース」があるのも特徴だ。このコースでは、大学のラボやゼミのような研究活動が「部活」のように行われている。1年生はなんらかの研究活動に参加することが必須であり、その年の文化祭では全員が精読した学術論文の内容を発表するという。

 医進・サイエンスコースで実践される研究活動は、大学の研究室での活動とそん色のないものだ。生徒たちは、先生に教えてもらう授業だけでなく、自分で研究課題を見つけ、仮説をたて、検証するといった作業を続けている。

 たとえば、学会論文(英文)を読んだ上で仮説をたて、実験を行ったり、学会で口頭発表したり、カンファレンスで発表を行ったりと学校外の活動も幅広い。論文を調べたり、ほかの研究者と意見交換を行ったりするにはインターネットは欠かせない。また、データを整理し、論文を書き、発表資料を作成するためにはオフィス系ツールが活用されているようだ。

 公開授業で発表された研究「プラナリアにおけるTERTの発現パターンの解析」は、プラナリアの再生能力に着目し、その幹細胞の増殖に必要なテロメアの維持に関係のあるTERTという逆転写酵素が作られる過程を追ったもの。テロメアは、アンチエイジングへの応用の可能性があるといわれているが、細胞のガン化にも関わっており、多くの研究者が取り組んでいるテーマのひとつだという。

 そのほか、筋ジストロフィーに関する論文を読み、原因や治療法を研究しているグループや、色素増感太陽電池の素材研究を行うグループ、2009年の新型インフルエンザの感染者数をSIRモデルを用いて解析するグループなどの発表が行われた。

 「教育へのICT利活用」といったフレーズが用いられる場合、ともすると、PC、タブレット、電子黒板、電子教科書といったツールやアプリケーションの活用方法や事例に目が行きがちである。ここで陥りやすい間違いは「iPadを使えばICT教育は成功する」といった誤解から、タブレットやアプリの導入が目的化してしまうことだ。

 公開授業を通じて感じた広尾学園のICT教育は、生徒がICT機器で学習することが目的ではないということ。これからの時代に必要とされるグローバルな人材をそだてるため、必要な知識や考え方を生徒が身に着けるために実践される日々の高度な学習の中で、iPadやMacBookといったデジタル機器を文房具のように自然に扱う生徒の姿が印象的だった。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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