日本化学会は、高等学校の化学において、改善が求められかつ疑義を感じる15の用語について、もっとも適切と思える姿を検討し、変更などを提案する案をまとめた。今後、各教科書会社に反映してもらうよう協力を仰ぐほか、機関誌やWebサイトにて周知を図っていくという。 日本化学会が中学校と高校で使う現行の教科書を調べたところ、疑義のある用語がいくつかあり、一部は実際の教育現場でも問題になっていたという。そこで、「本来の意味が十分に伝わるか」「大学で行われる教育・研究との整合性がよいか」「国際慣行に合致するか」という主に3つの観点から、高校生に過度な負担をかけず教育効果が上がるよう、疑義のある用語について公式見解をまとめ、今回の「高等学校化学で用いる用語に関する提案」を発表するに至ったとしている。 変更等の提案がなされた用語は全部で15語。教科書会社へのアンケート調査などを経て用語を抽出し、同会Webページ上にて会員の意見を集約したのち2015年2月5日に理事会の承認を受けた。内訳は、「変更または不使用を提案する用語」が9語、「変更または不使用を提案するが、今後も代替案を検討する用語」が2語、「用法・使用範囲の見直しを提案する用語」が4語となっている。◆高等学校化学で用いる用語に関する提案【変更または不使用を提案する用語(9語)】1 イオン式(英語ionic formula)提案:「イオン式」は使わず、「化学式」を使う。2 価標*(英語bondは「結合」の意味で使われる)提案:特別な呼称をつけない(必要なら「線」「結合」などと呼ぶ)。3 希ガス*(対応する英語noble gas)提案:海外の高校教科書が例外なく使うnoble gasに合わせ、「貴ガス」に変更する。4 共有結晶(英語covalent crystal)提案:「共有結合の結晶」か「共有結合結晶」とする。「共有結晶」は使わない。5 金属の結晶(英語metallic crystal)提案:「金属結晶」とする。6 昇華の逆過程(英語deposition、desublimation)提案:気体→固体は「凝華」と呼ぶ(固体→気体は従来のまま「昇華」)。7 絶対質量(英語mass)提案:たんに「質量」でよい。8 融解塩電解(英語molten salt electrolysis、fused salt electrolysis)提案:「溶融塩電解」に統一する。9 六方最密充填*(英語hexagonal close packing)提案:「六方最密構造(hexagonal close-packing structure)」に一本化する。「六方最密充填構造ともいう」と「発展の注」をつけるのが望ましい。【変更または不使用を提案するが、今後も代替案を検討する用語(2語)】1 イオン反応式(英語ionic equation)提案:「イオン反応式」は「イオンを含む反応式」などのように表記する。2 標準状態*(英語standard state)提案:「標準状態」という用語を使わない(「標準状態で1Lの気体」とせず、「0度、1.013×105 Paで1Lの気体」とする)。【用法・使用範囲の見直しを提案する用語(4個)】1 アルカリ土類金属(英語alkaline earth metals)提案:2族のすべてをアルカリ土類金属(アルカリ土類元素)と呼ぶ。ただし「BeとMgを除くことがある」と付記してもよい。2 (イオンの)価数提案:イオンの「電荷」(英語charge)が定着するような記載に直す。「価数」を現状のまま使う場合は一般用語として扱い、太字にはしない(英語も付記しない)。3 遷移元素(英語transition elements)提案:3~12(または3~11)族元素の総称として使用する。次の「注」をつける。(注)12族元素は、遷移元素に含める場合と含めない場合がある。4 電子式(英語Lewis symbol、Lewis structureなど)提案:学習の便宜のために「電子式」という語を残す場合は、一般用語として扱い太字にはしない。 *は文部科学省「学術用語集・化学編(増訂2版)」(1976)に採録されている用語。