熱い議論が飛び交う…クリッカーアプリ「respon」で変わる大学授業

 東洋英和女学院大学 尾崎博美准教授は、教育学の授業で「respon」というクリッカーアプリを活用し、200名弱が履修する大規模な講義において少人数のアクティブラーニングに匹敵するような活発な意見交換を可能にしている。

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responを使った大学授業風景
  • responを使った大学授業風景
  • 大規模な授業だが出席者の大部分の意見を引き出すことができる
  • たとえば、こんな設問の回答をクリッカーで集計する
  • responを使った大学授業風景
  • responを使った大学授業風景
  • 提出された意見はすぐに投影可能
  • スマートフォンを持たない学生、紙がいい学生は配布プリントの提出でも問題ない
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 授業でのICT活用というと、電子黒板やタブレットの事例が多いが、これだけスマートフォンが普及している今、もっと気軽にデジタル機器やサービスを授業に利用してもいいのではないだろうか。

 もちろん、セキュリティの問題、均一な教育環境、コスト負担といった課題もあり、大掛かりな施策や導入のハードルは高い。しかし、実は授業で気軽に利用できるコミュニケーションツールやファイル共有サービスも増えてきている。

◆一教員としてresponを契約、複数大学で活用

 システム導入にはさまざまなハードルがあり、教育ICTの導入も例外ではない。ただし、大学では個人予算があることから、教員単位での導入に比較的自由度がある。東洋英和女学院大学 尾崎博美准教授は、現在、複数大学で講義を受け持っているが、「respon(レスポン)」というクリッカーアプリを個人予算で導入し、複数大学の授業で使用する条件で契約することにより、他大学でもresponを活用して授業を行っている。

◆クリッカーアプリで活発な意見交換

 尾崎先生は、東洋英和女学院大学1年生の教育学概論の授業でresponを活用している。200名弱が履修する大規模な講義において、活発な意見交換を可能にしている。

 responは専用のデバイスを使わず、スマートフォンをクリッカーとして使えるようにする、朝日ネットが提供する教育支援アプリだ。特長は、単に出欠をとったり選択式アンケートの回答をするだけでなく、設問の解答、課題の提出などフリー回答の入力機能が強化されている点にある。

 尾崎先生の授業では、おもに思考や意見を募るような特定の正解がない設問や、問いかけに使っているという。もちろん一問一答や賛否、共感の有無を問うような設問でも活用可能だという。

 たとえば、「教育の価値」というテーマの授業において、優しさや礼儀正しさといった「教える」ことの多義性を考えさせるとき、4コマ漫画(ここでは礼儀に関する漫画だった)のオチのセリフをresponで回答させ、礼儀正しいとはどういうことか(プロトコルをトレースすることか、相手のことを考えることかなど)を考えさせ、回答させる場面。

 通常なら、このような例題に対して、挙手や指名による発言によって授業が進む。しかし尾崎先生の授業では、学生はresponに意見や回答を書き込んでいく。その内容は、すぐに先生の端末にも表示され、回答数も把握できる。プロジェクターがあれば、回答の一覧や個別の意見をスクリーンに投影することもできる。また、学生個人の端末でもお互いの意見を見ることができる。入力はLINEやSNSに投稿しているような感覚で、多くの学生が立て続けに回答を入力していく。短時間に多数の意見や回答が集まる。

◆シンプルで手軽だから学生の意見が集まりやすい

 「他のクリッカーでは、フリー回答をこれほど簡単に学生同士で共有できません。また、大部分の出席者の意見がすぐに聞けると、学生の考えや理解を把握しやすくなります。それを、次の授業に役立てることもできます。学生の回答自体が「教材」になるのです。」と尾崎先生は、respon活用の効果を説明する。

 授業では、発言により学生の積極性を育てるという意味もあるが、挙手制はどうしても発言者が同じ人になりがちといった問題がある。学生の考えは、皆が発言してくれないと共有しようがない。学生にとってスマートフォンは日頃から使いこなしているデバイスであるためか、課題や設問を出すと自主的に書き込みを始めるという。

 学生たちの反応もよい。やはり挙手による発言はしにくいとのことだが、スマートフォン入力は気に入っている学生が多いようだ。評価が高かったのは「みんなの意見が見られること」だった。ほとんどの学生が、これまでスマートフォンを使った授業の経験はなかったとのことだが、意見を聞いた学生数名は、他の授業でもresponを導入してほしいと語っていた。

◆静かな教室に熱い意見が飛び交う

 授業が開始されると、学生が一斉にスマートフォンを操作し始め、responのタイムラインには学生たちの熱い意見が飛び交う。教室は静かなのだが、150人前後の出席者がresponで意見を述べ合っている。学生の発言回数や頻度でいえば、少人数で行うアクティブラーニングに負けないくらいだ。新しい授業の形として注目すべき形態といえるだろう。

 しかし尾崎先生は、このスタイルが常にベストだとは考えていない。1年生は設問の答えや意見を書かせる形をメインにしているが、2年生では、グループディスカッションを取り入れ、代表者にresponで意見を書き込ませるスタイルも実践している。いきなり発言しろ、ディベートしろといっても学生は戸惑ってしまうかもしれない。responのようなツールでの書き込みから、グループディスカッションと段階を踏んで発言力などを身に付ける取組みを行っているそうだ。

◆導入手続きやライセンスの管理方法

 個人情報については、最初の段階で、学生にどういう情報が必要かを明確に示し、外部から保護されている点、授業が終わった時点でデータはすべて削除するといったことを説明している。responを使うためにはメールアドレスの登録が必要だが、名前など、その他の情報を登録せず授業内の番号のみ入力している。学生の名簿とresponのIDは直接紐づいていないため、管理者である先生でも、発言者を特定するにはアカウントリストと名簿等と照合しなければならない。アカウント情報や学生の名簿は、それぞれのレベルで適切に管理される。

 授業で使う場合、現場の運用レベル以外の事務的な問題、手続き上の処理といった問題もある。尾崎先生の場合は、個人でresponのライセンスを購入して授業に使っている。大学の予算を使っていないため、ライセンス数の範囲内であれば、学校をまたいで使うことも問題ない。もともとresponは法人契約、学校ごとの契約が前提だったが、朝日ネットは教員単位・授業単位など、個人でも契約できるプランの提供を開始している。

 大学の予算で導入するなら、大学ごとの正規の手続きで授業システムとして導入することになる。その場合、意思決定や調整には時間が掛かるし、教員が直接関与するとも限らない。

 教員個人で契約でき、かつ個人情報などの問題がクリアな運用ができるのであれば、尾崎先生のように個人あるいは研究プロジェクトとして申請する方法もある。申請する際、事前に複数大学の授業での使用を明記しておけば、大学をまたいだ利用も可能だ。

 朝日ネットでも、尾崎先生のような利用をモデルケースとして、先生ごとの個人契約のライセンスを、大学に限らず広く展開していく方針だという。

 こうした手軽に導入できるツールの活用など、文房具感覚での教育ICTの導入が広がることに期待したい。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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