「基幹工学部」「先進工学部」「建築学部」からなる、2018年4月に設置される3学部6学科2コースでは、一体どのような学びに触れることができるのだろうか。先進的かつ独自性豊かな研究を行う日本工業大学の教授陣に、研究内容や学問の魅力について聞いた。
【建築部/建築学科/菊田貴恒准教授】
建築学部は、建築学科1学科に、建築コース、生活環境デザインコースの2コースからなる。建築学の知識や技術の修得はもちろん、建築文化を継承しつつ社会の変化にも対応できる思考力を身に付けた学生を養成する。建築コースでは、建築デザイン・設計、歴史、計画、構造、材料、環境など幅広い分野に取り組む。生活環境デザインコースでは、人の心の「豊かさ」を育む室内空間や住環境について学ぶことができる。さらに、どちらのコースも一級建築士の資格取得を目指すことができるカリキュラムを提供し、基礎づくりをサポートしている点も特長だ。
住みよいまちづくりに欠かせない足場まわりに欠かせない繊維補強セメント系複合材料を研究する菊田准教授に、建築学部での学びのおもしろさ、そして理工系に進む意義について聞いた。
◆セメント系材料に“ねばり強さ”?先進的な研究
--まず、なぜ研究者の道を目指すようになったのか教えてください。
父親の影響もあり、中学生のころには建築家になりたいと思っており、安直ですが、建築が学べる工業高校の建築科に進学しました。そこでさらに高度な建築学を学びたいと思い、東北工業大学に進学しました。
そこで出会った個性豊かで"テキトウ"なことしか話さない“おもしろい教授”に憧れ、将来は大学の教員になりたいと思うようになり、大学院に進学しました。最終的には、東北大学大学院都市・建築学専攻を修了し、そのまま東北大学で助教として勤務してきました。その後平成25年の4月から日本工業大学に勤務しております。
--日本工業大学では、どのような研究をしていますか。
コンクリートに代表される「セメント系材料」に、適切なねばり強さを付与する方法について研究を行っています。

セメント系材料研究の最先端に挑戦
一般的に、セメント系材料は「引張に脆い」という弱点を有しているため、コンクリート構造物の安全性や耐久性を考えると、適切なねばり強さ、つまり「靭性能(じんせいのう)」をコンクリートに付与する必要があります。そこで、セメント系材料に適切なねばり強さを付与する一つの方法として、コンクリート中に化学合成繊維や金属繊維を混入する材料設計手法がさまざまなセメント系分野で注目されています。
現在取り組んでいる研究は、前述したようなセメント系材料にさまざまな繊維を混入し、従来のコンクリートなどに比べて非常に大きなねばり強さを有するセメント系材料を実現しようとするものであり、従来のコンクリートの概念を大きく超えるまったく新しいセメント系材料の研究と言えます。
これらの材料は一般的に「高靭性繊維補強セメント系複合材料」と呼ばれており、「HPFRCC(High Performance Fiber Reinforce Cementitious Composites)」などとも表されています。HPFRCCと呼ばれる材料の中でも、特に複数種の繊維をコンクリート中に混入し、それぞれの繊維の複合効果を期待した「ハイブリッド型繊維補強セメント系複合材料」に関する研究が、おもな研究テーマです。
--ハイブリッド型繊維補強セメント系複合材料、ですか。
はい。この材料は、繊維物性の異なる複数の繊維を適切に組み合わせてコンクリート中に混入することで、繊維の単一混入では得られない「より大きなねばり強さ」を発現することを可能とした材料であると考えています。
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菊田研究室のようす
一般的な繊維補強セメント系複合材料は、1種類の繊維で材料設計する場合がほとんどですが、私どもの研究では3種類、4種類の繊維を適切に組み合わせて材料設計するような取り組みを行っております。繊維種類が多くなればなるほど材料設計が難しくなりますが、その反面、うまくいけばそれぞれの繊維の複合効果で突出した性能が生み出されることもあります。
--新しいコンクリートが実現した場合、わたしたちの生活はどのように変化するでしょうか。
セメント系材料というものは、見えないところで頑張る黒子のような存在ですので、生活の中で研究内容が身近に感じるようなポイントはありません。
しかし、地下鉄や高速道路のトンネルを形成しているコンクリートなどには繊維補強セメント系複合材料が多く使用されています。また、超高層ビルのコンクリートには、火災時のコンクリート爆裂を抑制するためにさまざまな繊維が混入されています。
このように、生活の中で直接的に感じることはできませんが、かげながら皆さんの安心安全な社会生活を支えているのが、セメント系分野の研究だと思います。
◆裏舞台から安全安心な生活を支える醍醐味
--黒子を支える黒子、それは研究者も同じですね。なぜ、そのような材料を研究しようと思ったのですか。研究のきっかけを教えてください。
ハイブリッド型繊維補強セメント系複合材料の大分類である高靭性繊維補強セメント系複合材料は、博士課程時代の恩師である三橋博三東北大学名誉教授と一緒に進めてきた研究テーマです。
三橋先生はコンクリートのひび割れ問題に破壊力学的アプローチを導入した世界的権威者で、その分野では非常に有名な先生でした。その先生から、博士課程に進学した際に「繊維補強材料に関する研究をやらないか」と提案していただき、二つ返事で「やります」と答えたことがこの研究を始めたきっかけです(笑)。
実は、この研究を始めるまではセメント系材料に強い関心があったわけではないのですが、いざ研究を始めると、ほんの少しの材料構成の違い…たとえば料理でいったら、塩を少々入れる程度の感覚で劇的に性能が変化することがあり、ドラマチックな材料性能の変化が非常におもしろく、毎日のように調合設計を考えては、実験を繰り返す、という研究の日々を今も続けています。調合設計とは、そうですね、料理で言えばレシピのようなものです。
--今ではすっかり、研究のおもしろさにとりつかれているのですね。
そうですね。セメント系材料の研究は、使用する材料により無限の組み合わせがあります。したがって、その無限にある材料の組み合わせの中から最適な組み合わせパターンを見出す楽しみや、A材とB材を組み合わせるとなぜ非常に高い強度が発現するのか、など、さまざまな材料による複合効果などのメカニズムを解明するおもしろさがあります。
一方、組み合わせのパターンが無限にあるということは、それだけ実験回数も途方もない数になり、目的とした結果を得るまでに非常に多くの実験と時間が必要となることが辛い部分でもありますね。
◆理工系に進む意義
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「なぜ?」という疑問が研究を進める鍵だ
--楽しいだけではない、でも、研究の一番の醍醐味に触れた気がします。理系進学の意義はどこにあると思いますか。
理工系の分野を学ぶということは、これまでの世の中にないまったく新しい物や価値を創造するための基礎知識を学ぶことだと思います。生活を一変させるような工業製品を作り出したいと思っても、それを現実的なモノとして生み出すには工学的な基礎知識と知恵が必要だと思いますので、それらを学ぶことができるのが理工系分野を選択する意義の一つだと思います。資源の乏しい日本においては、理工系分野こそが、これまでもこれからも日本の柱となる分野だと考えます。
--たとえば、こんな子どもは理工系、建築学を学ぶのに向いているなど、ご自身の経験から思うことはありますか。
身近な建築材料であるコンクリートは建物や土木構造物など多種多様なものに使用されておりますが、まだまだ不明な点、よくわからないメカニズムなどがたくさんあります。こういった「よくわからないこと」を楽しんで探求できる、好奇心旺盛な児童、生徒の皆さんに理工系を目指してほしいと思います。
私も、研究室の学生には常に「なぜ?」という疑問を抱くように指導しています。なぜという疑問と、それに対する自分なりの答えを、しっかりと自分の頭で考えられるようになってほしいと思っています。
--ありがとうございました。
◆実践的な学びを実現する2つの取組み
日本工業大学が提供するカリキュラムの特徴は、「デュアルシステム」と「カレッジマイスタープログラム」にある。
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日本工業大学のデュアルシステム
デュアルシステムでは、1年次から理論と体験を組み合わせた経験の機会を提供する。座学で学んだ内容を、実験、実習、製図といった実体験に生かし、学問的な知識をより体系的な経験へと昇華させる仕組みだ。現場で発見した課題や疑問を講義に持ち帰り、さらなる理解を深めることができる。
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日本工業大学のカレッジマイスタープログラム
「大学での卓越した技術者・職人」という意味を持つカレッジマイスタープログラムでは、基盤教育や専門教育で学んだ工学の知識を生かし、個人やチームでものづくりに挑戦することを奨励。デュアルシステムで得た経験をもとに、世界的な大会や研究発表会に臨むチャンスを提供する。学生の熱意を支えようと、教授はもちろん、教員が一丸となって学生を親身にサポートする点も心強い。
菊田准教授が研究室を置く建築学科・建築コースのほか、建築学部には生活環境デザインコースがある。生活環境デザインコースでは、すべりによる転倒防止を目的とした防滑性の床材料を研究する工藤瑠美准教授の研究室など、建築学の観点から人の心の「豊かさ」を育む室内空間や住環境に関する学問が門戸を開いている。
工学に少しでも興味がある、または持った場合は、夏休みにも開催されているオープンキャンパスに参加してみるとよいだろう。受験生向けの工学体験ツアーだけでなく、保護者向けの大学紹介も用意し、学生や教員全員が日本を支える"未来のエンジニア"と会えることを心待ちにしている。
大学全体や学部・学科概要のほか、入試要項や入試のポイント、オープンキャンパス情報の詳細はすべて日本工業大学Webサイトで確認できる。
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【日本工業大学オープンキャンパス/新学部学科説明会】
日程:2017年7月15日(土)、8月5日(土)・6日(日)・19日(土)、9月10日(日)
時間:各日11:00~16:30(ランチ付)
※2018年3月24日(土)には新高校2・3年生向けに実施予定。時間は11:00~16:30
おもなプログラム:Hello New NIT!、工学体験ツアー、女子学生にきこう「NIKOJOライフ」、保護者も安心「大学紹介」など