「スポーツで社会は変わるの?」文科省スポーツ庁 鈴木大地長官に聞いてみた

文部科学省の外局として2015年10月1日に設置された日本の行政機関、スポーツ庁。

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スポーツ庁 鈴木大地長官
  • スポーツ庁 鈴木大地長官
  • スポーツ庁の組織図
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  • スポーツ庁 鈴木大地長官(右)
  • スポーツ庁 鈴木大地長官は水泳選手時代にソウル五輪男子100m背泳ぎで金メダルを獲得(1988年9月24日)
文部科学省の外局として2015年10月1日に設置された日本の行政機関、スポーツ庁。

「スポーツ庁って何をしているの?」という声を聞くことがあります。スポーツに興味がある人でも、スポーツ庁が実際何をしているか知らないことも多いです。

ざっくり言うと「スポーツに関することはなんでもやっている」というところに落ち着いてしまうのですが、まずはスポーツ庁公式サイトに掲示されている組織図を見てみましょう。

スポーツ庁の組織図《スポーツ庁公式サイトより》

政策課、健康スポーツ課、競技スポーツ課、国際課、オリンピック・パラリンピック課などがあり、さまざまな取り組みや活動をしているようです。これでは具体的なことが見えにくいのも当然かもしれません。スポーツ庁が重きを置いて取り組んでいるコトは何になるのでしょうか。

そこでスポーツ庁の鈴木大地長官に聞いてみることにしました。かつて水泳選手として活躍した鈴木長官は1988年ソウル五輪に出場。競泳男子100m背泳ぎで金メダルを獲得しています。スポーツ庁が創設されると初代長官に就任しました。

スポーツ庁って何をしているのでしょうか?(聞き手はCYCLE編集部・大日方航)

---:スポーツ庁が特に重きを置いている取り組みはありますか?

鈴木大地長官(以下、鈴木長官):スポーツに関することはかなり広範囲にわたって取り組んでいるので、なかなか『これに力を入れている』ということは難しいですね。

競技力向上も当然やっていますし、スポーツを通じた国民の健康増進も重要です。最近はスポーツビジネスの活性化や、スポーツによる地域の活性化。大変多くのことをやっています。それぞれ担当がいてテーマに沿って専門的に行う部署があり、外部の人や団体を支援したり、スポーツ庁が先頭に立って一緒に取り組んだりもします。

---:2017年3月に「第2期スポーツ基本計画」が策定されました。中長期的なスポーツ政策の基本方針のひとつとして、「スポーツで『社会』を変える!」とあります。本当に社会はスポーツで変わるのでしょうか?

鈴木長官:ひとつの例として「医療費の抑制」が挙げられます。現在、厚生労働省によると1年間の国民医療費の総額は40兆円を超えています。さらに日本は少子高齢化が進んでいきます。

今までは「病気になったあと、薬や手術でその病気を治す」という流れが一般的だと思いますが、その「病気になる前の健康体」をスポーツによって保つことが、医療費の抑制につながっていくのではないかと我々は考えています。少なくとも「医療費の抑制」という面ではスポーツによって社会を大きく変えることができるのではないでしょうか。いや、変えていかないとまずいです。

スポーツ庁の鈴木大地長官

新潟県見附市では、市民に継続的にスポーツを実施させる取り組みをしています。そこでは実証実験の結果、医療費がひとり当たり年間約10万円抑制されたそうです(運動プログラム開始後3年後のスポーツ実施者と非実施者を比較)。

現在の好例としては見附市、茨城県大洋村、群馬県中之条町が挙げられます。要は、こういった地域レベルで行われている取り組みを全国的に展開していけばいいのです。なかなか簡単には進まないですが、少しずつ進めていこうと思います。

---:なるほど。『社会を変える』について、「医療費の削減」以外の点はありますか?

鈴木長官:たとえば「地域の活性化」という面ですが、限界集落(過疎化などの影響で65歳以上の高齢者が人口の半数以上となり、社会的共同生活が困難になった集落)みたいなところが日本にはあります。

しかし、そういうところには人は少ないですが、逆に自然豊かな資産がたくさんあります。こういった場所をアウトドアスポーツなどで活かせると、交流人口が生まれます。

交流人口が生まれるとビジネスが発生し、やがてそこに住んでみようかという話になります。そうすると地方の再生につながってきますね。スポーツは地域の活性化にも役立つのです。

競泳選手時代のスポーツ庁 鈴木大地長官。1988年ソウル五輪男子100m背泳ぎで金メダルを獲得 (c) Getty Images

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2015年に観光庁によって公開された「訪日外国人消費動向調査」によると、スポーツ目的で来日した外国人数は138万人(平成27年度)。第2期スポーツ基本計画では、これを250万人に増やすことを目標に掲げています。同じく「スポーツツーリズム関連消費額」は2204億円(平成27年度)から3800 億円に拡大するという目標です。

スポーツを目的に来日する外国人観光客は意外と多いみたいです。現在は「ゴルフ」「スキー・スノーボード」「相撲観戦」が高い人気を誇っているようですが、全国どこにでもある地元の自然環境を利活用することによって、限界集落のような場所にもスポーツツーリズムで収益を生み出していきたいと鈴木長官は考えているようでした。先日、国内外の観光客増加や地域活性化を目指すための「スポーツ文化ツーリズムアワード2017」の公募も始まりましたね。

「スポーツで『社会』を変える!」というテーマのひとつの答えとして鈴木長官が挙げた医療費の抑制。実際にいくつかの市町村ではスポーツの力によって医療費を抑制した例があり、これを全国展開していけばかなりの医療費抑制が見込めるそうです。


次回の【スポーツ庁 鈴木大地長官に聞く】:東京五輪が終わったらスポーツ庁は何するの?

●鈴木大地(すずき だいち)
1967年3月10日生まれ、千葉県習志野市出身。元水泳選手。スポーツ庁初代長官。1988年ソウル五輪男子100m背泳ぎで金メダルを獲得。当時、スタートからしばらくもぐったままで水中を進む「バサロ泳法」が話題になる。1993年順天堂大学大学院体育学研究科コーチ学専攻修了。2003年9月から世界オリンピアンズ協会理事を3期に渡り務め、2013年4月より日本オリンピアンズ協会会長に就任。同年6月から日本水泳連盟会長を3年間兼任した。2015年10月より現職。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事も務める。2017年7月に国際水泳連盟(FINA)理事に就任することがFINA総会で承認された。

【スポーツ庁 鈴木大地長官に聞く】スポーツで社会は変わるの?

《大日方航@CycleStyle》

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