【EDIX2018】あるのが「当たり前」のICT環境…箕面市・倉田氏×文科省・梅村氏

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大阪府箕面市・倉田哲郎市長
  • 大阪府箕面市・倉田哲郎市長
  • 文部科学省生涯学習政策局・梅村研氏
 タブレット、電子黒板、プロジェクター、デジタル教材。「関心はある」「意義があることもわかっている」「でも学校現場での導入はなかなか進まない」のが現実だ。2018年5月17日に行われた「第9回教育ITソリューションEXPO(EDIX)」での基調講演には、学校現場に巣食う課題を解決すべく、大阪府箕面市の倉田哲郎市長、文部科学省・生涯学習政策局の梅村研氏が登壇した。

大阪府箕面市・倉田市長:ICTを「当たり前に無造作に」


機器の導入から活用まで箕面市が実践する教育改革とは

 前半は箕面市・倉田市長が壇上へ。「ICTを『当たり前に無造作に』~機器の導入から活用まで箕面市が実践する教育改革とは」と題して講演を行った。

 大阪市のベッドタウンである箕面市は、2008年からの10年間で人口が108.21%に増加している。内訳を詳しく見ると、この少子化社会にありながら15歳未満が117.47%と、大阪府内の他市から抜きん出て増加している。講演では、次世代育成に根ざした投資を惜しまない箕面市の教育政策とその事例を紹介した。

 箕面市では、すでに小中学校および小中一貫校全20校に電子黒板計554台、タブレットPC計470台を配備しているが、2018年度の2学期より、さらにその台数を増やし、市内の小学校および小中一貫校の4~6年生全員に計6,000台を導入することに踏み切った。自宅では日常的にデジタル機器に触れることができる現在、学校でも同じように「当たり前に」そしてふとそこに「無造作に」デジタル機器のある環境を整えることが望ましいと倉田氏は語る。

 リテラシーやモラルについての教育は必要としながらも「ICTは一生懸命に使うなど、無理やり使うようなことはしなくてよい」というのが倉田氏の考えだ。日常の中でいつでもICTにアクセスできる環境さえ用意しておけばよい。印象的だったのは、昇降口ロビーに設置されたテレビ画面に向かって英語で挨拶し、はしゃぐ子どもたちの映像。姉妹都市であるニュージーランド・ハット市の小学校と常時Skypeでつなぎ、「どこでもドア」さながらにリアルタイムで国際交流を楽しんでいるそうだ。休み時間や登下校時のふとした場面も、ICT環境によって、これほどまでに変わる。

 環境を整えることで、児童生徒だけでなく教職員もそれに徐々に順応していく。ICT活用に関しては、年齢や主義の違いをはじめとして教員の間でもバラつきが出るところだろう。使用を強制することなく、ひとつの選択肢として、あるいは環境の一部としてICTを取り入れることが鍵となる。関心のある教員が率先してICTを活用することで次第にロールモデルができあがる。教員の声の多くは「意見交換や生徒に向き合う時間が増えた」という前向きなものだそうだ。

 また教員に関しては、教務歴や児童生徒の学力・体力・生活状況をデータベース化し、それを用いた指導力分析の事例も紹介された。情報をデータ化することで多角的な分析が可能となり、その結果も可視化されるため、より信ぴょう性のある根拠を持って指導力向上にあたれるとのこと。

 国による実証実験では、ハイスペックな機材をいかに活用するかが課題として検証されることが多く、実験期間終了後に自治体に主体が変わった途端、経費や人的コストといった点で継続できなくなるケースがある。とはいえ、ブラウザやクラウドでの管理システムを導入することで、機器自体のスペックは高くなくても高水準の教育を低コストで実施することができる。箕面市が導入するタブレットでは、端末・クラウド・セットアップも含めコストを1台につき1年間で約16,000円までに抑えることができたという。倉田氏は、低コスト・高コスパを意識しながら環境を整備することで持続可能な教育を実現できると考えている。

 前例のない先進的な取組みを行う際、経費はもちろんのこと、時間的なコストや精神的な負担は拭いきれない。それを極力軽減ないし排除し、背伸びすることなく緩やかな浸透を目指す箕面市の「当たり前で無造作なICT環境づくり」のモデルは、他の自治体にとっても横展開の可能性をおおいに感じられる非常に有意義なものではないだろうか。

文科省・梅村研氏:教育の情報化の動向と今後の展望



 後半は、文部科学省生涯学習政策局の梅村研氏が登壇。「教育の情報化の動向と今後の展望」について講演を行った。箕面市の事例を咀嚼したうえで、国としての取組みをあらためて俯瞰で確認する設えだ。

 教育の情報化が目指すものは、ICT機器の使用やプログラミングスキル習得をはじめとする「情報教育」「教科指導におけるICT活用」、箕面市でも取り組まれている「校務の情報化」の3つである。米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏や、米オックスフォード大学の研究者であるカーチャ・グレース氏の言葉を引きながら、身に付けるべき21世紀型スキルについて触れ、そのなかでも情報活用能力や論理的思考・プログラミング的思考の必要性をあらためて確認たうえで、教育の情報化がそれらの習得に大きく貢献する旨を強調した。梅村氏は、現場の教職員や自治体の抱える悩みやもどかしさに理解を示しつつ、政策としてバックアップしていきたいと話す。

 倉田氏の講演でも語られた学習者用端末の整備についても、政策の観点から触れた。2017年3月現在、特殊な先進的な地域に限らず全国で平均した場合、学習者用の端末は5.9人に1台が配置されている。前年より状況は改善したものの新学習指導要領の実施を見据えて策定された「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」で目標とする水準の3クラスに1クラス分の整備には、まだ努力が必要だとした。

 また、第196回通常国会議案となっているデジタル教科書の話題についても触れた。これは授業に使用する教科書について、一部ないし全体を紙からデジタルへ置き換えることを可能とするもの。より主体的・対話的に学びを行うことができること、また他のデジタル教材との親和性が高いことから、国としてデジタル教科書の活用を促す方針だ。デジタル教科書自体、有用な教育ツールとしての立ち位置を築く第一歩になると同時に、教育現場のICT化を底上げする動きとなるだろう。

 梅村氏は、今後学校現場およびそれを管轄する地方自治体に対して期待することとして、3点を提示した。まず、学校のICT環境整備計画の策定を早期に確実に行うこと。2点目は、先にも述べたとおり3クラスに1クラス分の学習者用端末を整備すること。最後に、授業中にICTを活用して指導することができる教員を100%にすること。いずれも、次世代育成への投資について優先度を向上させることを合わせて強調した。

 中央行政と地方行政の2つの視点から、教育の情報化を眺めることで、概念的なものから具体的な事例までを網羅的に把握することができた。教育現場へのICT導入に関しては、自治体ごと、学校ごとにさまざまなスタンスであって動きもまちまちであることは言わずもがな、しかし新学習指導要領の実施は次第に近づいてきている。さらにいえば、実社会ではすでに情報活用能力や論理的思考・プログラミング的思考が求められているのが現状だ。リソースの活用や施策の推進を経て、一般社会での「当たり前」が、学校でも同じく「当たり前」になる日がそう遠くない未来に訪れることを祈っている。
《野口雅乃》

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