【EDIX2018】生き残るためのグローバル教育と成果、渋幕と渋渋…田村哲夫校長

 EDIX特別講演として2018年5月18日、渋谷教育学園 理事長・校長の田村哲夫氏は「世界で活躍するグローバル人材を育成する-渋谷教育学園の挑戦~渋幕と渋渋の教育」と題する講演を行った。

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渋谷教育学園 理事長・校長の田村哲夫氏
  • 渋谷教育学園 理事長・校長の田村哲夫氏
 国内で生まれた日本人の子どもの数は2016年に統計開始以来始めて100万人を割り込み、2017年にはさらに減少。国立社会保障・人口問題研究所は、1億2,671万人(2017年11月1日現在)の国内の人口は、2053年には1億人を割り込み、およそ100年後の2115年には5,000万人程度まで減少すると推計している(出生中位・死亡中位推計)。一方で世界人口は増加を続け、2017年時点で76億人の人口は、2100年には112億人に達すると国連は予測している。

 この人口減少への対策の遅れが喫緊の課題である日本において、急務となっているのがグローバル人材の育成である。「第9回 教育ITソリューションEXPO(EDIX)」の特別講演で2018年5月18日、渋谷教育学園 理事長・校長の田村哲夫氏は「世界で活躍するグローバル人材を育成する-渋谷教育学園の挑戦~渋幕と渋渋の教育」と題する講演を行った。

渋幕・渋渋とグローバル教育



 田村哲夫校長は、首都圏有数の進学校として人気の高い渋谷教育学園幕張中学校・高等学校(渋幕)で1983年の設立時より校長を務める。渋幕での経験をもとに、1996年には都市型の共学中高一貫校である渋谷教育学園渋谷中学校・高等学校(渋渋)を新設し、同じく設立以来校長の職にある。

 経済成長著しい1980年代前半、国内で特色ある教育を行っていたのはおもに男子校・女子校で、田村校長自身も男子校である麻布学園の出身。実績のある共学校はほとんどなかったことから、「グローバル教育なら共学校」と考え、共学の中高一貫校である渋幕の設立に踏み切ったという。

世界高校生水会議「Water is Life 2018」



 グローバル教育に関連して両校の名前を目にすることも多いが、2017年5月にニューヨークで開催された「高校模擬国連国際大会(Global Classrooms International high School Model United Nations)」では、灘高校と並び、両校が優秀賞を受賞している。

 急速にグローバル化が加速する現状を踏まえ、文部科学省が国際的に活躍できるグローバルリーダーを高等学校段階から育成することを目的に設置したSGH(スーパーグローバルハイスクール)においては、両校ともに2014年度に指定校となり、今年度、最終年度の5年目を迎えた。

 田村校長は「SGH5年目の一区切りをつける意味で世界高校生水会議『Water is Life 2018』の主催を引き受け、両校の全校生徒協力のうえ取り組む」とし、グローバル教育の一例として紹介した。

 「Water is Life 2018」は、2014年より2年おきに開催されている水問題に関する高校生国際会議で、これまでシンガポールとオランダで開催。渋幕と渋渋が主催する2018年は7月24日から28日まで開催され、海外22校(高校生108名・教員40名)、国内7校(高校生32名・教員7名)が参加。海外参加者は両校の生徒宅にホームステイする予定だ。

 参加する高校生は自国の水問題に結び付け、科学的・政治学的・経済学的、または学際的視点から水に関するリサーチをチームで行い、その研究結果を持ち寄り他国の生徒たちと共有する。無論、コミュニケーションはすべて英語で、通訳はつかない。そして論文は、国際基準で評価され表彰される。

 「日本の論文指導は一般的に世界基準とずれていることから、日本の高校生は不利」だと田村校長は指摘する。だからこそ、彼らが将来グローバルで活躍することを考えたとき、中高生時代に「Water is Life 2018」のような国際的なイベントを経験することに、大きな意味があると語る。

新しい文化を生む日本のグローバル人材



 日本の人口は減少し、世界人口は増え続ける時代、「日本人は海外に出て行かなくては生き残れない」。いまや「グローバル教育はある意味当たり前。次の世代の人たちが生きるのは世界である。そのために活動できる力を中高時代につけることが大事」だと田村校長は語る。

 両校の海外大学合格者はともにおよそ10%にのぼる。海外大学に合格しても国内大学を選択する生徒もいるため、海外進学者数は各々10名前後だという。近年のグローバル志向の高まりから、海外進学者が増えている学校が話題となるが、渋谷教育学園では、以前から一定数の海外進学者がおり、世界で活躍する人材を多数輩出しているという。

 帰国生も学ぶ両校において、海外大志願者は帰国生に多いのではないかと考えがちだが、田村校長によると進学者の約半数は海外生活経験のない生徒だという。帰国生からの刺激が、他の生徒の目も世界に向けさせているのだそうだ。海外大学の受験については、アメリカの大学出身者が指導にあたり、海外を目指しやすい環境を整えている。

 日本人が世界で活躍することについて田村校長は、19世紀にアメリカで詩人、随筆家として活躍したウォルト・ホイットマンの言葉「桃の木にバラの花を咲かすことはできないのだよ」を引用して、説明した。

 ここで桃は東洋文化、バラは欧米文化を指しているのだが、この言葉は、桃の木に新しい文化が入ってきて、バラの花を咲かせようと努力することで、違った新しい文化が生まれることを言い表しているのだという。「私たちが現在やっているグローバル教育は、まさにこのことで、新しいことが生まれる経験をしている。これは、これからの日本にとって、日本で生活している人々にとって大事なこと」なのだと説明した。

アメリカの大学改革とリベラルアーツ



 多くの大学ランキングにおいて、アメリカの大学は上位を独占している。これは「19世紀から20世紀にかけて行われた大学改革が見事に成功した結果」だという。そして、改革のポイントとして「学士・修士・博士の大学・大学院の仕組み」「リベラルアーツ」「公と私の問題」の3つをあげ説明した。

 このうち「リベラルアーツ」に関しては、自由七科「言語」「芸術」「伝統」「制度」「自然」「仕事」「自己認識」を示し、日本の中高ではほとんど導入されていないが、中高での導入は非常に大事だと考えているとした。

 また「公と私の問題」については、日本では明治以来「公」が成功しており、「公」は良、「私」は悪という価値観が日本にはあるが、これではグローバル社会は生きていけないと指摘。「公」は時代の変化に対応できないとし、これを典型的に示したのがアメリカだとしたうえで、これからの日本には民間人(私)が自ら考え、同じ意識を持って協働して物事に取り組んでいくことが大事だとした。

自ら考え行動することの大切さ



 渋谷教育学園において田村校長が取り組んできたグルーバル教育は、「(国や自治体など)誰かから言われたわけではなく、自分で考えて始めたこと。自分で考えて行動すれば、それなりのプラスの結果が出る、このことが非常に求められる時代がきている」とし、自ら考えて行動することの大切さを解き、講演を締めくくった。

 グローバル教育にとどまらず、AIが人類の能力を超えるといわれている2045年問題(シンギュラリティ)と子どもの職業希望、SDGs(持続可能な開発目標)教育の重要性、修学前教育の意義に到るまで、示唆に富む内容が穏やかに語られた1時間だった。冒頭で「動ける間は校長を、頑張ってやっていく」と話されていた田村哲夫校長であるが、日本の教育の舵が大きく切られるいま、グローバル人材育成で実績のある渋谷教育学園の展開に注目したい。
《田村麻里子》

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