美しい風景を残したい…震災を経た仙台の中学生が「水の作文」最優秀賞

 「水を考えるつどい」の冒頭では、豪雨被害にあわれた方に黙とうが捧げられた。次いで、主催者挨拶として、国土交通大臣・水循環政策担当大臣 石井啓一大臣、東京都 都市整備局理事 中島高志氏(小池都知事挨拶を代読)、水の週間実行委員会会長 虫明功臣氏が登壇。

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「水を考えるつどい」で作文コンクールの受賞式典が行われた
  • 「水を考えるつどい」で作文コンクールの受賞式典が行われた
  • 石井大臣から「おめでとう」という言葉とともに握手を求められた、最優秀賞受賞の井崎英里さん
  • 朗読中の井崎英里さん。横には、自身が描いた絵が飾られている
  • 井崎英里さんが描いたこいのぼりの絵
  • 最優秀賞(内閣総理大臣賞)の井崎英里さん
  • 厚生労働大臣賞の真野聡真さん
  • 農林水産大臣賞の松久保幸来さん
  • 経済産業大臣賞の森温大さん
 2018年7月、西日本を襲った水害は、甚大な被害を及ぼした。今年ほど、水の怖さとともにその必要性について考えさせられる夏はあまりないだろう。8月1日は「水の日」。この水の日を記念して、平成30年度“水の日”記念行事「水を考えるつどい」がイイノホール(千代田区内幸町)で開催され、「全日本中学生水の作文コンクール」の受賞式典、基調講演、パネルディスカッションが行われた。主催は、水循環政策本部、国土交通省、東京都、水の週間実行委員会である。

8月1日は水について考える日



 「水を考えるつどい」の冒頭では、豪雨被害にあわれた方に黙とうが捧げられた。次いで、主催者挨拶として、国土交通大臣・水循環政策担当大臣 石井啓一大臣、東京都 都市整備局理事 中島高志氏(小池都知事挨拶を代読)、水の週間実行委員会会長 虫明功臣氏が登壇。水のめぐみを享受する一方で、水害におびやかされる現実もある日本において、水循環の維持・回復が必要であること、今後も毎年“水の日”に水を考える集いを行っていく等の話があった。

 水の日は、水資源の有限性、水の貴重さ、水資源開発の重要性について国民の関心と理解を得ようと、「水の週間」(8月1日~7日)とあわせて1977年に定められている。2014年7月には、水循環基本法の施行とともに、8月1日は“水の日”だと、法律によって位置づけられた。水の日および水の週間には諸行事が設けられており、「全日本中学生水の作文コンクール」もその1つ。そのほか、「水とのふれあいフォトコンテスト」や小学生の親子を対象にした「水のワークショップ・展示会(8月14日~16日)」等も開催されている。

応募総数14,151編中、9編が受賞



 水の作文コンクールは、中学生を対象に、水に対する関心を高め、その理解を深めることを目的に、1979年から実施されてきた。本年も「水について考える」をテーマに実施され、全国からの応募総数は14,151編。審査の結果、最優秀賞(内閣総理大臣賞)1編、優秀賞8編の受賞作品が選ばれた。受賞者と受賞作品名は次のとおりである。

最優秀賞 1編


【内閣総理大臣賞】
氏名:井崎英里(いざきえり)(宮城県 宮城県仙台二華中学校3年)
題名:時をこえて~未来へ~

優秀賞 8編


【厚生労働大臣賞】
氏名:真野聡真(まのそうま)(愛知県 扶桑町立扶桑中学校1年)
題名:水道水が手元に届くまで

【農林水産大臣賞】
氏名:松久保幸来(まつくぼここ)(鹿児島県 学校法人津曲学園 鹿児島修学館中学校2年)
題名:水の恩恵

【経済産業大臣賞】
氏名:森温大(もりはると)(愛媛県 今治市立近見中学校2年)
題名:めぐる一筋の水

【国土交通大臣賞】
氏名:古谷 梨那(ふるや りな)(山梨県 小菅村立小菅中学校1年)
題名:源流の里から未来をつくる

【環境大臣賞】
氏名:菅原菜央(すがわらなお)(岩手県 岩手県立一関第一高等学校附属中学校3年)
題名:室根の里から海をおもう

【全日本中学校長会会長賞】
氏名:渡辺風花(わたなべふうか)(愛知県 豊橋市立章南中学校3年)
題名:豊川の清掃活動から水について考える

【水の週間実行委員会会長賞】
氏名:和田菜花(わだなのか)(群馬県 群馬大学教育学部附属中学校3年)
題名:今も昔も

【独立行政法人水資源機構理事長賞】
氏名:宇野由里子(うのゆりこ)(福岡県 福岡教育大学附属福岡中学校2年)
題名:ありふれた水に思うー二つの感謝

 作文コンクールの受賞式では、石井大臣、中島氏、虫明氏等から各受賞者へ表彰状が授与され、続いて受賞者と授与者の撮影が行われた。緊張しつつも晴れがましい表情の受賞者の姿を残そうと、メディアのカメラマンだけでなく、親御さんたちもビデオやカメラ、スマホで撮影。石井国土交通大臣から握手を求められた井崎さん(最優秀賞受賞者)が、びっくりしながらも笑顔で応じていた姿も微笑ましかった。

石井大臣から「おめでとう」という言葉とともに握手を求められた、最優秀賞受賞の井崎英里さん
石井大臣から「おめでとう」という言葉とともに握手を求められた、最優秀賞受賞の井崎英里さん

最優秀賞作品「時をこえて~未来へ~」



 各受賞者の表彰後には、最優秀賞を受賞した「時をこえて~未来へ~」を、作者自身が朗読。本人はとても緊張していたらしいが、ゆっくりと丁寧に、とても堂々と読む姿が印象的だった。

 「時をこえて~未来へ~」は、次の文から始まる。《雪どけを迎えた春、私は「ダムより高い鯉のぼり」の記事を新聞で見つけ、釜房ダムを訪ねました。目の前に広がる森と湖。優雅に泳ぐ鯉のぼり。そんな美しい春の景色を、一枚の風景画として残したいと思ったからです。》

 文中にある新聞とは、主に東北の情報を中心に発信している「河北新報」のことで、該当の記事は、2018年4月13日に、「ダムより高いこいのぼり♪ 川崎・釜房で掲揚開始」と題して掲載された。

 この記事に触発された井崎さんは、実際に釜房ダムを訪れて絵を描く。それが、壇上の机の横に飾られた絵である。

朗読中の井崎英里さん。横には、自身が描いた絵が飾られている
朗読中の井崎英里さん。横には、自身が描いた絵が飾られている

 作文では、釜房ダムの水景の美しさに魅せられるようすが書かれているのだが、一方で、シンガポールでの研修中に直面した水の問題、東日本大震災で知った水の恐ろしさなどに思いをめぐらせていき、改めて水について考える。そして最後に、《残すべき水の歴史は、震災だけではありませんでした。今日見たこの美しい風景を、私は過去と共に未来へ描き残したいと思います。》と、未来へとつないでいく思いをつづって終わる。朗読が終わると、会場からはたくさんの拍手が贈られていた。

最優秀賞 井崎 英里さんに聞く…作文へとつながる経験



 受賞式典後、最優秀賞・内閣総理大臣賞を受賞した井崎 英里さんに話を聞いた。石井大臣に握手を求められたときには、一生に一度とれるかどうかの賞なのだと、あらためて実感したという。

 作文の書き出しに登場する釜房ダムには、新聞の記事をきっかけに、「こいのぼりの絵を描きたい、森と湖の絵を描いたら楽しそうだ」と思って出かけたそうだ。

井崎英里さんが描いたこいのぼりの絵
井崎英里さんが描いたこいのぼりの絵

 当初、「水のある風景の1つとしてダムを考えていて、きれいなダムはあたりまえにあるものだと思っていた」という。しかし、学校の研修でシンガポールに行き、思わぬ経験をしたことを思い出す。シンガポールでは、井崎さんに対してさかんにみんなが「さあ、水を飲んで、もっと飲んで」と話しかけてきたのだ。最初は何だろうと思ったようだが、実は、シンガポールでは飲み水の大半を隣国から輸入している現実があった。飲めるときに飲んでおかないといけないのだ。この経験から井崎さんは、「水の大切さを知り、日本は恵まれている」と感じたのだという。「これは、他国に行ってみてわかったことだ」と語っていた。

 そして水の嫌な面を知ったのが東日本大震災だった。井崎さんの通う中学は宮城県仙台二華中学校。東北は2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けている。井崎さんも、震災で「水」に悪い印象をもった。現在中学3年生で14歳の井崎さんは、震災当時、小学校の1年生。このとき、水がないという経験をする。「水をとりにいったりしたけれど、雪もすごく、とりにいくのはつらかった」「テレビで津波の映像も見たし、気仙沼に行ったときには何もなくなっていて、水は嫌だ」と実感したそうだ。実は井崎さんは、震災以降泳いでいない。直面した人でないとわからない恐怖が、そこに横たわっているのだろう。

 しかし、「震災で、水には良い面と悪い面があることがわかりました」と語る彼女は、今回、美しい水景を未来へとつないでいきたいという、希望に満ちた作文を書いて最優秀賞を受賞した。賞状を見せてくれたときの笑顔がとても素敵で、“美しい”と感じるすなおな気持ちが表情からも感じられた。

最優秀賞(内閣総理大臣賞)の井崎英里さん
最優秀賞(内閣総理大臣賞)の井崎英里さん

夏休みに、水について考えてみよう



 「水を考えるつどい」では、作文コンクールの受賞式典のほかに、水との関わり、魅力ある水源地域づくりをテーマに、基調講演「流域の暮らしを支える水の郷をもっと豊かに」(大分県日田市長 原田啓介氏)、パネルディスカッション「流れの上流でも下流でも幸せになる流域の再生~上下流で水を考える~」が行われた。

 大分県日田市は、古くから水郷(すいきょう)と呼ばれている水源に恵まれた土地。三隈川(筑後川)が流れており、流域の活性化を図って「筑後川フェスティバル」も行われている。こうした豊かな水源をもつ地域は、日田市のほかにも日本各地にある。たとえば、関東であれば千葉県佐原も水郷(すいごう)として有名だ。

 井崎さんが受賞作を書くきっかけは、ダムに出かけたことにある。そして、これまでの経験から感じたことを作文という形で表現していくことで、自分の考えを深めることができた。この夏休みには、親子で美しい水のある土地を訪ね、水について考えてみてはいかがだろうか。夏休みの自由研究としてもよいし、来年の水の日作文コンクールへの応募につなげてもよいだろう。
《渡邊淳子》

渡邊淳子

IT系メディアのエディター、ライター。趣味はピアノ。

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