成功する小学校受験とは…国立・私立のよさと中学受験という選択

 幼児教育の有効性が語られることが多くなった今日、小学校受験を考える家庭も増えてきている。なかでも、経済的な障壁が比較的低い国立小学校への人気が高まっている。

教育・受験 未就学児
「国立小学校合格バイブル」(WAVE出版)の著者 神山眞氏
  • 「国立小学校合格バイブル」(WAVE出版)の著者 神山眞氏
 幼児教育の有効性が語られることが多くなった今日、小学校受験を考える家庭も増えてきている。なかでも、経済的な障壁が比較的低い国立小学校への人気が高まっている。そこで、「国立小学校合格バイブル」(WAVE出版)の著者 神山眞氏を訪ね、小学校受験の現状や受験対策について聞いた。

国立小受験と私立小受験の違い



--私立小受験と国立小受験の違いを教えてください。

 私立と国立でまず違うのは受験の時期です。たとえば東京ですと、私立は11月1日が多いですが、国立は11月の最終週に学芸大系列があり、12月の初めにお茶の水、12月の中旬に筑波があります(*1)。
*1 東京にある国立小学校は、筑波大学附属小学校(筑波)、東京学芸大学附属世田谷小学校(学芸大系の世田谷)、東京学芸大学附属小金井小学校、東京学芸大学附属竹早小学校(学芸大系の竹早)、東京学芸大学附属大泉小学校(学芸大系の大泉)、お茶の水女子大学附属小学校(お茶の水)の6校。なお、( )内は、本記事中での略称。

 また、受験のスタイルも違います。ペーパー、製作課題、運動課題、行動観察、口頭試問に関してはほぼ同じですが、面接というものの概念がまったく異なります。私立の場合は親子で面接をするスタイルですが、国立の場合は保護者を面接することは少ないです。筑波のように、子どもたちが30人くらい集まっているところへ先生がボードを持ってやってきて、いきなり「好きな絵は何ですか?」と聞かれるような形もあります。

--グループ面接が行われる場合、できるだけよい面接グループに入れたいと考えられる親御さんも多いと思います。やはりグループによる影響というのはあるのでしょうか。

 グループによる影響はすごく大きいですね。私立では受験対策を整えた方が受験されます。たとえば、慶應幼稚舎を受験される方は幼稚舎対策を念入りにされています。そこで、ある程度、面接は予定調和で終わるわけです。ところが国立の場合は抽選もありますから、ある日突然国立受験のための面接に行くことになるご家庭もあるわけです。洋服も普段着で、なんだかわからないからずっと泣いているという子もいます。さらにいたずらをする子がいたり、ほかの子にちょっかいを出してくる子がいたりして、グループによってだいぶ違いがあると思います。

--グループ分けに関しては、打つ手はないものなのでしょうか。

 実は対策があります。2018年9月11日に私どもで行う勉強会では、願書の書き方はもちろん、願書提出の仕方もお伝えします。願書の提出日時によっては、グループ分けの心配をできるだけ取り除くことができる番号がとれるからです。提出の時間帯などによって、受験準備を整えた方々が多く集まる番号がとれるのです。

--本気度の高い方たちのグループに入れるわけですね。

 そうですね。「試験はこういうもの」ということがわかっていて、ある程度の練習を受けてきた方たちと同じグループに入れるほうが有利なので、その辺のアドバイスをしています。

私立小のよさ vs 国立小のよさ



--私立小のよさはどんなところでしょうか。

 私立というのは学校のカラーが決まっています。カトリック系、慶應、早稲田など、それぞれ受け継がれた伝統を守り、学校ごとに教育理念をもっています。先生たちもそのとおりにやっていきますから、入学前に思い描いた理想が裏切られることはほとんどありません。また、エスカレーター式に中学校に進学できる学校も多くあります。その点、国立は附属という名前が付いていても、中学校に進学できるお子さんは限られます。

--国立小のよさはいかがでしょうか。

 国立には、先生が自由に授業を行える土壌があります。国立は研究校という位置付けなので、「教科書をつくる」という仕事、「実習生を受け入れて先生を育てる」という仕事も行っています。先生がやりたい授業があれば、校風に合っていないという理由でできない、ということはありません。

 極端な言い方をすれば、当日の午前にお金の教育がしたいと言ったら、午後には実行できます。だから国立では面白い最先端の授業をたくさん行っていますよ。逆にいうと、担任の先生によって授業が大きく異なりますから、入学前に思っていた授業とは違う、と思われるケースも出てきます。そこが魅力でもあり、怖さでもあります。

国立小と公立小の違い



--区立や市立の公立小学校と、国立小学校との違いは何でしょうか。

 国立は研究校で、教師を育てる学校ですから位置付けが異なります。そして知っておいていただきたいことですが、学費が違います。国立は学費がかからないと思われている方もいらっしゃるようですが、私立ほどではないにしろ、結構、授業料はかかります。寄付金のある学校もあります。

神山氏注目の国立小学校



--オススメの国立小学校を教えていただけますか。

 お住まいの地域などいろいろな尺度があるので一概には言えませんが、大胆な試みだと思って注目してきたのは学芸大系の大泉ですね。引っ越し可の誓約書を書きさえすれば、学区を取っ払って、どこから受験してもよいという方針にしています。また、国立は附属と言っても、中学校に進学するのは筑波で8割、学芸大系列で6割か7割です。さらに中学校から高校となると、学芸大系列で3割になります。そんななかで、中高一貫校を創ったのが大泉で、東京の国立6校では初めてです。

小学校合格のための対策のポイント



--受験の準備期間はどのくらいと考えればよいでしょうか。

 私立であれば、年中さんの春、夏で志望校を決めて、夏以降に試験準備を始める方が多いですね。国立でいえば、年中さんから年長さんに上がる時点で、国立に行った先輩たちのお話を聞いて、始める方が多いようです。

--平均して何校くらい受験するのでしょうか。

 首都圏で私立を受ける場合は、10月下旬に神奈川か埼玉の学校を1校受けて、11月1日に本命校を受け、その後国立に流れてくる方がいらっしゃるので、多い方で6~7校、平均で3~5校くらいではないかと考えています。これはあくまでも私立受験を目指す方の場合ですが、国立のみを受ける場合は抽選という不確定要素があるので、全部受けたとしても4校です。抽選で選ばれない方は0になりますので、平均はとりにくいですね。

--国立の4校を受けることができる地域は限られますよね。

 そうですね。抽選で選ばれればということが前提ですが、文京区であれば、11月下旬に試験のある学芸大系の竹早、“引っ越し可能”の誓約書を書いて、同じ学芸大系の大泉、それからお茶の水、筑波が受験可能ですね。世田谷区、杉並区であれば、竹早と世田谷を引っ越し可の誓約書なしに受験できますから、お住まいの地域とくじ運によって受験できる校数は異なります。

--国立小受験で合格するお子さんや親御さんに共通点はあるでしょうか。

 国立小は学校の位置付けが特殊ですから、学校の方針に賛同する親御さんが合格につながると思います。お子さんは、「挨拶できる」「お返事ができる」「表情が素敵である」ことがとても大切な要素です。その子のいいところを伸ばしてあげようとされるご家庭がよいと思いますね。

--親世代が小学校受験をした30年前と、お受験事情は変わっているのでしょうか。

 30年前とは、まったくの別物です。10年前は、国立小学校の専門塾はありませんでしたが、7年前から国立クラスがちらほら出てきて、5年前から私立コース、国立コースに分かれ、現在は国立コースに行かないと情報を得られないというところまできています。「国立小学校バイブル」が刊行できたのも今だからこそだと思います。

小学受験する? それとも中学受験?



--お子さんの性格で、小学校受験ではなく中学校受験にしたほうがよい場合はあるでしょか。

 机の上に何か出されたら触る子、知らない場所に入ったらキョロキョロして、何かみつけると触ったり登ったりするのは、本当は正常なことですし、伸びるお子さんです。でも、それを受験の本番でやってしまったらよい評価には繋がりません。受験軸では、手はお膝で、何か見つけても触ってはいけないし、キョロキョロしてもいけません。

 好奇心旺盛で触ったり、登ったりするお子さんは、あえて小学校で受験せずに、のびのびと好きなことを一生懸命やって、中学受験に臨んだほうが伸びていけると思います。その子のよさを消してしまうくらい短所を責めるなら、中学受験を選択されたほうがいいですね。

--小学校受験に合うお子さんの特徴は何でしょうか。

 勉強も遊びも、両立できるということが重要です。たくさんの愛情が必要な時期ですし、週末にはお父さん、お母さんと一緒に遊ぶことも将来的に豊かになります。ときどき幼児なのに睡眠をけずって勉強しているお子さんがいますが、適切な睡眠時間をとらせてあげてほしいですね。寝ているときに記憶が固定されていますから、寝ることはペーパー対策にも通じます。

1日の終わりにリセットタイム



--お子さんの受験で精神的に追い込まれる親御さんもいらっしゃると思います。そうした親御さんに、メッセージをお願いします。

 マニュアル本などを読んで、叱ったらいけない、マイナスなことを言ってはいけないと思っているにも関わらず、「何回言ったらわかるの」「いつになったらできるの?」「なんでダラダラやっているの?」などとつい言ってしまうこともあると思います。でも、それは言ってもいいと思います。ただし、言ったことを覚えておいて、1日の終わりにはリセットできるように、ギュッと抱きしめて「あんなこと、お母さん言ってしまったけれど、悪かったわね」と言ってあげてください。睡眠で嫌なことをすべてリセットできますから、大丈夫です。

--今秋お受験される方に、夏休みの過ごし方のメッセージをお願いします。

 夏休みには、朝の勉強に切り替えていくとよいと思います。入試では、8時20分に集合して、9時にはペーパーをやっている場合もありますから、午前中に学習にすることは大切です。そして何よりも、親子で素敵な夏の思い出を作ってほしいです。お受験を悪いものと捉えないで、親子の最高のコミュニケーションツールだと思って取り組んでほしいですね。

--ありがとうございました。

 小学校受験が親子で望む初めての受験となる方は多いだろう。それだけに悩むこともたくさんあるに違いない。国立がよいのか、私立がよいのか、あるいは小学校受験をやめるほうがよいのかはもちろんのこと、子どもとの接し方にも悩むことが多いのではないだろうか。本記事で、そうした悩みに少しでもお応えできたとしたら嬉しく思う。神山氏は、小学校受験対策だけでなく、子どもの成長や幸せを考えたお話をされていた。皆さんのお受験が、親子の絆を深め、子どもの心の成長にもつながるものとなりますよう、祈っています。

《聞き手:田村麻里子》
《渡邊淳子》

渡邊淳子

IT系メディアのエディター、ライター。趣味はピアノ。

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