日本国内で開催されるロボット大会のなかでも、人気の高いWRO。「教育的なロボット競技への挑戦を通じて、創造性と問題解決能力を育成する」ことを目的としており、小学生から参加できる国際的な大会として注目度も高い。
WROには、「レギュラーカテゴリー」(エキスパート/ミドル競技)のほか、「オープンカテゴリー」「アドバンスド・ロボティクス・チャレンジ」「フットボール」といった複数のカテゴリーがあり、自分の進度や学年に合った競技に参加できる。
WRO初参加の選手たちが選考会に挑戦
7月29日に東京秋葉原で開催された「WRO2018東京公認予選会、プログラボ内選考会」では、「小学生部門 ベーシック競技」と「小学生部門 ミドル競技」「中学生部門 ミドル競技」の3つの競技が行われた。
「ミドル競技」には東京や大阪などの地方大会があり、予選会選考会は、その地方大会への参加資格を得るための最初の一歩となる。
当日会場に集まったのは、東京のロボットプログラミング教室「プログラボ」に通う91人の小中学生だ。プログラボは、2016年に阪神電鉄と読売テレビによって設立された関西発のプログラミング教室で、今年4月からは、東京にも教室がオープン、JR中央ラインモールと東京メトロによって、中野ICTCO校、武蔵小金井校、葛西校の3校が運営されている。さらに2018年10月には目黒校、国立校、綾瀬校の3校の開校が予定されている。
対象は年長から中学生までで、未就学児から「教育版レゴ マインドストーム EV3」を使ってロボットプログラミングを学習する。東京の3校では、現在「ビギナー」と「スタンダードII」のコースが用意されており、「スタンダードII」コースでは1年めからWRO出場を目指せるカリキュラムが組まれている。
7月29日に開催された「WRO2018東京公認予選会、プログラボ内選考会」は、東京のプログラボでは初めての大会ということで、今回参加した選手全員がWRO初参加だった。しかし、始まってみると大会経験は関係なく、大変内容の濃いものになった。
91人の小中学生が参加したプログラボ内選考会
大会当日、91人の選手と応援に駆け付けた保護者で、会場は開始前から熱気に包まれていた。開会式では、JR中央ラインモール取締役営業本部長の藤井悟史氏が、選手たちに向けて「日頃教室で学んでいることを発揮する場。今日1日楽しみながら、大会に挑戦してほしい」と語った。
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JR中央ラインモール取締役営業本部長の藤井悟史氏
その後、大会の進行を担当するミマモルメの勝山裕子氏によって、いよいよ大会がスタート。大会では競技を2回行い、良い方のスコアが記録されるルールだ。1回の競技ごとに、事前に30分のロボット調整時間が設けられている。選手はこの時間を使って、ロボットの調整やプログラミングの確認、テスト走行などを行うことができる。最後にレギュレーションチェックを行って、競技開始となる。
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大会の進行を担当するミマモルメの勝山裕子氏
1回目の調整時間が始まると、選手たちは一斉に自分たちのロボットを取り出し、パーツの確認を始めた。1チームは2~3人のグループで構成されているため、1人がロボットを担当し、もう1人がパソコンでプログラミングのチェックを行うなど、役割分担をしているチームも見られる。一方で、「違うよ!」「いや、これでいいよ」と激しく意見を交わし、パーツを追加してロボットを組み替えているチームもあった。
これまでに大会へ向けて教室で何度も練習し、テスト走行を重ねてはいるが、普段の教室と大会の会場では照明などの環境が異なるため、センサーの反応に対して微調整が必要となってくる。30分という限られた時間の中で、ロボットを最適な状態に持っていくため、選手たちは何度もテスト走行を重ねていた。
調整時間が終わる前には、会場内にある「車検場」へ行き、大会のレギュレーションに合っているか確認をする必要がある。5分前からカウントダウンが始まると、選手たちの焦りも高まる。最後の調整を終えると、足早に車検場へ向かい、無事オーケーが出ると安心した顔で席に戻って行った。
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車検場でチェックする 東京メトロの北山由奈氏
すべてのチームが車検場でのチェックを終えると、いよいよ1回目の競技が始まった。選手席と観客の間に設けられたコースに選手が並び、1チームずつ挑戦していく。スタートの合図とともに、ロボットのスイッチを押し、1回目の競技開始となった。
小学生部門のベーシック競技では悲喜こもごも
「小学生部門 ベーシック競技」の1回目の競技では、コースに3つのゾーンが設けられており、「ゾーンBまでライントレースができた」「ゾーンBにロボット本体が入った」「ゾーンAにロボット本体が入った」「ゴールゾーンにロボット全体が入って、コースの壁に触れていない」という4つのチェックポイントをクリアしなければならない。各ポイントをクリアすると20点が加算され、計80点満点となる。
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真剣な表情で選手がロボットをスタートさせると、それぞれのチェックポイントを審判がチェックし、さらにタイムキーパーがゴールまでの時間を計測する。完璧に組み上げたはずのロボットでも、実際に走らせてみると、ラインどおりに走らなかったり、中にはケーブルが抜けていてまったくスタートから動かずに終わったりしてしまうチームもあった。見事ゴールまで走らせたチームの表情が明るく満足げな一方、思ったとおりにできなかった選手の表情は悔しそうだ。
しかし、競技は2回あるため、1回目で失敗しても挽回するチャンスが残っている。ここで悔しさをばねにして、2回目に全力投球できるよう切り替えることも、WROを勝ち抜く秘訣といえるだろう。
全員の競技が終わり、1回目が終了。ゴールまで到達したチームで最速は30秒台だった。次に2回目めが行われるのだが、WROでは「サプライズルール」と呼ばれる追加ルールが用意されている。2回目には、当日発表される追加ルールが適用され、クリアするとさらに20点加算される。ただし、失敗する確率も高いため、追加ルールに挑戦するかどうかは各チームが自由に選ぶことができる。確実性を狙って現行のままいくか、サプライズルールに挑戦するか思案のしどころであるが、2回目に向けた調整時間が始まると、ほとんどのチームが追加ルールに挑戦を始めていた。
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当日発表の「サプライズルール」に果敢に挑戦
今回追加されたサプライズルールは、「ゴール近くのゾーンに置かれたブロックを、ゴールまで運ぶ」というものだった。これをクリアするには、ロボットにブロックを運ぶパーツを追加し、さらにルートも変更するため、プログラミングの書き換えも必要になる。決して簡単なものではないのだが、それでも挑戦する選手たちの心意気には素直に感心した。
30分という限られた時間の中で、チームメイトと話し合い、ロボットを組み直して、何度もコースにテスト走行に走る選手たち。小学生ながらその表情は真剣そのもので、全員が頭をフル回転させて、この難問に取り組んでいるのを感じた。
そして、2回目の競技がスタート。どのチームも果敢に追加ルールに挑戦していたが、失敗の連続だ。それどころか、1回戦めでは好成績だったチームも、ロボットやプログラミングを変えたせいで、ゴールまでもたどり着けないという事態に陥っている。それだけ30分の中での変更が難しいことを物語っていた。
また、1回目でうまく動かせなかったチームは、今度は無事発進に成功していた。見守る保護者たちから、「よかったね」と安堵の声が上がる。残念ながら、ゴールまではたどり着けなかったものの、1回目の悔しそうな表情はなくなっていた。
30チーム中、ほとんどのチームが追加ルールに挑戦したが、結果としてはわずか3チームのみがクリアするという結果になった。
WRO東京大会進出は中学生チーム「GO002」
全員が2回目の競技を終え審査結果を待つ間、プログラボを設立したミマモルメ代表取締役社長の小坂光彦氏が講評を行い、「子どもたちがプログラボの教室で行っている『チームを組んで、自分たちでロボットを組み立てて発表する』という経験は、社会に出て必ず役に立つ力になります。今日は思ったとおり動かなかったと感じた選手も多かったようですが、ロボットに限らず、失敗するのは当たり前。原因を追究し、なくすように努力していくことが大切です」と語った。
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プログラボを設立したミマモルメ代表取締役社長の小坂光彦氏
そして、いよいよ結果の発表となり、「小学生部門 ベーシック競技」と「小学生部門 ミドル競技」「中学生部門 ミドル競技」のそれぞれの入賞チームが発表された。「中学生部門 ミドル競技」で1位となったのは武蔵小金井校の「GO002」で、8月開催の東京大会への進出が決定した。「小学生部門 ミドル競技」は、2チームのみの出場で同点だったため、優勝チームはなしという結果となった。
「小学生部門 ベーシック競技」男子2人のチームが優勝
「小学生部門 ベーシック競技」は36チームの中から、葛西校の「東西線マッキー」が1位に選ばれた。優勝の決め手となったのは、2回目の競技でサプライズルールに挑戦し成功させたことだ。結果、100点満点をとり見事優勝となった。
「東西線マッキー」は、曾所来連君と長亮佑君の2人チーム。学年は違うものの、二人とも地道にコツコツと根気よく挑戦するタイプで、今回の優勝には顔をほころばせ、「来年も優勝を狙いたい」と笑顔で語ってくれた。
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「小学生部門 ベーシック競技」で優勝した葛西校の「東西線マッキー」
2人の保護者からは、「これまでは、家では学校での話などまったくしなかったのに、プログラボに通うようになってから、教室で挑戦したことを自分から話すようになった」というエピソードや、「体験会で興味を持って始めましたが、組み立てたり、作ったりするのが好きなので、これらの経験が色々とつながっていくといいと思っています」という抱負が語られた。
小学生にとって大きな体験となるWRO出場
こうして3時間にわたって行われた「WRO2018東京公認予選会、プログラボ内選考会」は終了した。大会の開始から最後まで取材を行ってみて、改めてたくさんのドラマがあったことに驚く。
調整時間には大声でケンカばかりしているように見えたチームもあったが、観戦時は仲良く並んで選手たちを応援し、最後には笑ってお互いをたたえ合っていた。
感想を聞いた際には、「プログラムを頑張ったけれど、色々な間違いがあった。でも、自分の能力を結構発揮できたと思う」と堂々と答えてくれる小学生もいた。また、調整時間に、ロボットを細かく修正しながら「この中には夢がいっぱい詰まっているんだよ」と話している男子もいた。
選手は学年、男女に関係なく、いずれもロボットが大好きで、懸命に取り組んでいた。結果としては思うように動かなかったり、ゴールまで到達しなかったりしたチームも少なくない。それでも、このWROに向けて毎週のように練習し、チームメイトと挑戦したということは、小中学生時代の大切な経験として選手たちの中に根付いていくだろう。
今回初めてWROを経験した選手たちが、来年にはどれだけ成長してまた大会の場へと戻ってくるのか。今から楽しみにしていたい。
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