医療機器だけじゃない、介護やケアにも活用されるプログラム
医療機器にもめまぐるしい発展が起きています。最近では、人工知能を活用してガンを発見する仕組みなどが開発されています。この人工知能システムも、プログラミングによって、複雑な計算を実行して実現しています。
また、介護を補助するための機械も多く発明され、精神的なケアを行うために人工知能を利用した「ケアロボット」も出てきています。ロボットといっても無機質なものではなく、犬や猫などの愛玩動物や、人形などがもとになっています。介護をする方が、1人1人を丁寧にケアできることが望ましいのですが、少子高齢化の現在、対応は難しいでしょう。そこで、介護の必要な方の話し相手や、遊び相手としてケアロボットが採用され始めています。
こういったガンを発見する仕組みや、ケアを行うロボットの仕組みは、いずれも人工知能などの先端技術で実現されています。この人工知能もすべてプログラムで動いており、実現するためにはとても膨大な情報が必要です。たとえば、写真からガンを識別するためには、「何がガンであって、何がガンでないか」を理解するためのたくさんのデータが必要になります。これらをもとに学習し、ガンである確率を導き出す仕組みになっています。このように、多くの学習データから、コンピューター自身がその特徴を見いだし、分類していくものを「深層学習(ディープラーニング)」と呼んでいます。
以上のとおり、大量のデータを学習させるためのプログラムや、学習の結果をもとに推論を行うプログラムが開発されたことで、医療やケアにも利用されるようになりました。
交通システムの全自動化は、もうすぐそこ?
皆さんは、通信販売を利用していますか?現代の社会にはインターネットが浸透し、ネット通販が多く利用されています。しかも、注文をした翌日はもちろんのこと、当日、さらには2時間以内に届けてくれるサービスも登場しました。これは、インターネットの定着だけではなく、物流のスマート化によって実現されてきました。
たとえば、物流を担うトラックすべての位置情報を把握して、配達する荷物にしたがって最適なコースを選択することはもちろんのこと、どのタイミングで集荷を行えばよいかといった判断も、自動化されてきています。これらは、次の3つの実現により可能になっています。
1.すべてのトラックの位置情報を取得できるようになったこと
2.地図情報が正確になったこと
3.地図上の混雑・渋滞情報がリアルタイムに取得できるようになったこと
システムが、トラックの積み荷の情報と位置情報をリアルタイムで取得します。正確な地図情報により、最適な経路を導き出して、配送者に経路情報を提供します。そして、渋滞を避けるためにリアルタイムに交通情報を参照して、その経路も修正されます。トラックの持つ情報と、地図の情報とを照らし合わせて物流をスマートにする技術、これらもすべてプログラムによって実現されています。
また、自動運転技術についてもニュースで見かけたことがあるでしょう。車の前に障害物が現れたときに自動的に停止する仕組みが実用化されてきています。道に沿って、目的地まで自動的に車が運転してくれる「自動走行」の試験も始まっています。先ほどの経路の最適化と、自動運転技術を組み合わせると、さらに効率的な物流の時代がやってくるでしょう。
やがて、プログラムが世界を制御する?
ここまで、都市における大規模なプログラムがどのように実現されているかを見てきました。
ゲーム機やパソコンがプログラムによって制御され動いていることは、もともと皆さんも理解していたことでしょう。ですが、皆さんの命を預かる医療機器や都市自体を制御するインフラまでもが、プログラムによって制御されています。
今後も、プログラムによってより便利な社会となっていくことは間違いないと考えられます。将来的に、ITを活用しない社会は存在しないと言っても過言ではありません。こういったことを鑑みても、プログラミング的思考を学び、子どもたちが論理的な考え方を身につけていくことが重要になります。
とは言え、このままプログラム化が進んでいくと、映画「ターミネーター」の世界のように、人工知能が人間を相手に戦争を行うようになるのではないか、といった危惧を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。人間を支援するために生まれた機械が、プログラミングによって、やがて人間自身を管理してしまうのではないでしょうか。
実際、そのような警告を発している研究者もいますし、そういった懸念はなくなることはないでしょう。人間が設計・開発しているものですから、そこに悪いことを考える人がいれば、たった1人の力でも、都市を自由自在に制御できる可能性があります。
結局のところ、人間がどのように道具を利用するかによって、それは良いものにも悪いものにもなります。プログラミングによって実現できることをよく見極め、人々が協力をすることで、安全で安心な、便利な世界を作っていけるものと信じています。私たちは、プログラムでできることを理解し、子どもたちにそれを安全に正しく利用してもらうよう、教育していく責任があります。
発行:翔泳社
<著者プロフィール:阿部 崇>
外資系IT企業で、コンピュータシステムのアーキテクチャをデザインする仕事に従事。2017年度より区立中学校のPTA会長に就任。教育委員会や教師の方々と接する機会も多く、これまでの経験を活かして、プログラミング教育を広げていく活動を進めている
<著者プロフィール:平 初>
北海道滝川市出身。国内企業のSE(システムエンジニア)、外資系コンピュータメーカーを経て、レッドハット株式会社にてシニアソリューションアーキテクトとして活躍中