働きネズミはなぜシッターに?真社会性動物の子育てメカニズム解明

 麻布大学、慶應義塾大学、熊本大学、北海道大学の研究チームは、女王が出産し働きネズミが仔を育てるハダカデバネズミの協調的子育ての仕組みについて解明。働きネズミは妊娠期の女王のエストロゲンが含まれた糞を食べることで、母性を高め仔を育てることを発見した。

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女王と働きネズミの協調的子育てメカニズム
  • 女王と働きネズミの協調的子育てメカニズム
  • ハダカデバネズミの飼育下のようす
  • 働きネズミの仔ネズミの鳴き声に対する反応性は女王の産後期に高まる
  • 女王と働きネズミの糞中エストロゲン濃度は共に女王の妊娠期に高まる
  • 妊娠した女王の糞およびエストロゲンを混ぜた糞を食べることで働きネズミの仔ネズミの鳴き声に対する反応性が高まる
 麻布大学、慶應義塾大学、熊本大学、北海道大学の研究チームは、女王が出産し働きネズミが仔を育てるハダカデバネズミの協調的子育ての仕組みについて解明。働きネズミは妊娠期の女王のエストロゲンが含まれた糞を食べることで、母性を高め仔を育てることを発見した。

 この研究発表は、麻布大学大学院獣医学研究科、麻布大学獣医学部、慶應義塾大学医学部、熊本大学大学院生命科学研究部、北海道大学遺伝子病制御研究所の教授ら7名によるもの。昆虫で多くみられ哺乳類ではまれな真社会性(数匹のオスと女王である1匹のメスだけが繁殖を行い、女王以外の個体が子育てをする)のハダカデバネズミが、どのようなメカニズムで協調的な子育てを行っているのかを明らかにした。

 研究方法は、まず女王の妊娠期・産後期・授乳期終了後の3ステージにおいて、群れの中の働きネズミに女王の産んだ仔の鳴き声をスピーカーで聴かせ、接近・探索などの母性行動を示すかを調査。その結果、働きネズミの仔ネズミの鳴き声への反応性が女王の産後期だけ高くなった。また、女王と働きネズミの糞中エストロゲン濃度を測定すると、女王は妊娠による分泌増加を反映して妊娠期に高まり、卵巣が未発達な働きネズミも同時期に高まった。

 そこでハダカデバネズミが日常的に行う糞食に着目し、メスの働きネズミに妊娠期の女王の糞を9日間食べさせたところ、給餌終了から4日後のテストで仔ネズミの鳴き声への反応性が高まった。また、エストロゲンを添加した授乳期終了後の女王の糞を食べた場合でも同様の反応を示した。このことから、働きネズミは自身で合成できないエストロゲンを女王の糞から受け取り母性を高めていると考えられる。

 この研究結果は、女王は出産し授乳はするがそれ以外の子育てを働きネズミが行うという、真社会性動物の群れにおける協調的な子育てメカニズムを見出した。さらに、ホルモンが糞を介して他個体に作用し行動を変化させるというコミュニケーションはこれまで報告されておらず、ホルモン作用の新たな概念を提供する発見となった。
《荻田和子》

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