超難関中学が望んでいるのは「伸び切ったゴム」のようなガリ勉君ではない

 「小学生生活を犠牲にしない中学受験」(WAVE出版)から、中学受験を目指す親子が救われ、励まされる考え方をご紹介。どのような子どもを難関中学は生徒として望んでいるのだろうか?

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 6年生まで野球・バイオリンを続けながら難関国立中学に合格した親子の体験記「小学生生活を犠牲にしない中学受験」(WAVE出版)から、中学受験を目指す親子が救われ、励まされる考え方をご紹介。わが子をつまらない優等生にしたくない両親必読の「常識」とは?

「君のような子に来てほしい」



 息子が5年生の頃、とある超難関校の学校説明会に行ったときのことです。私の大学の同期の中でもこの学校出身の人は変わった人が多かったので、「ちょっと変わった世界なのかな」と、正直偏見を持っていました。

 でも説明会に参加してみると、意外なことに大学受験の話はほとんど出ませんでした。むしろ勉強だけじゃない、時代を超えてもぶれない教育理念の下、「こういう人間を育てたい」という先生の熱意が伝わってきて、とても共感を覚えました。

 説明会が終わった後にいくつかのグループに分かれて校舎の見学をしたのですが、引率の先生と話したとき、息子が野球をやっていて塾に行っていない話をしたら、満面の笑みで息子と握手をしてくれました。

「中学に入って伸びるのは、君のような子だ。本当はうちも、塾に行って勉強ばかりしている伸び切ったゴムのようなガリ勉君じゃなくて、君のような子に来てほしいんだ。ところで、成績はうちのレベルに届いているの?」
「いや、全然」
「ガハハ。まあ、がんばって!」

 と、こんな具合です。超難関中学も健全な小学生生活を過ごした子を望んでいるのです。

子どもと一緒に学校説明会に行こう



 前の項にもあるように、私の中学受験への印象は学校説明会に参加してガラリと変わりました。中学受験を検討している方は、塾やママ友から余計なことを聞いてしまう前に、しかもできるだけ早い段階で、自分自身で学校説明会に足を運ぶことをオススメします。

 学校説明会は、子どもがまだ小さくても、親として参加できる学校がほとんどだと思います。子どもの成績をチェックすることはないので、どんなに難関校だろうと遠慮はいりません。また参加したからといって、受験しなければならないこともありません。中学受験と高校受験の選択で迷っているのなら、高校の学校説明会に行ってみるのも一つの手でしょう。

 どの学校がいいかは、受験する本人やその家庭に合うか合わないかによって決まります。したがってその評価はどうしても主観的になってしまうので、誰かから聞いた情報を信じるのではなく、親であるあなた自身が確かめるのが一番です。

 そして子どもが6年生になって志望校が絞られてきたら、今度は子どもを連れて学校説明会に参加しましょう。願書も子どもと一緒にもらいましょう。うちも、息子にその経験をさせたところ、目標が頭の中で具体化したのでしょうか、本人のやる気が高まっていくのを感じました。

 ちなみに、この学校説明会は週末の土日に開催されることが多いのですが、6年生らしき子どもの参加が少ないのが気になりました。参加者は大抵親だけか、4年生ぐらいまでの小さい子たちです。

 受験間近の6年生が自分が受ける学校の説明会に参加することは、志望校選び、そして受験勉強のモチベーションを高める意味でとても大切です。それより塾のテストや授業を優先するなんて、本末転倒ですよね。

学校が好きなのは社会性が育っている証拠



 以前、関西の中学受験の大手進学塾が、何と平日の昼間に授業を始めたことがあったそうです。当然ですが、小学校を休まないとその授業は受けられません。

 これはさすがに大きな批判を呼び、関西の最難関私立中学が、小学校にほとんど通っていなかった受験生を不合格にしたそうです。そしてそれ以来、その学校は出願時に小学校の調査書を提出させるようになったとのことです。

 現在でも大手進学塾生の間には、6年生の3学期に入ったら小学校を休むという暗黙のルールがあるようです。うちも家庭教師の先生に「まだ学校を休ませないのですか」と何度も聞かれました。願書の提出は1月の初旬で、調査書には2学期までの出欠しかないため、教育産業としては学校を休んでくれたほうが稼げるということなのでしょう。

 息子は学校が大好きだったので、休むことなどあり得ませんでした。しかも3学期は文集づくりや卒業式の準備など、大切なイベントがある時期です。子どもにとっての1カ月は大人の場合と大きく違います。友だちと過ごす大切な時間を受験のために犠牲にするのでは、失うものが大きすぎます。

 さらには塾を休ませたくないという理由で、運動会や修学旅行を欠席させる親もいるという話を聞いて、私は耳を疑いました。運動会や修学旅行などに向けては、当日だけでなく、かなり前から先生やクラスの仲間と準備をしたり、練習をしたりするはずです。

 こうした行事を経験することで、子どもは社会性を身につけるのです。みんなと一緒に一つの目的に向かって努力する一体感、一人ひとりがみんなのために貢献し、お互いを認め合う喜び、そして何よりも楽しい思い出が豊かな心を育てるのです。

 私たちが住む区には学校選択制度があって、隣の校区の小学校を選べます。その中に、越境して中学受験をする子が集まるので有名な小学校があり、運動会や修学旅行を休む子がたくさんいると聞いて、うちでは真っ先に子どもをそこに行かせるのをやめました。そういう学校が近くにあったおかげで、のびのび育てたいと考える家庭の子どもたちが集まる小学校に通えたことは、息子にとってラッキーでした。

 聞いた話ですが、ある小学生が塾の宿題をこなすのに夜中まで勉強していて、学校では「保健室登校」状態になっていた子がいました。その子は何とか難関中学に合格できましたが、その後不登校になってしまったそうです。合格と引き換えに集団生活をする社会性を失ってしまった。最悪の結果だと私は思います。「受験勉強で忙しいので、宿題はさせません」と、先生に宣言した親が息子の小学校にもいましたが、公立小学校の宿題すらこなせないような子が、厳しい試験に合格できるのでしょうか。

 みんなができるように指導されている学校の宿題をきちんとやる。宿題には、内容だけではなく、みんなが課せられた義務を一人ひとりがきちんと守るという道徳教育的な要素も含まれているはずです。

 休まずに学校に通うこともそうです。学校がせっかく育ててくれている社会性を、親がぶち壊しているという見方はできないでしょうか。

学校の勉強をバカにするのってどうなの?



 反抗期の中高生が授業の内容に対する不満を口にすることは、あっても仕方がないと思います。でも「いい大人」である親が、学校の勉強をバカにするような発言をするのはいかがなものでしょうか。

 中学受験を経験して気になったのは、受験勉強の学習内容と小学校でのレベルが大きく違うからか、学校の勉強を軽視する親の言動があったことです。確かに今の公立小学校は、できる子を伸ばす視点に欠けている面があるかもしれません。

 でも子どもが人間として成長する過程で、学校で学べることはたくさんあります。必要以上に学校を軽視する発言をするのはどうかと思います。

 なぜなら、子どもは親の価値観を受け継ぐからです。それもかなりの拡大解釈で。お母さんは算数の授業のことを言っているつもりでも、子どもは学校そのものをバカにするかもしれません。小学校の授業をバカにする子は、中学生になっても授業を軽視する子にならないでしょうか。

 中学生や高校生になって授業を聞いていないと、あっという間に置いていかれます。授業中に寝る人は言うまでもなく、塾の宿題をしたり、別の教科の勉強をしたりした人で、勉強がよくできた人を私は見たことがありません

 逆に本当に優秀な人は、必ずどの教科の授業でも、先生の言うことをしっかり聞いていました。人はそんな基本的なところで、差がつくのかもしれません。

 高校の同窓会で恩師と話したときに、同じようなことを言っていました。高校時代、私のクラスには今は大学教授になっている優秀な生徒がいたのですが、彼は先生が授業をしているとき、「先生、こんなに興味深いことをわかりやすく教えてくださって、ありがとうございます」と言わんばかりの表情で、集中して先生の話を聞いていたそうです。

 先生は、「そんな顔をして、お前だったらこんなことを習わなくても、知っているだろう」と、心の中で突っ込んでいたそうです。

 一方、先生の長い教師生活の中でも、「そんなこと、もう知っていますよ」と言っていた生徒は、大抵たいしたことはなかったそうです。

 これは学ぶことに対する姿勢です。学ぶことに貪欲な人は、決して自分の現状に満足できない。さまざまなことを、いろんな人から学びたい。純粋にそう思っているのが態度に表れるのでしょう。

 知識が増えるほど、自分がまだまだ何も知らないことを思い知る。そういう境地に達している人は、決して傲慢にはなれないのでしょう。試験に出ないことはやらないなんて、ケチくさい発想はないのです。

 かくいう私もそんな境地には達しておらず、高校生のときは遠距離通学と部活で疲れ果て、授業中に居眠りをしたり、宿題を忘れて慌てて他の教科の授業中に内職したりということをしていたこともありました。でもそのうちに、授業中に他の勉強をすることが、いかに非効率な時間の使い方であるかということに気づきました。

 予習して授業をしっかり聞いて理解しておけば、内容はきちんと頭に残ります。逆に授業を1回聞かないだけでも、後で取り返すのは大変です。中学受験でも大学受験でも、求められるのは「基礎に対する深い理解」です。先取りしている人にも授業は復習になるので、その内容が聞くに値しないことはないのです。

 そもそも私には、授業が受験に役立つかどうかという損得勘定はありませんでした。それは、授業内容や先生の話が純粋に面白いと思うことが多かったからです。

 先生が話をしているときに聞かないなんて失礼だ、という罪悪感もありました。でも、もし私の両親が学校の勉強を軽視するような発言を繰り返していたら、そういう罪の意識すら感じなかったのかもしれません。

小学生生活を犠牲にしない中学受験

発行:WAVE出版

<著者プロフィール:かずとゆか>
 フルタイムの共働き夫婦。執筆担当の夫はずっと塾には通わず公立小中から県立高校を経て東大・京大現役ダブル合格。高校在学中には交換留学生としてオーストラリア・クイーンズランド州に1年間滞在した。東京大学工学部卒業後、外資系証券会社に入社、数社を渡り歩き現在に至る。取材担当の妻は都内私立中高一貫の女子校から私立大学工学部卒業の当時は希少だった理系女子。邦銀のロンドン拠点赴任を経て現在は外資系証券会社に勤務。仕事は絶対に辞めないというこだわりのもと子育てや家事との両立を目指している。子育てが一息ついた現在は社内の東北被災地ボランティアを通し社会貢献にも努めている。
勉強は塾に行かなくてもできるという信念から、息子も大手進学塾には通わずに中学受験に挑戦。少年野球とヴァイオリンを最後まで続けながら都内国立中学に合格した。ブログ「大手進学塾に行かない共働きの中学受験」を通して健全な小学生生活を犠牲にしない中学受験を提唱。

《リセマム》

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