サピックスに聞く【中学受験2019】人気校の傾向と入試本番前の注意点

 近年続く大学付属校人気、英語・算数1教科入試の導入や、午後入試などの日程の多様化…。年々変化する中学受験の動向について、SAPIX(サピックス)小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏に聞いた。

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サピックス小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏
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 近年続く大学付属校人気、英語・算数1教科入試の導入や、午後入試などの日程の多様化…。年々変化する中学受験の動向について、SAPIX(サピックス)小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏に聞いた。

--2019年の首都圏入試の傾向を教えてください。

 昨年に引き続き、大学に内部進学できる付属校人気は継続しています。私大定員の厳格化によって合格者がかなり絞られ、難関私大が狭き門になってきているという背景もありますが、高大連携教育の流れのなかで大学が付属校を重視しているといった面もあげられます。高校在校時から大学の単位を先取りできたり、進路選択にあたって学部長から学部・学科に関する詳しい情報が提供されたり、大学の充実した設備を利用できたりといった取組みが評価されているのでしょう。

 また、いわゆる大学受験を控えた進学校型のカリキュラムは非常にハードなので、勉強だけガリガリやらせて6年後の大学受験を目指すというよりは、部活もやって学校行事もやって勉強もして可能であれば留学もさせて…といったバランスのよい学校生活を望む保護者の意向も付属校人気を底上げしている理由のひとつです。

慶應SFCの定員減が他校にも影響



--人気の付属校に変化はありますか。

 注目すべきは、2013年に開校した慶應横浜初等部の卒業生が慶應義塾湘南藤沢(SFC)中等部に上がるため、SFCの一般募集枠が120から70に大きく削減されます。従来の4科型のほか、算・国・英の3教科で受験できる英語選択入試を取り入れることもあり、さらに合格へのハードルが上がるのではないかと敬遠された結果、従来ならSFCを受験した層の受験生が他校を志願することにより、志願者が増える学校が出てきています。

 顕著なのが法政第二です。エリア的にも同じ神奈川県内で、新校舎が完成して全学年で共学になったので、それまでの男子校のイメージからかなり雰囲気が変わった印象です。グローバル教育を重視している法政大学の方針も魅力的で、他大学を受験せず、そのまま法政で学びたいという生徒が増えていますね。

 ほかにも、同じく明治大学付属明治や、新校舎が完成したばかりの明治大学付属中野の志望も高まっています。エスカレーター式に大学に入れた時代と違って、TOEICの基準スコアや英検2級、高校3年生での学内での成績をクリアしていないと明治大学への推薦権が得られないなど、大学に上がるための敷居を設けることで自ずと勉強に意識が向くようになってきています。明治大学の各学部の首席は付属中高の出身者が多いことからも、優秀な人材が育っているといえるのではないでしょうか。

ハイレベルな英語力が求められ、二極化する英語入試



--2018年は112校が英語入試を取り入れています。グローバル教育に目が向けられるなかで、中学受験においても英語は必須になっていくのでしょうか。

 英語入試を取り入れる学校については二極化していくと思っています。ひとつは、帰国生やそれに準じるようなインターナショナルスクール出身生など、高い英語力をもつ生徒をとるために英語入試を実施する学校。すでにネイティブ教員によるオールイングリッシュのクラスを設けているなど、ハイレベルな授業についてこられる生徒を求めています。渋谷幕張や渋谷渋谷、攻玉社の国際学級や広尾学園のインターナショナルクラス、三田国際や市川などがあげられますが、こういった人気の高い学校の英語入試で勝負しようと思ったら最低でも準1級レベルの英語力は必要になってくるでしょう。

 他方で、英検3、4、5級程度の英語力で挑める英語入試も増えています。公立小学校の英語の授業+αで英語を習っているような子に向けて、通常の4教科ないし2教科の成績がさほどよくなくても、英語入試を設けることで中学受験の間口を広げる目的の学校も少なくありません。ただし、せっかく英語で入学してもその後、英語力を高めるようなフォローができていない学校もあるので、保護者はよく見極めることが大切になってくると思います。

男子校では麻布、武蔵、栄光学園、本郷が人気



--特に人気が高まっている学校はありますか。

 男子校でいえば、今年は麻布、武蔵の人気が高いです。昨年度、受験者数を減らしているので隔年現象が顕著に出ているのもありますが、ほかの学校にはないような特徴的な勉強ができるという点に人気が高まっています。武蔵でいえばゼミナール方式の授業や第二外国語など、大学での学びにつながるような授業を行っていたり、麻布も先生方の専門性を生かしたユニークな講座を多数開講し、子どもたちの興味や関心に沿った形で教養の幅を広げる場を提供しています。

 2月2日入試では、栄光学園もさらに人気が高まっています。昨年新しい校舎が完成しましたが、3階建てだった校舎を2階建てにして、休み時間のたびに校庭に出て気分転換しやすいといった、都心ではなかなか得られない教育環境も人気のひとつです。大学進学実績に関しても、一時期は聖光学院に押され気味でしたが、聖光の3分の2の生徒数にも関わらず実績を伸ばしている。だからといって詰め込み型ではなく、40人×4クラス体勢にこだわって、1人の先生がすべてのクラスを担当することで授業に一定の質を保つ、双方向授業を継続的に展開するなど子どもの力を伸ばす工夫がされています。

 また、流行りのコース制などを設けていないのにも関わらず多くの受験生を獲得している本郷も見逃せません。勉強も部活もしっかりやるという文武両道の姿勢や、現役合格率は低いのですが、“たとえ浪人をしてでも本当に行きたい学校であれば妥協しない気持ちこそが本人の財産となる”と言い切れるような校風が評価されているのでしょう。

サピックス小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏
サピックス小学部 教育情報センター本部長の広野雅明氏

女子の共学志向は持続…理系、医学部コースにも関心が高まる



--女子の傾向はいかがでしょうか。

 女子伝統校では桜蔭の志願者が微減、女子学院が微増、雙葉やフェリスが隔年現象で増えたり減ったり、吉祥女子、洗足学園、鴎友学園、豊島岡女子あたりが増加傾向です。女子教育はもちろん、進学指導についての取組みを説明会などできちんと保護者に説明している学校が人気ですね。依然として女子の共学志向は高く、1月校では渋谷幕張、2月校では渋谷渋谷、三田国際、付属校では青山学院や明大明治、法政第二などが人気です。2月3日に試験日を設定している慶應中等部人気は非常に高く、国立、都立中高一貫校を受ける女子も多いですね。

--理系、医学部コースの人気はどうでしょうか。

 近年躍進を遂げた広尾学園の医進・サイエンスコースなどは、開校してから年数も経っていますし、サイエンスラボの充実ぶりや医学部への進学実績が評価されていて、今後の入学者の学力を見ても下がることはなく定着した人気となっています。それを受けて来年度は三田国際の中学にメディカルサイエンステクノロジークラスが新設されますが、こちらも早くも人気が出ていますね。開智日本橋の国際バカロレアクラス、江戸川学園取手の医科コースにも期待が高まっています。流行りを取り入れているからというより、中身がきちんと整っているかどうかを保護者はきちんと見ていますね。

「算数入試」が新たなトレンドに



 2019年度入試のトピックス的な傾向ですが、私立男子校の進学校で「算数1科目」に特化した入学選抜が増えてきています。すでに高輪中学校が「算数午後入試」、鎌倉学園中学校が「算数選抜」として実施しているほか、2019年度からは埼玉の栄東、普連土学園、巣鴨、世田谷学園なども「算数1科型入試」を新設予定です。午後入試で行う日程が多く、「4教科受けるのは大変だけど、1教科だけなら」と受験生の負担が少ないこと、“算数1教科で合格する子は他の科目もできている”というこれまでの経験則があるため、今後もこういった単科入試を実施する学校や受験生の人気は増加していくと考えられます。

受験で伸びる、成功する子の特徴とは



--受験に向いている子、伸びる子の特徴とはなんでしょうか。

 向き不向きというより、子どもが伸びる時期というのはその子によって違うというのが大前提にあります。中学受験で伸びる子もいれば高校受験、大学受験で伸びる子もいる、中学受験の短期決戦で成長するのか、中高6年間という長いスパンのなかで伸びる子もいるなど、実に千差万別です。第1志望校に入れなくても、第2、第3の学校が本人に向いていることもあるので、とにかくあらゆる意味で前向きに考えてほしいと思っています。

 中学受験で成功するために大切なのは「家庭学習ができること」です。教育熱心な家庭が多くなり、通塾日数が増えて、家庭教師に個別指導、ダブル塾などお膳立てされた学習環境が増えている結果、言われたことをやるといった受け身の勉強はできても、自分の意志で机に向かう能動的な勉強ができなくなっているように感じています。塾で教わってその場ではわかった気になっても、いざ自分でやってみるとできないことも多いのです。教わった内容を振り返りながら家で勉強する時間をつくれる子が伸びていますね。

 最近は、短時間で効率よく進めるため、ノートをとらずにタブレットで黒板の写真を撮って…という授業もあるようですが、写すだけでは意味がない。それを復習したり家で要点をまとめたりインプットし直すことが大切です。

 また、授業をしていて感じることがあるのですが、話を聞いているようで聞いていない、何がポイントかわかっていない子も多い。ひと言ふた言でもいいのでメモをしたり、ポイントだけでも写しておくことで、復習したときの理解度も違うはずです。話を聞いて、メモをして、家で復習して…当たり前のことができるかどうかで差がついてきます。

--中学受験を目指し、通塾をスタートさせるのに適した時期はいつ頃でしょうか。

 小学校3年生の2月から、新4年生として受験に向けたカリキュラムがスタートし、小5の2月から本格的な受験体勢に入っていくところが一般的です。クラスの雰囲気に馴染みやすくするなど、準備作業として低学年から通っている人も多くいます。

 サピックスでは3年生までは週1で、1、2年生は算数・国語の2教科だけなので負担も少ないでしょうし、先取りをするのではなく、公立小学校のカリキュラムに準拠しながら思考力や記述力を重視する授業を行っています。夏期講習や小3の冬に行われる準備講座から入塾する方も増えていますね。

生活リズムを変えないことが、入試本番の平常心につながる



--6年生はいよいよ受験に向け準備を本格化させていくことになります。受験生に向けてのアドバイスをお願いします。

 生活リズムを変えないことが大切だと思います。よく、「試験に向けて朝方に切り替えて」と言いますが現実的には難しいでしょうし、サピックスでは日曜日は朝9時から授業がありますが、ふだん遅くまで勉強している生徒を見ていても午前中からの授業に集中できていないかといえばそんなことはありません。模試なども然り、大切な場面では朝イチでも力を出せると思うので、無理して朝方に切り替える必要はなく、それよりも睡眠時間の確保を優先したほうがいいでしょう。

 1月は小学校も塾も休んでひたすら家で勉強…というケースも聞きますが、お勧めしていません。インフルエンザが流行っていて…といった特別な事情がない限り、普段と生活を変えないようにすることが、平常心で試験当日に臨めることに繋がると思います。

--勉強面ではいかがでしょうか。

 算数が苦手だからと算数ばかりやっていれば伸びるかというとそうではありません。うまくバランスをとって受験科目をすべて勉強することが大事です。最近のテストは設問ごとの正答率もわかるようになっています。全体の正答率が2割に満たないような問題はできなくてもいいのです。正答率が高いのに失点している、といった箇所をなくすこと、“できそうでできない問題”が解けるようになるよう心がけてください。

--ありがとうございました。

 現在の小学校6年生は、大学入試改革の本格的変化の年といわれる2024年入試に直面することになる。安心と高大連携教育のメリットを求め大学付属という選択が増える一方で、安定した難関大学の合格実績をもつ御三家、それに次ぐ難関校の人気が依然として高いことが伺えた。「この時期は模試の結果に一喜一憂せず、安易に志望を下げることもお勧めしない。行きたい学校を受ける」こともまた大切だと言う。入試まで残すところ2月あまり、後悔をしないように信念を貫いて頑張ってほしいと願う。
《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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