条件は「人にも自分にも役に立つ」こと…思考を伝えるノートがすべてを制す!?

 “良い”ノートとは何なのか。ノートを研究観察することで学習メソッドを生み出してきた太田あやさんと、ノートを共有するアプリで月間利用者100万人を超える「clear」のサービスを生み出した新井豪一郎さんにお話を伺いました。

教育業界ニュース 教材・サービス
対談するアルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏と作家・太田あや氏
  • 対談するアルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏と作家・太田あや氏
  • 作家・太田あや氏
  • アルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏
  • 作家・太田あや氏
  • アルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏
  • 対談するアルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏と作家・太田あや氏
  • アルクテラス代表取締役・新井豪一郎氏
  • 作家・太田あや氏

ノートは“成功体験”を積み重ねるツールでもある



--ノートをとることが、学習のカギを握っているということでしょうか。

新井さん:僕は、勉強は本来楽しいものだと思っています。それには「わかった!」「解けた!」とか、得た知識が自分の生活とつながるといった成功体験が不可欠です。ノートをまとめる行為は、考えの整理、以前の知識との関連づけ、新たな発想といった成功体験を生み出しやすいと考えています。

太田さん:私もそう思います。例えば「今日の授業では、板書を写すだけでなく自分の意見もメモしてみよう」と目的をもってノートを書いてみて、それが達成できれば「できた!」という自信につながります。また、苦手単元をまとめた自分専用のノートで学習し、テストで力が発揮することもひとつの成功体験です。そうした小さな積み重ねが、大きな自信になっていくと思います。


--ノートを書くことを通じて、成功体験を積み重ねることができるというのは納得です。ノートが学習において果たす役割は何でしょうか。

太田さん:大きく3つあると思っています。ひとつは「知識をインプットする」ため。東大生にはノートを「第二の脳」だと言う人もいます。教科書や参考書は一般的な学生のために最適化されているけど、“自分の頭”に沿ったものではない。あくまでも“自分の頭”の中にあるバラバラの情報を整理して、自分の弱点を克服したり、知識を定着させていくことが目的です。

 2つめは、理解したことや得た情報をわかりやすく書くという「アウトプットの練習」。テストで点をとるにしても、やはり書くことが必要ですから。書くことで知的好奇心が満たされる経験をすることで、ものを書くことをいとわない習慣がつくメリットもあります。

 3つめは「生きる力をつける」ため。自分の学習の助けとなるノートの書き方を探りながら試行錯誤することで、目指すものに近づくには今どうすればいいかといった逆算力、主体的に学ぼうとする力や、根気強さがつく。そのことはすべて、これからの自分の人生をつくっていく土台になると思っています。

新井さん:もし世界にノートが存在しなかったら、世の中のあらゆる有名な発明は存在しないのではないでしょうか。アインシュタインもダ・ヴィンチも、ノートに書くことで思考を整理して、功績をつくりました。それは現代の学生も同じです。人類の発明や学問の基礎には「ノート」があるんだなと思います。


人に見せるもの、かつ自分にも役立つ…2つの視点が良いノートをつくる



--「clear」には、他の多くのユーザーから「役に立った」と評価されるノートを公開している投稿者がいます。そんな、人気の投稿者と成績に相関関係はあるのでしょうか。

新井さん:ノートは汚いけど勉強はできる人はいます。ですが、逆はないですね。ノートをきちんとまとめる力があるのに成績が悪い子はいません。自分が理解していないと人に伝わるようなノートは書けませんから。ポイントを把握してノートをまとめることができる子は、先々も好成績で推移していくことが多いです。

太田さん:「人に見せるもの、かつ自分にも役立つもの」。それが良いノートか否かの分岐点ですね。「人に見せる」ことが目的になっては本末転倒で、いくらきれいで見栄えのするノートでも、そこに「どう役立つか」といった主観がないと、ただの情報の羅列になってしまいます。

--やたら凝った会議資料をつくったものの、肝心の内容がともなっていない…。ビジネスシーンでも、心当たりがありますね(苦笑)

太田さん:目的と手段が逆転していないか。大人になってから仕事をする上でも、この視点は役立つと思っています。

「ノート点」は評価のためでなく、主体的な学びを励ますためのもの



--学校の成績や内申点において、授業のノートが評価の対象になる、いわゆる「ノート点」についてはどう思いますか。黒板+αの内容がノートに書かれていれば「A」評価、単に板書を写しただけでは「B」、未提出や雑な書き方は「C」など、さまざまな基準があると聞きます。

太田さん:ノート点を気にしている中学生は多いですね。学校の先生を取材してわかったことは、ノート点自体の評価には、実は基準がなく、先生個人の裁量に委ねられていることが多く、いろいろある評価軸の中のひとつにすぎないということです。明確な基準はないのです。

 ただ、自分が気づいたことや疑問に思ったことなど、黒板の板書以外のものを書き込んでいくことでプラス評価にするという先生は多いですし、それはノート点を上げるだけでなく「目的をもった主体的な学び」を促すきっかけになります。

 ディスカッションを中心とした授業やアクティブラーニングが重視される流れにあって、整理されたきれいなノートという軸だけでなく、一見雑に見えても自分の考えをメモしているかなど、新しい指標での評価が行われる可能性はありますね。


--対話を重視するアクティブラーニングにおいては、先生の話を聞いて、黒板の板書をノートに写すといったこれまでのやり方は昔のものになっていくのでしょうか。

新井さん:写すよりも、しゃべりながら書いたり、思いついたことパパっとメモしたり、そういったスキルが必要になると思います。

 今までの教育はインプット重視で、ノート点はまさに“インプット”を評価してきました。今後は、ノートをとることは“アウトプット”の訓練として評価されるべきだと思います。記憶のためにノートをとるのではなく、次のアクションをとるためのものです。主体的な学習活動のひとつとしてノートを位置付けてほしいと思っています。

太田さん:ノートのつくり方って正解がないから教えるのも、評価をするのも難しいんです。

近い将来、ノートのオープンイノベーションが必ず来る



--教育のあり方が変わることで、学習方法やノートのあり方も時代とともに変わっていくのでしょうね。最後になりますが、おふたりが今、注目していることは何でしょうか。

太田さん:学校で1人1台iPadが導入される時代を迎え、ノートそのものがどう変化するか、とても興味深いですね。アクティブラーニングのなかで、要点をおさえたメモをとる力がどうやったら身につくのか、新たな課題も見えてきています。大人も含めて、思考をパパッと書いていくことって、意外と難しくて悩んでいる人も多いですから。

新井さん:音声認識の技術が浸透してきたのと同じように、手書き文字を認識する技術が進んでいくと思っています。書いてある内容をデータとして抽出できるようになることで、自分がどんなことに興味があるのか、どんなキーワードを使っているのか、ノートを客観的に可視化できるようになると思います。自分だけのノートが、世の中にある知識とつなげられる時代が近づいていると思います。ノートのオープンイノベーションが近い将来に必ず来ると確信しています。

--ノートの可能性がますます広がって、ワクワクしますね。本日はありがとうございました。

 ノートをめぐる“新時代の技術”と、これまでの学びの基礎となってきた“手書き”。これらは“デジタルとアナログ”といった枠組みや価値観を超えていく新しい何かをもたらすことになるのではないでしょうか。今回の対談をきっかけに、これからのノートについて、また何か新しい発見が生まれることを期待しています!

「人にも自分にも役に立つ」ことが条件…思考を伝えるノートがすべてを制す!?

《吉野清美》

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top