初対面の35人「自分ゴト」化で急成長…Katsuiku Academy Winter Camp at 武蔵野女子学院の記録

 2019年12月24日から27日の4日間、活育教育財団とImaginEx、武蔵野女子学院中学校・高等学校の3団体によるユニークなウィンターキャンプ「Katsuiku Academy Winter Camp at Musashino」が行われた。35人の参加者の学びをレポートする。

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初対面の35人「自分ゴト」化で急成長…Katsuiku Academy Winter Camp at 武蔵野女子学院の記録
  • 初対面の35人「自分ゴト」化で急成長…Katsuiku Academy Winter Camp at 武蔵野女子学院の記録
  • 2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプのようす
  • 2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプのようす
  • 2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプに参加したリクさん
  • 2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプのようす
  • 2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプに参加したスズさん
  • 2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプに参加したヒマリさん
  • 武蔵野女子学院ウィンターキャンプで参加者に語りかけるImaginEx町田来稀氏
 街がクリスマスイブで華やぐ12月24日から4日間、ユニークなウィンターキャンプが行われた。この日帰りキャンプは、活育教育財団とImaginEx、会場となる武蔵野女子学院中学校・高等学校の3団体によるコラボレーションで実現したもの。

 活育教育財団は、子どもたちが生きる未来を見据えながら、社会とともに「イキイキと生き続ける力を引き出す教育」を追求し続け、「Katsuiku Academy」としてキャンプ事業等を通じて教育に貢献している。

 ImaginExでは、日本初の全寮制インターナショナルスクールとして各界から大きな注目を集めたISAK(現UWC ISAK Japan)の設立に携わった町田来稀、下島一晃の両氏が、世界最先端のリーダーシッププログラムやコーチングの知見を活かした教育研修事業を展開している。

 そして武蔵野女子学院中学校・高等学校は、地域4番手の公立高校からわずか3年で海外トップ大学合格者を複数輩出させた奇跡の立役者、前・大阪府立箕面高校校長の日野田直彦氏を新たな校長に迎え、海外進学に向けてのコースを強化し、2018年度より活育教育財団とパートナーシップを組んでいる。3年後には、箕面高校と同じく海外にはばたく学生たちがあらわれることが予想される。今、躍進がもっとも期待される学校だ。

見ず知らずの35人がありのままの自分で過ごす4日間



 「現在の子どもたちの65%が、今は存在しない新しい職業に就く」と言われている時代。そんな時代の到来を怯えるのではなく、むしろその変化を楽しみ、自分が望む生き方や世界を創ることができる。そんなイキイキした生き方を実現するスキルを育むという、今回のKatsuiku Academyキャンプには、会場となった武蔵野女子学院の生徒を含む男女35名の中高生が参加した。

2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプのようす
初対面だからこそ本音で語り合える環境

 4日間を通してのプログラムは、3~4人で1組のチームとなり、創造的な課題解決方法として世界的に注目される「デザイン思考」「システム思考」の手法を使いながら、実際の社会課題に仲間と一緒に取り組むという内容。課題を掘り下げ、できるだけ多くの解決策からアイデアを絞り込み、プロトタイプをつくり、フィードバックをもらうことでさらに改善を重ねるというプロセスを行き来しながら解決するという手法を、実践を通して身に付ける。

 このキャンプでは、参加者の学校名や学年は一切公表しない。「バックグラウンドを知ることでお互いに先入観をもったり、引け目を感じたりすることがないよう、伝えて良いのはお互いの『名前』のみ。今この瞬間の、ありのままの自分で相手に向き合うことを大事にしています」と下島氏は語る。

自分の才能は経験の積み重ね次第で、いかようにも向上できる



 プログラム初日。緊張感が漂う中、4日間のファシリテーションを務める町田氏が場を温める。人がどのように新しいスキルを身に付けていくのかを共有した後、「ジャグリングをしよう!」という突然の提案に会場がざわつく。

 「実はジャグリングは、練習すると誰でもできるようになります。プログラム冒頭でこの体験をすることによって、グロースマインドセットを体で感じてもらうのです」(町田氏)

 グロースマインドセットとは、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック教授が提唱したもので、「自分の才能や能力は、経験や努力によって向上できる」という考え方のことを言う。

参加者に語りかけるImaginEx・町田氏

「社会に溢れるさまざまな課題を前に、自分にはできるはずがないとあきらめるのではなく、自らの努力と他者との協力を通じて、変えられるものはたくさんあるという気持ちがもてること。このプログラムの目標は、そういう思考を参加者全員がもてるようになることです」(町田氏)

 ジャグリングでひと盛り上がりし、明るい声が教室に飛び交い始めると、いよいよ参加者たちはスタートラインに立つ。ひとりひとりがこのキャンプでの目標を掲げようと、町田氏が問いかける。

 「この4日間を通して自分はどう変わりたい?」

35の目標が書き込まれた黒板

 「自分の想いを確実に正確に伝える力を身に付ける」「思い立ったらすぐ行動!」など、皆、思い思いに自分が抱える課題を黒板に書き連ねていく。むしろバックグラウンドを知らないもの同士だからこそ、なんの気負いもなく自分自身に向き合えているようだ。

建前は通用しない…濃密な議論でより良い解へ



 初日の午後から、チームプロジェクトが始まる。今回は「人口減少」をテーマに、各チームで解決すべき具体的な問題は何かについて話し合う。メンバーそれぞれに異なる興味や関心から、意見が次々と湧き出てくる。それぞれの意見やアイデアが、教室の壁やホワイトボードを埋めていく。

 2日目は、このように洗い出されたさまざまな問題の中から、どの問題に取り組むべきかを話し合う。あるグループでは若年層の就職先の切り口から「キツい、危険」と考えられがちな大工業界での労働力不足に焦点をあてたかと思えば、別のグループでは先祖の墓を巡って引き起こる親族間でのトラブルを、そのほか、地方での伝統工芸の後継者問題など、「人口減少」という同じテーマなのにまったく異なる視点に行き着いていて面白い。

若者と高齢者の価値観の乖離に注目し、解決策を議論するチームも。

 こうして問題を絞り込み、さらにその問題を深掘りしていく。「困っている人は誰なのか、何が問題なのか。自分の中での限られた情報や経験だけが正しいという思い込みは捨て、さまざまな視点を取り入れるためにメンバーの考えにもじっくり耳を傾けていきます。そして、問題を抱えている人になりきって『共感』しながら深掘りしていくことを学びます」と下島氏。

 3日目からは、プレゼンテーションにまとめる作業に入る。

「プレゼンテーションは、Why(どうしてその問題を解決することが大切だと思うか)、次にHow(どのような課題が考えられるか、どのような手法で解決するか)、最後にWhat(自分たちが提案する解決策は何なのか)という手順でまとめると相手に伝わりやすくなるよ」。町田氏が効果的なプレゼンテーションのコツを伝授すると、各チームは寸劇や動画を取り入れるなど、さまざまな工夫を凝らしながら、オリジナリティあふれる作品に仕上げていく。

失敗も成功も自分次第…「自分ゴト」だからこその手応え



 下島氏はこの4日間の活動について、次のように語る。

 「ファシリテーター15名で作業の進行を見ているので、人員的には十分手厚いサポートができる環境です。でもあえて僕たちは、そこで大人が主体となってアドバイスをしたり手伝ったりはせず、見守ることに徹します。参加者たちから求められたらフィードバックやアドバイスをしますが、参加者自ら考えたこと、思いついたことはとりあえず試してもらい、突き進んでもらうことを大切にしています。失敗しそうだからと僕らが先回りして助けることもできますが、それでなんとなくうまくいっても『大人の言うことを聞いたからうまくいった』と考えてしまい、自分たちの成果や成長につながりません。また、このような経験を重ねてしまうと『困ったことがあったら大人が勝手に手伝ってくれる』という思考停止の受け身の状態に陥ってしまいます。そうなると、逆に失敗したときにも自分を顧みず、大人のせいにしてしまう。結局、その課題は『自分ゴト』にはなりません。だからこそ失敗を通して学ぶことがとても重要なのです」

2019年12月24日からの4日間開催された武蔵野女子学院ウィンターキャンプのようす
最終発表を前に準備は最終局面。熱気に包まれる中、議論の進まないもどかしさから涙を流すチームも

「プレゼント」を贈り合う温かくて、アツイ発表会



 チームプロジェクトの最終発表は4日目の最終日。発表の前に町田氏が参加者たちに語りかける。
 「プレゼンテーションの語源は『プレゼント』、つまり贈り物です。贈る側だけではなく、受け取る側の態度や気持ちもとっても大事。発表を聞く側も、感謝の気持ちを込めて聞こう」

 まさに、この「聞く側の態度」が印象的だった。

 皆、発表者の一挙手一投足、一言一句に集中し、熱心に聞き入っていた。短い準備期間の中で、発表者全員が満足な内容で終われるわけではない。発表者が極度に緊張していたり、言いたいことがまとまらずに辛そうにしていると、聞く側が掛け声をかけて盛り上げ、励ます。発表が終わると、必ず誰かが良かったところを見つけ、挙手してそれを伝える。時間の都合で全員が発言しきれないくらい、発表が終わるごとにたくさんの手が挙がる。

各チームのプレゼンテーションもさることながら「プレゼント」を受け取ったオーディエンスからのコメントもアツイ

 日本の若者が無気力・無関心だといわれるのは何かの間違いだと確信できるほど、会場は参加者たちの熱意に溢れていた。

 「このキャンプの参加者は4日間で、創造的に問題を解決する力自分の目標を明確につくる力異なる視点を受け入れながら周りと協働する力周りを惹きつけ、効果的にアイデアを発信する力を身に付けることができたと思います。これらはまさに、彼らが今後グローバル化社会で生き抜くためのスキルです」(下島氏)

急成長を実感…明日からの自分はもっとポジティブ



 何より、参加者たち自身がその手応えを感じていたようだ。

チームでの議論やファシリテーターからのアドバイスを着実にモノにしたリクさん

 参加者の1人であるリクさんは、将来ベンチャーキャピタルで、まだ日の目を見ない日本の起業家をサポートしたいという夢を抱く。「4日間、チームのメンバーやファシリテーターからさまざまな意見を聞き、インプットとアウトプットを繰り返していくうちに、自分の思いをしっかりと相手に伝える力が身に付いた実感があります。このキャンプで学んだ問題解決の手法や相手に伝える力は、自分の将来の夢のために絶対に必要なもの。本当に貴重な経験ができたなと思います」と微笑んだ。 

閉鎖的な環境から抜け出し、未来へ大きな一歩を踏み出したスズさん

 キャンプ2日目、全体のコミュニケーションをスムーズにするため、もっと盛り上がるような雰囲気づくりを全員の前で提案したスズさん。だがもともとは人見知りが激しく、自分から前に出ることのできないタイプだったと語る。小学校から高校まで一貫のインターナショナルスクールに通い、ずっと同じ顔ぶれに囲まれて育ってきた。「だからこそ『外に出てみたい』『学校以外のコミュニティにも参加してみたい』という強い気持ちがあって、このキャンプに応募しました」。

 キャンプでの一番の収穫は「日常生活の中で『でも』とか『but』といったネガティブな言葉を使わないと決めたこと」と胸を張る。「今の自分なら、これからもっといろんなことに挑戦できると思います」

他者の意見を咀嚼し、自分なりの意見を磨く姿が印象的だったヒマリさん

 来年から1年間、留学する予定のヒマリさんは、母の勧めでキャンプに参加した。「最初に母から聞いたときはまったく興味が湧きませんでした」と苦笑い。

 「今は周りの友達みんなに『なんで来なかったの?!』と言いたいくらい。初日からたくさん友達ができて、本当に楽しかったです。声も小さいし、人見知りもするし、まだ改善していきたい課題はあるけれど、聞いてくれる人たちの温かい雰囲気が伝わってきて、思い切り恥を捨ててプレゼンができました。恥を捨ててやってみるという経験は、今後留学をする上でも大事だと思います。

 そして何よりも、人の意見を聞くことの大切さを実感できたことは大きな学びでした。人の意見というのはその人にしかない考えだから、とても貴重なもの。新しい視点を自分にも取り入れながら、自分の考えを磨いていけたら良いなと思います」

 町田氏が繰り返し声高に訴えていた「失敗したっていい。次の改善につなげていこう」「完璧じゃなくていい。まずは一歩でも踏み出そう」というメッセージ。世界を大きく変えたアップルもグーグルもフェイスブックも、そうやって試行錯誤しながら生まれてきた。

 4日間というわずかな時間だったが、参加者は『体験』を通じて学んだ。「自分にもできる」「やればできる」という成長のための思考、グロースマインドセットは、間違いなく彼らの未来を明るくする大事な種となるだろう。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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