世界基準の教養を家庭で育むたった2つのこと…ボーク重子さんインタビュー

 オバマ前大統領らとともに「ワシントンの美しい25人」に日本人で唯一選ばれ、全米最優秀女子高生を育てたボーク重子さんが、華々しい経歴の裏で学んだ、グローバル社会で活躍するために必要な「教養」とは何か。「リベラルアーツ力」について話を聞いた。

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 主体的に学び、論理的思考力を身に付けてグローバル社会を担う…日本の未来を背負い立つ子どもたちへ大きな期待が込められた2020年の教育改革本格始動まであと1年。親たちが、予測不可能な未来に備え、我が子に教えられることは何かを考える機会はまさに今ではないだろうか。

 福島県で生まれ育ち、大学進学とともに上京。法学部を卒業後、自分の道は違うと感じ、アートを学ぶためにイギリスへ留学し修士を取得。元外交官のアメリカ人と結婚し、ひとり娘を育てながらワシントンDCにアジア現代アート専門ギャラリーを開き成功したボーク重子さん。オバマ前大統領らとともに「ワシントンの美しい25人」に日本人で唯一選ばれ、全米最優秀女子高生を育てた華々しい経歴の裏で学んだ、グローバル社会で活躍するために必要な「教養」とは何か。話を伺った。

一般教養=リベラルアーツではない



--「あの人は教養があるね」というと、思い浮かぶのは「物知りな人」というイメージです。「リベラルアーツ」は「一般教養」と訳されますが、まったく異なるものと著書に書かれています。「リベラルアーツ」とは何で、何のために必要なのでしょうか。

重子さん:私も学生時代には教養=知識だと思っていました。しかしアメリカで生活してわかったのは、大学教育におけるリベラルアーツは、いわゆる一般教養とはまったく違うものだったのです。ひと言でリベラルアーツとは「問いを立てる力、疑問をもつ力」です。

ボーク重子さん
 倫理学、哲学、経済学などの本を読むことではなくて、自由とは何か?政治って何?お金って何だろう? と疑問をもち、自分と向き合うために本を読んだり、問いを立てることがリベラルアーツなんです。知識だけ得ても疑問をもたなければ、人は前に進んでいけません。ですのでリベラルアーツは誰もが必要な学びなのです。

--日本とアメリカの大学の違いは何でしょうか。

重子さん:日本では学部を選んで入学し、専門分野を学ぶという順番ですが、アメリカでは2年間はリベラルアーツを学んでから専門分野を決めて学ぶというのが基本です。大学生といってもまだ18歳で子どもです。自分にとって働くとは何か、をわからないまま専門分野を決めるのではなく、まず2年は自分を知るための時間、考え方を学ぶ時間、というのがアメリカの大学です。

 早くから専門的なことを学んだほうが仕事に役立って良いじゃないか、と思うかもしれませんが、そうではないんです。専門の知識よりもまず多くの知識から自分で問いを立て「問題解決力」「議論力」「論理的思考力」を磨く。その上で自分は何をしたいのかを見極めていくのです。私は大学で法学部を選んで入りましたが、途中でこれは違う、と思っても変えられなかったんです。大学進学時には、自分に何が向いているかわからない場合もありますよね? 経済が好きだと思っていたけれど、勉強しているうちに「哲学が好きだった」と気づくかもしれません。そういう場合、アメリカの大学はフレキシブルに学ぶ分野を変えられます。

 大学のテストはエッセイベースが基本ですから、とにかく自分の意見を書かされます。自分がどう思うか問いを立て、考えを構築していくんです。考えを構築して意見を伝えられないとイノベーションや、常識を破るという力にはならないですよね。もっと違う方法はないのだろうか? こういう方法はどうか? いろいろな問いを立てて人生を切り開く力を育てるのがアメリカの大学です。

ギャップを知らないのはもったいない



--グローバル社会における「教養」に関する本を書こうと思ったのはどういった理由からでしょうか。

重子さん:理由は2つあります。ひとつめはグローバリズムとローカリズムにはギャップがあることを、海外留学や社交界で自分が経験したことです。どんなに語学力があっても、人と会うときに会話が続かない、自己紹介すると人がいなくなってしまう、私はいつも壁の花になっていたのです。

 日本人は静かで、意見を言えなくて、自信がなくて、サイレントマイノリティだと言われています。私はそのサイレントマイノリティのステレオタイプになっていたのです。「素敵な服ね」と言われても「いえいえ…」と謙遜したり。でもグローバル社会では謙遜の度合いを低くしても大丈夫だったのです。

 私は壁の花なのに、経歴も変わらない人、私より英語が上手ではない人が堂々として、こんなバカな質問していいの?というようなことを平気な顔をして言っていたり。これは何が違うんだろう?と。日本的なレベルで謙遜するとアメリカでは「なんだこの人?」となる。でもアメリカの社会では「こんにちは、ポールです」と日本語で言えれば「日本語できます」って自信をもって言えちゃうんですよね。ここにグローバリズムとローカリズムにはギャップがあることを知りました。ローカリズムを優先したいときにもグローバリズムを使っていかなければならない場合もある。この「ギャップ」を知らないなんてもったいない、と思ったのです。

ボーク重子さん
 ふたつめは日本人のもつ「美徳」「倫理観」「勤勉さ」です。これはAIに勝てる能力だと思うのです。ほかの国ではなかなか身に付けにくいことなのに、日本人に生まれれば自然と身に付く力。海外で仕事をしていて「日本嫌い」と言われたことは一度もありません。日本では見えない日本の良さを、日本人ひとりひとりがグローバル社会で伝えられたら素晴らしいことだと思っています。

--海外へ行くと、この言葉は間違っているかも、こういう態度は失礼かも…と失敗を恐れて自信がなくなりますね。

重子さん:2年ほど前まで「askshigeko.com」というWebサイトを運営していました。そこには「アメリカにいても友達ができない」「質問ができない」という私と同じ悩みをもつ方から、どうすればいいかという質問がたくさんきました。日本人は「指示待ち」になりがちですが、グローバル社会では誰も引っ張ってくれない。議論をする習慣を身に付けないと伝わりません。

 意見を言うときに「間違っているかもしれないけれど」という前置きはいりません。自信をもって話すことが大切です。意見が間違っているけどと前置きされると、聞く側は「じゃあ言わなければいいのに」となってしまう。意見は言うことが大切で、間違いが議論に貢献するかもしれない。そんな気持ちで勇気をもって心を自由にして良いと思います。

壁の花だった私を変えたのは娘



--壁の花をやめなければと思った大きなきっかけは何でしょうか。

重子さん:それは娘です。親子が集まる場所で娘に「いろんな人とお話ししなさい」と言っても、ママが壁の花だと娘も壁の花になりますよね。大勢の人が集まる場所で人と話ができなかったら、娘はこの先の人生どうなるのだろう? と思ったのです。協働、協力して成り立っている社会で、娘はこのままだとその頭数にも入れないだろうなと感じました。

 周りを見渡すと親も子も堂々としていて、子どもが大人と堂々と話をしているのです。私と何が違うのか? 誰も教えてくれないので時間はかかりましたが、友だちに貼りついてどう自己紹介しようかと考えたり、握手のときには自分から手を出すと決めたり。どうすれば壁の花をやめられるのか、自問を繰り返しました。

--そうした考えと行動から、ご自身もお嬢さんも海外でご活躍できるスキルを身に付けていかれたのですね。日本にも、サイレントマイノリティから抜け出したいと考えている人は多いのではと思います。日本の家庭でも取り組めるリベラルアーツ力の育て方はありますでしょうか。

家庭でリベラルアーツ力を育てる方法その1「対話」



重子さん:親が子どもにできる最大にして最高のこと、それはたったひとつ「対話」です。対話の時間をあらためて作るということではなくて、SNSでもテレビでもYouTubeでも話題は何でもいいのです。私が観ても面白くないテレビ番組を娘が楽しそうに観ているときに、「なぜこれが面白いの?」「何で人気あるの?」「なんで好きなの?」と聞いたところ娘は、「ママ、そこがまさしくポイントなの。ただ面白いって笑っている時間が必要なの、ただ笑える番組は気分転換になるの。」と教えてくれました。「なるほど!それはそうね。」と子どもの考えを知り認めることができるわけです。

ボーク重子さん
 子どもに興味を示して、子どもが自分の意見を言う機会をつくること、質問を投げかけることがとても大切です。子どもの意見を聞かずにあれこれ親が指示をしていたら、子どもは考えなくて良くなってしまいます。子どもが何をしたいのか、何が好きなのかを聞くことでリベラルアーツ力は身に付いていきます。一切お金はかかりません。自分の話を大人が聞いてくれたということは子どもの自信になります。人は質問をされないと考えません。「おやつどっちがいい?」「なんでこっちがいいの?」など何でも良いのです。難しいことではなくてメンタルチェンジの問題です。思春期になると徐々に話をしなくなりますが、いずれまた戻ってきます。小さいうちから「対話」を続けて疑問をもつこと、問いを立てることを習慣にしておけば、思春期までに自分で考え、自問する力が身に付いていくと思います。

 また家庭では「何を言ってもいい」雰囲気をつくることも大切です。質問が変だ、的を得ていないと言われるのが嫌だと思って質問できなくなることがあります。良い質問だと言われなかったらどうしよう…と言う気持ちがあると自分でブレーキをかけてしまう。誰かに何かを聞かれないと考えられない…というのは良くないので、疑問をもつ、疑いをもつ習慣を家庭の対話で身に付けていきます。そういう力がないとグローバル社会ではやっていけません。「いない人」になってしまう。アメリカの学校では授業に参加しない、意見を言わない人はクラスに貢献していないと評価され成績が下がります。それは社会に出ても同じことです。

 子どもに質問や意見を言う機会を与えれば与えるほどリベラルアーツ力は伸びていきます。Twitterも内容さえ気を付ければ、短く簡潔に、論理的に書く訓練にもなりますし、SNSを利用したり、YouTubeを一緒に見て対話をするのでも何でも良いと思います。

家庭でリベラルアーツ力を育てる方法その2「お手伝い」



--自問して考えて自分の意見に自信をもっていくということですね。日本の子どもたちは自己肯定感が低く、若者の自殺率が高く、中高年男性の自殺率も高いことが社会問題となっています。親も子も、どうしたら自己肯定感が上がっていくのでしょうか。

重子さん:自己肯定感を上げる最大の方法は人の役に立つことです。日本とアメリカの大きな違いのひとつに福利厚生の違いがあります。日本の福利厚生は充実していて、あまり人の助けがいらない社会です。でもアメリカは誰かの助けがないと困る人が多い社会ですから、社会貢献の機会も多いのです。そんなこともアメリカの高い自己肯定感に寄与しているのではないでしょうか。誰かの役に立つ経験は自己肯定感につながります。

 外でボランティアしないといけないということではなくて、まずは家庭から始めればよいのです。家庭は最小で最強のコミュニティです。家庭で誰かの役に立っていないと、社会で役立つこともできないですよね。そのためには家庭で子どもが「お手伝い」をすることが大切なのです。

 やって当たり前ではなくて、親も助かるし、子どもにはとても役に立っていることを伝える。そうすれば子どもは、自分は役に立つ人間なんだとわかり、自己肯定感につながります。自分は家族のために何ができるかを考えるようになる。そして次は学校や社会のために何ができるかを考えるようになるのです。

 お手伝いをすれば対話が生まれます。子どもは、自分は家族のために何ができるかを考える、親は選択肢を与える。これにより、協働力が身に付き、責任感が身に付き、自分に自信がもてるようになるのです。

 自分の力がどう役に立つのかを考えこうどうすることを本著では「Cause」と言っています。「Cause」は一般的には「原因」と訳されますが、実は「人を動かす理念や信念、大義」といった深い意味をもつ言葉です。自分のことしか考えていない人は尊敬されませんし、何かを分かち合いたいとも思われません。

2020年教育改革の移行期の今こそ家庭の力を発揮



ボーク重子さん
 たとえば「歯医者さんになりたい」と言う子どもがいます。理由を聞くと「お金持ちになりたいから」と。「ではそのお金で何をするの?」という質問をされたとき何も出てこない。グローバル社会では「Cause」が大切になってきます。社会で自分は何ができるのかを自問すると考えを構築できるようになり、社会の発展に必要な「Cause」をひとりひとりがもてるようになると思います。誰の役にも立てないと思うと自分で人生が完結してしまう。自分が誰かの役に立って気持ちが悪い人っていないと思うのです。誰かの役に立てるという気持ちがないと「ビッグビジョン」はもてません。

 自分が役に立つことを知っていて、好きなこと、得意なことがわかっていれば、たとえば「手先が器用だから歯医者になりたい」「歯医者になったら週末はお年寄りの口腔ケアのためにボランティア活動をしたい」など、考えを発展させられるようになります。

--日本でも働く母親の割合は年々上昇しています。忙しいなか日々悩み、より良い教育を模索しながら過ごしている日本のお母さんたちにメッセージをお願いします。

重子さん:先日、日本の家庭のようすの記事がアメリカで話題になりました。お父さんはテレビを見ていて家事をしない、子どももテレビを見ていて、お母さんだけが働いている写真でした。「日本って女性が大変!」「これではお母さんが家庭内過労死してしまう!」とアメリカ人は驚いていました。

 母親が至れり尽くせりで子育てをしていると、子どもは自分で何もやらない。子どもが自分で自分の事をやる、ということはすでにお手伝いなのです。まずは自分でできることからやらせてみてはいかがでしょうか。

ボーク重子さん
 日本は教育改革を機に、グローバル社会で生きる力を身に付ける教育に変わっていきますが、学校任せではなく、この移行期に意見をもち、思考する習慣を家庭で身に付けるのは重要です。主体的に学ぶこと、論理的思考力を鍛えること、ディスカッションを家庭でも習慣にしていかないと子どもが損をすると思います。すでにそういった習慣のあるご家庭や、先進的な教育が根付いている学校もあるのですから、今こそ家庭の力、愛の力を発揮するときだと思います。

--ありがとうございました。

 自分に自信をもち、自分を愛し、そして誰よりもご家族を深く愛しているボーク重子さん。家庭での対話の積み重ねが家族の絆を深め、愛情あふれる家庭を築いてきたのだろう。

 最新刊「世界基準の子どもの教養」(ポプラ社)では、グローバル社会で活躍するために必須の「教養」のみならず、ボーク家の体験をもとに親子で意見構築するツールという視点で選んだ、アメリカで人気の書籍やYouTubeチャンネルなども紹介している。また、母親も子どもも身に付けておいて損はない、誰も教えてくれない社交ルールやマナーも参考になる。

世界基準の子どもの教養

発行:ポプラ社

<著者プロフィール:ボーク重子>
 ICF認定ライフコーチ、アートコンサルタント。福島県出身、米・ワシントンDC在住。大学卒業後、外資系企業に勤務。30歳の誕生日前に渡英、ロンドンにある美術系大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、1998年渡米。結婚、出産を経て「今あるアジアの美しさを伝えたい」という長年の夢を叶え、2004年にアートギャラリーShigeko Bork mu projectをワシントンにオープンする。2年後には、米副大統領夫人やモダンアートで有名な美術館を含むワシントンのVIPを顧客に持つアメリカのトップギャラリストの仲間入りを果たす。2006年にはワシントンDCでの文化貢献度を評価されオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙の副社長らと一緒に「ワシントンの美しい25人」にたったひとりの日本人として選ばれる。2011年にはこれまでの経験を活かし女性の応援サイトaskshigeko.comをスタート。以来、アメリカ生活や女性の生き方を読者と一緒に考えてきたが、その経験をもっと活かすべくライフコーチの資格を取得し、現在はアートコンサルティングに加えてライフコーチとしても活躍中。また、娘のスカイは2017年「全米最優秀女子高生」コンテストで優勝、多くのメディアに取りあげられた。「人生が変わる1分間の深イイ話」(日本テレビ)「ノンストップ!」(フジテレビ)「親の顔見たい!ザ・ワールド」(TBS)などのメディア出演や、全国各地で講演多数。著書に、『世界最高の子育て―「全米最優秀女子高生」を育てた教育法』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方―心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』(小学館)などがある。


《田口さとみ》

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