早期英語への注目度が高まっている。首都圏の未就学児のあいだでは空前のインターナショナルスクールブーム。SNSにも「海外でも稼げる力を〇歳から」などの宣伝文句が溢れている。
さらに止まらない少子化の中、日本は今や大学全入時代。中学・高校もそれぞれの特色を打ち出し、学生募集に余念がないだけでなく、就活までも売り手市場ときている。子供たちはすっかり“お客様状態”だ。都内での子育ては、焦燥感と選択肢過多で日々不安を感じてしまう。
「子供の進路、いったい何がベストなの?」
そんなモヤモヤを抱えていた私に、「金沢に“高専×英語×全寮制”っていう面白い学校があるから見に行ってみない?」というお誘いが。1泊2日の潜入取材。私は北陸新幹線に飛び乗った。
石川県白山麓にそびえる欧米型のボーティングスクール
東京駅から北陸新幹線で約2時間半、さらに金沢駅から車で1時間弱。白山麓の山道を抜けると、突如として北欧風のデザインホテルのような大きいアーチ形の建物が現れた。
「え、ここが学校?」
思わず声が漏れたが、ここが国際高等専門学校(以下、国際高専)の白山麓キャンパスだ。もっと驚いたのは、この広大な校舎は1、2年生のためだけに作られていること。国際高専は英語で学ぶ欧米型のボーディングスクール(全寮制)で、1学年の定員は35名。教員の6割が外国人で、学生、教員、スタッフが生活を共にしている。トレーニングルームが併設された体育館や温泉施設まであるという、なんとも贅沢な環境だ。


ルーツは約70年の歴史ある北陸随一の工業系教育機関
案内をしてくださったスタッフの志鷹さんによると、国際高専のルーツは昭和32年に開校した北陸電波学校に遡るという。昭和37年に金沢工業高等専門学校が開校、昭和40年に金沢工業大学が開校し、北陸随一の工業系教育機関として、多くのエンジニアを輩出してきた。そして平成30(2018)年4月、時代の激しい変化に柔軟に対応し、グローバルに活躍するイノベーターを育成するため、校名を「国際高等専門学校」に変え、この白山麓キャンパスが開設された。
高専なのでカリキュラムは5年間。1、2年生はこの白山麓キャンパスで、数学、理科をはじめとした基礎学力を徹底するとともに、英語スキルもしっかりと習得しながら、エンジニアリングデザイン教育を通して地域の課題にも挑戦する。
3年生になると、全員がニュージーランドでもっとも歴史のある国立の高等教育機関「オタゴポリテクニク」へ留学し、地元の家庭にホームステイしながら、現地の学生や留学生と一緒に専門科目やプロジェクトを履修する。
そして4、5年生は、金沢工業大学に併設する金沢キャンパスで過ごす。AI、ロボティクス、データサイエンスなど、大学の学生と一緒に専門教育を受ける。ちなみに金沢工業大学は「面倒見が良い大学」*で21年連続全国1位。また、「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」*では東北大学、東京大学に次ぐ全国3位になるなど、各ランキングで高評価を得ている。
*サンデー毎日と大学通信が進学校の進路指導教諭を対象に毎年実施している調査
入学後、英語力はどうやって身に付けるのか
やはり気になるのは、授業は国語と歴史以外は英語というところ。外国人の先生たち何人かとすれ違ったが、もれなくみんな英語で話しかけてくる。この調子で専門的な授業も英語だなんて、「相当高い英語力がないとついていけないのでは…」と不安になる。もしかして学生は全員帰国子女?
ところが実際に聞いてみると、「英語は公立の中学で勉強していただけで、入学したころはさっぱりわからなかった」という子が意外と多くて驚いた。ではどうして、まだ半年しか経っていない1年生でさえ、この英語オンリーの環境にすっかり馴染めているのか。「実はスパルタで、猛烈な詰め込み教育をしているのでは?」と疑い深い私に、スタッフの志鷹さんが紹介してくれたのが「ラーニングメンター」だった。
ラーニングメンターは海外の大学で工学や化学、数学などを専門に学んだ人が採用されるため、授業での専門的な内容はすべて理解できる。学生と授業に参加し、教員の発言を一緒に聞いているので、授業中、あるいは授業の後でも、わからなかったところがあれば、その学生の英語力に合わせてゆっくりと噛み砕きながら教えてくれる。学生ひとりひとりのレベルに合わせて、ちょっとしたつまずきでもフォローしてくれるので、学習の理解は深まるし、それによって自信もつく。

さらにもう1つ、志鷹さんは、ネイティブ教員と日本人教員による“ペアティーチング”の効果も大きいと言う。授業はネイティブ教員が英語で教えるが、日本語でのフォローが必要な際は日本人教員がサポートに入る。

「エンジニアリングデザイン」の授業を受けもつブランドン先生は次のように語る。
「大切なのは完璧さよりも、まずは使ってみること。最初は不完全でも、教員やメンターが必要に応じて“足場”をかけていくので、学生たちは安心して前に進める。英語はそうやって使い続けていくうちにどんどんブラッシュアップされていきます。」

見ていると本当に手厚い。英語と理系の専門知識を同時に身に付けていくのは決して簡単ではないはずだが、だからこそ「1人も置き去りにしない」という学校側の気概を感じる。
こうして、ニュージーランドへの留学を控えた2年生終了までに、海外の大学進学レベルとされるIELTS5.5(CEFRB2(中上級)とB1(中級)の中間、英検準1級程度)以上を目標としているというのだから、たいしたものだと思う。


英語だけじゃない、授業を通して見えた国際高専が目指す教育の本質
今回特にじっくりと見学させてもらったのは、1年生の「エンジニアリングデザイン」の授業だ。ネイティブ教員のブランドン先生と日本人教員の松下先生によるペアティーチングで、もちろん授業は英語で進む。ブランドン先生、松下先生共に金沢工業大学でも授業を受け持つ工学の専門家だ。
授業の形態は4人1組のグループワーク。この授業では、地域の課題をヒアリングして解決策を練り、生み出したアイデアを設計してプロトタイプ(試作品)で具現化する。
今学期は、キャンパス内にある温泉施設での困りごとをどうやって解決するか、学生たちが検討を重ねていた。光に集まるという虫の習性を利用したカメムシの捕獲装置、温泉を訪れる一般客向けの施設案内のジオラマなど、学生たちは3Dプリンタやレーザーカッターなどを駆使し、アイデアをモノにしていく。松下先生が、「この授業は着想からアイデアの創出、設計、そして形を作り出すというプロセスから、考える力とものづくりの実践力を同時に育む、極めて密度の高い学習」というのも納得だ。





授業の最後、ブランドン先生が学生たちに投げかけた言葉が印象的だった。
「解決策を製品として、実際の空間の中で想像してごらん。ユーザーはそれをどう使うだろう? 君たちがデザインし、そのために何かを作るとき、もっとも大切なのは“人”だよ。使う人のことを徹底的に考え抜くことが大事なんだ。」
授業を見学し始めた当初は、「まだ1年生なのに難しい授業を英語で理解して、レポートもさくさく書けてすごいなぁ」という印象だった。でもずっと見ているうちに、もう1つ、もっと大事なことに気付いた。
それは、この学校の教育が「誰かの役に立つ」という視点をとても大切にしていることだ。「誰かの役に立つ」という目標に向け、仲間と一緒に助け合い、形にしていく。そこには言葉の壁もあるけれど、イノベーションへの第一歩ってこういうことなのかもしれない。そんなことを気づかせてもらったように思う。
放課後も“塾要らず”で、安心感のある寮生活
寮は男子寮・女子寮ともに部屋は完全個室。6名で1ユニットを構成していて、プライバシーを守りつつ、自室を出れば仲間に会える心地良い安心感に包まれている。
平日は午後4時30分に授業を終えると、夕食までの2時間は自由時間だ。キャンパス内の温泉に行く子もいれば、共有スペースのリビングコモンズに集まってボードゲームに熱中する子、ロボット制作に没頭する子もいる。


毎日の食事はカフェテリアでのブッフェ形式。私がいただいた夕食も野菜たっぷりで栄養バランスも良く、とてもおいしくてお腹いっぱいになった。この日はクリスマスにちなんだデザートもあった。

夕食後、午後7時30分から午後9時30分までは「ラーニングセッション(自主学習)」の時間。ラーニングメンターがそばにいる環境で、その日の宿題や復習に取り組む。わからないところはすぐ質問できるので塾要らず。もちろんここでもオールイングリッシュだ。

直接聞いてみた、国際高専生のホンネ
つい勉強のことばかり書いてしまったが(親としてはやはりそこが気になる)、管理された窮屈さはまったくない。この日はクリスマスイベントがあり、学生たちはプレゼント交換で大盛りあがり。外国人、日本人の先生たちも交えてくつろいでいるところに私も入れてもらった。
出身地は、地元の子もいれば、関西、関東、九州から来ている子も。きっかけは、高専フェアのようなイベントだったり、ネットで見つけたりとさまざま。入学の動機も、プログラミングやロボット好きもいれば、自由な校風が好き、海外で起業したい、親から離れたい、中学時代は学校にあまり馴染めなかったけどここなら自分の居場所がありそう、数学や理科は得意じゃないけど英語とデザインに興味がある…など、ひとりひとりにストーリーがある。

少しネガティブなことも書いておく。キャンパスはすごく広くて綺麗で快適だけど周囲には何もない。コンビニもない。金沢市内には学校がバスを月に1回出してくれるらしく、美容院に行ったり、買い物をしたりと、学生たちはその日は大忙しだそう。山に囲まれ、澄み切った空気と夜見上げる満点の星空、毎日温泉入れて最高!とはいえ、寂しくなったりしないのかな。
くつろぎついでにそんなことも聞いてみたが、みんな無理をしているようすもなく首を振り、「ネット通販でたいていの物は手に入るし、友達と映画を見たり、一緒に料理をしたり(寮にはキッチンもある)週末もすごく楽しい」と笑顔で答えてくれた。
こういうときはどうしても親の気持ちになってしまうのだが、15歳のわが子をこの場所へ送り出すのは一大決心だったはず。だからこそ、子供のこんな満たされた表情を見たら、私ならきっと泣く。保護者の方へ伝えたい、「お子さまたちはこのキャンパスで頼もしく、幸せに成長していますよ」と。
ぬるま湯ニッポンから飛び出し、世界で生き抜く力を
学費は、1、2年生は全寮制のため寮費・食費も含めて1年間で300万円。3年生はニュージーランド留学があるので約470万円。5、6年生は1年間で160万円とのこと。ただし3年生までは、たとえば東京都民なら私立高校平均授業料額の補助(48万4,000円)が受けられる。 返済不要の奨学金もあり、入試で良い成績をおさめれば学費は実質無料。2年生以降も、前年の成績次第で同等の奨学金がある。
卒業後の進路は、就職も大学への編入も可能だ。国際高専では4、5年生は金沢キャンパスで大学生と一緒に学ぶので、そのまま金沢工業大学に進学するケースもあれば、専門性を武器に国公立大学や海外の大学に進学するケースもある。最新の世界大学ランキング(QS World University Ranking 2026)※で20位のニュー・サウス・ウェースルズ大学(オーストラリア)に進学した学生が2名もいるという。※同ランキングで東京大学は36位、京都大学は57位。
親としては、学費はもちろん、卒業後の進路実績も気になるところではある。ただそれ以上に今回強く感じたのは、この学校なら「世界中どこへ行っても生きていける」と思えるようになるだろうなってこと。
確かに安心な場所だけど、決して「ぬるま湯」じゃない。学生たちは皆、自分のコンフォートゾーンを飛び出してここに来ているのだ。
親元を離れ、母国語ではない言葉の不自由さを負いながら、娯楽も何もない山の奥で専門的な学びに没頭する。しかもそのカリキュラムは、教員が学生たちの未来のために、どんな時代でも生き抜ける力を授けたいと考え抜いて編みあげたものだ。
今、留学はだんだん手が届きにくくなってきている。でも、だからといって「ぬるま湯」で良いと思っているわけじゃない。「わが子のために理想はまだ捨てたくない。でもどうやって?」と悩んでいた私のような子育て中の同志がいたら、「まだあきらめなくて良いよ。日本にもこんなびっくりするくらい素敵な選択肢があるよ」って伝えたい。そんな思いに包まれた2日間だった。
近くにはスキー場もあるし、金沢は食べ物も美味しい。学生寮に宿泊できるオープンキャンパスや、夏休みには中学生を対象に英語でのキャンプも開催されるとのことなので、今度はぜひ家族といっしょに訪れてみようと思っている。



