なお、前回のコラムでは「志望校合格につながる『質問する力/教える力』の育て方」と題し、主体的な学習は志望校合格につながるだけでなく、これからの社会で活躍する基礎力を築くことにも貢献すると紹介した。今回はこうした「主体的な学習」と併せて考えたい、「子どもたちが将来活躍する可能性を広げること」についてお話しいただいた。
感性が閉鎖的な日本の中学生
アルクテラスでは、運営する学習サービス「Clear」の中で5年間、学生同士の教え合いのコミュニケーションを定性的に分析してきた。その結果、日本の学生、特に中学生は他国の学生と比較して自分と異なる価値観や意見に対して抵抗感を感じる傾向にあることがわかってきたという。
日本と海外のユーザーを比較してわかったこと
Clearは日本では月間120万人、タイ、台湾でもそれぞれ50万人と20万人の中高生に利用されている。どの国もメインユーザーは中高生だ。この中高生ユーザー同士のコミュニケーションを分析すると、「意見に対する反応の仕方」について、各国で以下のような特徴が見えてきたそうだ。
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一般的には、あまりストレートに意見を述べないと言われる日本人やタイ人だが、興味深いことに、Clearの中では積極的かつ直接的な意見を多く述べているという。
違いが生まれるのは「意見に対する反応の仕方」。上記の表のとおり日本の中高生はタイや台湾の中高生と比較して、異なる見方や価値観に対して閉鎖的な見方をする傾向があるのだそうだ。
たとえば、Clearには運営事務局に意見を伝える機能があるが、その中で「ほかのユーザーから厳しすぎる意見を受け取った」という報告を受けることがあり、「厳しすぎる意見」がどのようなものであるかを調べてみると、実はそれほど厳しい指摘ではなく、単に間違いを指摘した内容や別の解を提案する内容であることが多いというのである。
すべての日本人中高生ユーザーが同じような受け止め方をするわけではないが、こうした反応を示す割合がもっとも高いと感じているという。
異なる価値観を尊重する姿勢が必要
日本人ユーザーがこのような閉鎖的な感性をもつ背景を考えたとき、日本が島国であり、長く閉鎖的な社会で過ごしてきたことがあげられるであろう。また学生の交流は、同じ学校内などの同質な人との接触に限定される傾向も強く、自分と異なる価値観や考えに抵抗感をもってしまうとしても、理解できなくはない。
近年では国境を超えた企業統合により企業組織が多国籍化することも増え、また多くの企業は海外に市場を求め事業の国際展開を加速している。同僚や上司・部下が外国人であることはもはや珍しいことではなく、社内外で文化や価値観の異なる他者と信頼関係を構築し、コミュニケーションすることが必要とされているのだ。
「中高生たちが今後踏み出していく社会の形を考えると、いまのうちから異なる価値観に対してオープンで柔軟な感性を身に付けることが必要だろう」と新井氏は言う。それが、活躍の可能性を広げることにもつながるのではないだろうか。
異なる価値観を尊重する姿勢を育むのにはSNSが有効
それではどのようにすれば、社会で求められる「多様な価値観を尊重する」姿勢を、中学生の子どもたちは身に付けることができるのだろうか。
意外なことに、インターネット上のSNSコミュニティーは子どもたちに多様な考え方に対するオープンな感性を育む最適な場なのだという。
たとえばTwitterやインスタグラムには、勉強に関することだけを投稿するような勉強専用アカウントを作成している学生が多くいる。そのようなユーザーと相互フォローすることで学習を応援し合ったり、受験に関する情報交換をしたりすることが可能である。
Clearでも学生同士が学び合いを目的に、日々活発なコミュニケーションを続けている。お互いに勉強を助け合うことを目的とした利他の精神にもとづくコミュニティーなので、意見を伝える場合にも相手を慮った伝え方をするユーザーが多いという。子どもたちが意見の伝え方を学び、また思考の枠を広げるのにふさわしい場であることから、安全な学習コミュニティーとして活用できるのではないかと新井氏は語る。
もちろん、中高生であれば、インターネットやSNS利用にあたって注意すべき、メディアリテラシーを事前に理解しておく必要があるだろう。これを踏まえたうえで、保護者にはClearやほかのSNSで、子どもが興味をもったコミュニティーに参加し、考えていることを投稿したり、ほかの人が投稿したものに積極的に触れたりして、多様な価値観や意見に触れさせてみることを、新井氏は推奨する。
これからの教育の目的は
子どもたちへの教育は、教科を修め志望校に合格することだけではない。学習を通じて物事の見方を深め、思いやりと志を育むことも大切な目的であるといえる。
子どもたちの視野を広げ、オープンで柔軟な感性を育むことは、教育を考えるうえで保護者の大切な役割なのではないだろうか。