男女の学びに違いはあるのか? 別学・共学それぞれの魅力とICT効果的活用

 すららネットとリセマム共催によるセミナー「別学か共学か? それぞれの魅力とICT活用」が2019年8月29日に開催された。

教育ICT 先生
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男女の学びに違いはあるのか? 別学・共学それぞれの魅力とICT効果的活用
  • 男女の学びに違いはあるのか? 別学・共学それぞれの魅力とICT効果的活用
  • 教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏
  • 鴎友学園女子中学高等学校名誉校長の吉野明氏
  • 広尾学園中学校高等学校副校長の金子暁氏
  • すららネットの林俊信氏
  • 別学・共学のメリットやICTを活用し、どのように学校の魅力を高めていくか(パネルディスカッション)
 すららネットとリセマム共催によるセミナー「別学か共学か? それぞれの魅力とICT活用」が2019年8月29日に開催された。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏、鴎友学園女子中学高等学校名誉校長の吉野明氏、広尾学園中学校高等学校副校長の金子暁氏という豪華な講師陣で、大好評を博した本セミナーの模様をダイジェストでお届けする。

おおたとしまさ氏
「性差がない空間だと自分づくりに専念しやすい」



 トップバッターは、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏。男子校や女子校に関する著書も多いおおた氏は「全国の高校の中で男女別学は1割にも満たない。ジェンダー問題にも関心が高まっているなかで、『男女別学は差別的だ』という意見もあるが、共学がマジョリティである現実を前提として、僕としては男女別学という選択肢もあっていいと思っている」とし、その理由を「性差がない空間だと、自分づくりに専念しやすいからだ」と述べた。

 さらに、別学否定派が主張する「学校は社会の縮図であるべき」という意見は危うさをはらんでいるといい、「“理想”の社会の縮図であればいいが、“現実”の社会の縮図だと、賃金格差や男らしさ、女らしさといった暗示的な圧力がそのまま学校にも反映されてしまう。共学にしたからといって男女平等になるなら、とっくにそういう世の中になっているはず。ジェンダーの問題は、男女一緒に仲良くしようという柔らかい話ではなく、人権問題として取り組むべきだ」と主張した。

 おおた氏は「男女別学では、そうした暗示的な同調圧力やバイアスを押し付けられない分、ジェンダーギャップを乗り越えやすい」といい、たとえば女子校では、理系進学者が相対的に多くなることを例にあげた。一方、10代の男子は生物学的に女子より発達が1~2年遅れるといわれており、「『同い年のお姉さんばかりに囲まれている』という発達上の遅れから守るという観点で、男子校にも重要な役割がある」と指摘した。

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏
教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏

鴎友学園名誉校長 吉野明氏
「女子に多い内省型。心の内側に寄り添い、自己肯定感を育む」



 次に登壇したのは、女子の特性を活かす教育で知られる鴎友学園名誉校長の吉野明氏。吉野氏は、「男子は発散型」「女子は内省型」と表現し、女子ならではの問題点として「親の期待に応えようとする」「自分の本当の感情を内に秘めてしまう」傾向が強いことをあげた。

 吉野氏は、「女子はコミュニケーション能力が高いといわれるが、心の内にある辛さや痛みを我慢し、自分は“いい子”に見られたい『いいね』症候群に陥っている子が多い。親が喜ぶから、周囲が褒めてくれるからやる。それは、自分がやりたいんじゃなくてやらされているということ。休まず学校に行き、静かに座って真面目に授業を聞いているからといって、その『“いい子”たち=問題なし』と安易に捉えてはいけない」といい、共学では喧嘩や暴力など、表に出やすいトラブルを起こす男子にばかり目を向けず、一見“いい子”に見える女子の内面にも向き合うべきだと述べた。

 また、女子の特徴として「周囲の期待どおりの自分にならなければいけないと思うあまり、自尊感情が低くなりがち」だとし、鴎友学園での取組みを紹介した。

 そのひとつが、“3日に1回の席替え”だ。女子は小グループをつくり、秘密を共有したがるという特性を逆手に取り、3日に1回の席替えでグループを分散させ、声をかけ合える仲間を大幅に増やした。「ずっと同じ席にいると、ずっと声をかけてもらえない子がいる。でも3日に1回席が替わると、声をかけてくれる友達が必ず現れる。これはその子にとって自己肯定感の大きな第一歩になる」(吉野氏)

 また、専門の心理トレーナーが付いた、本格的な“アサーショントレーニング”も導入。アサーショントレーニングとは、感情的に相手に自分の意見を押し付けたり、逆に相手から無理に抑え込まれたりせず、多様な価値観を互いに受け入れながら、自分の気持ちや考えをきちんと言葉で表現できることを目指す訓練だ。充実した研修で評価の高い同校のグローバル教育についても、「異質な者同士のコミュニケーションを広げていった先にグローバル教育を位置付けている」と吉野氏は述べた。

 さらに女子は、数理的抽象化能力が男子より遅れて発達することにも注目し、理科教育を実物に触れられる生物から始め、徐々に抽象度を上げていく独自のカリキュラムで、同校では「理科が好き」「物理が得意」と自認する生徒が多いのだという。

 コンピューターの使用についても、女子だからと遠慮することはないという。鴎友の高校では、BYOD(Bring your own device)、つまり生徒がスマホでも、タブレットでも、PCでも、自分の好きな機器を持参している。「コンピューターを文房具として使うことによって、中学のときに培ったコミュニケーション能力に広がりをもたせることができる」と吉野氏。

 自分の機器を大切に扱う、わからないことは生徒同士で教え合う、学校、先生に頼らない。先生も、これまでの授業がコンピューターによってより良いものになるなら使えば良い、使い方がわからなければ生徒に聞けば良いというスタンスで使っている。

 「多様な生徒のひとりひとりを信頼して任せると、生徒は自分たちで使い方を考え、問題が起こったらその場で話し合って解決している」と説明した。

鴎友学園女子中学高等学校名誉校長の吉野明氏
鴎友学園女子中学高等学校名誉校長の吉野明氏

広尾学園副校長 金子暁氏
「ICTは先生と生徒が対等になり、学びが世界へ広がる“武器”」



 続いての登壇は、広尾学園中学校高等学校副校長の金子暁氏だ。前身の順心女子学園が廃校の危機に陥り、12年前に共学化してゼロから立ち上げた広尾学園。ICTの活用や産業・学術との連携、グローバル教育など、その注目度の高まりは今や飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

 同校の最大の強みは、本科、医進・サイエンス、インターナショナルの3つのコースに分かれ、さらに中学から高校に進学する際にコース変更ができるという“多様性”だと、金子氏は強調する。「2018年には海外大の合格者数が日本一となったが、2019年は医学部進学者数が大きく伸びた。生徒ひとりひとりが自由に個性を伸ばして成長しているから、我々もまったく予想がつかない。この連続しない成長の仕方こそが本校らしさだ」という。

 また、生徒全員がもつICT機器について金子氏は、「学びの武器」と表現し、「日本の学校の歴史上、生徒が初めて手にする『学びの武器』。これまでは先生が圧倒的な量の知識をもって生徒に教えるという固定化された秩序があったが、この『学びの武器』を手にすることで、生徒と先生が対等になる。そして学びの世界は教室だけにとどまらず、学校を超え、社会へ、世界へと広がっていく。不可能だと思われていることも実現するようになる」と語った。

 広尾学園には、大学からも注目されるような最先端でユニークな研究を行ったり、企業や専門家と協業し、実社会にインパクトを与える活動に取り組んだりする生徒がたくさんいる。金子氏は、「学校生活は授業と部活だけで完結するものではなく、学校の外とつながることで、さまざまな可能性が広がってきている。ICTはそんな忙しい生徒たちが時間や作業を効率化する最強のツールだ」と述べた。

 また金子氏は、先生と生徒の関係だけでなく、“中高は大学の、大学は企業の下部組織”という序列の構造も変化してきているとし、「テクノロジーの発展で高度な教育活動が実現し、皆が“対等”な立場に立ってできることが増えた。生徒の活動が直接社会への影響力をもつようになった今こそ、行政の決定や企業の要望にただ従うのではなく、公立でも私立でも、教育には自分たちの“軸”をもつべき。学校教育の自律性が必要な時代だ」と語り、ICTを生かした多様な学びが、生徒ひとりひとりの自由と可能性を広げていくと強調した。

広尾学園中学校高等学校副校長の金子暁氏
広尾学園中学校高等学校副校長の金子暁氏

すららネット 林俊信氏
「データから見えた“男子はチーム、女子はスモールステップ”が効果的」



 最後の登壇者は、すららネットの学校チームマネージャーの林俊信氏。すららネットは日本全国に6.8万人の会員を擁し、あらゆる学習データを蓄積している。林氏はこれらのデータを元に男女の違いに注目し、「学習の課題に対しては、女子のほうがやらなければいけないという意識が強いが、先送りする傾向もある。一方で、男子は諦めやすい反面、チームで競い合うと効果的であることがわかった」と述べた。男子は学校で、みんなで勉強する時間をつくり、女子はこまめに宿題として課題を出していくことで、効果的な学習につながる可能性が高いという

 林氏は、こうした男女の差を生かしつつ、「男女ともに個々の状況に応じた学習、アダプティブラーニングは有効。わかっているところを繰り返しやる宿題は意味がない。個々の結果を見てできないところを把握し、しっかり復習するという効率的な勉強法が実現できる」と提言した。

すららネットの林俊信氏
すららネットの林俊信氏

成長の秘訣は
「勘違いでもいいから、自分たちの学校はカッコイイと思わせること」



 引き続き、別学・共学のメリットやICTを活用し、どのように学校の魅力を高めていくかについて、おおた氏・吉野氏・金子氏の3氏によるパネルディスカッションが行われた。

 まず冒頭には、そもそも「学校改革には何が重要か」という問いを投げかけた。

 廃校の危機から共学化で大躍進を遂げた広尾学園の金子氏は、「前身の女子校を廃校寸前に追い込んだのは“教員の都合”で動いていたことが原因」と振り返り、「だからこそ広尾学園では、生徒たちの未来にとって何が大切かを最優先に考えている」と強調した。

 吉野氏は「鴎友学園もかつては偏差値30台で、生徒、教員共にやる気を失いかけていた時期があった」といい、「改革へ反対する教員をどう説得したのか」という質問に、「反対の声が上がるのは組織として健全な証拠。大事なのは、教員の利害で動くのではなく、学校の理念を体現するためにはどうすればいいかを一緒に考えること。ぶつかり合うことがあっても、理念を共有し、生徒に対して最良のものを一緒につくっていけば、納得して改革に参加してもらえる」と答えた。

 これを受けて、全国で多くの学校を取材してきたおおた氏は「その学校の理念や建学の精神の下、世の中の複雑な変化に対して、先生ひとりひとりがそれぞれの判断でどれだけ自由に動けるかも大事。そこで先生の意志や取組みを統制してしまう学校は機能しなくなる」と指摘した。

 また、「学校を変革していくうえで、生徒たちのマインドセットをどう変えるか」という問いに対して金子氏は、「“勘違い”でもいいから自分たちの学校はカッコイイんだと思ってもらうことが重要だ」といい、吉野氏も、「些細だと思えることでも、自校の魅力を一つずつ言葉にし、データ化・ビジュアル化して見せることは、対外的な広報だけでなく、生徒たちにとっての自信にもなる」と述べた。おおた氏も、「学校取材に行くと、皆さん『うちは特別なことはしていません』とおっしゃる。でも話を聞いていると、面白い取組みが次々と出てくる。だからイイところが見つかれば“言ったもん勝ち”。自信をもって堂々と発信すればいい」と語った。

 女子校事情に詳しい吉野氏は、「女子校は伝統校が多いせいか、外に発信していく力が弱い印象がある。共学校の人気が高まっているのは、発信力の差も要因だと思う」といい、女子校の発信力が試されているのではないかと指摘した。

多様な個性の中から見落とされるところに
アダプティブラーニングの役割がある



 今回のテーマであるICTの活用も学校改革の一部だ。先進事例校の筆頭というべき広尾学園の金子氏は、「ICTという“武器”によって生徒が社会と繋がると、生徒は学年、学校の枠を超えて多方面に羽ばたいて行く。だからこそ我々大人は、中高生では無理だろうとか、こうあるべきだという先入観を押し付けてはいけない。教員がすべてわかっていなくてはいけないと思う必要もない」といい、「ICTは学校を、教員や生徒、学年といった枠を超えた学び合いが当たり前という空気に変える」と語った。

 ただし、ICT活用やアダプティブラーニングの導入については、吉野氏が「学校側が一方的に枠組みを決め、安易に生徒をそこに当てはめようとするとうまくいかない」といい、あくまでも生徒自身が使ってみて、それがうまく機能するかどうかは生徒が決めるべきだというスタンスを強調。これには金子氏、おおた氏も深く頷いた。三氏は異口同音に「時代の激しい変化に煽られるあまり、これまでやってきた教育を全否定して新しいものに飛びつくのは思考停止だ」といい、「自分たちの“当たり前”にも優れた学びはないかを改めて見直しつつ、どんな世の中になっても生き抜けるよう、自ら選び、試行錯誤し、つくりあげていく力を養うことが重要」との意見で一致した。

 「男女による学び方の違いも学校改革に生かせるか」という点については、別学と共学両方の経験がある金子氏が、「男子だから、女子だからというバイアスはむしろ教員側の誤った思い込みであったりするが、生徒たちはどんな場面でも、性差関係なく最善を尽くす選択をしているだけだ」と指摘した。一方、吉野氏は、「女子は失敗を避け、ひとつひとつ答えを確かめないと前に進めない傾向がある」といい、「そうした思考の枠から解放され、安心して試行錯誤や失敗、挑戦ができる安全な場所が必要だ」と述べた。

 さらにおおた氏は、「学びの違いは男女差というより個人差のほうが大きいと思うが、男女を集団で捉えると、ベン図のように、重なる部分は大きいが完全にはマッチしない。つまり共学の場合は、両方の性のばらつきが含まれ、個性の幅が広くなる分、すべての生徒を把握しようとすると、男女別学に比べて見落としてしまう部分が多いのではないか」と述べ、その見落としをアダプティブラーニングが埋めることができるのでは、と提言した。

 共学はもちろん、別学であっても、金子氏の指摘のように、男らしさ・女らしさという大人の勝手なバイアスはもはや通用しない。吉野氏がいう、リミッターを外せる“安全な場所”が広がれば、今後はそうしたジェンダーバイアスを超えていきやすくもなるだろう。「ひとりひとりがその個性を引き立たせる」という文脈で、時代はジェンダーフリーだ。ICT教育は、そうした多様な個性の中から拾いきれないところを、個別最適化のテクノロジーで補完していく方向に向かっていくのではないだろうか

別学・共学のメリットやICTを活用し、どのように学校の魅力を高めていくか(パネルディスカッション)
 長時間にわたるセミナーであったが、会場は最後まで熱気に包まれた。

 広尾学園にも鴎友学園にも、新しい時代だから新しいことをやらなければ、という気負いはない。ICTは武器であり、道具でしかない。両校共にもっと本質の部分で、自分たちがもつリソースを一つずつ丁寧に洗い出しながら、自分たちは何者なのか、自分たちは何を目指すのかと内省を繰り返している。世の中の当たり前を疑い、自分たちの理念を信じ、生徒の未来を思う。それだけで学校は十分に成長できることが示された、素晴らしいセミナーだった。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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