めざす教育の実現へ…すららを活用した自己調整学習とアクティブラーニング

 2020年11月22日「未来の先生フォーラム2020」内で、すららネットのオンラインセミナー「EdTechが誘う自己調整学習とアクティブラーニングの世界」のようすをレポートする。

教育イベント 先生
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すららネット「EdTechが誘う自己調整学習とアクティブラーニングの世界」
  • すららネット「EdTechが誘う自己調整学習とアクティブラーニングの世界」
  • レクチャーで理解、ドリルで定着、テストで活用
  • 実践力・思考力を養う「すららアクティブラーニング」
  • イベントは4か月の長丁場
  • プレゼンのようす
  • 新たな教育づくり「YAMAMOTOみらいプロジェクト」
  • 「すらら」でGTZの向上を目指す
  • スプレッドシートを利用したポートフォリオの見本
 2020年11月22日「未来の先生フォーラム2020」において、すららネットのオンラインセミナー「EdTechが誘う自己調整学習とアクティブラーニングの世界」が開催された。登壇者は、すららネット マーケティンググループの久保田航氏と企画開発グループの坪田未歩氏、山本学園高等学校 進路指導部長の高橋亮先生、札幌新陽高等学校 探究コースの伊原克哉先生の4名が務めた。

 セミナーは久保田氏による講演から始まった。すららネットの企業理念は「教育に変革を 子どもたちに生きる力を」。誰ひとり取り残されない教育の実現に向けて活動し、学習サービス「すらら」「すららドリル」によって生徒個別に最適な学習内容を提供することで子どもたちが主体的に考えられる学びを実現する一方、教員の負荷の軽減にも貢献している。

レクチャーで理解、ドリルで定着、テストで活用「すらら」の構造

 「すらら」は、レクチャー、ドリル、テスト、教員管理画面で構成されている。アニメーションによる「レクチャー」はわかりやすくてインタラクティブ。単に授業が流れるだけではなく、学習者が回答しながら進める仕組みだ。「ドリル」は学習者の解答に合わせて難易度が調整され、何が苦手かを自動的に分析してくれる。「テスト」は単元を選ぶと自動的に作成され、終了後にはすぐに採点、生徒も画面で結果を確認することができる。学習から得られた履歴は、教員管理画面で一括管理されて学習サポートに結び付けることが可能だ。

 基礎学力の獲得と、それを実践するための自己管理能力や集中力、レジリエンスなどを鍛えることができ、学力が高くない、学習習慣のない生徒もカバーできる。今まで過度に費やしてきた時間から、教員が考え、新たな教育の実践につなげる時間の創出もできる。久保田氏は「ICTは便利なものだが、導入しただけで現場の課題が解決するかというとそうではない」と話す。すららネットでは、まず学校が何を実現したいのかを一緒に考え、それを実現するためにどうすれば良いか、一歩ずつ変えていく支援から解決をめざしているという。

ICT×アクティブラーニング=最先端の「生きた学び」



 続いて坪田氏から、すららネットが主催する、新たな時代に必要なスキルを磨くアクティブラーニングのイベント事例が紹介された。「すららアクティブラーニング」は、すららで学んだ教科の基礎学習をベースに21世紀型スキルを身に付けることを目的に2015年から毎年開催されているプログラムだ。参加対象は、小学5年生から高校生まで。今まで、小学校における新しい科目の提案、地域活性化、平和の問題、政治参加の促進など、さまざまな社会問題をテーマに開催されてきた。

 実施期間は約4か月。プログラム最初の1か月は専用SNSを使ってテーマに関する質問に答えていく。その後、オンラインでのグループワークやレポート作成などのアクティビティを経て、最後は8月にプレゼンテーションを行う。

イベントは4か月の長丁場4か月のプログラムを経て、最終のプレゼンテーションへ

 セミナーでは、2019年に優勝した長崎県の中学生3名が作ったプレゼンテーションの動画が紹介された。テーマは「クローズアップ長崎-科学技術で地域を活性化するには-」。長崎市の小中高生100名にアンケートを実施し、地元商店街の組合理事長への取材から、AIやGPSによる配達サービスや買い物アプリ、VRによる食育活動を提案した。発表の仕方も非常にユニークで、ドキュメンタリー番組を模したプレゼンが展開された。

 坪田氏によると「すららアクティブラーニングのポイントは、ICTツールがあるからこそ実現できるダイナミックでアクティブな学びから、短期間で子どもたちが成長できる」ことだという。同プログラムでは、学年も地域も横断した参加者同士のディスカッションが行われる。また、答えのない社会問題に意見を出すことを求めるので、思考力や社会課題への関心も高まり、自分たちで活動計画を設計するため自己調整力やメタ認知が鍛えられる。さらに、ICTを議論や発信する手段とするためネットリテラシーを磨く機会にもなっている。

 「すららアクティブラーニング」は2021年度も開催、来年3月に申込みを開始する予定だ。

プレゼンのようす「すららアクティブラーニング」プレゼンテーションのようす

山本学園高等学校の事例:地域の私立学校におけるEdTechを活用した学校改革



 セミナー後半は、すららネットのサービスを活用している学校からの導入事例紹介。まず山本学園高等学校・進路指導部長の高橋亮先生が登壇した。山形県山形市にある山本学園高等学校は「地域を支える人間を育てる」を学園ポリシーとして、先進的教育を創るプロジェクト「YAMAMOTOみらいプロジェクト」によりICT教育を推進している。

 少子化と超高齢化という県全域の課題に対し、自分の強みを生かして向き合ってほしい、そしてすべての生徒にIT技術の基本を身に付けてほしいという思いから、2019年度よりChromebookを1人1台導入し、問題解決型の探究授業を今年から始動した。

 2020年度からは問題解決型の教育を軸にするため、学校の経費でデバイスを購入し、生徒に貸与している。コロナ禍、ホームルームや情報共有などの学校生活面では「Google Classroom」を使い、学び直しや基礎力の向上に関しては、2018年から採用している「すらら」を最大限活用し、教育を担保しているという。

 一方で、教員が毎日使わないものは、生徒も使わなくなるという危機感から、教務や校務のシステムも最新のものを積極的に導入している。英語の授業にもICTを活用すべく、その活用のノウハウを参考にするために教員自身もオンライン英会話を受講しているという。

「すらら」でGTZの向上を目指すサービス導入の際には効果測定も大切

 高橋先生は「ICTを導入する目的を明確にすることが、ICT教育を進めるための真の肝となる」と強調した。そしてビジョンを共有する仲間をいかに広げていくかを大切にしていると話した。「どういう教育をしていきたいのか、どういう課題を抱えているのかは学校ごとに違います。自分たちの学校が、なぜこの地域になければいけないのかという学校の存立意義に常に応えていくことも必要です。そうした議論から、私たちの学校では基礎学力の向上に重きを置き、導入サービスの検討、採用を行っています」と、導入の背景を語った。なお、サービス導入に際しては効果測定も必要であるとし、「たとえばすららの利用による効果測定は、GTZ(ベネッセによる学習到達ゾーンという学習指標)で最下層のDゾーンをいかにクリアしてCゾーンへもっていくかを見ている」と紹介した。

 高橋先生は「めざす教育を実現していくツールがICT。何をしたいのかが大事で、あとは肩に力を入れずに使えば良いのです。一度使い始めてしまえばどんどん使えるようになって、変化は急に起こります。お悩みの先生がいたら突き進んでいただければと思います」と力強いメッセージを残した。

札幌新陽高校の事例:EdTechを利用した自己調整学習



 最後に、札幌新陽高等学校・探究コース教員の伊原克哉先生から、同校がめざす教育とEdTechを利用した自己調整学習の事例が紹介された。同校は「日本一に本気で挑戦する人の母校」をテーマとし、校訓は「自主創造、この道は自ら開くべし」。

 同校では現在、全生徒にChromebookもしくはiPadを配布し、学校にはWi-Fiを整備。コロナ禍の現在は、必須登校日と選択登校日を設定して授業を行っており、選択登校日に自宅にWi-Fiがなく学習できない生徒もいるので、そうした生徒に対してはセルラー(LTE)を利用してもらいながら学びを継続しているという。

 探求コースは「日本一に本気で挑戦する人の母校」を実現するために「生きたいように生きる力を持った卒業生が、生き生きと生きている人であふれる社会を実現させる」をビジョンに掲げている。自分で課題を見つけて他者と協働しながら答えを探すために、新たな挑戦を繰り返す力を教育効果として狙う。教室から世界を変えることをビジョンとして掲げ、挑戦と出会いの機会のためにさまざまな企業や大学と連携していることも特徴だ。

札幌新陽高校、探求コースのアドミッションポリシーと教育目標学校それぞれのビジョンやテーマに則したICTサービスの導入が鍵

 必修授業は、共通の課題に対してさまざまな教科で取り組む課題達成型学習(PBL、Project Based Learning)。たとえば「睡眠時間がもっとも短い」という日本特有の問題を取り上げ、現状を生徒たちが調査し、睡眠時間が短くなる原因についてディスカッション。課題解決のためにNTT西日本オープンイノベーション推進室の協力を得て、さまざまな教科から「睡眠」に対してアプローチした。伊原先生の担当である数学では「データの整理」に関する学びを担った。こうした学習を通じて、生徒はただ教科書にある問題を解くのではなく、自分たちの身近なものから課題を見つける力を付けているという。

 選択授業は2週間に1度、教科担任から説明された授業内容を参考に、自分の課題や学びたい内容に合うものを選ぶ。教科の授業を選ばない生徒は「自己調整学習」を行っても良いとしている。

 自己調整学習の例として、使用している「自己調整学習シート」が紹介された。就職後に起業することを将来のビジョンとしている生徒は、課題を設定して自分自身で学んだことを言語化して整理。メンタルケア事業の立ち上げに興味があり、関連したことを調べていることもわかる。最後には課題達成への振返りがある。

 成績はフィードバックシートを利用。成績を5段階の数字だけでみせるのではなく、各教科担任からの評価や、もっと良くするためにはどのような活動をしたら良いかを、自己評価も交えながら学期ごとに振り返る。また、15%がすららのシステムにより自動評価される。

 探求コースでは、基礎学習力の定着だけでなく、やりきる力や自己学習力の育成もめざしている。すららはそういった従来測りにくいとされてきた力の評価にも活用できる。伊原先生が配信した教材の取組みの進捗をもって、生徒がどれだけ学習を積み重ねたかを達成度として測る。また自分の取組みが他者に対して影響することを理解するためにもすららを活用。2020年10月からはチームでの学びを強化し、3人1組のチームで、達成度の平均を抽出して競わせている。4月の段階では平均学習時間がたった10分だった生徒が、すららだけで50分の学習をするようになったという。

 伊原先生は、他校に出向いてICT活用を教えたり、同校ですららを一緒に使いながら教えるセミナーを開催予定としている。「道内や全国にICT教育を広める活動を展開していく予定なので、同校のWebサイトから問い合わせをしてほしい」と締めくくった。



 4名の登壇者の話を聞く中で感じたのは「何を目的にICTを使うのか」という視点の大切さ。新規制や先進性にとらわれることなく、教育における学校ごとのビジョンやテーマを具現化するためのツールとしてすららを採用しているのが印象的だった。「子どもたちが自律的に学ぶ力を高める」という、すららならでは特徴が学校での教育との相乗効果を発揮し、さらに課題発見・問題解決に対する学習時間が効果的に生み出されていた。それぞれの取組みに今後も注目したい。
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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