今注目の学びを知る、文科省IB教育推進コンソーシアム地域セミナー

 文部科学省IB教育推進コンソーシアムは2021年1月24日、オンラインにて「地域セミナーin北関東」を開催した。2020年度のセミナーは、あと2回オンラインで開催される。IB教育に関心のある方は、誰でも参加することができる。

教育・受験 保護者
DP卒業生を求めている海外大学
  • DP卒業生を求めている海外大学
  • IB教育の特徴
  • 国際バカロレア(IB)の教育プログラム
  • 学習指導要領とIB教育の親和性
  • 全国のIB認定校
  • IB認定校までの申請手続きの流れ
 世界共通の大学入学資格である国際バカロレア(IB)に注目が集まっている。日本でもIB教育を受けることができる場が増えている。

 文部科学省IB教育推進コンソーシアムは、IB教育を伝えるためのセミナーを日本全国で開催している。本記事では2021年1月24日に開催した「地域セミナーin北関東」のようすをお伝えする。なお、2020年度のセミナーは、あと2回オンラインで開催される。IB教育に関心のある方であれば、誰でも参加することができる。

今注目のIB教育を知るオンラインセミナー



 今回の「文部科学省IB教育推進コンソーシアム地域セミナーin北関東」は当初群馬県太田市で開催予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止対策としてオンラインでの開催に変更された。IB教育に興味のある保護者、教育関係者などが視聴した。

 本セミナーは、IB教育推進コンソーシアムについてのセッション、導入実践校によるパネルディスカッション、国際バカロレア機構による導入説明会の3部構成で行われた。

そもそも「国際バカロレア(IB)」とは



 IB教育推進コンソーシアムによる「国際バカロレアの推進について」のセッションでは、文部科学省IB教育推進コンソーシアム事務局長・小澤大心氏が登壇した。文部科学省は2018年にIB教育推進コンソーシアムを設立し、セミナー開催による情報発信など、IB教育の推進に向けてさまざまな取り組みを行っている。

 IBとは、インターナショナルバカロレアの略。スイスに本部がある「国際バカロレア機構」が提供する国際的な教育プログラムで、2020年6月時点で世界158以上の国や地域、約5000校で実施されている

 IB校での教育は、課題論文、クリティカルシンキング(批判的思考の探求)などの双方向、協働型授業などが特徴である。

国際バカロレア(IB)の教育プログラム

 幼稚園、小学校レベルのPYP(プライマリー・イヤーズ・プログラム)、中学校レベルのMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)、高校レベルのDP(ディプロマ・プログラム)、CP(キャリア関連プログラム)と対象別のプログラムで構成される。DPは国際的に通用する大学入学資格(IB資格)の取得が可能。現在文部科学省は一部日本語での対応可能なDPの開発、普及を進めており、国内の大学入試においてもIBスコアの活用を推進している。

 IBの目指す理念や教育カリキュラムは、日本の新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」とも親和性があるとして、政府は現在161校あるIB認定校を、2022年までに200校以上とする目標を掲げている。

学習指導要領とIB教育の親和性

認定校が語る「国際バカロレア」



 「IB教育導入サポーターによるパネルディスカッション」では、すでにIBを導入している学校や教育委員会から6人が登壇し、IBを実践するなかで見えてきた課題や変化などを共有した。

 登壇したパネリストは以下の6名。

・小澤大心氏(文部科学省IB教育推進コンソーシアム・事務局長)
・小松万姫氏(東京学芸大学附属国際中等教育学校・DPコーディネーター)
・高松森一郎氏(ぐんま国際アカデミー中高等部・MYPコーディネーター)
・田村香江氏(香美市教育委員会・指導主任)
・富岡真理子氏(滋賀県立虎姫高等学校・DPコーディネーター)
・原田卓氏(静岡サレジオ小学校・PYPコーディネーター)

 ディスカッションでは、IB教育推進コンソーシアム・小澤氏からパネリストに対して、2つの質問が投げかけられた。

各校の課題に則してIB教育を導入



 まず1つ目の「IB導入の目的や理由、直面した課題や困難な部分について」の質問に対して、東京学芸大学附属国際中等教育学校・小松氏は「国際的な学校の環境にふさわしいカリキュラムを求めて、MYPに行き着きつきました」と話した。

 次に、教員の半数が外国籍であるぐんま国際アカデミー・高松氏は「IB教育は、さまざまな教育のバックグラウンドを持つ教職員や生徒・保護者を乗せて、同じ方向に向かう船のようなもの」とコメントした。「IB教育を推進していくためには、表面的にIB用語を並べたりするだけではなく、IBの本質や目的、MYPの目的を深く理解して、文化や環境を醸成していくことが大切だと思っています」(高松氏)

 「IB導入に際して心配されるのが教員養成です」と教職員異動のある公立校ならではの課題を述べたのは、香美市教育委員会・田村氏だ。しかしその課題に対しても、IB導入に際しては大きな方向性が示されていて、それらが教職員間でも認知されているのでベクトルが合わせやすく、現状問題は生じていないという好例を示した。学校の組織体制を見直すとともに、週時程の中に研修を組み込むなどの充実した研修体制により、日々の悩みを随時共有し、改善できていることも紹介された。

全国のIB認定校

 滋賀県立虎姫高等学校のIB導入事例は、全国の過疎地域の学校改革において参考になるものだろう。学校の所在地である長浜市や近隣の市は過疎地で少子化が進み、全県一区となったことで、県南の学校に人気が偏る傾向にあったと富岡氏は語る。IB教育を取り入れたいと考えていた県としての思惑と、学校の魅力化を進めたい虎姫高校の方針とが一致し、導入が決まったという。

 カトリックミッションスクールである静岡サレジオ小学校は、創立者の理念とIBの理念が合致し、幼稚園からPYPを導入している。IB教育が、文科省の新指導要領との親和性が高いことも導入の後押しになったと原田先生は話す。

子どもたち・教員が成長…IB教育導入の成果



 IB教育推進コンソーシアム・小澤氏からの2つ目の質問は「生徒の学びや、教員の取り組みはどう変わったか」というもの。

 「生徒が自分の学びをメタ認知できるようになりました」と分析するのは、東京学芸大学附属国際中等教育学校・小松氏だ。小松氏は「IBでは、生徒は学習で忙しい日々のなかでも、奉仕や課外活動などを行い、振り返りの記録を残します。そのため自然に自分の生活に取り入れるように心がけている生徒の姿を、教員はよりはっきりと把握できるようになりました。その結果、私個人としても生徒の人間的に尊敬できる一面を目の当たりにする機会が増えました」と話す。教員に関しても「IBでは、教員が納得して授業作りをし、教科を超えて全学的に協力していくことが求められるので、協働的な授業作りとは何かを常に考えています」という。研究グループを作ったり、ワークショップを企画したりするなど教員同士の活動も活性化したそうだ。

 ぐんま国際アカデミー・高松氏は「中等部生が自主的にMYP説明会を開催するなど、大きな変化が感じられました。多様な評価形態から、生徒の評価への期待感が醸成されているように思います。タイムマネジメント、メンタルの管理意識も芽生えてきています」と述べた。また「他のIB導入校や海外の教員とも繋がることができ、教育を語り合えるプラットフォームができたことが大きな変化」とし、世界規模の教育プログラムだからこそのネットワークが活用できている事例を紹介した。

 「基礎学力の定着がIB教育の課題ではないかと言われているが、テスト結果の分析から、その懸念はない」と話すのは、香美市教育委員会・田村氏。子どもたちの意識に関する調査でも、自主性や友達との関わりにおいて子どもたちの意識が向上していると述べた。

IB教育の特徴

 滋賀県立虎姫高等学校・富岡氏は「2020年9月、IBスタートに向けた2学期のはじめは、控えめだったDP1期生7名が、同年11月の新聞社の取材時には時間をオーバーするほど記者の方との会話が盛り上がった」というエピソードや「同月に滋賀県副知事が英語の授業に訪問した際には、感銘を受けた副知事に対し、授業後の懇親会も英語で会話を繰り広げた」など、具体的な事例を紹介した。また、DPの授業を教員全員が見学するという校内研修を実施しており、そのため教科の枠を超えて、教員間の対話が増えてきていると述べた。

 附属の幼稚園をもつ静岡サレジオ小学校・原田氏は「PYPを始めたことにより、園児が「なぜ?」 「どうして?」と考えながら、意味を持って取り組み、より深く落とし込めるようになった」と語る。プレイベースドの方針により、教員から言語や数を指導することはないが、かえって子どもたちからそうした学習の基礎を知りたいという自発的な学びの姿勢が感じられるようになったそうだ。また、IBの特徴である「教員の協働による授業設計」は導入当初は苦戦したが、今では“チョークアンドトーク”、いわゆる一斉授業からの脱却をめざして教員が楽しんで行えるようになってきており、とりわけ「教員が子どもたちや授業の変化について話すことが以前に比べて格段に多くなったことが最も大きな変化」だと嬉しそうに語った。

世界で求められるDP卒業生



 アフターセッションでは、国際バカロレア機構・IBAP日本担当地域開発マネージャーである星野あゆみ氏が登壇し、導入を検討している学校や自治体に向けてのIB教育導入説明会を実施した。

IB認定校までの申請手続きの流れ

 IBの成り立ちや理念、世界でIBがどのように評価されているのかなど、大学進学にフォーカスした話題もあり、IB教育に関心のある保護者としても非常に参考になる内容だった。日本ではまだ認知度の高くないIB教育だが、世界では大学入試のための重要な資格試験として認知されている。

DP卒業生を求めている海外大学

 国際的な教育を求める子どもや保護者、そして学校関係者にとっても、IB教育は非常に魅力的な選択肢と言えるだろう。

 冒頭でも紹介した通り「文部科学省IB教育推進コンソーシアム地域セミナー」は、当初地域ごとに現地での開催を予定していたが、2020年度の残り2回はオンライン開催となる。そのため、全国からの参加が可能だ。セミナーの最後には、参加者からパネリストにチャットを通じて個別相談ができる。文部科学省が推進するIB教育の動向に、引き続き注目したい。
《神谷玲衣》

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top