ハーバード式ケースメソッド&全寮制で世界標準のIB教育を…2022年開校・国際高等学校の挑戦

 日本国内において世界標準の国際バカロレア教育を受けることのできる全寮制高校が、2022年、愛知県日進市に開校する。開設準備中で、2022年9月に入学受け入れを開始する「国際高等学校(NUCB International College)」の教育に迫る。

教育・受験 中学生
国際高等学校含む名古屋商科大学キャンパスの全景
  • 国際高等学校含む名古屋商科大学キャンパスの全景
  • 2021年7月に開催されたサマースクールのようす
  • 2021年7月に開催されたサマースクールのようす
  • 2021年7月に開催されたサマースクールのようす
  • 2021年7月に開催されたサマースクールのようす
  • 地学の授業で採用するケース「The Sleeping Dragon」
  • インタビューに応じてくれた国際高等学校・理事長の栗本博行氏

 2022年、愛知県日進市に世界標準の国際教育を展開する全寮制の「国際高等学校(NUCB International College)」(2021年9月16日現在、開設準備中。以下、国際高校)が開校する。同校は、名古屋商科大学(NUCB)や名古屋商科大学大学院(NUCBビジネススクール)、名古屋国際中学・高等学校を運営する栗本学園が母体。教育におけるネットワークと実績を活かし、国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)認定校として次世代のリーダー育成を進めていく予定だ。新たな国内ボーディングスクールとして注目を集める国際高等学校の理事長・栗本博行氏に同校の魅力や特徴などを伺った。

県からの期待も・海外の優秀人材を招く教育インフラ

--開校の経緯を教えてください。

 我々の学園ではかねてからボーディングスクール設立の構想があり、準備を重ねていました。50年以上前、学園創立者が世界標準のIB教育や全寮制教育の必要性を感じ、次世代のリーダー教育をしたいと考えたのが始まりですが、当時の日本ではまだ英語のみの教育が認められていなかったのです。

 その後も少子化による公立高校の座席数過剰を背景として、愛知県内での私立高校新設は難しい状況が続きました。しかし平成30年、愛知県が募集する「スタートアップ戦略」に応募したところ、産学連携としても意義深いものとして採用していただくことができました。県が求めていた「海外から優秀な人材を招き入れるための教育インフラ」という社会的要請に、当学園の構想がマッチしたのです。

取材に応じてくれた国際高等学校・理事長の栗本博行氏

世界標準の国際バカロレア教育を英語で展開

--国際高校の概要を教えてください。

 国際高校は各学年75名、全校225名の全寮制の共学校です。授業も共用語もすべて英語です。高校1年は日本の高等学校教育を、2・3年は国際バカロレア(IB)教育で、国際標準の高等学校教育課程を展開します。IBは他の教育課程とは大きく異なり、卒業時に世界共通の試験を受けなければならず、そのスコアに応じて大学から入学許可や奨学金が出される仕組みになっています。

 寮は新築、校舎はかつて短大だった建物を全面リニューアルして建設しています。1階は入口・ロビー・学食、2階は男子フロア、3階は女子フロアで、寮の居室は4人1部屋です。生徒の生活は、平日は午前7時起床、朝食を経て1時間目が8時45分から始まります。授業は1セット90分または45分です。午後4時には学校が終わり、4時半からエンゲージメントプログラム、これはクラブ活動のようなものです。その後は寮に戻って、夕食を経て、スタディタイムが約2時間。野放しの生活にならないよう、翌日の授業の準備のために、自ずと学習できる時間をつくっています。土曜はさまざまなワークショップを用意します。日曜は完全フリーです。

 寮での生活は、寮長のハウスダイレクターのもとで、男子・女子それぞれ2名のハウススーパーバイザーがついてサポートします。さらに8人ほど、ハウスメンターがいます。彼らは全員IB校の卒業生で、年上のお兄さんお姉さんが相談に乗ってくれるといったイメージです。私もボーディングスクール出身なのですが、経験してよかったところを反映しつつ、多様性を大切にしたボーディングスクールを目標にしています。また入学者全員、卒業することを条件にMacBookが無償譲渡されます。

--教育の特徴について教えてください。

 ボーディングスクールにはいくつかのタイプがあります。自国の子供たちにエリート教育を提供するイギリス式、次世代リーダーを育成するスイス式などです。本校ではスイス式を採用します。リーダー教育の手法としては、ハーバード式のケースメソッド教授法を取り入れます。

 ケースメソッド教授法では「ケース」と呼ばれる読み物を使用します。ケースでは、何かを迷っている主人公が出てきて、主人公の決断に寄り添った問いが出されます。それをもとに、あなただったらこの決断に賛成か反対か、主体的に考えて発言し、議論をしてクラスに貢献し、学び合うのです。元々NUCBビジネススクールで活用していたものを大学でも提供し、非常に教育的な効果を感じたことから、国際高校でも使うことにしました。ケースメソッド教授法を実践するにはコツが要りますので、NUCBビジネススクールの教員が国際高校に着任予定の教員をトレーニングしています。国際高校の教員は寮長も含め、全員が修士号または博士号をもっており、国内最高水準、アジアでも希少な水準の教師陣だと自負しています。

リーダーの決断を追体験するケースメソッドを全教科で採用

--ケースメソッドの授業について、詳しく教えてください。

 今社会で必要とされているのは、ある状況で何が足りないのか、どこが問題なのかと気付く課題発見力です。その育成には、たとえ話としてケースの主人公の気持ちを追体験するのが有効です。たとえば、自分がマネジメントしているチームが社内のルールを徹底できず、生産性も落ちている。その中で自分は誰に対してどう働きかけるべきかというのを、ストーリー仕立てのケースを使って、リーダーの立場を追体験するのです。

 ケースメソッドの大きな特徴として、教員は絶対に答えを提供しないという点があります。ケースメソッドにおける教員の役割は、議論をファシリテートすることなので、正解の提供ではなく良い質問をして議論を活性化させなければいけない。良い質問がなければ良い回答は出ないし、問いを立てるときには賛成・反対などの対立軸を設定しないと発言が生まれないのです。問いの答えそのものよりも、それを選んだ理由や背景を説明させることが大切なのです。面白いことに、思考のプロセスや理由は同じなのに、最終的な着地は賛成・反対に分かれることもあるのです。同じ考えなのに、どうしてその判断をしたのか、どこが分岐点だったのかなど、より深い議論ができるのもケースメソッドの良い点です。

ケースメソッドでは教員はファシリテートに徹し、クラスの議論の活性化を促す

 世の中で行われている授業は、大きく3つの分類ができます。教材を教える講義、現物に触れて直接体験する実習。そしてその間にあるのが演習です。講義では現実味を体験しにくいですし、実習の機会を毎回確保するのは難しい。一方で演習では、学習者は現実から作られた教材を通して、主体的に疑似体験することで、学びの対象に迫ることができるのです。本校で取り入れるケースメソッドも演習の1つです。

主人公や周囲の人々の気持ちに寄り添い判断する

--ケースメソッドは全教科で使うのでしょうか。

 全教科でケースメソッドを採用します。たとえば地学では、「The Sleeping Dragon」というケースをつくりました。カリブ海に浮かんでいる小さな島で小さな地震や硫黄の匂いなど火山噴火の兆候があり、イギリス人の地質学者が主人公としてその島に派遣されるというものです。主人公は3パターンの避難計画を考えます。1つは全島避難、2つ目はようすをみる、3つ目は小さな島を南北2つに分けて、火山がある南は立入禁止にして北だけ残す。このとき、あなただったら政府にどのプランを提案するかというケースです。

 安全が確約されるのは全島避難だけど、兆候があるだけではそれを適用する理由にはならないのではないか、どの程度の期間避難すれば良いのか。一方で何もしないという選択もできかねる。学習者はたいていの場合、折衷案の南北に分けるプランを選びます。その理由をそれぞれ聞いていって、議論が終わった後、実は主人公は南北に分ける選択をして、それでも19人が亡くなったという史実を伝える。そして学習者に対して、歴史はこうなったけどもっと良い解決法はあっただろうかと再び問いかけるのです。

地学の授業で採用しているケース「The Sleeping Dragon」

 ケースについて考える際、付随して検討しなければいけないことがたくさん出てきます。今回の例でいうと、地形や過去の地震の状況、地学の教科書にもいろいろと出ているので、そういうものを総合的にインプットしてから授業に臨む必要があります。ケースを使うことで火山に対して、関心がわいてくるのです。そして、最後には必ずこのケースからリーダーとして何を学ぶべきなのかという質問をします。

--なるほど。どんな学問であっても、それを通じてリーダー教育ができるのですね。

 はい。ケースメソッドを行う時は、参加者の多様性が増すほど、議論が豊かになります。主人公だけでなく、住人や政治家などさまざまな立場の人物でストーリーを追体験することで、情操教育にもつながります。

 もう1つ、数学の例も紹介しましょう。舞台は、来週収穫の時期を迎えるブドウ園、そして天気予報は降水率50%。雨さえ来なければ1本100ドルの高級ワインが作れるが、雨を避けて今週中に収穫すると1本10ドルのワインしか作れない。もしくは、収穫せずに雨が降ってしまうと加工すらできず、二束三文のブドウになる。「農園主の主人公は今ブドウを収穫すべきか否か」というケースです。確率論の計算をするとすぐに期待値が出てしまうのですが、まずは「この主人公は何に悩んでいるんだろう」と、計算させる前段階で議論をします。議論することで、自分たちは今何を決めなければならないかイメージしてもらいます。期待値を計算した後も、同じ値であっても各々の判断が収穫する・しないで分かれるのです。数学の計算1つとっても、いくらでも議論ができます。ケースメソッドは科目に関わらず展開できるのです。

--議論をベースにすると、成績評価が難しそうですね。評価はどのようにするのですか。

 基本的に発言内容ですね。新たな視点の提示や、前の発言を踏まえた発言、議論の停滞の整理、1番初めに手を挙げるなどの積極性を評価します。良い発言とは何かということについては教員同士で良く話し合いますね。正解を問うならば100%客観的な評価ができますが、それをしないと決めているので、それよりも参加する姿勢の部分を多くみます。レポートも提出させて評価に加味します。この成績評価のやり方は、ハーバードビジネススクールの成績評価なのです。このスタイルの学習手法は教育の成果がすごく出やすいし、生徒には自分の意見を発言するトレーニングにもなります。

事業承継、起業…次世代リーダーを育てる3年間

--国際高等学校での学びは、どのような志向の学生に適していると思いますか。

 ご父兄が士業や会社経営者などをなさっていて、事業承継を考えているご家庭には、まず適していると思います。新たな事業を興すためアントレプレナー(起業家)の気質を持った後継者を育成する。まずはそういった方々が国内外問わず多く来られると想定しています。

 また、英語で授業を行いますので、英検準1級程度の能力を入学基準としています。海外経験があるとか、インターナショナルスクールで英語教育を受けている、もしくはご両親どちらかがネイティブであるなど、インターナショナルな環境にすでに身を置いている方々が大きな割合を占めると考えています。2021年7月に1週間のサマースクールを参加者40名ほどで実施しましたが、約3割がアルファベットのお名前で、4人に1人が外国籍またはハーフの方でした。参加地域は、6割が関東、2割が関西、1割が中部、残り1割は海外含むその他でした。みんな普通に英語で会話して、十分な語学力をもっていましたよ。

2021年7月に実施したサマースクールのようす

これから成長する国内ボーディングスクール市場

--高校受験を検討するご家庭に向けてメッセージをお願いします。

 海外留学も有望な選択肢ですが、日本でも本校を含めこれからボーディングスクールがどんどん設立されて、選択肢が出てきています。

 ボーディングスクール市場には、かつてのビジネススクール市場と同じ動きがみられます。昔はMBAの取得には海外しか選択肢がなかったのが、この20年間で国内にもビジネススクールが設立され、選択肢が広がりました。ボーディングスクールについても、さまざまなリスクのある海外に行かなくても、日本という地の利を生かし、全寮制教育を受けられる魅力的な学校が数多くできてきています。単なる高校での学びにとどまらず、クラスメイトが家族のような存在になる寮生活が、ボーディングスクールの大きな魅力です。ここで培われたネットワークや人間関係は一生の宝になるはずです。今まで欧米でボーディングスクールがこれだけ受け入れられてきたのは、やはり寮での共同生活を通じた教育の価値が国をたがわず立証されているということです。これは日本におけるリーダー教育にも十分に転用できると思います。

世界へ羽ばたく人材を育てる拠点に

 自然豊かな愛知県日進市に開校する国際高校。日本においても、こうした本格的なボーディングスクールが次々と開校し、選択肢が増えていくのは時代の要請でもあり、社会の新しいうねりであろう。国際高校では国内にいながらにして、ケースメソッドを用いたグローバルな次世代リーダーを育成するIB教育が受けられ、卒業後は日本の高校卒業資格と国際バカロレア資格を取得でき、国内外に進学可能になる。今後国際社会にはばたく次世代のリーダーを育成する拠点として、同校の開校に期待が高まっている。

国際高等学校について詳しくみる
《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

+ 続きを読む

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top