自立した女性を育むために「自分の個性に気づき、生かす力を伸ばす」という教育方針を標榜する日本女子大学は1901年の創立以来、国内外で活躍する卒業生を数多く輩出している。建築デザイン学部は前身となる家政学部住居学科の「利用者や居住者の立場から人々のつながりを考える」を基本に、住居や建築、都市といった住環境をデザインできる専門性の高い人材の育成を目的としている。また第一線で活躍する建築家である東利恵氏、隈研吾氏、妹島和世氏が特別招聘教員に就任する。
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創立120周年記念事業では、同大学卒業生で建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞を受賞し、国際的に活躍する妹島和世氏が、目白キャンパスのグランドデザインを手がけ2021年に完成。キャンパスの中心部に位置する「百二十年館」は、風通りと採光によって宙に浮かぶような開放的空間を実現。図書館は目白通りを挟む形で地域になじみ、行き来する学生の表情もいきいきとしている。
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建築デザイン学部の前身となる住居学科で学び、今、建築業界で活躍する卒業生3名に、伝統と新しさが共存する目白の森のキャンパスで、現在のお仕事や同大学の魅力などについて話を聞いた。
羽島愛奈(はしまあきな)さん:2013年に家政学部住居学科、2015年に修士課程を修了。現在は都市再生機構(UR都市機構)都市再生部に所属
高藤万葉(たかとうまよ)さん:2016年に家政学部住居学科、2018年に修士課程を修了。現在は夫婦で起業した設計事務所TOASt(トースト)にて設計活動に従事
鈴木多珠奈(すずきたみな)さん:2015年に家政学部住居学科、2017年に修士課程を修了。現在は清水建設 設計本部に所属
まちづくり、リノベーション、大規模建築とさまざまなキャリアへ
--現在に至るまでのお仕事の内容を教えてください。
羽島さん:UR都市機構に入社して1か月後から、在学中に研究した宮城県の女川町で東日本大震災の復興支援に2年間、携わりました。女川町は町全域にわたり家屋が津波により流されてしまったため、盛り土等により高台に住宅を造成し、その上に災害公営住宅を計画する仕事でした。その後は、東京の八重洲で都市部における再開発や行政のまちづくりに関する上位構想策定支援など現場のプロジェクト担当を5年間、今は横浜の本社で10年後、20年後のURのまちづくりを見据えた新規事業組成を担当しています。
高藤さん:大学院修了後はフジワラテッペイアーキテクツラボに1年ほど在籍し、退職を機に夫と独立しました。独立したばかりのころは民泊のリノベーションがメインでしたが、今は向ヶ丘遊園の区画整理事業区域内における複合ビルのプロジェクト、熊本県での住宅リノベーション、つくば市でオフィス建築プロジェクトが進行中です。コロナ禍に夫婦で自宅をリノベーションし、YouTubeで暮らしを紹介するVlog「somo somo 建築家夫婦の日常」を配信し始めたこともきっかけとなり、さまざまなお仕事の相談をいただいています。
鈴木さん:大学院修了後、清水建設に入社し設計の仕事をしています。入社から3年目まではおもに住宅のプロジェクトで、タワーマンションを担当しました。4年目から6年目にはホテルや再開発のテナントビル、結婚式場などの商業系施設を担当しました。この4月からは部署を異動し、総合病院やクリニックを担当しています。さまざまな用途の空間の在り方を考え、設計に取り組んでいます。
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工作やインテリアに興味をもちながら建築の世界へ
--みなさん「建築」に興味をもった原体験は何だったのでしょうか。
羽島さん:小さいころから工作が好きで、折り紙でお弁当を作ったり、ティッシュを丸めてお寿司を作ったり、レゴも好きで自然と家を作っていました。自然やアートを見るのも好きで、色にも興味がありました。思い返すと、中学生のときに建築模型を作ってみたいと思ったのが、具体的に建築の道を目指すきっかけだった気がします。
高藤さん:小さいころからピアノをやっていて、実はずっと音大を目指していました。日本女子大学の附属高校に入学して3年間もずっと音楽に向き合っていました。ただピアニストにはなれないことが見え、音大からの就職だとピアノの先生など限りがあるのではと、少し先が見えてしまった気がしたんです。高校3年生の進路選択のときに、ピアノの次に興味がある建築の道を選びました。今思えば、東京育ちなので、田舎の祖父母の家に行ったときに、続き間を開放して親戚一同が集まり、縁側でのんびりするといった生活に憧れのようなものをもち、インテリアや空間が変わることに何らかの興味があったのだと思います。
鈴木さん:私も羽島さんと同じで、小さいころから工作や絵を描くことが好きでした。雑誌の表紙に掲載されていた、住居学科の卒業生でもある安座上真紀子(あざかみまきこ)さんというペーパーアート作家さんの作品に興味をもって、自分でも夏休みの宿題で立体のペーパーアートを作った思い出があります。日本女子大学の附属中学校・高校と進学するなかで、教科の中では物理が好きになったのですが、物理と工作という好きな分野がちょうど掛け合わさるのが建築だと思って志すようになりました。
--高校時代と大学受験について教えてください。
羽島さん:宮城県の一女高(宮城県第一女子高等学校、現在は宮城県宮城第一高等学校に改称)という女子校に通っていましたが、進学校で真面目にコツコツと勉強を頑張る風土でした。一方で校則や制服もなく、個人を尊重する校風でした。国立の工学部の建築学科を目指していたのですが物理が苦手で(苦笑)。日本女子大学の住居学科は受験科目に物理がなかったので、志望を絞りました。苦手だった数学も頑張り一般受験で合格しました。
鈴木さん:先ほどお話したように中学受験で附属中学校に入学し、そのまま大学進学したので、自由な時間が多かったですね。高校時代は、部活とは別に有志でロボコンにも出場しました。レゴのマインドストームでロボットを作って、プログラミングをして、自分が作ったものを動かすのはとても楽しかったですね。部活は卓球部でしたが、文化祭で発表する研究グループのようなコミュニティ活動も盛んで、いろいろなことに挑戦できる環境でした。
高藤さん:私も附属高校から大学に進学しましたが、高校時代は本当に自由で、部活の合唱部とピアノを頑張っていました。日本女子大学附属の合唱部は県大会では金賞が当たり前という伝統のある部活で、練習もとても厳しかったです。朝も昼も夕方も歌って、電車でも友達とハミングしながら帰ったのは良い思い出です。
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設計演習を繰り返す多忙な大学時代
--今日は思い出深いキャンパスにお越しいただきました。大学時代いちばん印象に残っていることを教えてください。
羽島さん:入学後、鉛筆の削り方や鉛筆で一定の太さの線をひたすら書くことから授業が始まったことをよく覚えています。あと、最初の夏休みの課題で、B5のスケッチブックすべてのページに自由にスケッチをしてくるというもの…お2人もありましたよね?
鈴木さん:「スケッチ50」*ですね! (*50枚スケッチをする課題。現在も1年生の前期から始まり後期初回の授業にて提出することになっている)
高藤さん:そうそう、それ! ありましたね。
羽島さん:あの課題は必ず通る道ですね(笑)。さらに発展すると模型を作って、図面を書いてプレゼンテーションボードを作って…と課題がどんどん大掛かりになっていきました。学部1年生の後期からは設計課題があって、最初は小さい住宅を設計して、小さい建物が設計できるようになるとグループでもっと大きい建物を設計したりしました。当時は他の大学と共同の設計演習もあり、4年間設計、模型作りを繰り返しました。提出期限もとても厳しかったです。
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鈴木さん:提出の時間に先生が待っているんですよね。
羽島さん:朝9時から9時10分の間に提出とか、その間に何が何でも提出しなければなりません。期限までに提出する大切さも学べたと思います。樟渓館(しょうけいかん)という学内の建物にある製図室で作業をしていましたが、提出直前になると友達の家で徹夜することもありました。
高藤さん:私もとにかく思い出すのは「課題」です。課題提出は朝が多かったのですが、満員電車だと大きな模型は運べないので始発で行きました。壊れないよう作品を必死に守りました。
--皆さん「課題」がいちばん記憶に残っているんですね。キャンパスの中でお気に入りの場所はありましたか。
鈴木さん:私のお気に入りの場所は樟渓館です。製図室があって、設計の課題をいつもやっていました。
高藤さん:卒業設計もそこで取り組みましたね。私も樟渓館が思い出深いです。
羽島さん:私もいちばんいた場所は樟渓館です。
--たくさんの課題に取り組んだ「樟渓館」がいちばん思い出す場所、これも皆さん同じなのですね。
鈴木さん:いろいろな人が「樟渓館」に集まるので、さまざまな交流もありました。
羽島さん:規模の大きい大学とは違い、百年館にある研究室は学部3年生が机を使えるほどのスペースはありませんでした。修士になると研究室にいる時間が増えましたが、学部生時代は樟渓館ばかり利用していました。
設計演習やコンペでの実践が実社会で生きる
--お仕事に生きていると感じる在学中の体験を教えてください。
羽島さん:課題の模型は大きいほど運搬も大変で、それをどう保管するか、運ぶかなど、あらゆることを自分たちで想定して行動したので、総合的に鍛えられたと思います。グループでの作業は役割分担や段取りが大切なことも、大学での体験から学びました。材料を専門店で購入するのも、運ぶのも女子だけなので、人に頼らずに自分たちですべて段取りを考えました。そうした在学中の課題に取り組むときの一連の行動が今も染みついているので、今の仕事でも非常に役立っていますし、忍耐力も学生時代に身に付いたと感じます。
高藤さん:学部3年生のときに日本総合住生活(UR都市機構の物件の管理・リノヴェーションなどを行っている関連会社)のコンペがあり、UR賃貸住宅リフォームコンペティション最優秀賞に選んでいただきました。そのときに、多くの人が関わってマンションの一室を作っていく建築現場で仕事を体験し、提案で終わりではなく、壁1枚とってもどうやってできていくのか、家具をどうやって選ぶかなど、人との関わりの大切さを学ぶことができました。この体験の印象が強く、後の独立にもつながったと思います。
鈴木さん:就活するか大学院に進むかを悩んだ学部3年生のころに、篠原先生(現学長)に相談に行きました。私はそのころから大きい建物を作りたいと思っていましたが、大きな建物を手がけているのは建設会社や組織設計事務所が多い傾向にあり、そこに就職するとなると大学院を修了した人が多かったんです。そのときに篠原先生から「あなたはバランスが良いから、大きい組織の中に入っても周りと上手く付き合いながら、自分のやりたいことができると思う」と仰っていただきました。先生は「設計演習」などを通じて、ひとりひとりをしっかりと見てくださっていたんですよね。本当に学生をよく見てくださる学校だと驚いた記憶が今も忘れられません。その後、修士に進んで建設会社に就職しましたが、今も多くの人と接して仕事をすることがあると、先生の言葉をふと思い出し、元気が出ます。
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少人数ならではの自由度が高く、のびのびした環境
--在学中のご自身に言葉をかけるとしたら、どんなことを伝えたいですか。
鈴木さん:社会人になると時間の制約がさらにあるので、学生のうちはいろいろな興味のあることに積極的に顔を出して、知識を身に付けておくと良いと思います、と伝えたいですね。
高藤さん:社会人では工期や施主さんの要望、制約もあって、いろいろな人と関わりながら実際に設計していく楽しさがあります。在学中にも社会に出たときの視野をもって建築を見ておくと良いよと伝えたいです。
羽島さん:振り返ると、みんなで頑張って勉強する雰囲気もあって、そうした環境に身を置いた大学時代はとても良かったです。変化が速い現代においては、まちづくりにも複合的な社会課題解決が求められ、医療福祉、GX、DX、モビリティーなどあらゆる分野を把握して提案することが求められます。そこではコミュニケーションや情報を収集する能力が非常に求められます。日本女子大学はコミュニケーション能力が高い学生が多く、自分も磨かれました。だから「不安にならないで、そのままで間違っていないから」と伝えたいですね。
--受験生や進路を考えている高1・2年生に向けてメッセージをお願いします。
高藤さん:建築デザインは多様な進路を選択できる学部です。先輩方が多方面に就職されていますし、建築や住居と言ってもさまざまな分野があって、入学してから自分の興味にしっかりと向き合える環境があります。ぜひこの環境を魅力に感じてほしいです。
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鈴木さん:人数が少ないからこそアットホームな雰囲気の中でのびのび過ごすことができると思いますし、自由度が高くて良い環境だと思います。建築界には、日本女子大学で建築を学んで活躍されている方がかなり多くいらっしゃいます。ぜひ進学を考えてみてください。
羽島さん:建物単体を技術的な面だけから見るのではなく、「生活者」として建物や街を見たときにどうすべきかを考える力が、1年生の授業から自然と身に付いていく感覚があります。同じ建築を学んだ人の中でも、そうした経験と視点が、日本女子大学 建築デザイン学部卒としての強みになると思いますので、ぜひ進学を検討してみてください。
--ありがとうございました。
日本女子大学の建築デザイン学部では利用者や居住者の立場から人々のつながりを考え、より良い環境を実現する専門性の高い人材の育成を目指す。3人の卒業生はとても快活で、日本女子大学でその基盤を得ているからこそ、社会に出て学び続ける力が得られるのだと実感した。女子中高生やその保護者は、ぜひ一度、美しい建築物が溶け込む目白の森のキャンパスを訪れ、日本女子大学を選んだ学生たちが集う環境を体感してほしい。
2024年4月開設日本女子大学 建築デザイン学部
日本女子大学 入試案内
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