秋も深まり、大学受験はいよいよ最終コーナーに差しかかる。ここからは過去問をうまく活用していきたいところだが、いつから、どのように、どんな頻度で取り組めば良いのだろう。
そこで、合格実績に定評のある駿台予備学校が難関大学への合格者50人を対象にアンケートを実施。その結果をもとに、難関大合格者に共通する過去問の取り組み方について、駿台予備学校の担当者に分析してもらった。
前回の【共通テスト編】に続き、今回は【国公立大個別試験・私立大編】をお届けする。
これから過去問に取り組もうと考えている受験生も、難関大を目指す中高生やその保護者も参考にしてほしい。
目次
・個別試験の過去問演習、理想はいつから
・スケジュールは逆算して計画的に
・演習時にもっとも重視した2つのこと
・添削が必要な問題も先生に丸投げしない
・難関大合格者が「失敗だった」と悔やんでいるのは…
・個別試験の過去問は合格への最良の問題集
・難関大合格者から学ぶ、過去問“ハック”の4ステップ
個別試験の過去問演習、理想はいつから
--国公立大・私立大の個別試験の過去問を始める時期については、どのような傾向が見られましたか。
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アンケート結果をみると、第一志望大学については「秋(10~11月)」が28.0%で最多となり、ついで「直前期(12月以降)」22.0%、「夏休み明け(9月)」20.0%、「夏休み前」18.0%、「夏休み中(7~8月)」12.0%と続いています。この数字からは、7割が9月以降に取り組み始めていること、そして多くの人が年内には着手していることがわかります。
--何をきっかけに取り組み始めるのでしょうか。
きっかけとしては、「入試本番が迫ってきたから」が49.3%、「基礎が固まったと思ったから」が27.4%、「模試を受験するから」が20.5%と続きます。
--基礎が固まったと手応えを感じてから過去問に進みたいところですが、半数近くは、本番が迫ってきたからいう感じなのですね。
自分の基礎学力が足りていないと、過去問に着手するのは「早過ぎるのでは?」と思うのかもしれませんが、合格のために必要なのは、まずは「相手を知る」ことです。相手を知れば、入試本番に向けての学習をより効率的に計画し、進めていくことができます。今回の結果はあくまでも傾向であって、本番が迫ってきたからと焦り始める前に着手することが理想です。
●二次の過去問演習に取り組み始めたのが11月と遅く十分な演習量をこなせなかったので、もう少し早く始めればよかった。(一橋大学経済学部)
●大学によってはなかなか過去問をできずに受けてしまったところもあるので、もっと余裕をもって過去問演習に取り組みたかった。(順天堂大学医学部)
●理科は基礎の完成が遅れ、理科の過去問を始めたのが共通テスト後という短期間になってしまい、演習不足が足を引っ張った。11月ごろから計画的に進めておくべきだった。(東京大学理科二類)
●過去問演習を始めるのが少し遅かったために、演習量が少なくなってしまった。そのため、もっと早く演習を始めれば良かったと思っている。(山形大学医学部)
スケジュールは逆算して計画的に
--個別試験の過去問は何年分くらい取り組むものなのでしょうか。
アンケートの結果からは8割以上が「4年以上」と答えていますが、一概に「何年分やるべき」という指標はありません。むしろ重要なのは、ここから「何年分できるか」を逆算することです。というのも、秋以降は模試もあり、さらに高3生は学校の定期テストなどの行事も加わるうえ、冬休み以降は講習なども始まります。ですから実は、これから過去問のために割ける時間は思っている以上に少ないということを認識しておく必要があります。
--模試や学校の定期テストに追われ、うっかり過去問を後回しにしてしまいそうです。
本来過去問というのは、合格のために欠かせない優先順位の高いものです。でも、そのようにうっかり後回しにしてしまうと、直前期に過去問を解く時間がなくなり、慌てることになります。
だからこそ、今すぐスケジュールの空いている日を確認することが重要です。そして、仮に入試日程2日分の過去問を解く場合、解いた後の復習と分析の時間も考慮し、1セット4日間ほどかかるとして、どの大学の何年度のどの科目をやるか、空いている日にその計画をプロットしてみてください。
すると、今は「併願含めて5大学の過去問を10年分ずつ解くぞ」と息巻いたとしても、逆算すると「今からだと私立大の併願校は1年分しかできない」といった厳しい現実が見えてくる。毎年、こういう見積もりミスをする受験生が非常に多いのです。
--共通テスト対策との両立も難しそうですが、何かコツはありますか。
共通テストが完全に終わってから個別試験対策を始めるとなると、個別試験に向けた知識や解き方の感覚を取り戻すのに時間がかかってしまうリスクがあります。できれば、共通テスト対策に集中する12月~1月前半であっても、1日の中で少しだけでも時間を取って、個別試験の過去問を解いておくことをお勧めします。これも含めて、今の時点で逆算したスケジュールを立てておくと両立がスムーズです。
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演習時にもっとも重視した2つのこと
--個別試験の過去問に取り組む際に、多くの合格者は何を重視していたのでしょうか。
2つの共通点があったと思います。1つ目は、「その大学の入試について詳細に知ること」です。これは、先ほども触れた「敵を知る」こと。つまり、受験する大学の科目ごとの制限時間や出題傾向、問題形式に慣れることを重視していたのです。特に、制限時間については共通テストの時以上に高い意識をもって取り組んでいました。
●必ず時間を計って過去問を解いていた。解くのにかかった時間が1周目と2周目でどれくらい縮まったかを確認していた。(千葉大学医学部)
●取り組む際には時間を実際よりも10分ほど短くし、大問ごとの時間配分を決めて解いていた。(日本医科大学医学部)
●初めは制限時間内に終わらなくても全部の問題を丁寧に解き切ることを意識した。そして何分オーバーしたのかを計測しておきその分はどの大問でかかってしまった時間なのかを分析して、年度を重ねるごとにだんだんと時間内で解けるように練習していった。(昭和大学医学部)
●時間を計り、本番と同様に時間配分を意識しながら解いた。時間が足りずに解ききれなかった問題も点数には含めないが、全て解き終わってから採点するようにしていた。各大問にかかった時間も記録していた。(京都府立医科大学医学部)
そして、もうひとつは、復習をすぐに行い、しっかりと自省することです。
多くの合格者に共通したのは、結果の点数にとらわれ過ぎず、むしろ過去問を起点に、解くべき問題はどれだったか、解けなかった問題についてはなぜ解けなかったのか、その理由を分析したうえでしっかりと復習していたこと。ケアレスミスで片付けず、間違えた問題と理由をノートにまとめ、時間をおいて解き直したり、類題を探して重点的に弱点を補強したりすることで、次は確実に解けるように徹底して復習していたようすがうかがえました。
●共通テスト時と同様、「復習ノート」を作成した。間違えた問題や気になる問題は解説を丸写しするのではなく、なぜそのような解答になるのかを理解したうえで、自分の言葉でまとめたので記憶に残りやすかった。(大阪大学文学部)
●過去問を通じて明らかになった苦手分野は参考書や問題集を使って集中的に復習し、間違えた問題はノートに理由と日時を簡単にまとめ、再度解き直すことで理解を深めた。(大阪公立大学工学研究科)
●二次試験の過去問は、たとえ解答時間より長い時間がかかったとしても、徹底的に復習した。学習効果が大変高いので、あせらずにじっくり取組むべきだ。(東京大学理学部)
●復習する際は、「なぜ間違えたのか」について考え、それをルーズリーフにリスト化していた。計算ミスであっても、なぜ計算ミスをしてしまったのかを考え、字体の区別をつけたり重要な数式だけは大きく書くなど具体的な対策を立てた。(東京医科歯科大学医学部)
●「計算ミスなどのケアレスミス、絶対に解くべきだった」「もう1回やったら解けた」「解説を読めば理解はできた」「解説を読んでも理解できない」の4段階に分けて、後から見返したときに分かりやすくした。(東京大学文科一類)
添削が必要な問題も先生に丸投げしない
--記述や要約、英作文、小論文など、添削が必要な問題はどのように取り組んでいたのでしょうか。
塾や学校の先生に添削してもらったという回答が圧倒的に多かった中、印象的だったのは、添削を受ける際の姿勢です。自分の答案を見せに行く前に、まずは自分で解説を読み、添削をする。そして、足りないと感じたところやわからないところは調べ、もう一度自分なりに解答を書いてみる。こうしたひと手間をかけたうえで先生に聞きに行くという姿勢こそ、難関大に合格するための重要なステップであることをあらためて痛感しました。自分で手を動かすことで復習の質が高まり、そのうえで先生の添削を受けるわけですから、学習効果は非常に高いと思います。
ちなみに、英作文の添削には「生成AIを活用する」という回答もありました。今の段階では、その添削内容が正しいかどうかは疑念を抱く必要はあるものの、今後生成AIが進化していけば、これもひとつの手段になってくるのかもしれません。
●まずは自分自身で解説をみたり、参考書やインターネットを使いながら自分なりに添削、さらには模範解答を作成してみた。それをもとに学校の先生に添削してもらい、自分の表現が適切か、どのような要素が欠けているか、大事なポイントはどこかなど理解を深めた。(慶應義塾大学経済学部)
●生物の記述問題は資料集など使って自分で調べたうえで塾の先生に添削してもらった。これは、生物の知識を補強するのにとても役立った。(東京医科大学医学部)
●まず、自分で必ず添削するようにしていた。というのも、入試本番では第三者の意見を聞くことはできないため、自分で間違いに気付く必要があるからだ。その後、学校の先生にお願いするようにした。(京都大学農学部)
●学校の先生にお願いしていたが、自分で添削する時は入れるべき重要なキーワードを教科書や参考書で確認した。(横浜国立大学理工学部)
--併願校は、何を基準に選んでいましたか。
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偏差値で選ぶという回答が多かったですね。ただ、注意してほしいのは、自分の偏差値より上の大学でも、入試問題との相性が良ければ合格できる可能性はあるということ。入試日が重なった場合、安易に偏差値が低いほうを選ぶのではなく、必ず大学ごとの出題傾向を確かめ、過去問を解いてみて、自分の得意・不得意と照らし合わせて選ぶことをお勧めします。
難関大合格者が「失敗だった」と悔やんでいるのは…
--失敗談としてはどのような事例があがっていましたか。
共通点としてあげられるのは、多くの人が過去問の「量」をこなすことに気を取られ、復習がおろそかになってしまったと悔やんでいる点です。
●直前期は焦って復習が不足したまま新たな過去問を解いてしまった。復習を溜め込まず、もう少し量より質を意識し丁寧にやるべきだった。(お茶の水女子大学理学部化学科)
●数をこなしすぎて復習にあまり時間をかけることができなかった。過去問は貴重なので、時間をかけてでも内容を理解する復習の時間をとるべきだった。(神戸大学法学部)
●復習する時間が少なかった。何年分も遡って解くことも重要だが、同じ年度の問題をしっかり復習することも重要だ。(東京工業大学工学院経営工学系)
また、共通テスト編と同様、いかに本番を意識して過去問を解くかという、時間の使い方の「質」を重視すべきだったという回答も多かったです。
●当日は丸1日試験なのだから、休憩時間も含め本番と同じ環境にすべきだった。特に記述では、解答用紙の大きさが「どこまで書くか」の基準となるため、問題用紙や解答用紙のサイズ・ページ数にも気を配るべきだった。(東京医科歯科大学医学部)
●理科2科目180分の試験を過去問では90分ずつに分けて解いていた。そのため、入試当日は時間配分に失敗した。過去問も本番通りにやるべきだった。(東京大学工学系研究科)
●1年分を通しで問題演習する時間をあまりとれていなかった。理科3時間が本番で集中しきれず、練習不足を痛感した。(京都大学工学研究科)
さらに、先ほどの添削が必要な問題についても、このような後悔の声もありました。
●英作文はもっと添削をお願いすれば良かった。自信のない答案になってしまった時など、恥ずかしくて出しにいけないことも多かった。(東京大学法学部)
●英語の和訳をもう少し丁寧に添削しておけば良かった。英作文と同様に、先生に添削をお願いしても良かった。(早稲田大学基幹理工学部)
これから本格的に過去問に取組み始める人が多いと思うので、こうした失敗談はぜひ参考にしてほしいですね。
個別試験の過去問は合格への最良の問題集
--一方で、過去問に取り組んだことでどのような成果が得られたと言っていますか。
成果については、次の3つの点に集約できると思います。
大学の出題傾向と難易度がつかめ、その後の学習の指針が立った
時間配分のイメージが付き、本番の良いトレーニングになった
自信や心の安定につながった
過去問はそれぞれの大学が威信をかけて作成しているものです。だからこそ、その大学に合格するための最良の問題集ともいえます。ですから、学習効果が高いのはいうまでもなく、これを解けるようになることを目標に積み重ねていく日々の学習そのものが、入試本番での自信と心の安定につながっていくのでしょう。
●過去問は実際に入試で出題された問題なので質の面で優れており、演習と解き直しを繰り返すことで確実に傾向をつかめた。(東京大学法学部)
●過去問を解くうちに自分と相性が良い試験形式かどうかがわかるようになった。(千葉大学医学部)
●過去問を通して典型的な入試問題に触れることも多く、最後に大きく学力を伸ばすことができた。本番で非常に似た問題が出たので、過去問は丁寧に取り組んでおいてよかったと感じた。(日本医科大学医学部)
●過去問を解いてから「今の自分に足りないのは〇〇であるから、〇〇をやらなければ」という気付きがあった。やればやるほどその大学の問題に慣れてくるので、たくさん過去問を解くのは効果的だと思う。(東京医科歯科大学医学部)
●本番の入試ではすべての問題に正答できる訳ではないため、戦略的な時間配分のイメージをあらかじめもっておくことで最善を尽くすことができた。(慶應義塾大学経済学部)
●本番では「あれだけ過去問を解いてきたのだから絶対に点が取れる」という自信や心の安定にもつながった。(昭和大学医学部)
--アンケートでは受験生時代の生活についての回答もありました。生活スタイルや日々の習慣について、合格者にはどういった共通点が見られましたか。
朝型にもっと偏ると予想していたのですが、夜型、特にこだわりはないと回答が分かれたのは意外でした。
一方で、共通していたのは勉強時間の長さです。休日は10~12時間が約7割と非常に頑張っていたようですし、やはり難関大学への合格者は、毎日まとまった時間をコンスタントに勉強にあてられている人が多いですね。
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難関大合格者から学ぶ、過去問”ハック”の4ステップ
--今回のアンケート結果を受けて、これから個別試験対策を始める受験生に向けてアドバイスをお願いします。
今日お話しした内容も含め、次のような4つのステップで取り組むと良いでしょう。
【過去問“ハック”の4ステップ】
1. 駿台の青本であれば大学毎の出題傾向を分析したページを熟読し、
頻出分野などの特徴や変更点などを把握する(ほかの過去問題集なども同様)
↓
2. 本番から逆算し、解いた後の復習を含めた計画を立てる
↓
3. 本番同様の環境で、厳密に時間を計って取り組む
↓
4. 過去問は学力を伸ばし、志望校へ合格する可能性を高めるチャンスだという意識で、
頻出分野はしっかり補強し、取りこぼした問題は解けるようになるまで丁寧に復習する
間違ってほしくないのは、「過去問演習=合否占いではない」ということ。極端にいえば、過去問で合格点に達しているかどうかは重要ではありません。
「量」をこなさなければと無理のある計画を立てるのではなく、「質」を意識した復習をすれば、ここから学力はまだまだ伸びていきますので、ぜひ頑張ってください。
--ありがとうございました。
先輩たちに習い、効率的な受験勉強計画を
入試本番に向けて時間がない中、いかに効果的に過去問を進めていくのか。今回のアンケートからは、そのエッセンスとして「逆算」「復習」「時間の意識」といったキーワードが見えてきた。
合格した先輩は皆、計画的に過去問を解き、しっかりと復習しながら自分の現状と志望校の出題傾向を分析・把握し、到達地点までの距離を常に見定め、時には計画を修正しながらも、学力を向上させていった。先輩から学ぶ“過去問ハック”を参考にしつつ、効率的な勉強を進めてほしい。
駿台予備学校の受験対策イベントはこちら直前期に過去問を取り組むなら「志望校別 類題演習システム」