和歌山の豊かな自然を舞台に、2027年夏に開校するゴードンストウン・ジャパン。故エディンバラ公フィリップ殿下やチャールズ国王をはじめ、歴代の英国王室の学び舎として知られる名門校の教育とは。新校長に就任したナターシャ・デンジャーフィールド(Natasha Dangerfield)氏に、ゴードンストウン・ジャパンの理念、入学後の生活や進路について聞いた。
「あなたの中には、もっと多くの可能性がある」…創設者ハーンの教育哲学
--2027年夏に和歌山に開校するゴードンストウン・ジャパンはどのような学校ですか。
ゴードンストウンは、故エディンバラ公フィリップ殿下やチャールズ国王をはじめ、歴代の英国王室メンバーの学び舎として知られるイギリスの名門校です。ゴードンストウン・ジャパンは、その教育理念を広げるべく、世界初の姉妹校として開校します。対象年齢は11歳から18歳で、男女共学のボーディングスクール(全寮制学校)*です。国際教育認可カリキュラム(IGCSEとA-Level)を採用し、海外の大学だけでなく日本国内の大学への進学も可能です。*週末帰宅・通学型も選択可

現在、和歌山大学のすぐ横にある15ヘクタールの広大な敷地に建つ旧ノーリツ鋼機本社ビルのリノベーションを進めており、そこが校舎になります。丘の上なので津波の心配はなく、敷地内には多目的に使える運動場とグラウンド、カフェテリア、そして寮が7棟できる予定です。
イギリスの伝統では、寮ごとに異なる学年の生徒が教員と共に暮らすコミュニティを「ハウス」と呼びます。まさに『ハリー・ポッター』の世界です。年上の生徒が年下の生徒を自然と支え、年下の生徒はその背中を見て育つ。そこには教員もいて、学びは教室の中だけで終わりません。そうした日常の中で、普通の学校では得られない成長が生まれるのです。
2027年度の開校時はまず、Year7、8、9、10(日本の小学校6年生、中学校1年生、2年生、3年生)の4学年の子供たちを受け入れます。Year7、10については4月からの編入・移行コースを設けます。インターナショナルスクールでは9月から新学年が始まるため、日本の小中学校に通うお子さまの場合、3月に卒業後、直ちに編入ができます。
英語力に関しては、ある程度会話ができるレベルは必要ですが、流暢ではなくても大丈夫です。EAL(English as an Additional Language)*を設けてYear7から8の間に英語力の底上げを図り、IGCSEの履修が始まるYear10までには必要な英語力を身に付けられる体制を整えたいと考えています。
*英語を母語としない生徒が授業についていけるよう英語力を高めるための支援プログラム

--日本にはすでにラグビーやハロウなどイギリスの名門校が開校していますが、ゴードンストウンの教育がほかの学校と異なる点はどこにあるのでしょうか。
イギリスでは由緒ある名門私立の中学校・高等学校をパブリックスクールと呼びます。伝統や規律を重んじ、国のリーダーを育てる場としての側面が強いのが特徴で、ラグビーやハロウは「ザ・ナイン」と呼ばれるもっとも歴史と格式のある9つのパブリックスクールの1つです。一方、1934年創設のゴードンストウンは、そうしたパブリックスクールと比べて新しい学校で、その始まりからほかの学校とは少し異なります。ゴードンストウンは、創設者クルト・ハーンの「子供ひとりひとりの個性を伸ばす」という信念をもとに作られました。
ハーンはドイツ生まれのユダヤ人で、当時ナチスの影響で台頭してきた全体主義下では子供ひとりひとりの個性を伸ばす教育はできないと考え、イギリスからスコットランドに渡ってゴードンストウン校を設立。自然体験や共同生活を通じて、知性・体力・思いやりの心をバランスよく伸ばす全人教育を広めた教育者として知られています。ハーンの教育思想はゴードンストウンだけにとどまらず、後に世界各国の若者がともに学ぶ国際教育ネットワーク「UWC(United World Colleges)」の創設にもつながりました。UWCは世界の王室の子息子女が多数留学し、日本からも選抜された高校生が経団連の支援を受けて派遣されるなど、その教育は国際的にも高く評価されています。国や文化を越えて協働する力を育むという理念は、時代を超えて現在にも受け継がれています。
私たちのモットーは、”Plus est en vous (More in you than you think)”。つまり「あなたの中には、もっと多くの可能性がある」というものです。ハーンは、子供たちには教室での学習に留まらない機会が必要だと考えていました。子供たちは、学んだことを実践することでより多くを吸収します。たとえば「社会に対する奉仕の責任」や「人助けをすべき」と言葉で伝えるだけでなく、実際に彼らが奉仕活動をし、人助けをする機会を用意することでより深い学びへとつながっていきます。
そのためゴードンストウンでは、体験を重視しています。子供たちは必修科目であるセーリングの授業では海に出てヨットの操縦を学び、エクスペディション(探検)の授業ではテント、寝袋、コンロ、食料をすべて1人で背負って山道を歩きます。学年があがれば3泊4日、約100kmの縦走です。コンパスと地図だけを使い、極限の状況をも乗り越える体験を通じて「自分にはこんなこともできるんだ」と可能性を見出し、自らの殻を破っていくのです。

英国王室が信頼を寄せた教育の真髄
--ナターシャ先生はスコットランドのゴードンストウン本校で教鞭をとった経験をおもちですが、ハーンの教育哲学を強く実感した瞬間はありましたか。

はい、あります。ゴードンストウン本校に身を置くと、教育方針から子供たちへの接し方まで、あらゆる場面にハーンの哲学が息付いていることを実感します。スコットランド校は海と山に囲まれ、清々しい空気に満ちています。この自然環境そのものが教育の重要な要素であり、ハーンの精神を体現する場でもあります。
もちろん環境だけではありません。探検(エクスペディション)の授業では子供たちと山道を歩き、地域の消防活動ではともに訓練を受けました。寮で暮らし、活動をともにすることで、「先生と生徒」を超えた絆が生まれます。私は教師として30年間、そしてゴードンストウン本校では寮の責任者として子供たちと寝食をともにしながら、常に子供たちとつながることを大切にしてきました。その関係性があってこそ、子供たちが自ら変化を起こすサポートができるのです。
同じような理念を掲げる学校はほかにもあります。しかし、そのための時間を本当に確保している学校は多くありません。私は時間こそがカギだと考えています。寮生活や1日を通じたカリキュラムの中で子供たちと対話を繰り返し、ひとりひとりの個性を見出して成長を後押しする。子供たちが安心できる温かいコミュニティを築き、心と体の健康と感情の成長を大切にする。これは一朝一夕にできることではありません。それがゴードンストウンなのです。
--なぜ、初めての海外校として日本の和歌山が選ばれたのでしょうか。
ゴードンストウン・ジャパンは、日本で120年の歴史をもち、国内外で数多の教育機関を運営をする学校法人OCC(本社:大阪)との戦略的な提携によって設立されました。単に名前を冠したフランチャイズ校ではなく、カリキュラムを共有し、交換留学制度を整え、本校が守り続けてきた厳格な教育水準をそのまま実践する真の姉妹校です。日本の和歌山が選ばれたのは、こうしてクルト・ハーンの理念に共鳴するパートナーと出会えたこと、そしてスコットランド本校に勝るとも劣らない、子供たちが立派な若者として成長できる素晴らしい環境があることです。
日本が安全で地政学的にも安定していることはもちろん、実は和歌山は、スコットランド本校の海と山に囲まれた環境とよく似ており、海までの距離もほぼ同じです。和歌山の海は風の向きが複雑で、オリンピック選手が強化合宿を行うセーリングセンターが設置されているほどヨットの操縦を学ぶのにも最適な環境です。また、日本が育んできた精神性と文化的価値を融合し、熊野古道の巡礼といった日本独自のプログラムも検討しているところです。
--英国王室が3世代にわたってゴードンストウンを選び続けている理由はどこにあるとお考えですか。
故フィリップ殿下ご自身が少年時代にゴードンストウンに通った経験から、創設者ハーンの考えに共鳴し、非常に親しかったと聞いています。殿下は王室の一員として、国への奉仕こそが自ら果たすべき役割であると考えておられました。これはまさに、ゴードンストウンでの学びそのものです。
「全人教育」という言葉を教育理念に掲げる学校は多いですが、ゴードンストウンが他校と大きく異なるのは、子供たちひとりひとりが自分で何か手助けできることはないかと考え、リーダーシップを発揮し、自ら行動することでその責任を果たすという点です。一例をあげると、本校では消防団の訓練を受けて試験をパスした生徒はポケットベルを常備し、近隣での火災発生が通知されると、たとえ授業中であっても現場へと向かいます。こうした「自分自身と自分の時間を捧げて他者のために尽くす」実体験の積み重ねこそが、ゴードンストウンの教育の真髄なのです。
日本の子供たちに届けたい「自信」
--日本キャンパスのカリキュラムはどのようなものになるのでしょうか。
多くのインターナショナルスクールで広く採用されているケンブリッジ・モデルを採用する予定です。 IGCSEを経てA-Levelへと進むコースを軸に、セーリング教育や野外活動、奉仕活動など、スコットランド本校で実践してきたカリキュラムの重要なコンセプトを取り入れます。和歌山セーリングセンターとはパートナーシップを組んで活動していく予定です。
それと同時に、日本ならではの取組みも考えています。海外出身の子供たちも基礎レベルの日本語を、そして日本の子供たちと一緒に日本の文化や歴史も学びます。すでに日本の文化を専門とする責任者を配置し、こうした日本独自のカリキュラムも時間割の一部として組み込んでいく予定です。私たちは丘の上の孤立した学校になるつもりはありません。スコットランド本校と同じく、地域社会の一部になることを目指して門戸を開き、積極的に協力していくと和歌山市にも約束しています。

--現在の日本の子供たちにとってゴードンストウンの教育が特に必要だと感じる点はありますか。
私は日本に来るまでの13年間、イギリスの名門ウェストンバート・スクールの校長として、日本の2つの学校との交換留学プログラムを立ちあげ、日本と親密な関係を築いてきました。日本の子供たちを間近で観察し、行われている授業の違いもよく理解しています。日本から交換留学に来てしばらく経つと、日本では授業中黙って先生の話を聞いていた子供たちが、自信をもって手をあげて自分の意見を述べたり、わからないことを質問したりするようになります。これは大きな成長です。ですから私は子供たちの自信を育むことができると確信しています。ゴードンストウンの教育を通じて子供たちが経験するあらゆることが、その成長を支えてくれるでしょう。
ゴードンストウンでも同じような交換プログラムを実現したいと思っています。フルタイムで通う生徒以外も広く受け入れ、当校に来て私たちのカリキュラムに触れてもらいたいと考えています。
自分に合った道を見つけ、高い目標をもてる環境を
--有名大学への進学実績を強調する学校もありますが、ゴードンストウンは生徒の将来の進路についてどのように取り組んでいますか。
ゴードンストウン本校からも、オックスフォードやケンブリッジを含む英国の名門大学群「ラッセルグループ」に多くの卒業生が進学しています。しかし私たちがもっとも大切にしているのは、子供たちひとりひとりが自分の情熱に気づき、自分らしくいられる場所を見つけることです。世間で最高とされる大学が、すべての子にとって最良の環境とは限りません。
私たちの役割は、子供たちの可能性の扉を開くこと。大手企業の要職や起業家、研究者、音楽家、農家など、卒業生たちの進路が非常に多彩なのは、ゴードンストウンが幅広い視野を育む場であることの証です。自分に合った道を見つけられるよう支援しながら、野外活動や奉仕活動、教室での学習すべてに高い目標をもって全力で取り組める環境を整えていきます。
--ゴードンストウンの教育理念を実践するうえで、教員の果たす役割は非常に大きいと感じます。教員にはどのようなスキルを求めていますか。
おっしゃるとおり、教員の質こそが、他校との違いを生み出します。思いやりをもち、子供たちと良好な関係を築けること。観察力を働かせ、状況に応じて適切に対応できること。そして何事にも自発的に動けること。この3つが不可欠です。ゴードンストウン・ジャパンの採用にあたっては、イギリスをはじめ世界中から幅広く候補者を募り、私自身が全員と面接を行っています。私は長年こうした資質をもつ教員たちとともに働いてきた経験があるからこそ、人を見極める目には自信をもっています。
親元を離れても安心の専門チームによるケア、奨学金も
--最後に、日本の保護者に向けてメッセージをお願いします。

どうか「全寮制のインターナショナルスクール」という枠組みだけで判断しないでください。その奥にある、私たちの真摯な教育の中身を見ていただきたいのです。ゴードンストウンは、子供たちが卒業するとき、この学校を離れたくないと思えるほどの充実した日々と、情熱をもって次のステップへ踏み出せる経験をお約束します。親元を離れ、遠方にお子様を預けることへの不安もあるかと思いますが、そうした不安に応えるのが、私たちの「パストラルケア」です。日本でイメージされる寮長・寮母とは異なり、発達心理学や社会学を熟知した専門チームが24時間体制で子供たちと生活をともにし、ひとりひとりの心身の変化や学業の悩みまできめ細かくケアします。
また、創設者ハーンの理念に基づき、多様な家庭の子供たちがゴードンストウンの教育を受けられるよう、企業からの寄付によるスカラシップや和歌山の地元枠を用意することも計画しています。さらに今後は、世界中の卒業生たちが自身のゴードンストウンでの経験を語るコンテンツをSNSなどで公開する予定です。ゴードンストウンで育った子供たちがどのような大人になったのか、ぜひご覧いただければ幸いです。
--本日は貴重なお話をありがとうございました。
ゴードンストウン独自のカリキュラムは、教育者クルト・ハーンから受け継がれた「子供たちの個性を見出し、可能性を引き出す」という理念に根ざしている。子供が情熱をもって取り組めることを見出し、自信をもってその先の広い世界へ向かっていってほしいと願うのはどの保護者も同じだろう。日本の一条校の教育とも、ほかのインターナショナルスクールとも異なる、ゴードンストウンならではの教育を経て、どんな若者たちが世界に巣立っていくのだろう。今から数年後が楽しみだ。
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