【NEE2012】マイクロソフト副社長「ICTのアクセスは子どもの権利」

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NEE2012
  • NEE2012
  • 入り口はたくさんの来場者で賑わった
  • アンソニー・サシルト氏の講演
  • アンソニー・サシルト氏
  • パネルディスカッション
  • パネルディスカッション、多久市市町の横尾俊彦氏と立命館大学の陰山英男氏
  • パネルディスカッション、日本マイクロソフトの中川哲氏と文部科学省の上月正博氏
 5月に開催された教育ITソリューションEXPO、6月5日に開催されたデジタル教科書教材協議会のシンポジウムに続き、New Education Expo 2012(NEE2012)が6月7日から9日まで開催された。世界の教育改革に詳しいマイクロソフト副社長が今後の教育のあり方について講演し、国内の教育関係者がパネルディスカッションを行った。

 マイクロソフト副社長のアンソニー・サルシト氏は、現代社会を教育革命の好機だと宣言する。産業革命後の欧米諸国の教育が物語るように、教育は職場が求める人材を育成する場として存在してきたと分析する。その後社会は大きく変わり、職場で求められる能力も変化したが、教育は進化しないまま現代に至っているとサルシト氏はいう。そのため、現代社会では教育の革新的な進化が必要とされており、ICTの後押しを利用すべきだと説明する。

 サルシト氏が考える教育革命とは、教育の総合的な進化のことを指し、表面的なICTの導入を懸念する。テクノロジーは、既存するシステムを模写し、簡素化・効率化することに使われてきたとサルシト氏は説明し、そのようなテクノロジーの活用方法では教育は進化しないという。より求められているのは、授業の質と環境の向上だ。パソコンやタブレットなどの端末や技術は変化する。だからこそ、教室での教育の質を向上するための道具としてテクノロジーを活用すべきで、テクノロジーの導入だけを目的とすべきではないという。
 
 では、教育の場はどう進化すべきなのだろうか。サルシト氏は、子どもが勉強に夢中になれる体験を提供する必要があり、ICTはそういった可能性をもっているという。たとえば、試験で「不合格」と言われることで学習へのモチベーションが落ちる学生は多いが、「ゲームオーバー」と表示されたことでゲームへのモチベーションが下がる子どもは少ない。簡単な言語的変化だが、このように子どものモチベーションに変化をもたらすゲーム要素を教育に取り入れるのも良いと提案する。

 また、現在の教育現場では、「生徒中心の教育方法」「学習の拡張」「ICTとの統合」がそれぞれ別々に実践されていることも問題だと話す。たとえば、生徒の学習能力を試すためのテストや試験では、ICT機器は生徒から取り上げられる。「学習の拡張」を重視し、「生徒中心の教育方法」や「ICTとの統合」と分裂した教育方法だとサルシト氏は懸念する。情報端末を活用し、ひとりひとりの生徒がどのように問題を解決していくのかを見守るほうが、後に社会や職場で活躍する子どもたちにとって役立つと説明した。

 何より、生徒がICTにアクセスすることが特別なことではなく、当たり前になる必要があると話す。サルシト氏は、ICTへのアクセスは、もはや「生徒の権利であって、特権ではない」、そしてICTが導入された教育環境は「標準であり、例外ではない」という。同氏が視察に訪れる多くの学校では、ICT機器を導入し、生徒主体の教育を行っているクラスを特別な取組みとして紹介することが多いと話す。これらを特別から標準にすることが教育の革命であり、生徒の学びを進化していくものなのかもしれない。

 パネルディスカッションに登壇した文部科学省の上月正博氏も、現在の教育と社会や職場で求められる能力とのずれを指摘する。経済協力開発機構(OECD)の生徒の学習到達度調査PISAでは、デジタル読解力がテスト項目として出題される。実社会では必要不可欠なスキルだと上月氏は話すが、デジタル読解力は日本の入試には出題されないため、受験前の貴重な時間をデジタル読解力を高めることに費やすことが不可能なのも現実だ。

 また、上月氏は、先生主体で生徒が受け身の教室環境にも変化が必要だという。生徒が主体になる学びが求められており、生徒同士が議論する中で解決方法を見つけていく能力を伸ばす必要があるという。教室を知識やスキルを伝達する場から、子どもたちが考える場に変えていくことで、職場や社会につながる教育が実践されるのではないだろうか。立命館大学の陰山英男氏は、教育環境が子どもの自由な学びの妨げとなっていることと同様に、教科書が先生の自由を妨げていると説明する。陰山氏が勧める教科書のデジタル化は、技術の活用を目的としているのではなく、サルシト氏がいう「質の向上」を後押しする技術という意味で、よい例であろう。

 子どものICTアクセスを「権利」と主張できるほど、国内の教育環境は整っていない。だが、子どもがICTに触れることを当たり前にしている学校も少なくはない。ICT導入が最終目的ではなく、ICTを活用することでどのように教育の質を向上していくかに焦点を当てていくことが必要だろう。今後は特別な授業から当たり前に変化していく教育ICTに期待したい。
《湯浅大資》

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