【NEE2019】日本はAI時代に向けた教育改革のフロントランナー…鈴木寛氏

「NEW EDUCATION EXPO 2019」の東京会場の最終日となった2019年6月8日、前文部科学大臣補佐官で、現在、東京大学と慶應義塾大学の教授である鈴木寛氏が「わが国におけるAI世代の教育を考える~高大接続改革、教育改革を踏まえ~」と題した基調講演を行った。

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前文部科学大臣補佐官で、現在、東京大学と慶應義塾大学の教授である鈴木寛氏
  • 前文部科学大臣補佐官で、現在、東京大学と慶應義塾大学の教授である鈴木寛氏
  • 共同問題解決能力でも日本は世界トップクラス
  • AI・ロボット代替可能性が低い100種の職業(一部)
  • 前文部科学大臣補佐官で、現在、東京大学と慶應義塾大学の教授である鈴木寛氏
 「NEW EDUCATION EXPO 2019(NEE2019)」の東京会場の最終日となった2019年6月8日、前文部科学大臣補佐官で、現在、東京大学と慶應義塾大学の教授である鈴木寛氏が「わが国におけるAI世代の教育を考える~高大接続改革、教育改革を踏まえ~」と題した基調講演を行った。日本の学力レベルの現状や課題、それをふまえたAI時代に向けた教育改革について語った。

日本の15歳の学力は世界トップレベル



 2000年代、OECD(経済協力開発機構)における学習到達度調査において、科学的リテラシー、数学的リテラシー、読解力のいずれにおいても日本の15歳は低迷し、それに対する危機感がマスコミでも報道された。しかし2012年には、科学的リテラシーではOECD加盟国34か国中1位、数学的リテラシーでは2位、読解力で1位とトップレベルに復活したという。

 返り咲いた理由にはいくつかあるが、2009年ごろからの「朝の読書活動の徹底」と「コミュニティスクール(現在約5,000校)などでの学習ボランティアによる放課後の個別学習指導」が基礎学力の定着につながったのではないかと鈴木氏は話す。

 また、日本の数学優秀者(レベル5以上)は約20%の20万人で、アメリカとほぼ同数。「AI時代をひっぱる才能ある若者を、日本は世界一多くかかえている」と強調。さらに、2015年にOECDが追加で調査した「共同問題解決能力」においても、日本の15歳は世界トップレベルで、しかも日本の女子は世界一、共同問題解決能力が高いという結果になったという。

共同問題解決能力でも日本は世界トップクラス
共同問題解決能力でも日本は世界トップクラス

 しかし、学習意欲はOECD加盟国の中では下から2番目。学ぶ意欲の向上が課題となる。

AI時代になくなる仕事、残る仕事



 鈴木氏は、今後の平均寿命から考えて、現在の小学生・中学生・高校生はこれから22世紀まで生きることから、まさに現在の教育改革が22世紀をつくることに通じるとし、さらに「今後80年間は、近代を卒業し、250年ぶりの大転換期になる」と語る。そして、「“近代”はイギリス、フランス、アメリカから始まったが、今後は2020年に教育改革を行う日本がフロントランナーになって新しい時代をつくることになる」という。

 というのも、OECDでは2015 年から「Education 2030」プロジェクトをスタートし、2030年に子どもたちに必要となるコンピテンシーとその育成のための教育について検討しているが、この内容と2020年からの新学習指導要領は同期しており、日本では10年早い2020年からと先んじているからだ。

 そして鈴木氏は、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が野村総研と一緒に調査した「AI時代になくなる可能性の高い仕事と低い仕事」のスライドを映し出した。原則として本講演はメディア関係者以外撮影禁止だが、このスライドだけは特別に講演参加者の撮影をOKとされ、多くの参加者がスマホで写真を撮っていた。

AI・ロボットによる代替可能性が高い100種の仕事



 代替可能性が高いリストには、現在人気の国・県市町村の「行政事務員」「銀行窓口係」「電車運転士」などがあがっている。

AI・ロボットによる代替可能性が低い100種の仕事



 残る仕事としてあがっているのは、「アロマセラピスト」「犬訓練士」「ゲームクリエーター」「外科医」など。また、「ネイルアーティスト」も残る仕事としてあげられている。

AI・ロボット代替可能性が低い100種の職業(一部)
AI・ロボット代替可能性が低い100種の職業(一部)

AI時代に必要とされること



 AI時代は、6割が、今は存在しない仕事に就くだろうと言われる時代でもある。たとえば、「今小学生に人気の職業にユーチューバーがあるが、10年前には予想もしない職業だった」と鈴木氏は語る。そして、そういうなかで何が必要になってくるかについて、次の2点をあげた。

芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業
他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業

 定型業務はなくなり、医療分野でも診断・判断はAIで、重大な決断は人間というように、「同じ業界でも役割が変わるのではないか」と話す。教師という仕事でも、従来のような授業はなくなり、子どもたちは面白い動画で知識を得て、教師は「質問されたら答える」「学習意欲をあげる、感化する」役割を担うことになる可能性があるという。

 そして、この大転換期である80年間にはいろいろなリスクもあるとしたうえで、「知らないことに向き合ったときにどうするかが、大事になる」「我々の世代が解けない課題を次の世代が解いていかなくてはならない。まさに正解のない問題を発見し、設定し、解決していく力、危機と向き合う力」を育む必要があると語った。

AI時代に求められる能力・資質



 AI時代に求められる能力・資質としてまずあげられるのは、AIを使いこなす力ともいえるデータサイエンス。そしてそれだけでなく、「AIを使って何かを解こうとする“現場”がどうなっているのか、“どういったデータ”を集めればよいのか」、そういった「ソーシャルインテリジェンス」が必要になるという。

 そして人間にあってAIにないものとして、身体、知恵、欲、良心、意思、責任、人格をあげた。つまり、「何がやりたいのか、何がほしいのか、何が倫理的なのか」に関する仕事は、人間が担うことになるそうだ。

 そしてAIは、過去に起こったことを徹底的に覚えて、そのパターンで何か答えを出すことは得意だが、「過去に経験がないことは解けない」ので、たとえば、「過去の就職データをAIに読ませて採用をやらせたところ、男子ばかりを選んでしまった」という。男女共同参画型社会のなかで「従来の価値観を変え、新しいことをやらなくてはいけないときには、人間が必要になる」というわけだ。人間の仕事は今後、「想定外、板挟み、修羅場と向き合ったときに乗り越えていく、そういったものになっていくだろう」と語った。

2020年からの高大接続改革



 そしてそうした能力・資質を身に付けるために必要となるのが、「Project(Problem) Based Learning」と「探求学習(Elaboration)」になるという。プロジェクトをやれば、お金がない、人が足りない、部長と課長の言っていることが違うなど、葛藤・矛盾を肌身で実感することになるからだ。

 そこで教育改革では、知識・技能だけではなく、これからは、「思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性・学びに向かう力・人間性に重きをおく」方針になり、次のような学習指導要領の改革、入試改革を行っている。

・小・中・高を通じて、アクティブラーニングを導入
・小学校では、異文化コミュニケーション、プログラミング的思考学習の導入
・高校では、「理数探求、総合探求」→「Project Based Learningと探求活動」になり、これまでの「公共」が、対立やジレンマを克服する力、責任ある行動をとる力を実質的に学ぶものになる。また、「歴史総合」がこれまでのような暗記科目ではなく、先人たちの苦闘を学び今に活かすものに変わる。「地理総合」もまた暗記科目ではなく、世界各地での社会課題と苦闘する人々の実践を学ぶものとなり、「情報」→「IT&Data Literacy」となるそうだ。

 入試では、思考力・判断力・表現力を問うものに変えるため、次の点が改革される予定だ。

・2020年度から大学入試センター試験を共通テストにし、記述式を導入、多岐選択問題も思考力を問うものとする(大学入試センター試験は2020年1月の実施を最後に廃止)
・国立大学の個別入試においても、論述式を導入する
・国立大学の定員の3割をAO推薦にし、探求活動や課題活動を評価する
・2024年から共通テストに「情報」を追加する

 早稲田大学政治経済学部では、数学を必修にし、英語の外部試験の活用、論文試験の導入を決めているように、学習指導要領と連動した入学試験の改革、準備が私大でも進んでいるという。

前文部科学大臣補佐官で、現在、東京大学と慶應義塾大学の教授である鈴木寛氏
前文部科学大臣補佐官で、現在、東京大学と慶應義塾大学の教授である鈴木寛氏

 日本の教育についてはネガティブな情報も多いが、本講演で、実は高いポテンシャルをもっていると感じた。今後80年、どのような社会になり、人々がどのような仕事をしていくのか、それははかり知れない。入試変革に直面している生徒たちは大変だと思うが、皆が活躍できる未来をぜひ切り拓いてほしい。
《渡邊淳子》

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