【NEE2019】文科省・総務省・経産省が語る「教育ICTの最新動向」

 教育関係者向けセミナー&展示会「NEW EDUCATION EXPO 2019(NEE2019)」では、「教育の情報化の最新動向」と題して、文部科学省と総務省、経済産業省の各省の施策が紹介された。

教育ICT 先生
NEW EDUCATION EXPO 2019「教育の情報化の最新動向~各省の施策から見える教育の情報化の展望~」札幌会場のようす
  • NEW EDUCATION EXPO 2019「教育の情報化の最新動向~各省の施策から見える教育の情報化の展望~」札幌会場のようす
  • 経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長 浅野大介氏
  • 総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報活用支援室長 田村卓也氏
  • 文部科学省 初等中等教育局 プログラミング教育戦略マネージャー 中川哲氏
 教育関係者向けセミナー&展示会「NEW EDUCATION EXPO 2019(NEE2019)」では、「教育の情報化の最新動向」と題して、文部科学省と総務省、経済産業省の各省の施策が紹介された。

 東京ファッションタウンビルで2019年6月6日から6月8日に行われた「NEW EDUCATION EXPO 2019」は、一部のセミナーが札幌と旭川、盛岡、仙台、名古屋、広島、福岡、宮崎、沖縄の全国9か所のサテライト会場に中継された。今回は、サテライト会場の1つである札幌会場で受講した内容をお届けする。

経済産業省


経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長 浅野大介氏



 経済産業省は、一億総活躍の社会を一刻でも早く実現しようと、社会変革に取り組んでいる。それを推進していく中で、教育がどのように変化していくのかが問われている。そこで、教育の未来を描いてみようと、2017年7月に新しいプロジェクトチームを発足。公立・私立を問わず、幼稚園・保育園から小中高校まで全国の教育現場で実証実験を行う中で、さまざまな課題が見えてきたという。

 2018年7月には「未来の教室」プラットフォームを始動。「学びのSTEAM化・プロジェクト化」「まなびの自立化・個別最適化」の2つを目指し、2018年度は23の実証プロジェクトを始めた。たとえば、千代田区立麹町中学校では、一斉講義は原則として行わず、AI型ドリル教材「Qubena」を利用し、生徒ひとりひとりの進度に合わせてわかるまで学習することで、上位と下位の差が縮まっているという。従来の半分の時間で終えられるため、捻出した時間を活用して、STEAM(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Arts:リベラルアーツ/幸福な人間社会を作る道具※、Mathematics:数学の頭文字をとった造語)ワークショップを実施している。
※発表資料より。

 また、静岡県袋井市立三川小学校では、一斉講義は最初と最後のそれぞれ約5分のみ。真ん中のメインの時間は、凸版印刷のデジタル教材「やるKey」を利用し、児童ひとりひとりの進度に合わせて学習している。一斉講義と違い、児童の手が止まらず、児童同士で学び合っているようすが見られたという。自学自習と学び合いがICTで実現しているのだ。

 浅野氏は「『つくる』と『知る』が循環した学びを可能にするために、産業界の前線で活躍している人材や世界の最先端研究者が子どもたちに情報を発信する機会を作り、文部科学省や総務省と一体になって学びの環境整備をしていきたい」と述べた。

総務省


総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報活用支援室長 田村卓也氏



 総務省は、教育の情報化に向けて「ハード(システム)」と「ソフト(コンテンツ・人材)」の2つの側面で取り組む。ハード面では、「先導的教育システム実証事業」(2014年~2016年)と「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」(2017年~2019年)、ソフト面では、「若年層に対するプログラミング教育の普及促進」(2016年~2017年)と「地域ICTクラブ普及推進事業」(2018年~2019年)。計4つの事業を展開している。

 先導的教育システム実証事業では、Webブラウザで動作する「教育クラウドプラットフォーム」を標準化。教育委員会や学校向けには「教育ICTガイドブックVer.1」を作成した。ガイドブックでは、40にわたる教育ICT先進事例を掲載している。

 スマートスクール・プラットフォーム実証事業は、文部科学省と連携し、5地域・19校において実施。教職員が利用する「校務系システム」と児童生徒が利用する「授業・学習系システム」の情報連携を実現し、標準化を進めている。総務省は「校務系システム」と「授業・学習系システム」の2つのシステムがどのように連携するのか、おもに技術的な検証を行い、文部科学省は連携したデータをどのように現場で生かすのか、おもに教育面の質の向上について検証している。

 若年層に対するプログラミング教育の普及促進では、地理的・身体的条件によらず、ICTを活用してすべての児童生徒が受講できるプログラミング教育モデルを実証した。具体的には、36都道府県の105校(小学校60校、中学校12校、そのほか23校)で40のモデルを実証。モデル実証ができなかった11件を中心に20自治体の教育委員会と連携して出前講座を実施した。

 地域ICTクラブ普及推進事業では、地域で子どもや学生、社会人、高齢者などがモノづくりやロボット操作などを楽しく学び合う中で、世代を超えて知識や経験を共有する仕組みを整備。2018年度は23団体を採択し、全国に62クラブが設置された。参加児童生徒数は2,029人、453人のメンターが育ち、209人のサポーターがクラブを支援。講座実施総数は445回にのぼる。アンケート結果を集計すると、参加児童生徒の男女比は約2:1、小学校中~高学年がもっとも多く、約98%が講座に満足していたことが明らかになった。

 地域ICTクラブの成果を受けて、目的・役割や講座の設計・運営など6項目にわたるガイドラインを策定した。田村氏は「地域ICTクラブの取組みが広がっていけば」と抱負を語った。

文部科学省


文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長 高谷浩樹氏(高はハシゴ高)



 新学習指導要領では、情報活用能力を「学習の基盤となる資質・能力」と位置付け、学校のICT環境整備とICTを活用した学習活動の充実を明記した。学校で子どもたちに情報活用について教え、学校でICTを使うことにより、情報活用能力を高めようと文部科学省では取組みを進めている。しかし教育現場では、教育ICT化の必要性が浸透しておらず、文部科学省では強い問題意識をもっているという。

 教育ICT化を進めるために、文部科学省は「2018年度以降の学校におけるICT環境の整備方針」を2017年12月26日に策定。全学校種に無線LANを100%整備することや、学習者用コンピューターを3クラスに1クラス分程度整備することなどを盛り込んだ。自治体向けには「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」を策定。必要経費については地方財政措置として、2018年度から2022年度まで単年度1,805億円を政府が自治体に交付することとした。1校あたりに換算すると、生徒642人程度の高等学校で434万円、15学級の中学校で595万円、18学級の小学校で622万円となる。

 しかし現状では、普通教室の無線LAN整備率は34.5%、教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数は5.6人と目標からほど遠い。特に都道府県の格差が大きく、同じことを習うにも子どもたちの環境が異なってくる。「これだけの教育格差を生んでいるということは非常に問題。文部科学省として危機意識をもっている」と高谷氏は警鐘を鳴らす。

 15歳を対象としたOECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)の結果によると、前回の調査と比べて読解力の平均得点だけが顕著に低下していた。これは、コンピューター使用型調査への移行の影響などが考えられる。正解を導いているのに、コンピューターを使いこなせていないのではないかと高谷氏は危惧する。さらに、PISA2015「ICT活用調査」において、ほかの生徒と共同作業をするために学校でコンピューターを使う頻度が日本は低く、「まったく使っていない」が9割以上にのぼり、諸外国と比較すると最下位だった。

 これらの状況を受けて文部科学省は、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」の中間まとめを2019年3月29日に公表した。目指すべき次世代の学校・教育現場を実現するために、「遠隔教育の推進による先進的な教育の推進」「教師・学習者を支援する先端技術の効果的な活用」「先端技術の活用のための環境整備」の3つを提示している。6月末に最終まとめを公表する予定だ。

 学校の情報化は、今や政府全体の重要課題となっている。文部科学省は、「教師が情報教育を進めるための万全の準備」「学校のICT環境整備」、遠隔教育や校務支援システムといった「関係者全員によるICT活用」を推進していく。そのために高谷氏は「先生や教育委員会、政府、企業も巻き込み、関係者の力を結集していきたい」と意気込みを語った。

文部科学省 初等中等教育局 プログラミング教育戦略マネージャー 中川哲氏



 文部科学省と総務省、経済産業省が連携して立ち上げた「未来の学びコンソーシアム」の調査によると、小学校でプログラミングの授業を実施している自治体の割合は、2017年度の16.1%から2018年度の52.0%へ大幅に増加。一方、特に取組みをしていない自治体は2017年度の56.8%から2018年度の4.5%へ大幅に減少した。2020年度から始まるプログラミング教育に向けて、文部科学省はプログラミング授業実施率100%を2019年度中の目標に掲げる。

 プログラミング教育の推進状況を自治体の規模別にみると、規模が大きいほど取組みが進み、規模が小さいほど遅れている。特にプログラミング教育の授業実施は、規模が小さい自治体で遅れており、政令指定都市・中核市の91.1%に対し、町は34.2%、村・組合は21.7%だった。

 プログラミング教育を推進する際の課題は、「人材不足」がもっとも大きい。自治体の規模別にみると、政令指定都市・中核市の88.5%に対し、町・村・組合は92.1%が課題にあげていた。また、自治体の規模が大きいほど教員経験のあるプログラミング教育専任担当者がいる割合が高く、取組みに積極的だったという。

 これらの調査結果を受けて、「プログラミング教育の基本的な考え方の理解を高める」「授業に適切な教材と指導方法の提供」「自治体の規模に応じた支援」が課題であることが明らかになった。これらの課題を踏まえ、未来の学びコンソーシアムでは、小学校プログラミング教育の手引きやYouTubeチャンネルによる情報提供、実践事例の紹介、研修教材や推進パンフレットの提供などに取り組んでいる。

 文部科学省と総務省、経済産業省の登壇者4人により、各省の施策を通じて教育の情報化の展望が見えてきた。社会が変革期を迎え、教育も変わろうとしている。各省をはじめ、教育委員会や先生、企業などが連携して学びの環境を整備し、子どもたちにとってよりよい未来が迎えられることを期待したい。

 なお、札幌会場には、3日間でのべ450名の参加者が来場した。東京会場のセミナーのようすがプロジェクターで映し出され、セミナー会場にいるような臨場感で受講することができた。
《工藤めぐみ》

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