いつか触れさせてあげたい本選びは、2つの視点から行います。◆1つ目の視点:お子さんを育てていくうえで大切にしたい気持ちや考え方をご家族で話し合って、それに合う本を探してみる。「思いやりをもってほしい」「明るい希望をもって日々を過ごして欲しい」「困難に出会っても乗り越えていく強さをもってほしい」「友達の素晴らしさを感じてほしい」「自然の美しさに感動してほしい」「思いっきり笑える時間をもってほしい」「命の温かさを知ってほしい」など、あげ始めたらキリがないと思います。 こういった親としての思いをあげていき、それに合った本を探してみるのです。ただし、本に出会うのはお子さんですから、親の好みを押しつけてはいけません。お子さんが出会いたくなるような本を選んでくださいね。◆2つ目の視点:お子さんが何に関心をもっているかをよく観察して、それに関連するものを柔軟に連想してみる。 たとえば、お子さんは折り紙が好きだとしましょう。もちろん折り紙の折り方の本は、本棚に入れてあげましょう。さらに「色紙で作ったもの」から連想して、貼り絵が美しいエリック・カールさんの絵本を並べてみるのもいいですね。ややごつごつした絵柄から、長谷川義史さんの絵本がぴんとくるかもしれません。 「立体的な形」というところから、ピラミッドやスフィンクスの絵が描かれた本を見つけてみてもいいでしょう。「折っていくと形が変わる」というところから連想して、「ピタゴラスイッチ」の本を選んでみてもいいですね。「へんしんトンネル(あきやまただし)」などの言葉遊びの本に連想をつなげてもいいでしょう。 というように、お子さんが関心をもっているものの特徴と、どこかで重なる内容の本を選んでみてください。これら2つの視点で本を選んでいくと、それこそたくさんの候補が出てくるでしょう。今はインターネット上に本の紹介サイトがたくさん開かれていますから、参考にしてみるのもいいでしょう。 そして、「子どもがいつか手に取ってくれるといいな」と感じた本を選んで、本棚に入れます。全部を買わなくてもいいですよ。図書館で借りてきてもいいですからね。読まないまま返すことになっても構いません。出会いの種まきをしているのですから、焦る必要はないのです。 本棚の中で一番目につく段とは別の段に入っていますから、お子さんもそれらの本をいつも目にするわけではないでしょう。でも日ごろの生活の中で、ふとした拍子に本の背表紙が目に入ります。何となく気になって取り出して、また読まずにしまうこともあるでしょう。 それで十分です。 興味を示さないものは、今示さないだけ。そのときに興味を示さなくてもがっかりする必要はありません。1年、2年越しで興味を示すことだってあります。出会いはお子さんが決めることなので、「今はタイミングじゃないんだな」と思って、そのまま本棚に差しておきましょう。お子さんのタイミングがやってきたときに、手にとってくれるでしょう。 ただ、まったく何の工夫もしないのでは、お子さんと本の出会いがなかなか上手くはいきません。そこで「出会いの本棚作り」の次のポイントです。定期的に本の配置を入れ替えてください。 すでに何度も触れていて本人も好きになった本は、いつまでも一番目につく段に入れておくのではなくて、一つ上や下の段に移動させましょう。意識的に探さないと目が届かない段に移してしまうのです。 お気に入りの本ですから、一番目につくところに入れておかなくても、自分から取りにいきます。その本と疎遠になったりはしませんからご心配なく。 そして空いたスペースには、お子さんが最近少し気になり始めていた本を移動してきましょう。そろそろ出会ってほしいなと思う本も移動させましょう。自然と目がいく段に入っていますから、気にする機会が増えていきます。 でもここでも焦らないでくださいね。本の入れ替えをしても、すぐに新しい本に手を伸ばすとは限りません。少なくとも1~2週間は黙って見守ることとしましょう。するとお子さんが興味を示す本が出てきます。読んで欲しそうな顔をする本が、見つかります。 そうしたときに背中をごく軽く押してあげてください。「面白そうだね」と声をかけてみるとか、本を見て、お母さんの顔を見て、また本に目を移すお子さんのようすに合わせて「読んであげようか?」とか。 にっこりするだけでいいときもあります。 新しい世界に触れるときには少し勇気が要りますから、それを応援してあげるイメージです。お子さんは自然と本を手にとり、ページを開き始めるでしょう。 いかがでしょうか? お子さんが本に出会っていくイメージはわきましたか? 出会いの本棚作り、ぜひチャレンジしてみてください。 次回は、本好きな子が育つ「読み聞かせの工夫」についてお話ししたいと思います。<著者紹介>小川大介(中学受験専門プロ個別指導教室SS-1代表) 1973年生まれ、京大法学部卒。関西最大手塾の看板講師として活躍後、2000年から現職。一般の個別指導教室とは一線を画し、発問応答指導、毎月の学習カウンセリング、塾の使い方指導を導入。教育コンサルティング機関へとSS-1を育て、毎年、御三家、灘中他有名中学合格者を多数輩出する。生徒自身と家庭の学習力を最大限引き出すノウハウは、学年を問わず定評があり、近年は、子どもたちが幼児低学年のうちに「自ら学ぶ力」を授ける活動に力を入れている。