このコラムでは全6回にわたり、未就学期における子育てや育ちの環境について、おもに発達の遅れや偏り、「発達障害」の側面から、その特徴や具体的な関わり方について紹介していきます。
第4回までは、発達障害とはどういうことか、また、困った時はどこに相談するべきかをお伝えしてきました。第5回は、具体的に発達障害かどうかを判断する方法についてご案内していきたいと思います。
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◆「診断」は医療機関が行うこと・もの
発達障害かどうかを検査するのは、専門の医療機関にいる、医師や臨床心理士などの専門家です。専門医療機関で検査を実地して初めて、医師が発達障害か否かの診断を下します。検査にはさまざまな方法がありますが、いずれも専門の機関向けに販売されているキットが多く、一般家庭では購入できないものがほとんどです。
◆家庭で使える、オンラインチェックツールのあるWebサイト
しかしながら、専門医療機関で診断を受ける前に、ご家庭でも傾向をチェックできるツールがあります。たとえば、Webサイト「軽発達障害フォーラム」では、発達障害に関わる親の会、相談機関、塾などの検索ができるほか、「ADHDオンラインチェック」や発達障害に関わるチェックシートを公開しています。あくまで目安のため、診断ではない点には注意すべきですが、傾向と対策を考えるためにはとても便利なWebサイトです。
◆専門機関で受けることができる検査
専門機関で受けることができる検査には、下記のようなものがあります。
・KIDS(キッズ) 乳幼児発達スケール
1989年に「公益財団法人発達科学研究教育センター」より発表された、全国38都道府県の乳幼児約6,000名によって標準化された新しい検査です。
適用範囲:0歳1か月~6歳11か月の幼児
所要時間:10~15分程度
実地方法:対象児の行動をよく観察している保護者などが、約130項目からなる質問について乳幼児の日頃の行動に照らし合わせ、○×で回答します。この検査は、自治体にある児童発達支援センターや、自治体の家庭児童相談室、子育て支援課の支援クラスでも実地していることがある、比較的簡単なテストです。
・新版K式
京都市児童院より1983年に「新版K式発達検査増補版」が刊行され、さらに、2001年に「新版K式発達検査2001」が刊行された検査方法です。
適用範囲:0歳~成人
所要時間:30分~1時間程度
実地方法:1対1で個室で実地。おもに音がなるおもちゃやミニカーなど、乳幼児が興味があるもので検査するので、子どもの自然な行動を観察できる点が特徴です。あくまで自然な行動を観察して考察していくため、何度か行うこともあります。
・田中ビネー知能検査
田中教育研究所より、1947年から幾度の改正をへて、2003年に「田中ビネー知能検査V(ファイブ)」として発表されている検査方法です。ここでは、田中ビネー知能検査全般について紹介します。
適用範囲:2歳~成人
所要時間:30分~1時間程度
実地方法:1対1で行います。特徴は、「ことば」をほとんど使わず、問題をすべてジェスチャーで教示し、パフォーマンス(動作)で応えさせるものです。言葉が十分に発達していない子どもや聴覚障害児の発達診断に有効です。子どもが興味を持って取り組めるので実地しやすく、また、古くからある検査方法なので、実地機関が多いという印象があります。
・遠城寺式乳幼児分析的発達検査
1958年、九州大学の遠城寺宗徳教授らによって発表された、日本で初めての乳幼児向けの発達検査法です。
適応範囲:0か月~4歳7か月
所要時間:30分程度(実地者によって前後あり)
実地方法:観察者が保護者と子どもの関わりをチェックします。特別な器具などがなく、簡単なテストを4、5か月の間隔で実地します。検査内容は、「運動」「社会性」「言語」の3分野から質問され、「移動運動・手の運動・基本的習慣・対人関係・発語・言語理解」の6つの領域で診断をします。
このほかに有名な検査方法には、16歳以降で有効なウェクスラー知能検査(WISC・WAIS)などがあります。
◆検査にはいくらかかるの?
発達診断については、医療機関で行われた場合、医療報酬が適応されます。児童発達支援センターや自治体で受けられた場合は無料です。しかしながらその場合は、診断とはならず、傾向を把握するために実地することになりますので、ご注意ください。
発達に関して心配されている保護者の皆さまが、専門機関にて検査を行うという決断は非常に大きな心理的負担になります。検査を受けてしまったら我が子をいわゆる障害児と認めることになると考えてしまう方もいらっしゃると思います。
私個人としては、保護者の方々が専門機関の検査が必要だと思った時が最良のタイミングなのではないかと考えております。
我が子の発達状況が気になる保護者の方には、無理に専門機関にて検査をするのではなく、自治体の支援の中で、チェックシートなどで無料で受けられるものがあります。そのような機会を利用して、お子さまの傾向を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
まずは、お住いの自治体に不安に思っていることなどを相談されることをお勧めいたします。相談できる場所があるだけで、きっと心が少しでも軽くなると思います。ぜひともご活用ください。
第6回では、生きづらさを抱える子どもたちに対し、私たち大人ができることは何か、食生活や療育の観点から読み解いていきます。
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耳にすることも多くなった、子どもの「発達障害」。コラム「発達障害」では、全6回にわたり、未就学期における子育てや育ちの環境について、おもに発達の遅れや偏り、「発達障害」の側面から、その特徴や具体的な関わり方について紹介する。
著:株式会社SHUHARI 代表取締役 中村敏也
1977年7月埼玉県生まれ。明治大学経営学部卒業後、企業勤務の傍ら待機児童問題に興味を持ち、保育学や法制度を学ぶ。2004年9月、埼玉県志木市にて「保育園 元気キッズ 志木園」を開園。以降、地域のニーズに対応しながら小規模保育事業、認可保育所、児童発達支援事業へと展開を拡げる。2017年1月現在、志木市・新座市・朝霞市内に7施設を運営。2018年度には埼玉県内初の小規模保育事業と児童発達支援の複合施設を開園予定(埼玉県・朝霞市)。新座市子ども子育て会議委員。