【親子でめぐる登録有形文化財】赤門と並ぶあのシンボル、いざ東大へ<学び舎編1>

 高崎経済大学地域科学研究所特命教授、NPO産業観光学習館専務理事の佐滝剛弘氏による「登録有形文化財」Web上ショートトリップ。原則、無料で見学でき、休日に足を伸ばせば見学できる文化財を扱う。第1回の舞台は「東京大学」。

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安田講堂は東大のシンボル
  • 安田講堂は東大のシンボル
  • 正門と門衛所 正門の設計は築地本願寺などの設計で知られる著名な建築家伊東忠太
  • 駒場の教養学部内にある旧制一高の本館
  • 著者:佐滝 剛弘(さたき よしひろ)高崎経済大学地域科学研究所 特命教授/NPO産業観光学習館 専務理事
  • 「登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた」(勁草書房 2017)
 これからしばらく、一般にはあまり知られていない「登録有形文化財」をめぐるショートトリップを何回かに分けてお送りします。新しい連載の始まりです。

 「えっ、登録有形文化財って?」「あまり聞いたことないけど、おもしろいの?」そんな声が聞こえてきそうですね。数ある登録有形文化財を余すところなく全部紹介するのは至難の業なので、まずは誰にでも身近な学校の登録有形文化財からこの連続コラムを始めたいと思います。

登録有形文化財って何?



 登録有形文化財は、古い建物や施設を活用しながら緩やかに保存していこうという制度のもと、全国各地で登録が進んでいる文化財です。現在、日本で1万1千件を超える国の登録有形文化財があります。

 登録されるのは築50年以上経っていて、その地域の景観上重要なものや二度と建てることが難しい建物や施設です。国宝や重要文化財よりも、もう少し軽い感覚で登録される、「(ヘビーではなく)ライトな文化財」と言ってよいかもしれません。実はみなさんが誰でも知っているものも登録されています。たとえば東京なら、東京タワー。大阪なら通天閣。どちらも都市のシンボル的存在ですね。また、旅館やレストランなど、施設の中で泊まれたり食事ができる文化財もかなりあります。

 第1回は、日本の大学の頂点に立つ「東京大学」に足を運んで見ましょう。

登録有形文化財・学び舎編その1:東京大学



 東京都内と千葉県にキャンパスを構える東京大学。その中心となる本郷キャンパスには、7件もの登録有形文化財があります。東大で文化財と聞くと、有名な赤門を思い浮かべる方がいるかもしれません。

赤門とならぶ東大のシンボル



 東大のシンボルともいえる赤門は、江戸時代後期に造られた加賀藩上屋敷の表門。こちらは国の重要文化財です。登録有形文化財になっているのは、赤門より少し北にある正門と隣の門衛所などですが、そのうちもっとも有名なのはこれも東大のシンボルのひとつ、「安田講堂」です。

 竣工は関東大震災後の1925年(大正14年)。中央に時計台を兼ねた塔がそびえるゴシック風の建物です。安田とは、この講堂を寄付した戦前の四大財閥のひとつ、安田財閥の総帥、安田善次郎から採られています。とはいえ、匿名で寄付をしていたため、安田講堂と呼ばれるようになるのは、彼の死後です。

東大の歴史を背負った安田講堂



 左右対称、赤茶色のタイルが貼られた重厚な造りで、アカデミックな雰囲気を漂わせています。1968年(昭和43年)には大学紛争で占拠した学生と機動隊とがぶつかる、いわゆる安田講堂事件が起こった場所でもあり、学生運動のシンボルとしての歴史も背負っています。

 ちなみに私は、1979年に東大に入学しましたが、まだ占拠事件の影響で講堂は閉鎖されており、入学前の健康診断の際に一度入ったきりで、在学中は中に入る機会がありませんでした。今は整備されて、大学の行事だけでなく、学会やシンポジウムの会場などにも使われるので、学外の人も内部を見学する機会があります。

 この安田講堂や正門・門衛所のほか、その近くに建つ工学部や法学部などの戦前の建物も併せて登録有形文化財です。東大は誰でもキャンパス内に入ることができますので、休日の静かなキャンパスを親子で訪れ、これらの建物を間近に見て、大正末期から昭和初期の美しい建築様式を実感してみてはいかがでしょうか。もしかしたら、この大学で勉強したいという気持ちが芽生えるかもしれません。

 なお、東大には他にも本郷キャンパスの北にある弥生キャンパス、目黒区の駒場キャンパスなどに登録有形文化財の建物があります。さすがに150年近い時を刻んだ大学ですね。

 次回は「学び舎編その2:学習院大学」をご紹介します。
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 地域の歴史や文化と深く結びつき、築50年以上の歴史的建造物や施設が登録される国の登録有形文化財。民家や病院、工場、駅舎、市庁舎などさまざまな建物や施設1万1千件が登録されている。その多様性や活用法など登録有形文化財の概要を豊富な写真とともにわかりやすく伝える初めての一般書として、本連載著者である佐滝剛弘氏による「登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた」(勁草書房)が2017年10月に刊行された。地方創生や観光資源の再発見に注目が集まる中、登録有形文化財にも光が当たりつつある。「世界遺産や国宝などの著名な建物は見飽きた」「もっと身近な文化財を知りたい」という子ども、保護者にぴったりな“新発見連続”の一冊。

佐滝 剛弘(さたき よしひろ)
(高崎経済大学地域科学研究所 特命教授/NPO産業観光学習館 専務理事)
1960年、愛知県生まれ。東京大学教養学部(人文地理専攻)卒業。NHK報道局・編成局などで、「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」など数多くの紀行番組を制作。現在、NPO産業観光学習館で群馬・埼玉県の絹産業を中心とした観光振興策の策定やツアーの企画・引率を行っている。世界遺産は60か国およそ400件、国登録有形文化財はおよそ1万件を踏破。どんな年代の人にもわかりやすく、知的好奇心を喚起する解説には児童生徒からも定評がある。おもな著作は「高速道路ファン手帳」(中公新書ラクレ 2016)「それでも、自転車に乗りますか?」(祥伝社新書 2011)「世界遺産の真実―過剰な期待、大いなる誤解―」(祥伝社新書 2009)など。
《佐滝剛弘》

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