【親子でめぐる登録有形文化財】母を思って…現SMBC日興証券創業者・遠山元一が建てた大邸宅へ<美術館・博物館編3>

 高崎経済大学地域科学研究所特命教授、NPO産業観光学習館専務理事の佐滝剛弘氏による「登録有形文化財」Web上ショートトリップ。12月の美術館・博物館編の第3回は、埼玉県比企郡川島町の「遠山記念館」を紹介する。

教育・受験 その他
遠山記念館 中棟
  • 遠山記念館 中棟
  • 茅葺きの東棟
  • 緑豊かな庭園
 高崎経済大学地域科学研究所特命教授、NPO産業観光学習館専務理事の佐滝剛弘氏による「登録有形文化財」Web上ショートトリップ。11月は「学び舎編」として、原則無料で見学できるキャンパス内の文化財を4か所紹介した。12月は、親子で行きたい首都圏の美術館や博物館を取り上げている。

 美術館・博物館編では、第1回で東京都世田谷区にある「五島美術館」、第2回で神奈川県鎌倉市にある「鎌倉文学館を取り上げた。第3回にあたる今回は、埼玉県比企郡にある「遠山記念館」を紹介する。

「登録有形文化財」って何?
基礎からわかる!親子でめぐる登録有形文化財

<学び舎編>の一覧
第1回 東京大学
第2回 学習院大学
第3回 横浜国立大学
第4回 国際基督教大学


川島町の宝物…遠山記念館



 埼玉県比企郡の川島(かわじま)町と聞いて、どのあたりにある自治体かすぐに地図が思い浮かぶ人は、そんなに多くないかもしれません。鉄道が四通八達している埼玉県であるにも関わらず、町域にまったく鉄路が通っていないことも街の知名度があまり高くない理由のひとつでしょう。

 そんな川島町の宝物ともいえる美術館を、登録有形文化財のリストの中に見つけることができます。「遠山記念館」です。

 ここは、大手証券会社である日興証券(現在はSMBC日興証券)の創業者遠山元一(とおやま げんいち)が、苦労した母のために昭和初期に生家を立て直した邸宅で、彼の死後は、彼が収集した美術品とともに一般公開されている私設の美術館です。邸宅の総建坪は400坪を越え、東棟中棟西棟の3棟の住居と長屋門、外塀、茶室、土蔵などあわせて13件の建物が登録有形文化財となっています。

 遠山元一は、この地に豪農の長男として生まれましたが、父親の放蕩で生家は没落。高等小学校を卒業してすぐに日本橋の商店に丁稚奉公に出ました。その後も体を壊すなど苦労の連続でしたが、のちに会社を立ち上げ、母親のために故郷に大邸宅を建てました。

 東棟は生家に似せた豪農の造り、中棟は来客をもてなす書院造り、西棟は母のための数寄屋造りを基本とし、それぞれが渡り廊下で繋がっています。当時手に入る最高の材料を惜しげもなく使って建てられた住宅は、近代和風建築の最高峰と言ってよく、遠山の遺志により、1970年から一般公開されるようになりました。

 遠山が収集した1万点を超える美術工芸品を公開する美術館も素晴らしく、切断されて諸家に分蔵されたことで知られる「佐竹本三十六歌仙絵(さたけぼんさんじゅうろっかせんえまき)」のうちの1枚をはじめ、所蔵する6点は国の重要文化財で、これらも展示されています。なお、「佐竹本三十六歌仙絵」のうちの「清原元輔像(きよはらのもとすけぞう)」は、美術館・博物館編第1回で取り上げた「五島美術館」や東京国立博物館などにも収蔵されています。邸宅に接するこの美術館は、2017年12月20日現在、改修のため閉館中ですが、2018年4月1日にはリニューアルオープンの予定とのことです。

 また、主屋の前に広がる四季折々の庭園も見ごたえがあります。武蔵野の田園風景の中に忽然と現れる大邸宅と、その誕生にいたるひとりの実業家の成功までの物語、じっくりと時間をかけて味わいたい登録有形文化財です。

 川越駅(JR・東武)、本川越駅(西武)、あるいはJR桶川駅からバスに乗り、最寄りのバス停から少々歩く必要があり、公共交通機関の利便性は良いとはいえませんが、それだけに一度は思い切って訪れたいところといえます。なお、マイカーなら、圏央道川島インターチェンジから10分もかからず便利です。

次回は、神奈川県小田原市の「美術館・博物館編その4:松永記念館」をご紹介します。

遠山記念館


場所:埼玉県比企郡川島町白井沼675
開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日:月曜日(祝日の場合、翌日休館)
※年末年始、展示替えのための休日あり
入館料:大人700円、学生(高校・大学)500円
※中学生以下は無料
※障害者手帳提示で200円割引
※美術館休館中の入館料は大人500円、学生(高校・大学)300円
---
 地域の歴史や文化と深く結びつき、築50年以上の歴史的建造物や施設が登録される国の登録有形文化財。民家や病院、工場、駅舎、市庁舎などさまざまな建物や施設1万1千件が登録されている。その多様性や活用法など登録有形文化財の概要を、本連載著者である佐滝剛弘氏が豊富な写真とともにわかりやすく伝える一般書「登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた」(勁草書房)が、2017年10月に刊行された。新聞書評欄はもちろん、各専門誌でも好評だ。子ども、保護者にぴったりな“新発見連続”の一冊。

佐滝 剛弘(さたき よしひろ)
(高崎経済大学地域科学研究所 特命教授/NPO産業観光学習館 専務理事)
1960年、愛知県生まれ。東京大学教養学部(人文地理専攻)卒業。NHK報道局・編成局などで、「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」など数多くの紀行番組を制作。現在、NPO産業観光学習館で群馬・埼玉県の絹産業を中心とした観光振興策の策定やツアーの企画・引率を行っている。世界遺産は60か国およそ400件、国登録有形文化財はおよそ1万件を踏破。どんな年代の人にもわかりやすく、知的好奇心を喚起する解説には児童生徒からも定評がある。おもな著作は「高速道路ファン手帳」(中公新書ラクレ 2016)「それでも、自転車に乗りますか?」(祥伝社新書 2011)「世界遺産の真実―過剰な期待、大いなる誤解―」(祥伝社新書 2009)など。

《佐滝剛弘》

【注目の記事】

編集部おすすめの記事

特集

page top

旬の教育・子育て情報をお届け!(×をクリックで閉じます)