5月は「学級崩壊」の兆しに注意、保護者ができるサポート

 神奈川県と埼玉県で計22年、小学校教諭として教壇に立ち、クラス担任としての経験も豊富な鈴木邦明氏に、5月だからこそ気をつけておきたい子どものサインや、クラスの異変について話を聞いた。

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5月だからこそ気をつけたい子どもとクラスの変化について、鈴木邦明氏に話を聞いた(画像はイメージです)
  • 5月だからこそ気をつけたい子どもとクラスの変化について、鈴木邦明氏に話を聞いた(画像はイメージです)
 ゴールデンウィークから数週間が過ぎ、ようやく日常が戻ってきた。子どもたちの生活も順調に進んでいることか思いきや、この時期だからこそ現れ始める「クラス問題」があるという。

 神奈川県と埼玉県で計22年、小学校教諭として教壇に立ち、クラス担任としての経験も豊富な鈴木邦明氏に、5月だからこそ気をつけたい子どものサインや、クラスの異変について話を聞いた。

ホッと一息の5月?実は「真の姿」が見える時期



 5月は“学級の本当の姿が見えてくる”時期です。保護者として、しっかりと自分の子どものいる学級のようすを把握し、必要に応じて子どもへ関わることが大切な期間にあたります。学級の状態が良くないような場合は特に、保護者のフォローが非常に重要になるでしょう。

5月は先生にとって「試練の時」



 「本当の姿が見える」理由は、5月はクラスの状態に大きな差が出てくる時期だからです。4月は、子どもも教師も新しい環境の中で緊張しながら、必死で自分の居場所を探しています。ですから、年度始め(4月初旬)における学級のようすは、ほとんどのクラスがきちんとしています。子どもにとってみても、新しい担任はどんな人かわからないので、ようす見をしている月だと言えます。担任の先生が、「とんでもなく怖い」ということもあり得るからです。

 そういった時期を経過して迎える5月は、教師の力量が試されてくる期間にあたります。それぞれの子どもが、地を出すようになってきます。年度始めの新鮮さも落ち着いてくる中で、教師が何を大事にし、どのように子どもと関わっていくのかで、学級の状態が大きく変わるといっても過言ではありません。

 学級の状態(環境)は、学びの質に大きな影響を与えます。学校での教育は「善意」のうえに成り立っていると言えるでしょう。「正しいことは正しい」ということが通る状況です。しかし、学級の状況が混乱してくると、子ども同士の間はもちろん、教師と生徒の間でも「正しいこと」が通らなくなってしまう場面が出てきます。たとえば、子どもたちの間でズルが横行したり、平然と嘘をつく児童が出るような状態です。そういった学びの環境に陥ると、「教育」は行いにくくなってしまいます。

 力量のある教師は、さまざまな課題のある子どもたちが教室の中でも、きちんと学ぶことができるような環境作りに手間をかけます。一方で、力のない教師の場合は、学級の状態が悪化することを食い止めることができません。

学級崩壊の兆し…ほころび始めるのも5月



 一般的に「学級崩壊」と言われるものの発端が見えてくるのが5月です。すでに述べたように、4月は年度始めの緊張や環境の変化などが影響し、学級が混乱することは多くありません。その状態が、連休を経て少しずつ崩れてくるのが5月なのです。いわゆる「五月病」と呼ばれるものと同様の症状―たとえば意欲の低下や体調の不良など―が、学級においても起こる時期です。そういった子どもの状態と、教師の問題などが相互に影響し合い、学級の状態が不安定になってきます。

保護者はどうする?できるサポート3つ



 それでは、学校のようすを知るため、また、ようすがおかしいと気づいた際に保護者ができることは何でしょうか。保護者の立場から、子どもの学級のようすを把握する一般的な方法は、「参観」「子どもの話」「ほかの保護者の話」の3つです。

学級のようすを知るヒント:1、参観



 授業参観や見学会など、「参観」すると、学級のようすがよくわかります。授業を見れば、まとまりのある学級か、前向きな学級か、落ち着いた学級なのかを把握できます。可能な限り、授業参観には参加するとよいでしょう。

 ただし、あまりにも「きちんとした」授業が良いとは私は思いません。なぜなら、2つの不安があるからです。

 1つは、教師が強すぎるのではないか、ということです。多くはありませんが、威圧的・パワハラ的な教師も存在します。そういった担任の学級は、大きな問題は起こりませんし、授業も粛々と進んでいきます。しかし、そういった状況では、豊かな心などの育ちが期待できない場合があります。

 もう1つは、予行練習をしているような場合があるということです。自分に自信のない教師は、授業参観のためにリハーサルをする場合もあります。劇のシナリオのようなものを作り、その通りに授業をするような場合もあります。特に小学校の低学年では、そういったことがあり得ます。

 どういった状況にせよ、子どもの顔(目)を見ると、いろいろなことがわかります。いきいきとした顔をしている子どもが多いようであれば安心です。逆に、先に述べた「やらせ」のような授業の時は、子どもの顔が沈んでいます。これは、たとえ授業を見慣れていない保護者でも、見ればわかることです。うしろからだけでなく、横や前(廊下から前の扉を通して)から見ると、特によくわかります。

学級のようすを知るヒント:2、子どもの話



 学級のようすは、「子どもの話」からも知ることができます。学級がうまくいかなくなり出すと、子どもが不満をもらすようになります。「先生はずるい」というような言葉が出てくるのは、少しずつ状況が悪くなってきているサインでしょう。「ほかの子はどう思っているの?」と聞いてみることはよい方法です。子どもは、大人以上にしっかりとまわりのようすを見ています。逆に、「先生はすごいんだよ」「〇〇さんはすごいんだよ」というような言葉が出てくる時は、学級の状態が良い時ととらえてよいでしょう。

学級のようすを知るヒント:3、ほかの保護者の話



 「ほかの保護者の話」も、いろいろな情報が入りとても便利です。特にお子さんが連絡帳を書き忘れたり、あまり口数が多くなかったりする家庭の場合、まわりの保護者からの情報はとてもありがたいものです。

 ただし、これにはいくらか注意が必要です。保護者同士のメールやSNSなどでのやり取りでは、悪口のようなものが含まれることがあります。おもな内容は、クラスの子ども、保護者、そして担任などについてです。こういったものは、事実の確認が難しいですし、尾ひれがついて、大げさな話になっていることがあります。やり取りをするなら、そういったことをきちんと意識したうえで対応することが大切でしょう。

昔と違う?縮まる保護者と学校の距離



 ところで、保護者と学校との距離は以前よりも近くなっているように思います。授業参観の回数は、随分と多くなりました。通常の「授業参観」のほか、「〇〇作品展」「〇〇発表会」など、呼び方はさまざまですが、大体は1か月に1回程度、多いところでは頻繁に、保護者が学校を訪れることができる機会を設けているように思います。また、「学校開放日」「フリー参観日」などの呼び方で、一日中いつでも学校を訪れてよい、という方法を採っている学校もあります。そういった決められた日だけでなく、いつでも自由に参加をしても構わないという学校もあります。

 参観だけでなく、ほかの形でも保護者が学校と関わる機会も増えてきています。それは、「ボランティア」という形での関わりです。学校では、学級担任を始めとした教職員が学校教育活動を行なっています。しかし、人手が足りないという状況から、多様な立場の人に「ボランティア」という形で関わってもらっています。地域に住んでいる高齢の方、地域でお店や工場などに勤めている方などです。そういったもの1つに、「保護者ボランティア」というものもあります。たとえば、「読み聞かせボランティア」「昔遊びボランティア」「学習支援ボランティア」などです。

 保護者が学校に行く機会が増えると、たくさんのプラスな効果があります。参観だけでは見えない、学校や学級のようすがわかるようになります。ボランティアでは、自分のお子さんのクラス以外にも関わることもあるでしょう。そういった取組みの中で、お子さんのクラスのようすや学年のようすが見えてきます。学校関係者や保護者と関わることはまた、保護者にとっての刺激となることもあるでしょう。

 このようなボランティアは、平日の昼間だけのものでなく、土曜日や日曜日に行われる行事などの際にもあるので、日々多忙な保護者はなかなか難しいところですが、できるだけ可能なものには関わってみるとよいと思います。

学級外・家庭でできる学びのサポート



 これまでは、教師のことや学級のことについて述べました。最後に、家庭でできるサポートについて書きたいと思います。学級や子どもの状況は千差万別で、こうすればよいという、一律な対応や「これだけすれば大丈夫」という、唯一の“正解”はありません。それぞれの状況を正確に把握し、それに応じた対応をしていくことが大切でしょう。

 もちろん「うまくいっている」ような状況であれば、担任の学級経営に任せ、あまり親が関わらずにいてよいと思います。大事なのは「うまくいっていない」ような状況の時です。不安定な学習環境が原因で、子どもが学校で学べていないと思われる部分をフォローをしていくとよいです。

 たとえば、先述の威圧的な教師の場合、授業はきちんと成り立つはずなので、学習面はある程度きちんとできているはずです。その反面、心情面の成長に少し心配が出てきます。その部分を親が意識してフォローをするようにします。学級において、学級担任と子どもは似てくることが多いです。学級担任同様、強いこと、勝つことを良しとする発言などがあまりにも多く出てくるような場合、そういったことだけが大事ではないということを伝えていきます。

 学級に混乱が見られ、授業などの進度が遅い場合などは、学習に関するフォローを丁寧にやっていきます。積み重ねが必要な教科は特に注意が必要です。小学校の低学年では、算数が特に重要になります。算数はほかの教科以上に積み重ねが重要です。九九がスラスラと出てこない状況では、掛け算や割り算の筆算などにおいて苦労します。よって、低学年は特に算数に目をかけ、取りこぼさないような配慮が必要です。補足すると、実は「九九」は昔よりも学校での学習時間が減少しています。もともとケアが必要な内容であるにも関わらず、学級の状態が少し難しい状況にあるなら、よりしっかりとした親の関わりが大切になるでしょう。

 4月、5月とそれなりに良いスタートが切れれば、一先ずは順調でしょう。学級のようすは1年間で「山あり谷あり」で変化していきます。5月末の時点で良好な状態を維持しているのであれば、安泰です。もしそうでなければ、適切なフォローが必要なのはお話したとおりです。自分の子どもに対して親ができることはたくさんあります。特に、学級の状況が芳しくない時はなおさらです。お子さんのより良い育ちのために親ができることは何かということを考え、実行していくことが大事でしょう。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
平成7年 東京学芸大学教育学部 小学校教員養成課程理科専修卒業。平成29年 放送大学大学院文化科学研究科生活健康科学プログラム修了。神奈川県横浜市、埼玉県深谷市で計22年、小学校教諭として勤務。現場教員として子どもたちの指導に従事する傍ら、幼保小連携や実践教育をテーマとする研究論文を多数発表している。こども環境学会、日本子ども学会など、多くの活動にも関わる。平成29年4月からは小田原短期大学特任講師、平成30年4月からは帝京平成大学講師として、子どもの未来を支える小学校教諭、幼稚園教諭、保育士などの育成や指導に携わる。
《鈴木邦明》

鈴木邦明

帝京平成大学 人文社会学部児童学科 准教授。1971年神奈川県平塚市生まれ。1995年東京学芸大学教育学部卒業。2017年放送大学大学院文化科学研究科修了。神奈川県横浜市と埼玉県深谷市の公立小学校に計22年間勤務。2018年からは帝京平成大学において教員養成に携わっている。「学校と家庭をつなぐ」をテーマに保護者向けにも積極的に情報を発信している。

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