東京都医学総合研究所と東京大学の研究チームは2025年3月19日、英国ロンドン大学キングスカレッジと共同で実施した、日英両国の若者におけるメンタルヘルスの男女格差について国際比較研究の結果を発表した。女子の抑うつ症状は男子よりも重く、成長とともにその格差が拡大すること、男女間の抑うつ症状の格差は東京よりもロンドンの方が大きく、思春期に急激に広がることが明らかになった。
これまでの研究から、抑うつや不安などのメンタルヘルスの問題は、女性の方が男性よりも約2~4倍多く、特に思春期にその男女格差が顕著に現れることがわかっている。格差は社会や文化の影響を受け、国や地域によって異なると報告されているが、過去の研究の多くは一時点のみの横断研究であり、格差が現れ始める思春期早期から縦断的に追跡した研究はみられなかった。また、異なる国で抑うつ症状を比較する形での研究も不足していた。
そこで今回、ジェンダー平等の社会環境が大きく異なる東京(日本:ジェンダーギャップ指数149か国中125位)とロンドン(英国:同15位)の2つの縦断データを用いて、メンタルヘルス格差の比較・検討を実施した。
東京都内在住の約3,000名を対象とした追跡調査「東京ティーンコホート」では、参加者が10歳時点から調査を開始。ロンドン市内の中学校に在籍する約4,300名を対象とした「REACHコホート」では、11歳時点から追跡を行っている。今回は、東京ティーンコホートの参加者の12歳、14歳、16歳時点のデータと、REACHコホートの同年齢時点のデータを使用。抑うつ症状は、若者自身が質問紙に回答する形で測定した。
調査研究では、確認的因子分析を用いて、国や性別、年齢の違いにかかわらず、抑うつ症状のデータが比較可能な形で測定されていることを検証。そのうえで、ロンドンと東京の男女の抑うつ症状が、成長とともにどのように変化するかを潜在成長モデルで分析した。
その結果、ロンドン・東京共に、成長にともない男子よりも女子の抑うつ症状が悪化し、男女のメンタルヘルス格差が拡大していることが明らかになった。また、ロンドンの女子は、東京の女子に比べ、約4倍の速さで抑うつ症状が悪化していることがわかった。
この結果を、調査に参加した当事者である若者と研究チームとで議論したところ、若者の視点からみると、ロンドンの若者は東京の若者よりも、若いころから大人としての役割や責任を引き受けることが多く、成人社会におけるジェンダーギャップをより早い年齢から経験していることが示唆された。このことが、メンタルヘルスの格差の違いにつながっている可能性があるという。
研究の結果は、若者のメンタルヘルスの男女格差が社会や文化の影響を受けることを示しており、格差解消のためには若者を取り巻く社会環境を変えていくことが重要であると考えられるとしている。
なお、研究成果は2025年3月19日(日本時間)、国際学術誌「Lancet Child and Adolescent Health」(電子版)に掲載された。