【プログラミング教育の基礎4】小学校におけるプログラミング教育の本質…東北大・堀田龍也教授

 次期学習指導要領で注目される、小学校での2020年からのプログラミング教育の導入。その第一人者である東北大学大学院情報科学研究科・堀田龍也教授が「プログラミング教育」の基礎をわかりやすく解説。

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小学館:「プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア」
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 次期学習指導要領で注目される、小学校での2020年からのプログラミング教育の導入。その第一人者である東北大学大学院情報科学研究科・堀田龍也教授が「プログラミング教育」の基礎をわかりやすく解説。

はじめに



 文部科学省は平成28年6月16日に「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」を公表し、これを受けて検討された平成28年12月21日提出の中央教育審議会最終答申を経て、平成29年3月31日に次期学習指導要領が公示されるに至った。

 筆者はこれらの政策決定の渦中にいた。そして、多くの立場の方々の意見を聞いた。審議の結果、合意されたものが上記の政策文書である。ここに記載されたものが、政策としての効力をもつ。だから、まずはその真意を理解する必要がある。

 しかし、政策決定の途上で注目されつつも、結果としては採用されなかったものもある。それらの中にも、国の意思決定を取り巻くさまざまな力学の中で、最終案に残ることができなかったものの、十分に説得力をもつものもある。

 そこで本稿では、まず小学校段階におけるプログラミング教育の導入に関する時代背景と、政策の意図する具体的なプログラミング教育のカタチを整理する。そのうえで、その定義と少し外れたところで「あえて」主張する本書のポイントや、その政策との位置関係をていねいに説明してみることにしよう。

プログラミング教育が注目されるようになった、社会背景



 情報技術が加速度的に進行している今日のような状況は、「第四次産業革命」と呼ばれる。中央教育審議会の議論の中でも、人工知能(AI)と「第四次産業革命」という用語はよく話題に上った。

 農業でのドローンの活用の例を挙げよう。センサーを搭載したドローンが、ある農家の耕地の電子地図を把握しており、上空からセンサーで植物の生育状態を見極め、肥料や農薬の最適配分を計算し、最適な時期に計画的に蒔くというようなことがすでに実用化している。このことにより、ある農家の生産効率の向上のみならず、その農家の周辺農家との協調的な農薬散布や、地域ぐるみでの環境への配慮なども実現する。さらには、これらのビッグデータの解析により、気候条件と農作物の生産に関するよりきめ細やかな最適制御が実現し、将来的には、限られた農業人材をいつどこに配置すればよいかが計画できるようになる。

 これは農業での農薬散布の例に過ぎないが、縁遠く見えていた農業と、コンピューターを中核としたテクノロジーがこのように密接にコラボしているのだ。今後の世の中は、あらゆる仕事でコンピューターを的確に用いていかなければならない時代となる。そんな時代を生きていくことになる子どもたちには、コンピューターがどんな仕組みで動いていて、何ができ、何が苦手なのか、私たち人間はコンピューターをどう使っていくことが、より人間らしく生きていくことにつながるのかを知っておいてもらわなければならない。農業だけでなく、すべての職種が予想以上に情報化していく。社会生活が情報化の恩恵とリスクを背負い、その中で仕事をしていく時代を生きていくことになるのが、今の子どもたちである。

 これまでも、道具としてコンピューターを用いること自体は、それなりに学校教育に取り入れられてきた。しかし、どちらかといえば学校の情報化は、予算がかかることもあって後回しにされがちだった。ところが、このたび中央教育審議会の議論を経て作成された次期学習指導要領においては、コンピューターやネットワークを学びの道具として活用し、多様な情報を収集したり整理したり、自分の考えを含めてプレゼンしたりする「情報活用能力」を、言語能力と並列に「学習の基盤となる能力」として総則に示している。つまり、学びの基礎スキルとして明確に位置付けたことになる。

 先の農業におけるドローンの例は、自分が学習や仕事の道具としてコンピューターやネットワークを用いる基礎スキルだけでなく、その先にもう一段踏み込んだ教育が必要となるということを示唆している。それはすなわち、情報技術が社会に与えているインパクトやリスクを把握し、これらを上手に利用し、共存して生きていく時代に突入する時代に社会を支える人材を、これからの学校教育でどのように育てていくのかという教育課題なのである。

 これが、プログラミング教育が導入されるに至った社会背景だ。子どもたち自身が、コンピューターに命令を与えて動かすことを体験し、さまざまな方法を試行錯誤してようやく思いどおりに動くようにできるということを実感することを通して、身の回りにあるエアコンもロボット掃除機も、このように誰かがつくってくれたプログラムで動いて私たちの生活を助けてくれていること、そうやって情報技術に支えられて社会が構成されていること、そのプログラムを誰かが故意に変更して制御が異常になると、社会が混乱することを理解することができるようになる。これが情報社会に必要となる見方・考え方であり、第四次産業革命を迎えた以降の時代を生きていく子どもたちに備えるべき資質・能力だと考えられるようになったのだ。

 中・高校生であれば理屈でわかることであっても、小学生は体験しないと理解しにくい。小学校段階からプログラミング教育を行うことが学習指導要領に記載された理由はこれである。

プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア (教育技術MOOK)

発行:小学館

<著者:黒上 晴夫>
関西大学総合情報学部教授。米国や豪州における授業研究を元に、2012年に「シンキングツール~考えることを教えたい~」を無料でWeb公開。以来、思考スキル・思考ツールの活用研究をリードしてきた。学習指導要領改訂に関わる各種会議委員。
<著者:堀田 龍也>
東北大学大学院情報科学研究科教授、博士(工学)。東京都小学校教諭を皮切りに、情報社会に生きていく子どもたちのための授業の在り方を追いかけてきた。文部科学省参与(併任)。中央教育審議会情報ワーキンググループ主査。小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議主査/学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議座長。


《リセマム》

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