【プログラミング教育の基礎6】より論理的な学習活動を目指す…東北大・堀田龍也教授

 次期学習指導要領で注目される、小学校での2020年からのプログラミング教育の導入。その第一人者である東北大学大学院情報科学研究科・堀田龍也教授が「プログラミング教育」の基礎をわかりやすく解説。

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  • 小学館:「プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア」
 次期学習指導要領で注目される、小学校での2020年からのプログラミング教育の導入。その第一人者である東北大学大学院情報科学研究科・堀田龍也教授が「プログラミング教育」の基礎をわかりやすく解説。

「プログラミング教育」の定義



 有識者会議の「プログラミング的思考」をわかりやすく言い直すと、(1)人間がプログラムによってコンピューターを動かすことができるということを知り、(2)コンピューターの中でどのような
プログラムが動いているかを予測でき、(3)コンピューターにやらせたい一連の活動を自分自身で論理的に組み立てる力だということになるだろう。

 このうち、(1)と(2)はぜひ体験的に実感させたいということで、プログラミングの体験的な活動が推奨されるようになった。

 しかし、学校現場において、プログラミングの体験的な活動を十分に確保したとしても、それだけで(3)が身に付くとは考えにくい。(3)の育成は、(1)や(2)の体験を適宜させながらも、もう少し多くの時間を使って、さまざまな学習場面で行う必要がある。

 有識者会議では、「プログラミング教育」を次のように定義している。

子どもたちに、コンピューターに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら(これがプログラミング体験:筆者注)、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての「プログラミング的思考」などを育むことであり、コーディングを覚えることが目的ではない。

 つまり、有識者会議では、小学校段階においてもプログラミング体験は必要であるとしている。しかし、その目的は「プログラミング的思考など」を育むことである。しかも、わざわざ「コーディングを覚えることが目的ではない」としていることからもわかるように、特定のプログラミング言語でプログラムが組めるようになることは直接的な目標ではないのである。

 有識者会議の提言を受け、文部科学省が公示した次期の小学校学習指導要領では、第1章総則の第3教育課程の実施と学習評価の1(3)に次のように記載された。

情報活用能力の育成を図るため(中略)あわせて、各教科等の特質に応じて、次の学習活動を計画的に実施すること。ア(略)イ児童がプログラミングを体験しながら、コンピューターに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動

 上記の記載を見てわかるように、次期学習指導要領では、有識者会議における「プログラミング的思考」の趣旨に対応させ、プログラミング体験をしながら、「コンピューターに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を行うこととしている。そして、これを「各教科等の特質に応じて計画的に実施する」とされたのである。

 「コンピューターに意図した処理を行わせるために」という部分は、当然ながらプログラミング体験によって体感されるものである。おそらく数時間の学習活動で体感されるだろう。一方、「(それに必要な)論理的思考力を身に付けるための学習活動」は、数時間では身に付かないことは自明である。それこそ「各教科等の特質に応じて計画的に実施する」必要がある。

 本書(*1)の編集意図はここにある。世の中に出ているプログラミング教育の書籍の多くは、直接的にプログラミングを体験させようというものである。「コンピューター・アンプラグド」のように、直接的にはプログラミングを意図していないものも一部存在するが、それは情報科学教育の一部ではあっても、有識者会議や次期学習指導要領の記述から見れば幅が広すぎる。
*1 「プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア (教育技術MOOK)」発行:小学館

 本書では、各教科等の特質に応じやすくするために、各教科等の学習や日常生活におけるさまざまな思考を、今よりもより論理的な学習活動にすることを目指している。しかも、それがプログラミングにつながりやすいように、(1)順序(順次)、(2)場合分け(分岐)、(3)繰り返し(反復)というプログラミングの基本となる概念の組合せとして学習活動が行われるような事例を取り上げた。

 つまり本書は、新たにプログラミング体験を行うことばかりに着目するだけでなく、むしろ日々の授業改善の中でプログラミング的思考につながる論理的思考力を育てるように授業改善をしようという提案をしているのである。

 小学校の教員の現実に即したこの発想に多くの方々が共感してくれるに違いないと確信している。

プログラミング教育導入の前に知っておきたい思考のアイディア (教育技術MOOK)

発行:小学館

<著者:黒上 晴夫>
関西大学総合情報学部教授。米国や豪州における授業研究を元に、2012年に「シンキングツール~考えることを教えたい~」を無料でWeb公開。以来、思考スキル・思考ツールの活用研究をリードしてきた。学習指導要領改訂に関わる各種会議委員。
<著者:堀田 龍也>
東北大学大学院情報科学研究科教授、博士(工学)。東京都小学校教諭を皮切りに、情報社会に生きていく子どもたちのための授業の在り方を追いかけてきた。文部科学省参与(併任)。中央教育審議会情報ワーキンググループ主査。小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議主査/学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議座長。

《リセマム》

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