思考力重視に変化しつつある、中学入試に向けて、どのような準備をしていけばよいのか。横浜市で中学受験専門塾を経営し、リクルートの運営するオンライン予備校「スタディサプリ」の講師でもある玉田久文氏による、新5年生・新6年生向けの社会科の学習方法を具体的な例題をまじえて紹介する。
変わる入試に備えて
2020年以降の中学受験生が大学入試を受けるころ、大学入試改革の移行期 が終わり、全科目で大学入試の傾向が変わると発表されています。大学入学共通テストの試行調査の社会科(地理歴史)の問題を見てみると、初出の史料・グラフをもとに考えさせたり、知識をもとに類推させたりする出題が目立ちました。問いかけも複雑になり、ひとつひとつしっかりと読んでいく読解力は必須です。読解した上で思考しないと、正解にたどりつけなくなっています。
つまり、現在の小学生たちが受けるときには大学入試が大きく変わっています。中学入試と大学入試は別、と考えている保護者の方々も多いでしょう。まして、目の前の中学入試に手一杯で、大学入試のことまで考えられない、というのがホンネかもしれません。
しかしながら、各中学校は6年後の大学入試を踏まえて、より思考力が伸びそうな生徒を求めてくるでしょう。近年の中学入試の問題に、思考力を意識した出題が増えてきていると考える、中学受験の専門家もいます。
では、思考力重視に変化しつつある、中学入試に向けて、どのような準備をしていけばよいのでしょうか?
思考力のベースとなる基礎知識
思考力といっても、基本がしっかりしていなければ論理的に考えることはできません。まずは基礎知識が重要です。基礎知識が定着していなければ問題は解けないといっても過言ではありません。私が考える、社会科の学習のコツは次のようなものです。
1.地理は、まずは気候から押さえる
まずは各地の気候区分を最初にしっかり理解しましょう。各地の気温と降水量を理解することは、地理を学ぶ基本です。たとえば、北海道と沖縄の気温と降水量には大きな違いがあります。そのため、生活様式や産業が大きく異なっています。まずはこの気候を理解したうえで、農業・工業・貿易を押さえていきましょう。
ほとんどの学校の中学校1年生の社会科では、世界地理を学びます。日本国内での違いと同じく、気温と降水量が異なれば各地の生活様式は大きく異なります。入試問題で気温と降水量のグラフ(雨温図)が毎年出題される学校は、社会科の先生方のこのような思いから出題されているのではないでしょうか。
2.地理・歴史ともに、グラフの作者の意図を読む
グラフには作者の意図が大きく反映されます。たとえば、よく見かける工業地帯や工業地域の工業種類ごとの製造品出荷額の割合を表したグラフ(グラフA)では、各地でさかんな工業を理解しましょう。一方で、あまり見かけないグラフにも対応できるようにしておくことが大事です。たとえば、工業地帯であれば割合が大きくても全体の生産額が低い場合、必ずしもほかの工業地帯、地域よりも生産額が高いわけではありません(グラフB)。
このように、グラフの作り方、見せ方によって、グラフは多く変わります。グラフの作者が何を読み取らせたいのか、意図を考えられるといいでしょう。
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3.歴史は、まず「点」から「線」へ
まずは「点」です。政治の流れとして「いつ」「どこで」「だれが」「なにをした」をまず覚えていなければなりません。しかしながら、入試問題を解くにはそれだけでは正解にたどり着きません。「なにをした」よりも「なぜそう取り組んだのか」という理由を答えられるようにしましょう。そして、それをつなげていくことで「点」が「線」になります。
塾のテストや模試 、過去問演習などで、「このできごとはどのできごとの間に起こりましたか?」と問われます。あれは年号を覚えるだけではなく、それぞれのできごとを理解しておけば、難しい問題ではありません。
例題でみてみましょう。
【例題1】次のア~エを古い順に並び替えなさい。
ア.桜田門外の変が起こる。
イ.日米修好通商条約を結ぶ。
ウ.安政の大獄が始まる。
エ.日米和親条約を結ぶ。
ア.桜田門外の変が起こる。
イ.日米修好通商条約を結ぶ。
ウ.安政の大獄が始まる。
エ.日米和親条約を結ぶ。
もちろん、年号を覚えておけばできる問題です。ある程度知識が定着していれば難しくはありません。では、次の例題をみてください。
【例題2】次のア~エを古い順に並び替えなさい。
ア.当時の大老が水戸藩の浪士に討たれる。
イ.横浜港を開港し外国との貿易が始まる。
ウ.吉田松陰などが処罰される。
エ.下田と函館を開港する。
ア.当時の大老が水戸藩の浪士に討たれる。
イ.横浜港を開港し外国との貿易が始まる。
ウ.吉田松陰などが処罰される。
エ.下田と函館を開港する。
例題1・2とも答えは同じなのですが、解答を導く切り口が異なってきています。出題傾向は学校によってさまざまなので、志望校に応じた知識の習得が必要です。
それぞれの中学校は「この問題ができる生徒に入学してもらいたい」と考えて入試問題を作成しています。例題2では、単純な年号の暗記のみならず、それぞれのできごとがどのようなできごとだったのか、どのような影響を与えたできごとなのか、理解しておくべきです。
4.そして、「線」から「面」に知識を広げていく
最後に、線をつなげて面にします。線が3本あれば面になります。歴史の場合、4本以上の線をつなげて大きな面にしましょう。まず1本目の政治の流れを理解し、そして2本目の各時代の産業を理解し、3本目の各時代の外国との関係を学びます。4本目に文化史を理解すれば中学入試で必要な知識は整います。そしてその知識をもとにどんどん問題を解いてくとよいでしょう。
私が監修をした「中学入試にでる順 社会 地理」「中学入試にでる順 社会 歴史」(いずれもKADOKAWA)では、要点や一行問題で知識を固めつつ、思考力を養える応用問題も掲載しています。ポケットタイプの書籍は「暗記学習」に偏りがちですが、「中学入試にでる順」シリーズは、「思考力問題への対応」のための工夫が凝らされているのが特長です。
社会科はいつから学習をはじめるべき?
中学入試において、「算数」の点数が合否を決める、偏差値を左右する場合が多々あります。そのため、「算数から固めなさい!」と言われます。私も塾の生徒に「算数を中心に勉強しなさい」と言い続けているので、生徒たちも社会はどうしても後回しになります。
しかし、「社会」は後回しでも致命的な問題にはなりません。ほかの科目が安定して、あとは社会の得点を伸ばすだけとなっていれば未来は明るいです。残りわずかな期間でも社会は伸びる科目です。時期は関係ありません。お子様が社会の得点を上げようと頑張り始めた「今」から得点は上がるものです。
もちろん、早いうちから算数も安定し、社会の学習も進んでいれば、理想ではありますが、なかなか理想どおりにはいかないものです。ご家庭それぞれの事情、そのときどきでの現実解を目指していけるとよいのでしょう。
社会科を伸ばすに次の方法があります。
A.まずこの本やほかのテキストを何度も読む
B.過去問を始め、問題を解く
C.間違い直しをする
B.過去問を始め、問題を解く
C.間違い直しをする
「え、それなら今ちゃんと取り組んでいるよ」という受験生もいるかもしれませんが、このBとCが不十分である受験生がたくさんいます。Aは物事を「理解する」こと、つまり、自分の中に知識を入れることです。自分が覚えやすいように工夫をして覚えましょう。
Bは各問題が「できる」ことです。自分の中に入った知識を外に出すことです。そして、できなかった問題をCで今一度自分の中に入れるのです。このBの部分を繰り返し、できる問題を増やして本番に臨んでください。たとえば、私の塾では、監修した本を、入試までの1か月半で、この3点に取り組むための教材として使用しました。この学習方法を徹底したところ、2019年度入試では12月実施の全国模試で偏差値40台前半の生徒が2月の首都圏中学入試で偏差値60以上の学校に合格したり、偏差値が30台前半の生徒が50台前半の学校に合格したりすることができました。これを1年徹底できれば、まずは全国模試の偏差値から改善できると思います。
地理・歴史の勉強法を紹介してきましたが、最後は、試験当日、「あれだけ取り組んだから大丈夫」と思えるようになることが大事です。もし、今、お子さまに自信がないなら、今から「あれだけ取り組んだ」と思ってもらえるような、環境を整えてあげてはいかがでしょうか。
ちなみに正解は エ → イ → ウ → ア。わかりましたか?