【EDIX2019】AIも人間も得意分野で活躍を…元人工知能学会会長 松原仁氏

 2019年6月20日に行われた「教育ITソリューションEXPO」での学びNEXT特別講演「人工知能は教育をどう変えるか」に、公立はこだて未来大学・副理事長で元人工知能学会会長の松原仁氏が登壇した。

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2019年6月20日、EDIXの学びNEXT特別講演「人工知能は教育をどう変えるか」に登壇する公立はこだて未来大学・副理事長で元人工知能学会会長の松原仁氏
  • 2019年6月20日、EDIXの学びNEXT特別講演「人工知能は教育をどう変えるか」に登壇する公立はこだて未来大学・副理事長で元人工知能学会会長の松原仁氏
  • 2019年6月20日、EDIXの学びNEXT特別講演「人工知能は教育をどう変えるか」のスライド
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 「AIに取って替わられる」「AIに仕事が奪われる」…AI時代の到来は、煽りをもって伝えられることが多い。果たしてAI時代の到来は本当に脅威なのか。

 2019年6月20日に行われた「第10回 学校・教育 総合展(EDIX)」の「教育ITソリューションEXPO」での学びNEXT特別講演「人工知能は教育をどう変えるか」に、公立はこだて未来大学・副理事長で元人工知能学会会長の松原仁氏が登壇した。

誰もが未知の概念「AI」



 人工知能、すなわち「Artificial Intelligence(AI)」。松原氏は「『人工知能』の概念は非常にわかりにくいと言われます。人工知能研究の目的は、人間のような知能をもつ人工物を作ることですが、そもそも『知能』という概念自体が曖昧なので、わかりにくいのも当然です。研究を通じて、あらためて『知能』とは何かを定義することも大きな目標のように感じています」と話す。

 そんな不明瞭な概念にあって、2019年6月11日に行われた第5回統合イノベーション戦略推進会議では「AI戦略2019~人・産業・地域・政府すべてにAI~」が決定された。これは2018年6月に内閣に設置された統合イノベーション戦略推進会議において、過去5回に渡って進められてきた、日本国内の多様な分野におけるイノベーション促進のための議論が、今後の方針として示されたものである。2019年3月の発表で、すでに国内がざわめいた「AI人材を年間25万人養成する」という内容もそのまま引き継がれている。

 「数字だけが印象付けられて、一人歩きしているような気がしています。決してAI研究の専門家を25万人育成しようという大それた話ではないのです」(松原氏)

 25万人の内訳は、先日発表された戦略でも「データサイエンス・AIを理解し、各専門分野で応用できる人材」と記されており、あくまでも教養レベルが到達目標だ。松原氏もこの点に関して「時代に即して『行列』の概念や統計など、データサイエンスの基礎知識を身に付けておくべき」と同意する。

実は過去にも“脅威”は到来していた!? 今は第3次AIブーム



 まず松原氏の講演では、AIの歴史が易しく紐解かれた。コンピューターも人間と同じように記号や概念が理解できることがわかった1950年代、人工知能の扉が開かれた。現在「AI時代の到来」と謳われているのは第3次AIブームに当たる、と松原氏は言う。

 「今回のAIブームでもっとも注目されているのは、AIの技術のひとつ、機械学習です。とりわけその中でもディープラーニングに注目が集まっています」(松原氏)

 スマホとの音声対話や、購買活動におけるリコメンド機能、乗り換え案内、自動運転・運転支援などが、その技術を用いた時代の産物である。多くのデータを分析し、そこに内在する人間には取り出しにくい傾向を取り出す。それが、ディープラーニングのもっとも簡易な説明だ。

 松原氏の講演をもとに人工知能の特徴をまとめると以下のようになる。

人工知能(AI)が得意なこと


・大量のデータを扱う定型的な作業
・ルールが明確な作業
・範囲が限定されている作業
・理性的なこと

人工知能(AI)が苦手なこと/できないこと


・データ量の少ない非定型的な作業
・意味の解釈、理解
・ルールが不明確な作業(ニュアンスや感覚で対応すること等)
・範囲が限定されていない作業(範囲外のこととの関連付け等)
・感性的なこと

 AIが不得手な分野について語るとき、松原氏は「“まだ今のところは”苦手」と表現する。研究途上のAIの可能性は無限だ。複数の大学において入試問題に採用されている書籍『AIに心は宿るのか』の著者でもある松原氏は、自身の研究においてAIに創作活動を行わせ、その可能性を追求している。講演でも、そのひとつ「AI一茶」プロジェクトの取組みが紹介された。

 数十万の俳句をコンピューターに記憶させることで、「17文字で構成され、季語をひとつ含み、切れ字は1文字以下」という規則性を学ばせる。その上でアウトプットされたAI俳句と、人間が実際に詠んだ俳句を審査で競うという流れだ。今一度言っておくが、AIは言葉の意味は理解しないため、それによって生成されるAI俳句は直感や感性を含む情緒的表現としてではなく、あくまでも過去のデータから最適な文字の組合せを選択しているに過ぎない

2019年6月20日、EDIXの学びNEXT特別講演「人工知能は教育をどう変えるか」のスライド
2018年7月に行った人間対AI俳句対決の結果

 結果は、“まだ今のところは”AIの惨敗。とは言え、人間の俳句よりも優れていると評価された句もある。創作活動における評価基準は何か、創造性とは何かという議論はさておき、AIの可能性が少しずつ拡張されていくようすが見て取れる研究だ。

AIがもたらす教育への影響



 このようなAIの特徴を活用しながら、教育分野では今後どのような動きが期待できるのか。松原氏の指摘は大きく2つ、まずひとつは、養うべきスキルの変化だ。

 「記憶の能力は人間よりも圧倒的にコンピューターのほうが長けています。そう考えると試験で記憶力を問うことに果たして意味があるのか、ますます疑問です。一方、AIが不得手な『考える力』については伸ばすべきものだと考えます。ただ考えるための材料として、ある程度の知識・情報はどうしても必要なものです。その必要十分な知識量は一体どの程度のボリュームなのか、そしてそもそも『考える力』を養うためにはどのような術が有効なのか、今後検討しなければなりませんね」(松原氏)

 もうひとつは、教え方・学び方の変化。過去のデータを元にした分析を子ども個々人の習熟度に応じたアダプティブラーニングに活用する例や学習スケジュールの管理、外国語の言語習得における音声認識機能への応用が主たるものだ。EDIX展示会場にも、これに関連する展示が多く見られた。さらに、松原氏は「ARやVRをはじめとする最新のIT技術と、AIを組み合わせることで学び方の幅をぐっと広げることができるはずです。遠隔授業のさらなるリアル化も期待できます。人間の先生と人工知能それぞれが役割を分担することで、より良い教育が拓かれると思います」と話す。

人もAIも適材適所…変化に対応できる姿勢と基礎教養が大切



 「人工知能は人間の仕事を奪いはしないが変化させる」と松原氏は指摘する。2014年、オックスフォード大学・准教授のマイケル・A・オズボーン氏が論文「雇用の未来」の中で示した「コンピューターに代わられる仕事」より、柔らかな表現だ。2014年当時このニュースが広まると、コンピューターが人間の役割を侵食してゆく図を誰もが想像し、多かれ少なかれAIを“脅威”と感じたに違いない。

 どの職種にも、ルーティン作業や情報分析の作業は含まれる。前例にならってリスクヘッジすることや、過去の実績から傾向を読み解くことは、今後も必要な作業であることは間違いない。ただそこに貴重な人的コストを割く必要はない。AI技術の活用により、その分の労力を、可能性を判断して挑戦したり、他分野のデータを掛け合わせて新たな領域を切り開いたり、人間にしかできないことに費やすことが可能になるのだ。

2019年6月20日、EDIXの学びNEXT特別講演「人工知能は教育をどう変えるか」に登壇する公立はこだて未来大学・副理事長で元人工知能学会会長の松原仁氏
登壇する公立はこだて未来大学・副理事長で元人工知能学会会長の松原仁氏

 仕事の内訳や重心が変わることで、今まで適職と感じてきた職種に違和感を感じることもあるだろう。しかし、AIに劣等感を抱くことは無用。学び続ける姿勢、挑戦し続ける覚悟、そしてAIを迎え入れるための基礎教養と心のゆとりがあれば大丈夫だ。これらは、人生100年時代を生きる人間の宿命とも言えるだろう。

 松原氏がAI俳句の審査結果について語る中で「我々理系なもので、なんで褒められたのかわかりません」と、聴衆の笑いを誘う場面があった。筆者は松原氏のこの自虐的な言葉から、人間とAIとの圧倒的な距離の近さとAIへの親近感を得た。人間の中にも感性的な創作が苦手な子はいる。一方、効率良くデータを処理することが好きな子もいるだろう。人間も最新技術も、一概にすべてを採用したり、すべてを批判するのではなく、場面に応じて部分的に採用したり、個々の良さを生かせるところに配置する。そう考えることで、世間の脅威の対象として語られているAIが途端に身近に感じられた。
《野口雅乃》

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