子どもを惹きつける授業とは? 古川光弘校長に聞く「フォレスタネット」活用

 フォレスタネットを活用されている古川光弘校長(兵庫県佐用町立三河小学校)に、ご自身のことや若い先生方へのアドバイス、フォレスタネットの特長や活用アイディアなどについて聞いた。

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三河小学校の古川光弘校長校
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  • フォレスタネットのトップ画面。授業実践、学校経営などのカテゴリー別にコンテンツが紹介されている
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 OECD(経済協力開発機構)の実態調査によると、日本の教師の勤務時間は小学校、中学校ともにもっとも長いという。また、仕事を家に持ち帰る教職員も多いと聞く。そうした状況のなかで、授業準備のための指導案・実践例共有サイト「フォレスタネット」を活用する教師も増えてきた。

 そこで今回は、フォレスタネットを活用されている古川光弘校長(兵庫県佐用町立三河小学校)に、ご自身のことや若い先生方へのアドバイス、フォレスタネットの特長や活用アイディアなどについて聞いた。

ドラマ「熱中時代」にあこがれて教師の道へ



 フォレスタネットは、小学校、中学校、高校の教師向け指導案・実践例のダウンロードサイト。全国の教師の方々が開発した教材コンテンツが投稿され、Web上で共有されている。教材だけでなく、学級経営のノウハウもまとめて掲載されており、いずれも無料で利用できる。

フォレスタネットのトップ画面。授業実践、学校経営などのカテゴリー別にコンテンツが紹介されている
フォレスタネットのトップ画面。授業実践、学校経営などのカテゴリー別にコンテンツが紹介されている

 佐用町立三河小学校の古川校長は、「子どもの心をどうつかむか」をテーマに、日々の実践にあたられてきた。また、若い先生方を助けようと、書籍の執筆やセミナーでの登壇も数多い。そんな古川校長は、「教師を助けるコンテンツを集めていく」というフォレスタネットの趣旨に賛同。2016年の立上げ当初から、協力をしてきた。

--教師になられたきっかけを教えてください。

 教師になりたいと思い始めたのは小学生のころからですが、明確に教師になろうと思ったのは高校生のときですね。水谷豊さん主演のドラマ「熱中時代」を見て、「北野広大みたいな熱い先生になる」と決めたんです(笑)。北野先生が子どもたちとカップ麺の早食い競争をして教頭に叱られる場面があるんですが、私も教師になったころにマネをしてやっぱり叱られました(笑)。でも、北野先生のように子どもたちと一緒に悩んで、一緒に成長していける先生になりたいと思いました。そのため真面目一辺倒ではなくて、楽しい行事などもいっぱいしてきましたね。

 実は私、三河小学校が初任校なんです。当時は全国へき地教育研究大会があって、一致団結して国語研究に取り組みました。ここでの7年間が今の自分を形作ってくれたと思います。三河小学校は来年統合されて閉校します。つまり、ここで教師生活が始まり、ここの校長として学校を閉めることになります。寂しい思いが強いです。自分を育ててくれた学校ですからね。

日記を毎日書かせて返事を書き、心をつなぐ



--子どもたちと接するときに、心がけていらしたことを教えてください。

 「ひとりひとりの子どもたちを大切にしよう」という思いは、昔からずっともってきました。そのために、日記を子どもたち全員に書かせて、心の交流をしてきました。なんらかの形でつながっているようにしたいと思ったからです。特別な事情がない限り、子どもたちの書いた日記は毎日読んで返事を書く。それはずっと続けてきましたね。

 最初は「遊びました、楽しかったです」というような通り一遍のことしか出てきませんが、毎日書いていると子どもたちの本音が出てきます。書く構えがなくなるのですね。本音のなかには、悩み事とか、嬉しかったこと、悲しかったことが出てくるので、子どもの理解につながります。そして、悩み事を書いてきた子は、必ず呼んで聞き取りました。書かせることは大事です。

引き出しをたくさんもつことが大事



--フォレスタネットとの出会いを教えてください。

 最初はフォレスタネットの担当者さんにお声がけいただいたのですが、「教材などのコンテンツを集めて共有する」という趣旨に賛同しました。「(私が行っている)セミナーの映像をフォレスタネットで共有してもいいですか?」ということでしたので、「お役に立つのであればどうぞ」とお返事したことを覚えています(笑)。当初は、まだフォレスタネットも黎明期で、教師の立場からの要望など、いろいろと意見も出させていただきました。

--フォレスタネットが教材を集めて教師の方々に提供しようとしていることに賛同されたのですね。

 そうですね。教師は引き出しをいっぱいもっていたほうがいいと思うんです。ことあるごとに適切な教材や教具を、その場面に応じたタイミングで出せれば、どれだけ教師生活が豊かになることか。たとえばちょっとした隙間時間に、簡単なゲームを子どもたちにやってあげるとか、授業が早く終わったら違う教材をもってきて子どもたちにさらなる力を付けるとか、そういった引き出しが多いほうがいいですね。ところが今の先生方は非常に忙しくて、教材開発をする時間がなかなかとれないんです。

 フォレスタネットには、教材やノウハウが結集されていますから、教師にとって有力な武器になると思います。本来なら自分の手足で教材開発をするのがベストですが、なかなかそうもいきません。共有されているコンテンツからアイディアをもらいながら、さらに、自分でオリジナルのものを開発していければいいんじゃないですかね。

三河小学校の古川光弘校長校
--スタートしたころからご存知のフォレスタネット。現在のフォレスタネットをどのように思われますか。

 コンテンツがよく整理されていて検索しやすく、使い勝手がよくなっていると思います。新しい学習指導要領の施行もありますし、日進月歩、教育は進化するので、現場では新しい教材などをどんどん取り入れていかなくてはなりません。それに対応するためにコンテンツを増やしてほしいですが、数が増えれば整理も煩雑になると思います。それでも、ぜひ使い勝手の良いものにしていってほしいですね。

 教室でインターネットにつないで使える環境があれば、フォレスタネットの教材をそのまま授業で使うこともできますし、校内研修で使うことも可能ですよね。セミナーなどでも、質の高いコンテンツを紹介するなど、教師教育にも今後活用していきたいと、私は思っています。

校内研修の可能性が広がる



--校内研修でどのように活用するアイディアをおもちですか。

 これまではあまり取り上げられなかったテーマについても研究が可能になると思っています。年間で数が限られている研修の中で、若手の先生方が本当に悩んでいる部分、困っている部分をすべて取り上げて解決することは難しいです。フォレスタネットを活用することで、効率的に実践やノウハウの共有を図り、それらの領域についても校内研修で取り上げたいと思っています。たとえば、朝の会の進め方、宿題の集め方。授業の中身においては導入の仕方、発問の仕方などをピンポイントで研究することが可能です。そして、休み時間の過ごし方や給食の時間等、「1日の過ごし方」全体を取り扱うことができると思います。

 全国の学校、先生方の実践が集まっているわけですから、その実践を分析しながら、自分たちの学校ではどう生かせるか、どのようにすればより子どもたちのためになるかを研究することもできますね。若手の先生が学ぶ場所として最適だと思います。

不測の事態への対応力をつける



--若い先生方に役立つということでしょうか。

 若い先生は特に使うといいと思いますね。若い教師は圧倒的に引き出しが少ないですから、対応力が不足しがちです。若い先生の課題は、イジメなど予測できない事態が起こったときにうろたえてしまう、戸惑ってしまう、悩んでしまう、落ち込んでしまうこと。ぜひ対応力をつけてほしいです。

 先生と子どもたちとの縦糸がビシッと通っていると、子どもたちは伸びます。子どもたちどうしの横糸の関係、先生と子どもたちとの縦糸の関係、それをしっかりと紡ぐことが大事ですね。

 そのためにも、フォレスタネットのコンテンツ集で勉強することは有効だと思います。優れた先生の授業映像を見るだけでも違います。そしてマネをする。良い授業の追試をしなさいとよく言われますが、そうすると、なぜこの発問で子どもたちが燃えるのか、なぜこの指示で子どもたちが動くのかがわかります。

 私は、筑波大学附属小学校を経て愛知教育大学教授を務められた有田和正先生を師事していました。残念ながら亡くなられましたが、社会科教育のプロ中のプロで、子どもをのせるのがとてもうまい方でした。そういう良い授業を見て学ぶことは大切だと思います。

教師がいなくてもまわる教室に



--良い先生をマネすることで力がついていくのですね。

 昔から、「良い先輩教師の授業の追試を100回はしなさい」と言われていました。武芸でいう守破離ですね。まずはマネをする、それから少し離れてみる。そして自分なりのオリジナルを生み出すわけです。マネをするためにフォレスタネットは使えます。この教材を使ってみようとマネをして、コツを得た人が少し離れて、そしてオリジナルを作ってフォレスタネットに投稿する。簡単にはいきませんが、少しずつ力をつけて最後は自分なりのものを作り出せる、「ここにはあの先生がいるぞ」と言われるような、そんな力のある先生になってほしいですね。

--今後のフォレスタネットに期待することをお聞かせください。

 フォレスタネットには、席替えのやり方や宿題の集め方といった、学級経営のコンテンツもあります。そこで、1日の生活を無難におくるためのコンテンツ集を作ってみてはいかがでしょう。まずは朝の会をどう開催するか、そしてどうやってうまく宿題を集めるか、1時間目の授業の導入をどうするか、休み時間はどう過ごすかなど、教師がいなくても子どもたちだけで生活できるコンテンツ集ができるといいと思います。

 私は、基本的には教室に教師がいなくても1日が動くシステムができていないとダメだと思っています。朝の会から終わりの会までのコンテンツ集があれば、校内研修でも使われやすいと思います。

目の前の子どもを信じることが教育の原点



--後輩の教師の方々へメッセージをお願いします。

 夢と希望をもって入ってくる先生方は多いですが、夢が破れることも多いです。教師の仕事の100%のうち80%以上は煩わしいことですから。それでも10%とか20%、「教師をやっていて良かったなぁ」と思うような素晴らしいことが起こります。たとえば卒業生を送り出したとき、四苦八苦して卒業させた子どもたちに「ありがとう」と色紙をもらったとき、本当に苦労した子に、5年、10年経って町でばったり会ったときに「あの時、ありがとう!先生の授業楽しかったよ」と言ってもらったとき。「あー、教育って先を見ての仕事だなぁ、やりがいがあるなぁ」と感じます。

 打ちのめされることも多いかもしれませんが、誠実に目の前の仕事に取り組んでほしいです。教育は手品ではないですから、裏切られながらもその子のことを信じていくこと、そこに教育の原点があるんじゃないかと思います。あきらめずに頑張って続けてほしいと思います。

--本日はありがとうございました。

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《渡邊淳子》

渡邊淳子

IT系メディアのエディター、ライター。趣味はピアノ。

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