グランプリ作品がキャンパスノートの表紙になるというこのアワードも今年で5回目。今年はどんな絵が選ばれるのか。ドキドキの審査会をのぞいてみました!
5年連続参加の芦沢ムネトさん、色鉛筆画家の林亮太さん、欅坂46の佐藤 詩織さんが審査員に
「キャンパスアートアワード」は、コクヨと読売中高生新聞(発行所 読売新聞東京本社)が共同開催する、全国の中高生を対象とした絵画作品のコンテスト。テーマは、地元のイチオシ。自分の好きな地元の風景、行事、食べ物などを自由な発想で作品にします。
2019年6月3日から 9月13日の応募期間中に集まった作品は1,321点。この中からグランプリ1点、読売中高生新聞賞1点、コクヨ賞1点、地区優秀賞6点が選ばれます。最終審査会は、10月28日、読売新聞ビル(東京都千代田区大手町)で行われました。
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審査員は、お笑いグループ「パップコーン」のリーダーで、イラストレーターとしても活躍している芦沢ムネトさん、写真のようにリアルな作風で知られる色鉛筆画家で東北芸術工科大非常勤講師の林亮太さん、そして美大出身で「二科展」に入選経験もある欅坂46の佐藤詩織さん。芦沢ムネトさんは、本アワード創設以来毎回のご参加。林さんは今回が2度目、佐藤さんは初めてのご参加です。
さて、どんな審査会となるのでしょうか!?
今年もやっぱり選べない…!? 苦悩の審査会に
会場には、1次審査を通過した36作品がずらりとならんでいます。審査員たちは、あらかじめ36作品をデジタル版の事前資料で見ていますが、原画を見るのは初めて。
入室早々「今年もレベルが高いね~」と芦沢さん。「やっぱり原画で見ると違うね」と林さん。初参加の佐藤さんも「うわ~」と驚きの声。
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審査員には付箋が渡され、それぞれ5票ずつを気に入った作品に投じることができます。グランプリを決めるため、ひとつひとつ丁寧に作品を見ていく審査員たち。「すごいなあ」「細かいところまでよく描けているね」「構図が面白い」「この色使い、うまいなぁ」などなど、思わずこぼれる感嘆の声。
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ひと通り見終わると、作品の裏に描かれている作者のメッセージにも目を通します。そこに書かれているのは、なぜその絵を描いたのか、どこに苦労したのか、何を伝えようとしているのか、といった作者の熱い想い。どのコメントも、ふるさとの良さを伝えたいという強い想いがあふれていて、「理由を読むと心が動くね」と審査員たち。
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最初の1、2票はすぐに決まったものの、残りの票をどの作品に投じるのか、「う~ん、決められない!」「難しい!」の苦悩の叫びが聞こえてきます。毎年見られるこの光景…。
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30分が経過し、ようやく3人が5票すべてを投票。悩み抜いた末、11点の作品が選出されました。ここからは、1人2票の持ち点で、再度選考が始まります。残った11点は、技術力の高い作品、発想が面白い作品、粗削りだけど力強い作品、絵に込められたメッセージが印象的な作品…。それぞれに異なる個性を放っていて、選考はさらに難航しました。
これも毎年見られる光景…。
「どれも選びたいけれど、どれかを選ばないといけないから…」と苦悩する審査員たち。ついに3点にまで絞られました。最後は、「いっせいのーせ!」で、それぞれが好きな作品を指差し。
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満場一致でグランプリに選ばれたのは、神奈川県 高校1年生の作品「いつも心にある横浜」でした! 氷川丸、山下公園、野毛山動物園など、作者の大好きな場所や思い出が詰まった独創的な作品。真正面から船の形を捉えた高い描写力も選考の決め手となりました。なんと昨年のコクヨ賞「大好きな町 鎌倉」に続いてのグランプリ受賞でした。
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<グランプリ>
「いつも心にある横浜」(関東地区代表・神奈川県/桐蔭学園高等学校1年/竹野 綾さん)
読売中高生新聞賞に選ばれたのは、練馬区 高校2年生の「練馬大根教のご先祖様」。練馬の特産品の練馬大根をモチーフにし、独自の世界観を作り上げた発想力と、細かな描写力、ダークな色使いの巧みさも高い評価を受けました。
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<読売中高生新聞賞>
「練馬大根教のご先祖様」(関東地区代表・東京都/都立大泉桜高等学校1年/江藤 さやかさん)
コクヨ賞に選ばれたのは、大阪府 中学2年生「古墳つめあわせ」。大胆な構図と思い切った省略法が印象的。よく見ると背景が細かい線描で埋め尽くされているという意外性が強烈なインパクトのある作品です。
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<コクヨ賞>
「古墳つめあわせ」(近畿地区代表・大阪府/堺市立陵南中学校1年/砺山 紫さん)
皆さん、おめでとうございます!
審査員、作品の魅力をおおいに語る!
無事、審査が終了し、ほっとしている審査員たちに、コメントをいただきました。
--グランプリ作品「いつも心にある横浜」を選ばれた理由を教えてください。
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芦沢さん:事前資料で見たときから印象に残っていた作品で、原画を見るのを楽しみにしてきました。とにかく迫力がある。絵も上手で、船を正面から描くという難しいチャレンジに成功している。ただ写実的なだけでなく、雲が動物の形に変わっていくという発想もすごい。普通、こういう風に描きたいと頭の中では思い描いてもここまで描けないもの。完全にやられました、という感じですね。
林さん:私も事前資料を見た段階から目を引かれ、早く原画が見たいとわくわくしていました。実際に原画を見ると大胆なところと繊細なところとが見事に調和していて、圧倒的にレベルの高い作品です。船という難しい構造物がすごくしっかり描き込まれているのに、カモメはシンプルなシルエットだけ。その描き分けが巧みです。これが高校1年生の作品と知って驚きました。ぜひこのまま絵を続けてほしい。将来が楽しみです。
佐藤さん:「とにかくすごい!」の一言です。心を揺さぶられました。原画を間近で見ると、細部ひとつひとつ、すべてに配慮が行き届いている。どこを見ても楽しい作品です。色使いもとても上手。ノートになったときにもすごく映えると思います。こんな表紙のノートだったら使うときもわくわくしそうです。
--読売中高生新聞賞に選ばれた作品、「練馬大根教のご先祖様」はいかがでしょうか。
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芦沢さん:絵もシュールで面白いのですが、作者のコメントを見るとさらに面白い。ご先祖様がお盆にキュウリの馬ではなく練馬大根の船でやってきたというオリジナルの物語を絵にしている。この妄想力を生かしてほしいですね。文章で物語を書いて、絵本にしても面白いと思います。
佐藤さん:私も美大で絵を描いていましたが、だんだん前みたいにイメージする力が衰えてきたなと思っていたんです。でもこの絵を見たときに、またイメージが掻き立てられました。見る人によっていろいろと空想が広がっていく面白い作品だと思います。
林さん:練馬大根は今ではほとんど作られていなくて、この作者も実際には食べたことがないかもしれません。私の勝手な想像ですが、作者は地元の歴史を学ぶ中で練馬大根のことを知って、大事な伝統を残したいという想いからこの物語を思いついたのではないでしょうか。でも、その発想をこのような形でまとめあげる力は高校生とは思えないですね。色使いも、ダークなグリーンの中にも鮮やかな赤や青がちりばめられていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。群を抜いて上手な色使いだと思いました。
--コクヨ賞の「古墳つめあわせ」はいかがでしょうか。
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林さん:ポップアートみたいな印象で、たくさんの作品の中で「え!」と一番驚かされた作品です。最初は「鍵穴?」と思ったのですが、説明を見ると古墳で、「なるほど、こういう方法があったか」と意表を突かれました。シンプルなのによく見ると、古墳と古墳の隙間にびっしりと描き込みがある。このバランスも面白い。すごくパワーがある作品だと思います。
芦沢さん:作品を見ていて、自分も子どもの頃、古墳に興味があったことを思い出しました。古墳ってすごく大きいし変わった形をしている。「なんだこれ!?」とわくわくした覚えがあります。作者も同じように、わくわくを表したくて、古墳をびっしり並べたのかもしれません。コメントに、「特にうしろの柄をがんばりました」とあって、「柄って何?なんか意味があるの?」と、見る側の心をざわざわさせるのもいい。とにかく気になっちゃう作品ですね。
佐藤さん:見る人に「面白いな」という印象を与える作品ですね。どうしてこんな構図にしたんだろう、背景に描いている模様の意味は?と考えているうちにどんどん興味がわいて、描いた人に会ってみたいと思いました。
総評:作品から、描写力・技術力を超えた、人間性が見えてくる
--全体を通じての感想は?
林さん:事前資料で見た印象と、原画を見た印象はずいぶん違いますね。事前資料では、高校生の作品の方が印象強くて中学生の作品はあまり印象に残らなかったのですが、実際に見てみると、中学生の作品のパワーに驚きました。技術的には高校生の方が能力が高いのですが、中学生の作品にはシンプルだけど強いものがありますね。
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佐藤さん:どの作品も描写力や構成力がすごくて驚きました。地元のイチオシというテーマからそれぞれに自由に発想を膨らませて絵にしているのがすごいですね。自分を振り返っても、中高生のときってまだ知らないことも多いからこそ大胆な発想ができていたなと思い出しました。ノートになる作品は1点だけですが、どの作品も素敵だし、選ばれなかった人も自信を持って、これからも好きなものを描いてほしいと思います。
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芦沢さん:どの作品もとても上手で、甲乙つけがたかったのですが、最終的には「この作者は何を考えてこれを描いたんだろう」と、絵のうまさを超えた、その子の個性が見えてくる。そういうパーソナルな部分を絵から感じられるのが面白いと思いました。そういう意味では、どの作品もその人にしか描けない、すごい力をもっている。それを突き詰めたら、とんでもなくすごいものに育っていくのではと思います。
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アナログ作品を応募できる貴重な機会「キャンパス アート アワード」にぜひ挑戦して!
--今後の「キャンパス アート アワード」への期待をお聞かせください。
「人がどう思おうが自分が描きたいものを」芦沢ムネトさん
芦沢さん:これまで5回参加して毎回感じるのは、どの作品も、人がどう思おうが自分が描きたいものを好きなように描いている。それが中高生の良さだと思います。大人になればなるほど「こうすればカッコいい」とか、たくらみが生じてくるので、「自分が描きたい」という気持ちを大事にして描き続けてほしいですね。
「コンクールに応募するのは勇気がいるもの」佐藤詩織さん
佐藤さん:私も小さいころから絵を描いてきて、作品を応募した経験もあるのでわかりますが、コンクールに応募するって勇気がいるものです。そこをがんばって応募してくれたこと自体とても素晴らしい。絵を見ているとそれぞれの地元のよさが伝わってきましたし、こういう見方、考え方があるのだと勉強になりました。また、たくさん応募してくださいね!
「あえてアナログで描いて応募してくれる意気込みってすごい」林亮太さん
林さん:僕自身、いろいろなコンクールに応募をしてきた経験がありますが、受賞経験は一度もない。だから、選ばれなかった人の気持ちが痛いほどわかります。選ばれなかったからといって作品がだめなわけではないことを最初に言いたいです。最近はデジタルで絵を描く人が増えていて、アナログで絵を描く人って少ない。そこをあえてアナログで描いて応募してくれる意気込みってすごいです。アナログ作品にはデジタル作品とはまた違った迫力があります。
第5回目も大混戦となった「キャンパス アート アワード」はアナログ作品を応募できる貴重な機会。ご応募いただいたどの作品からも、中高生の手から生み出されたパワーが溢れていました。これからもぜひ、チャレンジしてください!
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