ソニーはAIやロボティクス、プログラミングなど、自社が開発する商品やサービスなどを通してSTEM/STEAM教育に触れる機会を提供するイベントとして、毎年「Sony STEAM Studio」を開催している。今回募集を開始した「STEAMワークショップ部」の前身は、まさにこの「Sony STEAM Studio」だ。
本イベントに関わらず、国内外のイベントの多くが新型コロナの影響でオンラインでの開催を余儀なくされている。「おうち時間」という言葉が世に出て1年ほど経った今、お子さんとともにオンラインワークショップに参加した経験のある保護者の方も多いだろう。
「STEAMワークショップ部」企画の背景や概要について知るとともに、今あらためて自宅からオンラインで参加するからこそ得られる、ニューノーマルな学びについて考えてみたい。
手段としてのSTEAM、大切なのは「探究」する気持ち
今回お話を伺ったのは、ソニー・グローバルエデュケーション エデュケーションエヴァンジェリストの清水輝大さんと、2月に実施予定のcreaBワークショップの発案者であり、昨年ソニーが開催した次世代クリエイター育成プログラム「U24 CO-CHALLENGE 2020」でグランプリを受賞した高校生の伊藤詩奈さん。
--今回のイベント「STEAMワークショップ部」について、まず御社の考える「STEAM」について教えてください。
清水さん:まずお伝えしたいのが、ソニーはSTEAMを「探究」とのセットで考えるという点です。「探究」とは、物事を考えるモチベーションであったり、ワクワク感であったり、知ること・創造することのきっかけとなる気持ちです。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)はあくまでもツールであり、手段です。

自発的な「探究」の気持ちをベースに、必要な手段を使って課題を見つけ、解決していくこと。それこそが、本来のSTEAM教育だとソニーは考えています。
--STEAM+探究の考えは、御社の「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というメッセージにも色濃く反映されている気がしますね。
清水さん:はい、まさにそのとおりです。ソニーが大切にしてきた精神を、子どもたちにわかりやすく翻訳し、体験する場を提供したいという思いから、「Sony STEAM Studio」そして「STEAMワークショップ部」の企画がスタートしています。
STEAM+探究を体験する「おうち時間」を提供
--今回「STEAMワークショップ部」のイベントは、オンラインでの開催になりますが、企画にあたっての思いを教えてください。
清水さん:昨今のコロナの影響で、子どもたちのおうち時間が増えています。また一方で、教育業界では探究学習への注目が高まっています。与えられた課題を解くのではなく、自発的に課題を見つけ、ワクワクしながら答えを探すという探究学習のプロセスの一端を、おうち時間で体験する場を提供できたらと思い、今回の企画に至りました。
--オンラインという制限がある一方で、オフライン開催時よりもワークショップの数も増え、充実しているように感じます。
清水さん:はい。子どもたちに、自分の「ワクワクのきっかけ」=「好き」を見つける体験をしてもらうために、その入り口として4つのワークショップを用意しています。
また、ワクワクがふくらむエンターテインメントの要素として、ソニーミュージック所属・いきものがかりの吉岡聖恵さんのソロプロジェクト「毎日がどうよう日~家族で歌おう!~」とコラボレーションし、童謡の「こぶたぬきつねこ」を「STEAMワークショップ部」全体を通してのテーマにしています。
身近なアイデアを形にできるソニーのIoTブロック「MESH(メッシュ)」とソニー・インタラクティブエンタテインメントのロボットトイ「toio(トイオ)」を使って家族や友だちとゲームを作る「CurioStep(キュリオステップ)ゲームづくりワークショップ」、おうちにあるものとロボット・プログラミング学習キット「KOOV(クーブ)」を使って楽器を作り演奏する「KOOV Challenge mini こぶたぬきつねこンサート」、参加者同士で対話をしながら物語を作りミュージックビデオを完成させる「creaB(クリービー)ものがたりづくりワークショップ」、今回のイベントが初公開となる音楽アプリ「PlayAnything(プレイエニシング)」を使って撮影した身の回りのものでメロディを作る「PlayAnything新音楽体験ワークショップ」の4つです。
--「creaBものがたりづくりワークショップ」は、伊藤さんのアイデアで企画されたものですね。伊藤さんは、昨年ソニーが開催した次世代クリエイター育成プログラム「U24 CO-CHALLENGE 2020」でグランプリを受賞されたと聞きました。
伊藤さん:はい、今回のワークショップのベースとなっている企画でグランプリをいただきました。この企画は、私自身の幼少期の経験と、探究学習での学びの経験がきっかけになっています。
私が小さいころ、母はよく絵本の読み聞かせをしてくれました。書いてある物語を読むだけではなく、登場するキャラクターの気持ちや、挿絵の細部について、ふたりでよく会話をしながら読んでいた記憶があります。そのおかげで、今でも物事を細部まで見たり、違う角度で捉えたりする癖が付き、多角的に考えることができている気がします。
また学校での探究学習でも、友人と対話を重ねることでより良いアウトプットができることを実感し、参加者同士で対話をしながら創造することの面白さに気付くことができました。
おもにこの2つの経験から、対話を通して「物語」を作る企画を発案し、creaBと名付けて今回のワークショップに仕立てました。

ワクワクのきっかけを作る「対話」
--クリエイティブな活動に、伊藤さんならではの「対話」という要素が組み込まれているんですね。
清水さん:実は今回の「STEAMワークショップ部」全体をとおして「対話」が大きなポイントになっています。イベントの特性上、いずれのワークショップも定員を設けざるを得ず、どうしても参加できる方が限られてしまいます。そのためワークショップへの応募時にも、おうち時間を楽しめるような仕組みを作り、皆がワクワクできる体験を用意しています。
--具体的にはどのようなものですか。
清水さん:応募に際しては、まず吉岡さんが歌う童謡「こぶたぬきつねこ」を聴いていただきます。参加するお子さまと保護者の方が一緒に楽曲を聴いたうえで、「対話シート」をもとに動物たちのいる場面を想像し、それぞれが登場する動物になりきって対話をしてみます。そのやりとりの内容を振り返りながら、応募フォームに進みます。
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--保護者と子どもという普段の親子関係ではなく、登場する動物同士になりきって、お互い対話をしてみるんですね。
清水さん:対話をすることは、自分に今まで備わっていなかった視点を得ることにつながります。見慣れた景色も、見る角度やタイミングを変えることで、とてもきれいに輝いて見えることってありますよね。親子という関係性を排除した、登場するキャラクター同士という対等な関係で対話をすることで、子どもたちだけでなく大人にとっても新たな気づきを得られるのでは、と思っています。
オンラインだからこそ実現できる「学びの継続性」
--おうちから家族と一緒に参加できるからこその仕組みですね。
清水さん:はい、オンライン開催のメリットは他にもあります。私自身、今までに何百回とワークショップを行ってきましたが、毎回思うのは「ワークショップでの学びが“離小島”になってしまっていないか」、つまり「その場限りの、今後に生かされない学びになってしまっていないか」ということです。ですので、オフライン開催の際は都度「おうちに帰ってからも今日のワークショップを思い出してみてね」と伝えるようにしていました。とは言え、ワークショップでの学びを自宅でも生かすことはなかなか難しくて、どうしても忘れてしまうんですよね。
でも今回は、そもそもの会場がおうちです。「おうちに帰ってからも~」なんて声をかけなくても、ワークショップの最中に、今まさに獲得した新たな視点で見慣れた景色を見渡し、普段との違いを学びの成果として実感することができるんです。たとえば「KOOV Challenge mini こぶたぬきつねこンサート」では、調理器具や文房具などの身近なものと、KOOVブロックを使ってオリジナルの楽器を作ります。普段と違う用途で道具を使ってみることで、新たな発見があり、日常の見慣れた景色がパッと変わるはずです。

一番身近な環境であるおうちで、一番身近な家族と一緒に、ワクワクする「探究」の気持ちを共感し合えるのは、オンライン開催だからこそだと思います。
--なるほど。オフラインでは難しかった、非日常のワークショップと日常での学びとの継続性が、オンラインでおうちから参加することで担保されやすくなったということですね。では最後に、参加を検討しているご家庭に向けて、おふたりからメッセージをお願いします。
伊藤さん:今の小学生は習い事や勉強でとても忙しいと聞きます。でも今回のワークショップでは、ぜひお母さんやお父さんとの対話をしながら、のびのび過ごしてほしいと思います。思いきり「楽しい」と思えることを見つけてもらえたら良いなと考えています。
清水さん:不確実で複雑で曖昧な時代、いわゆる「VUCA」の時代に必要な力とは何か、よく議論されています。でもこの答えは、実は非常にシンプルで、「ワクワクしながら考える」「楽しみながら作る」ことに尽きるように思います。弊社の社内を見渡しても、ひとりで唸って苦しんで何かを作るよりも、メンバー同士が対話しながらふと浮かんだアイデアが大きな企画やサービスのきっかけになることのほうが格段に多いのです。今回のイベントが、子どもたちにその一端を体験してもらえる場になれたらと考えています。
--多くのご家庭のおうち時間で、ワクワクが生まれると良いですね。本日はどうもありがとうございました。
今まで「オンライン」は「オフライン」に劣っているのではと、どことなく疑っていた自分を恥じた。オンラインだからこその日常との連続性は、学びを自分ごととして引きつける点、学びを日常に継続する点において、非常に有効に働く。
2021年2~3月に開催される「STEAMワークショップ部」は、豊かなおうち時間を過ごすだけに止まらない、ニューノーマルな学びの形を示してくれるに違いない。参加者の応募締め切りは1月31日。