「遊びもの」としての絵本の可能性…繰り返すことで広がる子供の育ち

 東京大学Cedepとポプラ社は2021年6月15日、オンラインセミナー「デジタル時代の子どもと絵本・本」シリーズとして、第1回「紙とデジタルどうちがう?絵本の役割と子どもの育ち」を開催した。デジタル時代における絵本の魅力とは。

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東京大学Cedepとポプラ社は2021年6月15日、オンラインセミナー「デジタル時代の子どもと絵本・本」シリーズとして、第1回「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」を開催した。
  • 東京大学Cedepとポプラ社は2021年6月15日、オンラインセミナー「デジタル時代の子どもと絵本・本」シリーズとして、第1回「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」を開催した。
  • オンラインセミナー「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」に登壇した東京大学Cedepセンター長・遠藤利彦氏
  • オンラインセミナー「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」に登壇した保育者で絵本作家の柴田愛子氏
  • 東京大学Cedepとポプラ社は2021年6月15日、オンラインセミナー「デジタル時代の子どもと絵本・本」シリーズとして、第1回「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」を開催した。
 東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センター(以下、東京大学Cedep)とポプラ社は2021年6月15日、オンラインセミナー「デジタル時代の子どもと絵本・本」シリーズとして、第1回「紙とデジタルどうちがう?絵本の役割と子どもの育ち」を開催した。

 東京大学Cedepとポプラ社は、2019年から本の価値を科学的なアプローチで明らかにする共同研究「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクトを実施している。その一環として、デジタル時代の子供の発達と絵本・本の関係や、子供をとりまく絵本・本環境について学びを深めるためのセミナーを全4回(予定)にわたり開催する。

 その第1回となる今回は、東京大学Cedepセンター長の遠藤利彦氏が、プロジェクトの意義とこれまでの成果について講演。また、後半では遠藤氏と保育者で絵本作家でもある柴田愛子氏が絵本・本とのより良い関わり方や、豊かな読書環境を実現するための手がかりについて対談した。

講演:「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクトの意義と成果



 まず遠藤氏から、共同研究プロジェクトの目指すところについて説明。「いないいないばあ」や「はらぺこあおむし」を例にあげ、絵本には3世代にわたって読み継がれているものも多く、その影響力の長さ・幅の広さが大きいことから、科学的に絵本の価値や役割を検証していくことに意義があると述べた。

 遠藤氏によれば、子供は環境や他者との相互作用でさまざまな気持ちを経験し、成長していくことが多いが、その中で絵本は重要な役割を果たしているいう。遠藤氏は絵本を「文化が紡いできた究極の遊び・学び・コミュニケーションの支援ツール」と表現し、同じ絵本でも語られるストーリーが徐々に十人十色に個人化されていくことや、子供の日常との橋渡しになることなどの特徴をあげた。

 また遠藤氏は、ページをめくるたびに別々の情景が広がる絵本には、ページ間にも見えないもの・聴こえないものがたくさん存在し、絵本の魅力はその描かれていないものにこそあると述べた。子供たちはページの間までも読み込み、自身の頭の中にある情報で積極的に埋め、相手に伝えようと工夫する。それこそが人間の知性の根源であり、子供の豊かな発達につながるとした。

 さらに遠藤氏は、2023年を1つの区切りとして進められているGIGAスクール構想など、教育のデジタル化が急速に進展していることに言及。大人の都合ではなく子供の目線で、時流に合わせるべきところ、変えるべきではないところを見極める必要があると述べた。

オンラインセミナー「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」に登壇した東京大学Cedepセンター長・遠藤利彦氏東京大学Cedepセンター長・遠藤利彦氏

 遠藤氏は、教科書をはじめ、学校教育がデジタル化するとそれが無抵抗に社会の価値観として標準化し、「学校の授業についていけるように」とデジタル教育の低年齢化が進む可能性があると指摘する。デジタル化によるメリット・デメリットを理解し、主体的に選び、工夫し、危ないものは避けるという基本的な姿勢を崩さず、長期的視座で検証し、弊害があれば捨てる勇気も必要だと伝えた。

 また遠藤氏は、紙とデジタル双方にメリットとデメリットがあるとしたうえで、電子メディアの可能性は大きく、さまざまな刺激を盛り込める一方で、子供にとって処理しきれないような過大な認知的負荷・情報過多になる可能性もあると述べた。作り手優位で暴走すると、子供の自由を奪い、創造性が発揮されにくくなると懸念した。

 最後に遠藤氏は、もはやデジタル機器の存在自体を議論することは有益ではなく、前向きにアナログとデジタルの共存と棲み分けの形を探していくことが大事だと述べ、講演を締めくくった。

対談:「紙とデジタル どうちがう?~絵本の役割と子どもの育ち~」



 セミナー後半では、保育者で絵本作家でもある柴田愛子氏を迎え、遠藤氏との対談が行われた。

「読みもの」だけではない、「遊びもの」でもある絵本



--柴田先生、保育現場での実際の子供たちとの関わりを踏まえ、遠藤教授の講演を聞かれたご感想はいかがですか。

柴田氏:私が子供のころ、まだ絵本はほとんどありませんでした。50年前、保育者になって初めて出会った絵本が、西巻茅子さんの「わたしのワンピース」です。「なんて自由な世界なんだろう」と絵本の世界観に感動しました。

 その後、急速にテレビアニメの影響が強くなっていき、最近では刺激が強いアニメも多いですね。遠藤先生の講演にもありましたが、今やテレビの存在の是非どころか、デジタル絵本も出現し、子供はまさに時代の中で生きていると感じています。

 とはいえ、言葉をもたずに生まれ、泣いて抱っこしてもらって、ご飯をもらうという、人間の原点は昔からまったく変わっていません。赤ちゃんの発達に必要なことや、子供が楽しいと感じることも、時代がどんなに変化してもきっと変わらないでしょう。そしてそれは、他者とのやりとりによる相互作用だと思うのです。

 ある日3歳を過ぎた子供から赤ちゃん絵本の定番「いないいないばあ」を頼まれて読んでいました。「ばあ」のセリフのとき、彼らは何を見ていたと思いますか。ふと子供の顔を見ると、挿絵ではなくて「ばあ」と言っている私の顔を見ていたんです。遠藤先生の講演でも「子供は人との相互作用で育っていく」という話がありましたが、特に保育現場における絵本は、こういったやりとりを生む可能性に満ちているなと感じています。

遠藤氏:園でのようすを観察させてもらうと、読み聞かせしてもらった絵本をよく子供たちが取り出し、読み合っていますよね。そういった行動について、どんな風に解釈していますか。

柴田氏:絵本というのは、家庭では大人と子供、1対1の個人的なものだと思います。ところが保育の現場では自分以外に他の子もいますので1対多のものになります。面白いと思ったものは「今日これ借りて帰る」と言って自宅でじっくり味わうことができますし、次の日も「先生、また読んで」とお願いすることもできます。絵本はそれぞれのペースに合わせて、それぞれの場面で繰り返すことができます

 繰り返すことで、そのお話が自分の体の一部になります。昔話の「桃太郎」などは、私たちの頭にストーリーがこびりついていますよね。あれは繰り返し話を聴いているから、体の一部になったのです。次々に新しい絵本を与えるより、子供が好きなものを繰り返し読むことで、子供なりの視点でその都度、新しいもの・違うものを物語の中に探しています。

 そうして繰り返すうちに、子供の中に絵本の内容が熟していき、遊びの中で絵本のシーンを再現するようになります。絵本の中から出て行くのです。「絵本は読みものでもあるけれど、遊びものである」と私は言っているのですが、そこに至るまでには、その絵本を「好き」という気持ちや「また読んでほしい」という気持ちがあってこそかなと思います。

 いつかの保育現場で、手に白いペンキを塗っていた子がいたので、私が追いかけて「おおかみと7匹の子やぎ」のセリフを言ったんです。すると、最初は絵本通りのセリフが返ってきたのですが、やり取りを繰り返すうちに、猫や犬になりきって子供が自由に考えたセリフが返ってくるようになりました。子供は完全に絵本の内容を消化して、遊びとして膨らませていました。

 絵本を共有すると、そのイメージの世界をも共有することができるため、共通理解のタネとして最適です。テレビは見ない子もいるし、家庭環境にバラつきがある場合もあります。積極的に保育に絵本を取り入れていくことで、どんな子供の世界も広がっていくと考えています。

オンラインセミナー「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」に登壇した保育者で絵本作家の柴田愛子氏保育者で絵本作家の柴田愛子氏

遠藤氏:私も、繰り返し読むことがとても大切だと感じます。子供は、同じ絵本を年齢が上がっても読みたいと言いますよね。でも繰り返し読み続けても、毎回同じことを感じているわけではない。同じものを読みながらも、その都度いろんなことを新しいアイディアとして生み出しています

柴田氏:繰り返すことで意味が出てくるのは、絵本の世界だけではありません。砂場でも、最初はプリン型に砂を押し込むだけですが、慣れるとその中に花を飾ったりする。奥に広がりのある素材が、子供にとって有効だと思います。

 砂場遊びでもおままごとでも、遊びを繰り返すことで子供は次の行動が予測可能になります。「ここまでの流れはこうだから、次はもっと先に行ってみようかな」と、先を見通すことにもつながります。子供の発達は繰り返すことで前進するのではないでしょうか。

絵本の最大の魅力は、「読み手のもの」になること



遠藤氏:「デジタル絵本と紙絵本の違いや使い分け」が本日の対談のテーマになっています。デジタル絵本やアプリ型絵本は触ると音が鳴ったり、動きがあったり、大人の声を吹き込んだりと、いろんな仕掛けができます。一方で、子供は一時的にその刺激に魅了されるものの、すぐに飽きてしまい、次はもっと強い刺激を求めることがあります。そのためデジタル絵本などは何回も同じものを繰り返し読むことが少なくなっていると感じます。そのあたりをどのように補っていくべきか、柴田先生はどう思われますか。

柴田氏:デジタル絵本から流れる音声は、著者でも母親のものでもなく、子供にとってまったく知らない人の声であることが多いです。ストーリーはキャッチできるし、もちろん発音も上手。でも子供は下手でも良いから、お母さん・お父さんの声が好きなんですよね。

 保育者などのリアルな人間は、子供の顔やようすを見ながら「このページの内容は難しいかな」とか「このページはちょっと長く広げておこう」といった微妙な調整をしながら、子供との関係を築きます。私は、絵本は作り手から離れたあとは読み手のものだと思っているので、こういった調整が非常に有効だと考えています。その点、デジタル絵本はそれが画面越しの調整になるので難しいですね。

 とはいえ、デジタル絵本は持ち運びが便利ですし、複雑な話を理解するには良いとも思います。一番役に立つのは図鑑ではないでしょうか。散歩に出て興味を持ったものについて、家に帰ってから分厚い図鑑を開くのではなく、出先で軽量なデジタル図鑑を見れば良い。動物の微妙な動きがわかるものまで出ています。デジタルを否定して昔に帰ろうとするのではなくて、どう活用して前進するかが大事です。

遠藤氏:おっしゃる通りですね。よくわかります。

柴田氏:遠藤先生が講演で言われていた「電子メディアの可能性は大きく、さまざまな刺激を盛り込める一方で、子供にとって処理しきれないような過大な認知的負荷・情報過多になる可能性もある」というデジタル化社会における懸念は、大人にも通じますね。ボタンを押せば情報が飛び込んでくるけれど、受け手がそれを消化し、正しく選択できないこともあります。情報のスピード感と量に、頭や心の動きが追いつかず、ギクシャクしてしまうのです。大人も用心しなければいけないですね。

遠藤氏:先ほどの柴田先生の言葉で印象的だったのは、絵本が「読み手のもの」ということです。これは絵本の最大の魅力かもしれません。子供たちは読み手として絵本を自由に使い、1回1回違う形で楽しみます。絵本をデジタル化することで、万が一読み手の自由を奪ってしまうようであれば、それは子供の発達には必ずしもプラスに働かないのかなと感じました。

柴田氏:大人は「絵本」と「おもちゃ」と「遊び」など分けて考えますが、子供にとっては「自分に必要なもの」という範疇でしかありません。お友達と遊びたくなくてずっと本を読んでいる子もいますし、絵本を使って本屋さんごっこ、宅急便ごっこが始まるという、本来の役割ではない使い方をすることも往々にしてあります。子供は自分の周りにあるものが積み木だろうが絵本であろうが、用途を問わず遊び込むのです。大人が絵本の役割を狭く捉えすぎると、広がるべき子供の楽しみが制限されてしまう気もします。

東京大学Cedepとポプラ社は2021年6月15日、オンラインセミナー「デジタル時代の子どもと絵本・本」シリーズとして、第1回「紙とデジタルどうちがう? 絵本の役割と子どもの育ち」を開催した。絵本のページ間に広がる、育ちの可能性

遠藤氏:日本の絵本って紙質からすごくこだわって作られていますから、実際のところ大人の私たちにさえ読む以外の楽しみがありますよね(笑)。

柴田氏:そうですね。ただ本を遊びに使うことは破損の原因にもなりますし、「読みたい」と思っている子を優先するため、保育者である私たちも子供たちの「自由な発想」をすべてOKにはできないので、日々せめぎ合いです。でも少なくともそういう風に自由に発想できる子には育ってほしいと思っています。

--幼少期にたくさんの本を読ませないといけないという話もよく聞きますし、「真面目に取り組まなければ」と考えてしまうこともありましたが、絵本の懐の深さをあらためて感じ、肩の力が抜けた気がします。子供たちの心を大切にしたいなと思いました。本日は、どうもありがとうございました。

自由にアクセスし、面白さに触れられる豊かな読書環境を



 セミナーの閉会時には、ポプラ社・代表取締役社長の千葉均氏が登壇。千葉氏は「ここ最近、大人はイノベーション力や困難な時代を生き抜く力、社会課題の解決といった自分たち大人ができないことを、子供に押し付けてすぎているのではないか」と指摘。世の中は現代も未来も面白いもので満ちあふれており、そういったものに、ひとつひとつゆっくりでいいから出会い、幸せに感じる心を育てて欲しいと述べた。

 また、2021年4月からポプラ社で小・中学校向けの電子書籍読み放題サービス「Yomokka!(よもっか!)」をスタートしたことにもふれ、学校教育におけるGIGAスクール構想が進む今、デジタル端末の活用を強要するのではなく、あくまでも子供たちが自由に使ってほしいと述べ、今後の子供たちの豊かな読書環境の整備に思いを馳せ、結んだ。

ポプラ社×東京大学Cedep共同研究
《土取真以子》

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