次世代を担う5人の若者が語る「新しい」学び…プレイヤーズ・コネクト2021公開企画カイギ

 2021年12月19日に開催された「プレイヤーズ・コネクト2021」。その一環として、12月19日に行われた「『次世代を担う若者たちが目指す“新しい”学びとは?』公開企画カイギ」のもようを振り返る。

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Learn by Creation NAGANO(ラーン・バイ・クリエイション長野)
  • Learn by Creation NAGANO(ラーン・バイ・クリエイション長野)
  • Kakedas CEOの渋川駿伍氏
  • 東京学芸大学附属国際中等教育学校の佐藤和花さん
  • 慶應義塾大学総合政策学部の北村理紗さん
  • 長野大学企業情報学部の内山拓巳さん
  • 白馬高校国際観光科卒の手塚慧介さん
  • 立教大学現代心理学部の福永理紗さん
  • 工藤颯莉さんがまとめたグラフィックレコーディングの画像がイベントの最後に参加者に共有された

 Learn by Creation NAGANO(ラーン・バイ・クリエイション長野)実行委員会は、長野県や国内外の多様な学びに関心がある人を対象として2021年12月18、19日に「プレイヤーズ・コネクト2021」をオンライン開催した。その一環として、12月19日に「『次世代を担う若者たちが目指す“新しい”学びとは?』公開企画カイギ」が行われた。イベントのもようを振り返る。

「教育とは知識を教えること」なのか

 イベントはKakedas CEOの渋川駿伍氏をファシリテーターとして進行。長野大学企業情報学部の内山拓巳さん、慶應義塾大学総合政策学部の北村理紗さん、東京学芸大学附属国際中等教育学校の佐藤和花さん、立教大学現代心理学部の福永理紗さん、白馬高校国際観光科卒の手塚慧介さんの5人がスピーカーとして参加した。

 冒頭、渋川氏は「世の中のイノベーションやさまざまなプロジェクトはある1つの問いから始まっている。会社のビジョンもミッションも誰かの問いによって始まる」と「問い」の重要性を指摘。そのうえで「『新しい学び』という問いは多くの人にとって共通項になりやすい。今日、生まれた何らかの指針がまた次につながっていけば、そんなにうれしいことはない。参加者全員でこの問いに真正面から向き合い、一緒に問いを深めていきましょう」と意気込んだ。

Kakedas CEOの渋川駿伍氏

 プログラムの発案者であり、学生団体ACTの代表も務める内山さんは「若い人が集うプログラムは新鮮だと思います。大人たちが考えるものとは違う『学び』の定義が生まれるはず。若者たちの生の声から“新しい学び”がどういうものなのか発見していただければ」と企画の意図を語った。

 登壇者たちの事前の打ち合わせはほとんどなく「ぶっつけ本番」でトークセッションがスタート。渋川氏は最初のテーマを「教育についてのイメージ、教育という言葉を聞いて連想すること」に設定した。

 まず口を開いたのは一般社団法人アンカーの理事を務め、SDGsや社会問題をテーマに中高生のソーシャルアクションをサポートする活動を行っている北村さん。教育を意味する英語「educate」の語源となったラテン語「educatus」に言及し「能力を導く、引き出すという意味がある。私にとって教育とは知識を教えるというよりも、その人がもっている能力を引き出して生かすというイメージ」と語った。

 登壇者最年少の高校1年生の佐藤さんは、アメリカで6年間暮らした経験をもとに日米の教育観の違いを指摘。座学中心でどの教科も似た形式の授業が行われる日本とは異なり、アメリカの小学校では生徒の意見が積極的に取り入れられるという。「教育とは、知識というよりも価値観を形成するためにあると思う」と話した。

東京学芸大学附属国際中等教育学校の佐藤和花さん

 内山さんは能動的な学びのスタイル「アクティブ・ラーニング」が推進されていることに触れ「アメリカでは主体的な学びが確立されている。でも日本は座学中心から始まっているので、いまさらアクティブラーニングと言ったところで違和感が出てきて、枠にとらわれたアクティブラーニングになってしまいそう。教育は変わっているようで変わらないのでは」と口にした。

 手塚さんは雪の降る白馬村のスキー場で車内から参加。小学生の頃、先生に怒られることが多く、教育へモヤモヤした思いを感じるようになった経験から、教育する側とされる側の感覚のずれを指摘した。学ぶ側は何かを達成したり、難しい公式を理解できたりしたときに楽しさを感じる一方で、教える側は自分が思っていることを相手が理解したときに楽しく感じるのでは、と推察。「そこが一致すればお互いが気持ち良くなれる。一斉に大人数に教えるとなると、どうしてもズレは出てきてしまう」と話した。

子供の悩み「どの大人を信じれば良いのかわからない」

 続いて、自分自身が今まで経験した「学び」を振り返る時間へ。内山さんは高校時代に古典の授業で体験した「ジグソー法」を紹介。グループごとに異なるテーマを考えたり、共有したりしながら学びを深めていく学習法で「違う観点から考えているのに、1つの方向に向かっていくのが面白かった。1時間があっという間に終わるくらいワクワクして学べた」と回想した。

 北村さんは高校時代、授業よりも学校生活そのものに刺激を受けていたそう。国際色豊かな学校で、教室で3、4か国の言語が飛び交っている環境だったといい「外国の問題も、クラスにその国の友達がいることで、とても身近に感じる。他人事ではなく、自分事として捉えることができた」と自身の世界が広がったことを明かした。

慶應義塾大学総合政策学部の北村理紗さん

 福永さんは自身の学びの期間を3つのフェーズに整理した。1つ目は中学時代までの成績を重視していた時期で「内容を理解したり、疑問に思ったりすることよりも、教科書に書いてあることをとにかく覚えて試験で吐き出すことが大事だった」。高校に進学すると、2つ目のフェーズに突入。探求的な学びができる環境に変わったが「いざ自由になったらうまく学べなかった」と環境を生かしきれなかったと振り返る。3つ目は徐々に自分の意見をもつことができるようになった時期。これまで覚えるだけだった事象について疑問を抱いたり、自分なりの問いをもったりすることを大切にするようになったという。

 その後、トークテーマは「自身の体験で感じた教育のネガティブな側面」へと移った。北村さんは「どの大人の言葉を信じたら良いかわからなかった」と中高時代の心境を吐露。子供のためを思ってさまざまな助言をしてくれる大人もいれば、ある方向に引っ張っていきたくて言葉をかける大人もいると感じていたそうだ。「人によって言うことが違うので、どれを自分に取り入れたら良いか取捨選択が難しかった」と話した。

 そのトークを聞いていた内山さんは大きくうなずいた。「Aをやれという人もいれば、Bをやれという人もいる。はたまたBをやるないう人もいる。善意で言っているかもしれないが、自分にとって何が最善なのか見えない」と共感。

 「違う考えをもっている人からは『何でそれをやったんだ?』と言われる。本当に不条理。言われたからやっただけなのにああでもない、こうでもないと言われて。だったら何がいいんだって話。その人の中では1つの答え以外は全部違うという考えになっている。『ダメ』の一言で押しのけられる辛さをもっと知ってほしい」と思わず感情を爆発させた。

長野大学企業情報学部の内山拓巳さん

キーポイントは対話

 続いて、テーマは幼少期の教育に。手塚さんは小学校低学年の頃の出来事を回想。当時、真剣に取り組んだことに対して先生から「お前、ふざけるな」と叱られたことがあったそう。「怒る前に、相手がどういう考えで行動したのか理解するための対話をするべき。『なんでそういうふうにしようと思ったの?』と聞くべき」と主張した。

 自身の例を引き合いに「木に登っているのは、登ること自体が楽しいとか、新たな景色が見たいとか明確な理由がある。大人からすれば危ないということだと思うけど、なぜ危ないのか、どんなときに危ないのかを子供が理解できるようにしっかりと話すべき」と語った。子供の行動を頭ごなしに否定する危険性を指摘した。

白馬高校国際観光科卒の手塚慧介さん

 ファシリテーターの渋川氏も「確かに自分も人生で初めて怒られた瞬間って理解できていなかっただろうと思う。怒られた背景を教えてもらえるかどうかは、大きな差につながるかもしれない」と同調した。

 佐藤さんも同じく「怒られる理由がわからない」問題に言及。小学5年の担任の先生がプログラミングを教えてくれ、ゲームを作って遊ぶのが流行ったが、6年生になり担任が代わった途端、休み時間にゲームをしていることを怒られたという。その後、学年集会でプログラミングの意義を熱弁するも、先生の意見を変えることをできなかった佐藤さんは、「なんでこんなに制限されるんだろう、と感じたのをすごく覚えている。先生がプログラミングに対する理解がなくて、これはゲームだという偏見があったと思う。すごく違和感を覚えた」と怒りの感情をぶつけた。

 流れに乗って、内山さんも再び感情を吐露。「先進的な取組みには慎重になるべきととらえられてしまうのは残念。教育にもう少しリスキーさもあって良いのでは」と主張した。

教育における「枠」のあり方

 そこから話題は「枠」のあり方へ。教育において、あったほうが良い枠といらない枠について問われると、北村さんは「表彰」についての視点を披露。高校時代に留学していたオーストラリアの学校では、学問に限らずあらゆる分野で活躍する生徒が表彰を受けていたという。一方で日本の中学時代、課外のバレーボールで活躍している生徒が教科学習とは関係ないため表彰の該当から外れていたことがあり「得意なところを伸ばそうとするのがオーストラリアでの教育だった。日本もそういう考えにシフトしていけばいいのに」と訴えた。

 問いを設定した渋川氏も「なるほど。表彰という観点は考えたことがなかったけど、学校を考えるうえで外せない1つの論点かもしれない。学校として賞賛される生徒像を示すのが表彰でもある。面白い見方」とうなった。

 福永さんは、自身の経験を踏まえ「確かに守ったほうがいいことはあるけど、全部先生の言う通りにしなくてもいいと思う。大人が作った枠の中にずっと収まっている必要はない」と主張。自身は先生の指示を守ることを大切にしてきたが「もっと『何で?』とか『私はこれがしたい』と主張しても良かった。今考えると、それはとらわれなくても良かった枠だと思う」と振り返った

「新しい学び」を体現する漢字とは?

 セッションの最後の問いとして、渋川氏は「自分の中で“新しい学び”を体現するとしたら、どんな学校にしたいのか。学びに対するイメージを漢字一文字で」と難題を注文。一同が悩む表情がオンライン上でも見てとれた。

 北村さんは「安」を選択。自身の学びの経験を「自分で決めて進むときの自信を作るものが私にとって一番大切だった」と振り返った。両親からは「自分でやりたいことは自分で決めなさい。何でもやってみたらいいんじゃない?」と言われていて、安心して帰れる場所があるからこそ、やりたいことに向かって羽ばたいていけたと、留学時代に実感したという。「土台となるような安心感を学校の中に作れたらいい」と話した。

 内山さんの漢字は「選」。「小さい頃から選ぶことの重要性を感じている。学校は授業のカリキュラムが細かく決まっていて、選択肢が少ない。大学みたいに学びたい内容を選べたら面白い。選択肢をもっと広げたい」と語った。

 佐藤さんは「繋」とし、「みなさんの話を聞いていて、これまでの経験を繋げて学びにしているのだと感じた。実生活に繋げて学びにしていくことが大事だなと。今も私たちは場所は違えど繋がってる。繋がりを通して、色んな学びを得られる」と意図を説明。

 手塚さんは「やりたいことのきっかけはワクワク。ワクワクすることに打ち込める環境が自分にとっての理想」と主張。漢字一字は「ワクワク」と形が似ている「夕」とした。 

 福永さんは「話」を選択。「北村さんが言っていた『安心』ってどこから生まれるんだろうと考えると、先生や友人、親との対話かなと。やりたいことを見つけるときに近くにあるのは人との対話だと思う。大事な場面でも日常でも、話すことは近くにある」とその意図を語った。

立教大学現代心理学部の福永理紗さん

二極化の中からどんなグラデーションを選ぶか

 最後にイベントを終えた感想についてそれぞれが語った。北村さんは「みんな、これをやったらやりたいことに近づくみたいな道筋はもっていると思うんですけど、そこから外れた選択をしたとしても、それはその子の選択。それを受け入れる余白を常にもっておくことが大事だと思いました。それから、学びを作る人でありながら、自分自身も学びを開拓し続ける人でありたい」と話した。

 内山さんは「ちょっと怒りの感情が出てしまったんですけど(笑)。でも小中高と振り返ったときに、ここはおかしかったねという部分があった。外国との比較を通じて日本の教育がいかに遅れているのか改めて気づきました」と強調。

 手塚さんは「教育があるから学びがあるわけではないし、学びがあるからそこに教育があるわけでもないなと。きっかけとなる場所を作ることが大事だと感じました」と語った。

 佐藤さんは「私は高校生なので、まだ学んでいる最中なんですけど、私が考える“新しい学び”を今のモヤモヤを解消しながら今後探していきたい」と力を込めた。

 福永さんは「1つのことに対して、色んな方向から見ている人たちと出会えて良かったです。教育現場だけを無意識に学びの場と感じている自分がいるなと気づきました。でもそうではないなと。学ぶチャンスはいたるところにあるので、いろいろな場所で吸収できる目をもっていければ良い」と振り返った。

 議論を活性化させる役割を担った渋川氏は「私自身、想定外の未来に生きていたいという心情があり、事前に質問も共有しなかった」と明かしたうえで「予定調和を壊せて、とてもいい時間になりました」とセッションの手応えを口にした。

 そして、教育において学ぶ姿勢が能動的か受動的か、知識をインストールするのか探求するのか、学ぶ場所は学校か学校以外か、あるいは日米の違いなどさまざまな二項対立が存在することを指摘。そのうえで「対極の2つからどちらを選ぼうかと考えたくなるけど、そんなにシンプルな問題ではない。2つの軸の間にあるグラデーションの中で、どこを選ぶのかが大事。そのカギは自分の感情と向き合う内省にあると思う。複雑な時代を生きている僕たちだからこそ見つけられる答えがあると信じて、一歩一歩実践者として生きていきたいですし、皆さんにもそのように取り組んでほしい」と締めくくった。

 なお、このイベントは工藤颯莉(くどうそより)さんにより「グラフィックレコーディング」を用いて内容がまとめられた。グラフィックレコーディングとは記録の手法の1つで、絵と文字でやり取りを可視化していくものだという。今回のイベントでの発言ポイントが整理されたグラフィックが参加者の画面に共有され、イベントは終了となった。

工藤颯莉さんがまとめたグラフィックレコーディングの画像がイベントの最後に参加者に共有された
《岡村幸治》

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