4月から成人年齢引き下げ…18歳までに学ぶべき、キャッシュレス時代の「お金」と「契約」

 2022年4月から成人年齢が18歳に引き下げられ、高校卒業後すぐに契約やお金に関する責任が課されることになる。キャッシュレス時代のマネー教育について、ファイナンシャルプランナーでキッズ・マネー・ステーション代表の八木陽子氏に話を伺った。

教育・受験 小学生
18歳までに学ぶべき、キャッシュレス時代の「お金」と「契約」
  • 18歳までに学ぶべき、キャッシュレス時代の「お金」と「契約」
  • 小・中学生の保護者の方からの相談として多いのは「ゲーム課金」
  • 「お金」に関わる絵本に触れることも家庭でのマネー教育の1つのテクニック

 「お金」は一生付き合っていくものでありながら、とかく日本の家庭ではタブー視されがちな話題の1つだ。一方で2022年度からの新学習指導要領では中学校・高等学校で金融教育がスタートする。それ以前の未就学児・小学生の間に、家庭で触れておくべき情報にはどのようなものがあるだろうか。

 キャッシュレス時代の「お金の教育」の現状と家庭での実践方法について、ファイナンシャルプランナーとして全国の自治体や学校でお金の教室を開催するキッズ・マネー・ステーション代表の八木陽子氏に話を伺った。

学校教育における「金融教育」追加…きっかけは成人年齢引き下げ



--長年、全国で小・中学生の親子を対象にしたお金の教室「キッズ・マネー・ステーション」を開催されていますね。

 16年ほど前から、おもに幼児と小学生の子供たちを対象に、お金や仕事について考える講座を開催しています。学習指導要領の改訂により中学校・高校の学校教育でも金融教育が盛り込まれることもあり、近年は中・高校生への講座の依頼も増えています。

--2022年の4月から始まる高校での「金融教育」は、家庭科や公民科で「資産形成」「資産運用」の視点が織り込まれると聞いています。かなり踏み込んだ内容のように感じられますが、どのような背景があるのでしょうか。

 2022年4月から成人年齢が18歳へ引き下げられることの影響が大きいですね。成人すると金融商品を買ったり、クレジットカードを契約したりと、個人の判断での「契約」が可能となります。保護者による取り消しができなくなるので、成人前に基礎的な社会の流れを理解しておく必要があります。

 また、人生100年時代といわれる今、寿命は伸びている一方で、お給料は上がらず、少子高齢化で年金制度も破綻するという日本経済の限界も周知の事実になっています。国も「自助努力」が必要だと発信しています。つまり自分で考えて、将来の備えをしなければならない。そんな現代を生きるためのスキルとして、学校教育にも盛り込まれたのだと理解しています。 

 なお、今回の学習指導要領の改訂では「資産形成」「資産運用」の追加がクローズアップされる傾向にありますが、実際には「『契約』とは何か」というベーシックな部分に重きが置かれ、教科書においても消費者教育にかなりのページ数が割かれています。金融商品(株式、保険、投資信託、債券)については各商品の特徴の紹介に終始する教科書もあれば、それぞれの詳しい概念を解説している教科書もあり、教科書会社によってそれぞれです。

「見えないお金」をどう教えるか



--昨今の子供を取り巻く、お金にまつわる変化や課題を教えてください。

 小・中学生の保護者の方からの相談として多いのは「ゲーム課金」です。翌月に親が明細を見て数十万円単位の請求に驚くということがあります。コロナ禍の休園・休校中に子供がスマホやタブレットに触れる機会が増えていることも要因の1つのようです。この場合、保護者が自分のスマホで子供に遊ばせることを許可した、つまり保護者の責任による不注意と見なされ、未成年者契約の取り消しが認められないことが多いのです。

 また、大学生においては先輩からの投資詐欺によって数十万円損失したなどの事例もあります。入学のタイミングは、とくに気も緩みがちなので気を付ける必要があります。

--親と子、それぞれのお金に対する意識に変化はありますか。

 キャッシュレス決済が急速に広まったことで、保護者自身も現金を使わなくなり、お金のリアルさや大切さを伝えづらくなっています。保護者の場合は、実体験として現金でやりとりしたことがありますが、子供は最初からデータだけでやりとりするキャッシュレス決済しか知らない子も増えています。最近はおままごとの場面でも子供銀行のおもちゃの紙幣や貨幣ではなく、プラスチックのクレジットカードを渡したり、スマホをかざしたりする子が多いと聞きます。

 文房具1つにしても、物の妥当な価格帯や相場、価値を知らない子供が昔より増えていて、金銭感覚に疎くなってきています。たとえば、毎月買ってもらっている漫画の値段を答えられない子もいますし、親と実店舗で買い物をしているときに「Amazonで頼めばタダだからお金払わなくて良いのに」と言われたというエピソードもあります。親子で値段や価格について話す機会をもつことが大事ですね。

--キャッシュレス決済の浸透やオンラインゲームでの課金など、従来のマネー教育では教えきれないことが増えていますね。家庭で子供にお金の価値を伝えるにはどのようにしたら良いでしょうか。

 まず、幼児には「お金とは何か」ということを教えるのが大事です。お金の形が見えない今、親自身の子供時代の感覚で「使ったらなくなっちゃうよ」と教えるだけでは子供には伝わりません。「お金はお父さんやお母さんが一生懸命働いてもらった大事なものなんだよ」「使うことでお金が減っていくから内緒で使わないでね」と、少額であってもお金を使うときに伝えるのが効果的です。お金という物だけではなく、経済の仕組みそのものについて、少しずつ伝えていくと良いですね。

--目に見えないお金での買い物をする場面が増えていますが、具体的にどのように子供に伝えたら良いでしょうか。

 インターネットで買い物をする際、保護者の消費行動を子供と一緒に体験するのがお勧めです。たとえば子供のものをオンラインで買う際に「どの色が良い?どの柄が良い?」と聞くだけではなく、購入にいたるまでの保護者の次のような行動を見せると子供自身もイメージしやすいと思います。

<大人の購買行動パターン>
・価格やスペックを他の商品と比較する
・欲しいものリストに入れる
・返品方法を調べる
・送料を調べる
・価値に対して高いか安いかを考える

 大人にとっては、買う場所が変わっただけでリアルな買い物と大して変わりませんが、リアルな購入体験が減っている分、子供にとっては新鮮な学びに感じるはずです。「ただ欲しいからポチっとしているのではなく、ちゃんと吟味して買っているんだよ」「お金を無駄遣いせずに大切にしているよ」と少しずつ伝えることを積み重ねてください。

購買行動を見せる、絵本に触れる…「お金」を知る身近な体験



--親が買い物をしている姿を見せること自体が学びになるのですね。

 日本は元々、お金のことを家庭で話す文化がありませんし、子供はお金がどこから生まれて、どう流れていくのかという経済の仕組みをなかなか理解できません。「他のものを買ったし、やめておこうかな」「今月は使いすぎちゃった」「安いけど、とても良い買い物ができた」などと子供の横でつぶやき、購買行動における大人の頭の中を垣間見せるだけでも、お金の仕組みの一端を伝えることができます

 また、子供にとっては「安い」「高い」の感覚も把握しづらいものです。セールやリユースの商品を見かけたら、それをきっかけに「新しいものは高いけれど、賞味期限が近づくと安くなる」「人が使った中古品は新品より安い」など、価値と価格のバランスについて話してみると良いですね。小学校高学年にもなれば「古いものは傷がついて安くなっているけれど、それを許容できたり、自分で直せたりするならお値打ちだよね」など、話が広がっていくと思います

--より小さい子供に対しては、どのようなアプローチがありますか。

 私の場合は、幼児期や小学生のお子さまには、お金の話題が登場する絵本を紹介しています。私がお金の教室を始めた16年前、お金に関する国内の絵本は非常に少なかったのですが、最近は徐々に出てきました。いくつかお勧めを紹介しますね。

もりたろうさんのじどうしゃ」(ポプラ社)


おさいふのかみさま」(フレーベル館)


100円たんけん」(くもん出版)


はじめてのおつかい」(福音館書店)



 ほかにも「からすのパンやさん」(偕成社)では一生懸命働いている姿を見せられますし、昔話「わらしべちょうじゃ」は投資の基本を教えられるなど、定番絵本でもお金の大切さを伝えられます。

 絵本を通したコミュニケーションでは「どうして?なんで?」と子供からの質問も出やすいですし、親子で自然に会話でき、無理なく伝えることができます。お金は日常のことだからこそ、絵本という身近な存在から気負わずに接していくと良いと思います。中学生・高校生・大学生と成長するにつれて、金銭トラブルの内容もより大きくなってしまう傾向にありますので、小さなころから触れておくことが大切ですね。そうすることで子供同士で買い物に出掛ける機会が増えても、安心して送り出すことができるはずです。

 私の著書『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』(えほんの杜)では、自分の好きな仕事で収入を得る喜びなど、お金を稼ぐことや使うことの本質的な意味がわかるようになっていますので、ぜひ親子で眺めてみてください。子供にわかりやすく伝えられるようにと、先に保護者の方が読んでおくパターンも多いようですよ。

--本日は、どうもありがとうございました。

 かつてはお小遣い帳をつけることが子供に対する「お金の教育」のすべてだったように思われる。しかし、クレジットカードはもちろんQRコード決済といったキャッシュレス決済の浸透などで昨今のお金をめぐる動きは大きく変化している。目に見えないお金の動きが増えた分、子供に伝える際には工夫が必要だ。2022年3月には八木さんのベストセラーの続編として『今から身につける「投資の心得」~10歳から知っておきたいお金の育て方』が発売されるとのこと。子供が楽しく賢くお金と付き合っていけるよう、身近なところから働きかけてみてはいかがだろうか。

プロフィール:八木陽子さん

 キッズ・マネー・ステーション代表。ファイナンシャルプランナー/キャリアコンサルタント。上智大学外国学部卒業。出版社で女性情報誌の編集部勤務を経て「堅いお金の話を楽しく分かりやすく伝える伝道師になろう」と独立。ファイナンシャルプランナーやキャリアカウンセラーとしての10年以上の仕事実績と消費者の視点から、誰よりも分かりやすく「お金」「経済」「キャリア」を伝える。現在までに1000件以上の相談を実施。2017年より文部科学省検定の高等学校の家庭科の教科書に、ファイナンシャルプランナーとして初めて掲載される。

10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方

発行:えほんの杜
Amazonこどもの社会学習カテゴリー「第1位」獲得のベストセラー
 日本ではお金の教育が遅れていると言われています。使い方だけではなく、お金の稼ぎ方や社会・人との関わり方、お金について学ぶことは、社会の見方を考えるきっかけになると教えてくれる1冊。この本で本当に伝えたいことは、正しい「思い」や、正しい「願い」を持ったお金との接し方。Amazonこどもの社会学習&株式投資・投資信託カテゴリー「ベストセラー第1位」を獲得した話題の書籍。


今から身につける「投資の心得」~10歳から知っておきたいお金の育て方

発行:えほんの杜
親子で学ぶ「お金のこと」待望の第2弾
 お金は稼いだり使ったりする以外に、育てることもできる。お金を育てることは「人生や仕事の選択肢を増やすことに繋がる」ということを「子供のお金教育のプロ」八木陽子さんが誰にでもわかるように解説した、投資の「超」入門書。「お金の育て方=投資」と一歩踏み込んだ内容。Amazonこどもの社会学習&株式投資・投資信託カテゴリー「ベストセラー第1位」を獲得した『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』に続く第2弾

《土取真以子》

土取真以子

関西在住の編集・ライター。教育、子育て、ライフスタイル、お出かけのジャンルを中心に、インタビュー記事やイベントレポートなどの執筆を手がける。教育への関心が強く、自身の出産後に保育士資格を取得。趣味が旅行とハイキングで、目標は親子で四国お遍路&スペイン巡礼。

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