生殖補助医療技術、発達の遅れに直接関係なし…千葉大

 千葉大学は2022年4月20日、「生殖補助医療により生まれた子供の神経発達について」約7万8,000組の親子のデータを解析し発表した。発達の遅れに生殖補助医療技術は直接関係しないことがわかった。

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 千葉大学は2022年4月20日、「生殖補助医療により生まれた子供の神経発達について」約7万8,000組の親子のデータを解析し発表した。発達の遅れに生殖補助医療技術は直接関係しないことがわかった。

 生殖補助医療やその他の不妊治療により生まれた子供は、自然妊娠により生まれた子供と比べて、発達の遅れの頻度が高くなっていたが、ほとんどの場合、生殖補助医療技術そのものに起因するのではなく、両親の年齢等、不妊にかかわる要因と多胎妊娠(双子や三つ子)が関係している可能性が示された。

 研究の背景には、1978年に世界で初めて体外受精による赤ちゃんが生まれて以来、日本では出産年齢の高齢化とともに、生殖補助医療を利用する人が増えていることがある。

 「エコチル調査(子供の健康と環境に関する全国調査)」は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子供の健康に与える影響を明らかにするために、2010年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査(集団調査)だ。

 エコチル調査千葉ユニットセンター・千葉大学予防医学センターの山本緑氏、森千里氏、エコチル調査の協力医療機関みやけウィメンズクリニックの三宅崇雄氏らの共同研究チームは、生殖補助医療により生まれた子供の精神神経発達について調べるため、エコチル調査に参加している子供と母親のデータを利用し、体外受精、顕微授精、その他の不妊治療(排卵誘発・人工授精)により生まれた子供と、自然妊娠で生まれた子供について、3歳時点の神経発達の遅れの頻度を比較した。

 内訳は、体外受精で生まれた子供1,391人、顕微授精で生まれた子供1,542人、その他の不妊治療で生まれた子供4,071人、自然妊娠で生まれた子供7万924人。

 3歳時点の神経発達の遅れの頻度の比較はASQ-3という「コミュニケーション(言葉の理解や話すこと)」「粗大運動(腕や足等の大きな筋肉を使う動き)」「微細運動(手指の細かい動き)」「問題解決(手順を考えて行動する等)」「個人と社会(他人とのやり取りに関する行動等)」という5つの領域について、保護者の回答をもとに子供の発達を評価する指標の質問票を用いて行った。

 親の背景を比較すると、生殖補助医療(体外受精、顕微授精)、および生殖補助医療以外の不妊治療により妊娠したグループは、自然妊娠のグループよりも、母親と父親の年齢が高く、多胎妊娠、早産(妊娠37週未満の出産)、帝王切開、新生児の低出生体重(出生時の体重2,500g未満)の割合が高い傾向にあった。

 発達の遅れが疑われる子供の割合を自然妊娠と体外受精、顕微授精および生殖補助医療以外の不妊治療により妊娠したグループで単純に比較した場合、生殖補助医療(体外受精や顕微授精)に限らず、排卵誘発や人工授精を行う不妊治療でも、発達の遅れが疑われる子供が多いことが示された(参考図A)。

 親の背景(年齢、出産経験、社会経済状況、基礎疾患等)と子供の性別の影響を取り除いて解析を行うと、不妊治療と自然妊娠との差は少なくなり、さらに妊娠合併症(糖尿病・妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群)と胎児の発育不良の影響を取り除いて解析を行うと、体外受精グループも自然妊娠との差はなくなった。

 単胎児(双子や三つ子ではない子供)のみを対象として、親の背景と子供の性別の影響を取り除いた解析を行うと、体外受精、顕微授精、他の不妊治療のいずれのグループも、自然妊娠との差は見られなくなった(参考図B)。

 これらの結果から、生殖補助医療や他の不妊治療では、子供の発達の遅れがやや多く見られたが、体外受精、顕微授精という治療技術そのものが原因とは言えず、おもに親の年齢等、不妊にかかわる要因と多胎妊娠が関係している可能性が示された。

 胚の移植方法別に見た子供の発達の遅れの頻度生殖補助医療で胚を子宮に戻す方法により、子供の神経発達に違いがあるかを調べるため、凍結胚移植、胚盤胞移植(新鮮または凍結)により生まれた子供と、自然妊娠で生まれた子供の発達を比較した結果、凍結胚移植や胚盤胞移植と自然妊娠との間で、子供の発達の遅れの頻度の差は見られなかった。

 研究の結果、生殖補助医療では自然妊娠と比べて子供の発達の遅れが増加していたが、これは、体外受精、顕微授精、凍結胚移植、胚盤胞移植といった技術そのものに起因するとは言えず、おもに親の年齢等、不妊にかかわる要因と多胎妊娠、およびそれによって生じる妊娠合併症や母体内での胎児の発育不全に起因する可能性が示された。

 千葉大学は、加齢による妊娠する能力の低下や妊娠・分娩に伴うリスク増加について人々の理解を深めてもらうことや、保育施設や育児休暇取得制度の充実等子育てしやすい社会をつくり、妊娠適齢期で妊娠・出産しやすい環境を整えることが、子供の健全な発達につながると考えられるとしている。
《鈴木あさり》

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