6月は「プライド月間(Pride Month)」と呼ばれ、世界各地でLGBTQ+の権利について啓発を促すさまざまなイベントが開催される。
昨今、子供たちの遊びや服装においても「ジェンダーニュートラル化」が進み、ともすれば子供たちの方が柔軟なジェンダー観を持ち合わせていると感じる場面が多い。
そこで、ジェンダーインクルーシブな玩具の先駆けとして、製品開発を行っている「レゴ フレンズ」クリエイティブディレクターのフェネラ・チャリティー氏に話を聞いた。
遊びによって規定されるジェンダー観
--御社は、国連の国際ガールズデーに合わせ「Geena Davis Institute on Gender in Media」と共に共同調査を実施するなど、ジェンダーに関わる取組みを数多くされていますね。
同調査は、国連の「国際ガールズ・デー」を記念し、またレゴグループの新しいキャンペーン「Ready for Girls」の開始を記念して、Geena Davis Institute on Gender in Mediaに依頼し、創造的な遊びにおけるジェンダーバイアスについて調査したものです。調査の結果、昨今「女の子」観は旧来の偏見を払拭するために変化をしてきているにもかかわらず、いまだにさまざまなタイプの遊びが、性別によって規定されてしまっていることがわかりました。
--なるほど。幼少期の遊びも性別によって規定され、またそれによって成長においての「ジェンダー」が形づくられているのですね。
同調査では、多くの家庭で「レゴブランドをインクルーシブな玩具ブランドとして認識している一方で『レゴ ブロック遊びは女の子よりも男の子のものである』と考えられていることが明らかになりました。具体的には、約6割の保護者が息子にレゴ ブロック遊びを勧めていると答えたのに対し、娘に対しては半数以下であることがわかりました。
この調査結果を受けて、レゴグループでは、Geena Davis Institute on Gender in MediaやUNICEFとより密接に連携し、プロダクトやマーケティング・コミュニケーションにおいて、おもにジェンダーにおける有害なステレオタイプや偏見を排除するよう努めています。性別に関係なく、どんな子どもでも好きなものを作ることができると感じ、そのユニークな才能を伸ばし、実現できるような方法で遊んでほしいと考えているのです。
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ジェンダーバイアスの原因は大人たち
--大人の先入観が、子供にジェンダーバイアスをかけている気もします。
その通りです。同調査でお子さまに対して「遊びに男の子向けと女の子向けがあるか」を質問したところ、「はい」と回答した男子は74%、女子は62%でした。つまり、女の子は、いかなる遊びに対しても、男の子より制限を感じておらず、本来はジェンダーバイアスも少ないのです。
このように社会的な固定観念が子供の足を引っ張り、クリエイティブな能力開発だけでなく、将来のクリエイティブなキャリアパスにも影響を及ぼすことが多々起きています。
--子供たちに対しては、頭から「ジェンダー」について教え込むよりも、ありのままの姿を尊重することが大切だと感じます。それ以前に、まず保護者など大人への訴求が必要なのではないかと。御社は、現代の大人たちが「ジェンダーニュートラル」を実感できるようなプロダクトを展開されていますね。
私たちは、すべてのプロダクトが「ジェンダーインクルーシブ」であるべきと考えています。つまり、性別、個人がもつ興味や情熱に関係なく、すべての人を受け入れるものである必要があるのです。そのため、私たちはさまざまなテーマや世界中のパートナーとともに革新を続け、皆に楽しんでいただける新しい遊びの体験を提供し続けています。
たとえば「レゴ フレンズ」では、さまざまなキャラクター設定のミニドールのシリーズです。ミアというキャラクターはスポーツが好きですし、アンドレアは音楽が好きです。子供は自分自身の興味関心に近いキャラクター、あるいは自分とは真反対のキャラクターでロールプレイし、それぞれの立場を感じながらストーリーを楽しむことができます。
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ジェンダーインクルーシブのために大人がすべき10のこと
--他者感覚を養うことができますね。子供たちと一緒に遊ぶ際、大人はどのようなコミュニケーションをすれば良いでしょうか。
大人のジェンダーに関する固定観念は深く刻み込まれており、無意識の偏見に起因することが多いため、変えるためには大きな努力が必要です。レゴグループでは、Geena Davis Institute on Gender in Mediaとの共同調査のうえで、遊びをよりインクルーシブにするための10のアクションを提案をしています。
遊びに変化をつけましょう
現状の子供が好きな遊びをリストアップしたうえで、偏りのないよう、さまざまな遊びを促し、変化をつけてみる。
新しい活動を積極的に取り入れましょう
「性役割の型」を打破するための最善の方法は、さまざまな活動に参加すること。創造的な活動を通して自分を表現するよう薦める。
役割を交換してみましょう
性別の役割は固定されていないことを子供に伝える。絵本や遊びの中で違う性別の登場人物の役を演じてみる。
ロールモデルを紹介しましょう
ロールモデルを示し、性別や人種を問わず、さまざまな職業に就けることを示す。
創造性を褒めましょう
子供が常識にとらわれない活動に興味を示したら、その創造性や工夫を褒めてあげる。
男女混合の友好関係を奨励しましょう
男女混合の誕生日会を開く、共同の課外活動に参加するなど、子供たちがさまざまな活動に参加することを促す。
固定概念に挑戦しましょう
既存の性別の固定観念について率直に話し、疑問を持ち、挑戦するよう促す。
メディアを選びましょう
子供が見る本、テレビ番組、映画について、慎重に判断する。偏見にとらわれない作品を選ぶ。
親自身が子供にとっての「家庭内のヒーロー」であることを意識しましょう
保護者自身が家庭で性別にとらわれない活動をする姿をみて、子供は学ぶ。
親自身が自分の居心地の良い場所から一歩踏み出してみましょう
親自身が性別の役割にとらわれている可能性があることを忘れず、自分の居心地の良い場所から一歩踏み出して新しいことに挑戦をしてみる。
--今後御社が手がけていくプロダクトの世界観と、目指す世界の理想像を教えてください。
遊びは、子供たちが探索し、成長し、新しい興味やユニークな自己表現方法を見出すための、重要な学習方法のひとつです。それゆえ、すべての子供たちが歓迎され、性別ではなく、個々が興味関心や情熱をもてるもので結ばれた多様な世界を表現しているおもちゃが必要です。
「レゴ フレンズ」シリーズをはじめとして、私たちはこれからも、子供たちが共感し、夢をもてるような製品づくりに取り組んできます。私たちのプロダクトが、ジェンダーインクルーシブに貢献できることを願っています。
幼いころから子供たちの身近にあるレゴ ブロック。国境を超えて全世界で親しまれていることがまず評価される玩具であるが、そんなレゴグループが今、国境よりも高い壁とも言える「ジェンダー」の課題に向き合っている。レゴ ブロックでの創作遊びは、子供たちだけでなく、私たち大人にとっても、ジェンダーの概念をやわらかくする機会を与えてくれるはずだ。