親が感じる困りごとには「子供なりの事情がある」加藤紀子氏に聞く、5つのハッピー習慣

 「目の前の子供を幸せにするために、具体的に親ができること」が紹介されている加藤紀子氏の最新刊「ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!」。「困りごとにはその子なりの事情があるんです」と語る加藤氏に、子供への寄り添い方のヒントを聞いた。

教育・受験 小学生
「ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)の著者・加藤紀子氏
  • 「ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)の著者・加藤紀子氏
  • 「ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)の著者・加藤紀子氏
  • 「ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)の著者・加藤紀子氏
  • ハーバード大学の心理学者ハワード・ガードナー博士が提唱した「多重知能理論」による子供のもつ知能の特性8種類(「ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)より抜粋)
  • 「ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)の著者・加藤紀子氏
  • 「ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)の著者・加藤紀子氏

 17万部を超える育児書籍「子育てベスト100」の著者である加藤紀子さんが、最新刊「ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)を上梓した。

 学校での困った、家庭での困った…子育てにおけるさまざまな困りごとに対して、「目の前の子供を幸せにするために、具体的に親ができること」が紹介されている本書。「困りごとにはその子なりの事情があるんです」と語る加藤さんに、子供への寄り添い方のヒントについて聞いた。

子育てを振り返って思うこと

--加藤さんご自身も二児の母親として、息子さん、娘さんを育ててこられました。子育てをしていて感じた理想と現実のギャップはどんなことでしたか。

 特に1人目の長男のときはなかなか思うようにいかないことが多かったですね。初めての子育てで、「やんちゃでいつも外を駆けまわっているのが男の子」という思い込みがあったので、部屋で本や図鑑を読むのが好きだったわが子に対して、ちょっと物足りない気持ちになったり心配になったりすることもありました。今思えば、おっとりしていて、控え目なところがすごくかわいいなと思えるんですけどね。

 2歳違いの妹はその反対のタイプ。兄は滑り台に並んでも次の子に列を譲ってあげて、怖くてなかなか降りられなかったのに対して、妹は上がったら即ヘッドスライディングで頭から降りてくるような子でした(笑)。小さいころはケガも多かったですね。2人とも今は大学生になりましたが、活発だった娘はすっかり落ち着いて、逆に、控え目だった息子は今とても社交的でアウトドアも大好きです。子供時代の姿からは親もイメージがわかないくらい。子供って、目の前にいる姿がずっとではなくて成長とともにどんどん変わっていくんですよね。子育ての悩みや困りごとって、そのときは深刻に感じていても、それがずっと続くことはない、ということを子供たちが教えてくれたような気がします。

--加藤さんご自身が子育てに葛藤を感じることもあったのでしょうか。

 “母親としてこうありたい”というイメージと自分が違って自己嫌悪に陥ることはよくありました。働いているお母さんならみんな同じような経験をしていると思うのですが、子供って、すごく大事な仕事が入っているときに限って、熱を出したりケガをしたりするんですよね。「なんで今日なの……?」とつい思ってしまって、後から反省したり後ろめたい気持ちになったり。でも、いつか私のように子育ての思い出のひとつとして振り返る日がやってくると思います。

好評発売中の「子育ての困りごと解決ブック!」(大和書房)には、加藤紀子氏の「親も子も毎日が少しでもラクになれる方法をを届けられたら……」という思いが込められている

熱心になればなるほど…の落とし穴

--最新刊「子育ての困りごと解決ブック!」には、さまざまな困りごとやお子さんのケースが紹介されています。兄弟姉妹で違いがあり、違うご家庭のお子さんも違いがあり、どの子も違って当たり前ですが、違いを喜べない雰囲気、受け止められない心情の原因って何でしょうか。

 今はSNS等でまわりの情報が入ってきやすいですよね。SNS上でつながっている知り合いはもちろん、たとえば“受験生の親”とか、“二児を育てるワーママ”等、自分と同じような立場にある他人の詳細までもが見えてしまう。自分の子供の成績が上がったとか、サッカーでレギュラーに選ばれたとか、よその家庭のディテールが昔に比べて事細かに見えるようになってしまったことが一因だと思うんです。

 子育てに関する情報も、少し前から比べても何十倍も何百倍も情報が多くなっています。特に中学受験に関しては、中学受験塾のテスト対策のためのオンライン講座があったり、テストの平均点を予想するサイトがあったり、校舎ごとのコース基準を掲載している掲示板があったりしますよね。熱心な親御さんほど、それをあえて自分から取りに行ってしまって調べてしまう。知ったからには周りの子たちと比べてしまうという悪循環に陥っていると思います。「情報ばかり見ないで目の前の子供を見る」ということが、意外と忘れられがちなのかなと感じています。熱心になればなるほど、心に留めておいてほしいですね。

--まだ小さいお子さんに関してはいかがでしょうか。

 子供を取り巻く社会に寛容さがなくなっているということもあって、今の保護者は“我が子にはお利口にしていてほしい”という外圧があるんじゃないかなと思います。たとえば「バスの中でまわりの他の子は静かにしてるんだから、うちの子も静かにしていてほしい」という意識は常にもっているような。子供に対しても自分自身に対しても、間違えたことをしてはいけないとか、無難にしていてほしい気持ちが強いような気がしています。そういった気持ちが子供の成長とともに親の中でどんどん大きくなって、周りの子のようにできていないことに不安を感じる、“わが子はわが子”というふうに受け止められない、違うことを喜べないという風潮につながっているのではないでしょうか。

子供に合った勉強スタイルを認めて

--おっしゃるとおり、SNSやネットニュースで情報を得る機会が10~20年前に比べると圧倒的に多い「情報過多」時代ですが、加藤さんご自身は、どういった視点で有益な情報を選んでいるのでしょうか。

 まず、個人的なストーリーは一般化しないというのは気を付けています。子育てで成功した方の本等も興味の対象としては読みますが、それがすべてだとは思わないようにしています。ある程度一般化されたエビデンスに裏付けられたような情報でも、自分の子供にフィットするかどうかはいったん立ち止まって考えます

 ネットでも本でも「これをやったらこうなる」みたいな情報はたくさんあると思いますが、それがわが子に当てはまるかどうかというのはわかりません。試してみるのは良いけれど、うまくいかなかったからといって不安に感じる必要はないと思います。

--情報やメソッドを鵜呑みにはしないということですね。「子供のことをよく観察すること」が大切だとおっしゃいます。

 「こうやったら成績上がる」と言われると「そうしなきゃ」と思うこともありますが、実際にわが子にやらせてみるとうまくいかなかったりしますよね。本の中でも紹介しましたが、ハーバード大学の心理学者ハワード・ガードナー博士が提唱した「多重知能理論」によると、子供のもつ知能の特性には8種類あるんです。子供の特性を知り、どういうやり方がその子にとって勉強しやすいかというのはぜひ知っておくと良いと思います。

ハーバード大学の心理学者ハワード・ガードナー博士が提唱した「多重知能理論」による、子供のもつ知能の特性8種類

 文章を読むことが好き、数量に興味があるなど言語的、数学的に秀でたタイプ、いわゆる学校の優等生。図や絵などのビジュアルで理解する子、音や歌といった耳からインプットをするのが向いている子、歩きながら暗記をしたほうが定着しやすい子、いろいろな学習の特性があります。

 「勉強=机に向かって集中する」のが最適だと思っている人は多いと思いますが、そうではない子もたくさんいるというのは知っておいてほしいですね。ブツブツ唱えながら覚える子、ボイスレコーダーに歴史や年号を吹き込んで、それを聞きながら覚える子、ソファでゴロゴロしながらやるほうが頭に入る子、体を動かして発散してからのほうが集中できる子もいます。1人でじっくり考えたい子もいれば、反対に誰かと一緒に勉強したほうが定着する子もいるわけです。

 そこを一辺倒に、「机に向かって黙ってやりなさい!」と親がやらせてしまうと、合わないスタイルに無理やり押し込めようとしてそこでバトルになってしまいますし、当然効果も上がりません。その子に合った勉強のスタイルを親が容認することで、グンと子供が伸びることもあるということを覚えておいてほしいです。

ついつい言いがちだけど逆効果!

--本の中で困りごとに対する「How to レスキュー」や「NGワード」が書かれています。子供にこれ言わなきゃよかった……と思うことも多々ありますが、取材してきた中で、つい親が言ってしまう「NGワード」でもっとも多かった言葉は何ですか。

 一番多かったNGワードは「泣いちゃダメ」ですね。電車の中だったり、まわりに人がいたりすると、親の恥ずかしさもあってついつい言ってしまう言葉なんですよね。そういうときは「痛かったね」「嫌だったね」「悔しかったよね」と、子供の気持ちに共感してあげることが大事なのですが、私もそれを知らずによく「泣いちゃダメ」と言っていました。泣くことで自分の負の感情を吐き出している子もいるので、無理に泣くのを我慢させるのはかえってストレスになってしまい、逆効果なこともあるので注意してほしいです。

「何で言うことを聞かないの? と言われても子供は返事ができない。何かしら子供なりの事情がある。」

 それから「何で言うこと聞かないの?」。子供にしてみれば、何で言うこと聞かないのと言われても返事ができないんですよね。もちろんケガや命に関わるようなことは、厳しく言わなくてはいけませんが、そうではないときは、何かしら子供なりの事情があるんだなと思って、ちょっと話を聞いてみようかなと向き合うのは大事だと思います。子供の本音に耳を傾けて、子供にとって無理のない形で着地点を探すように意識してほしいですね。

 あとは「〇〇ちゃんはできてるのに」という、兄弟姉妹や友達との比較もよくないですね。兄弟姉妹がいると目に入りやすいぶん「〇〇は帰ってすぐ宿題やったのに、あなたはいつまでダラダラしているの!」と、ついつい比べてしまいがちなのですが、誰かと比べられてやる気になる子供はいません。

問題行動の裏に隠された「子供の気持ち」を理解して

--この手のセリフ、どれも子供と接しているとついつい言ってしまう言葉ばかりです。親にとっての困りごとであって、子供自身はたいして困っていないというか…。

 そうなんですよね。ただ、どんな問題行動もじつは子供が無意識に発しているサインだったり、子供なりに困りごとに対処しようとしていることがけっこうあるんです。その行動の裏側にその子にとってどんな困りごとがあるかをよく観察することが大切です。

 極端な例ですが、ゲームがやめられずに生活時間が狂ってしまい、学校を休みがちになってしまう子。もちろんゲームに中毒性があるというのもそうなんですけど、学校で友達とうまくいかないことがあったり、勉強が急に難しくなってしまって学校にいるのがつらくなってしまったりして、そのつらさを忘れるためにゲームをやっている子もけっこういるんです。ゲームをやめさせたら学校に行けるようになるのではなく、何でゲームをやめられないのか、そこに学校に行けない理由があるんですよね。

--子供も何とかしたいと思っているんですね。

 他にも、受験や自分の成績を意識する年齢になると、カンニングや点数の改ざんをしてしまう子も出てきます。もしカンニングを見つけてしまったとしても、そこは怒らずになんでカンニングをしたのかなと考えてあげること。勉強についていけなくなっていた故の行動だったり、親がプレッシャーを与えていたりすることが往々にしてあるんですよね。あからさまに怒らないまでも「今回は点数下がっちゃったね」と無意識に言ってしまったり、お兄ちゃんにかけた言葉を、下の子が聞いていて、それを自分に対するプレッシャーだと感じて良い点を取らなきゃと追い込まれたりすることもあるんです。

 親御さんは、無意識のうちに親の期待に応えようとさせてしまっていないか、ふだんの言動を振り返ることも必要かもしれません。勉強について行けずにカンニングをしていたのだとしたら、どこからわからなくなったのか一緒に振り返ってあげるなど、具体的に子供が困っていることに対処してあげてほしいと思います。

家庭は子供の「好き」を伸ばす場所

--経産省の未来の教室通信の記事も執筆もされていますが、こども庁、教育DX等、未来の教室等、子供たちを取り巻く日本の教育も変化してきています。これからどう変わっていくと思いますか。また、期待していることを教えてください。

 教育DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、みんなが同じ場所で共通の教育を受けるのが前提だった今までの教育とは異なり、ひとりひとりのペースに合った指導スタイルを目指す取り組みです。DXによる教育のデジタル化が進むことで、子供たちの学習の個別最適化が進み、それによって生み出された時間を活用して子供たちが興味関心を深められる探究学習にあてる。先生方も働き方改革を進めて、子供たちに伴走するというサイクルが回るようにというのがDXの理想。今はその理想に向かって、日本のあちこちで学校も先生方も頑張っている段階です。そうやってより良い教育を目指す取組みの1つ1つが、価値のある情報やメソッドとして日本全体に幅広く行き渡れば良いなと思っています。

「子供のことをよく観察して話を聞いてあげて、好きなことになるべく没頭できるような環境づくりを、家庭でサポートしてあげることがいっそう大事になってくる」

 ただし、教育現場というのは改革のスピードがなかなか上がらないので、この1年、2年で急に日本の教育が変わるということは期待できません。でも、だからといって、画一的な日本の教育ではひとりひとりの個性が伸ばせないと批判ばかりする必要はなくて、学校は基礎学力をつける場として意識しつつ、個々の興味関心は家庭で伸ばしてあげるというサイクルをまわしていけば良いのかなと思います。

 日本の初等・中等教育は、他の国に比べて実は優れているところがたくさんある一方で、探究のような考えて深めて広げていくような学びはまだまだこれから。だからこそ、子供のことをよく観察して話を聞いてあげて、好きなことになるべく没頭できるような環境づくりを、家庭でサポートしてあげることがいっそう大事になってくると思います。

親も子も笑顔でいられる5つの習慣

--子供と良い関係でハッピーに過ごすためにおうちでできる「良い習慣」を教えてください。

 まず1つ目は「読み聞かせ」です。たとえ親子喧嘩をしたときでも、本を読むことで気持ちを切り替えてお話の世界に入ることもできるわけです。忙しくても、寝る前に一冊本を読んであげるだけでもいいので、読み聞かせを親子の大切な時間にしてほしいですね。

 2つ目は「スキンシップ」です。肌と肌が触れ合うことで幸せホルモンが分泌され、子供の心は安心感で満たされます。親子の絆を深め、自己肯定感を得るためにはスキンシップは欠かせません。

 3つ目は、「気持ち言葉のレッスン」です。気持ち言葉のレッスンとは、大人が、子供が感じた感覚と言葉の結び付けをしてあげること。赤ちゃんのオムツを替えるときに「気持ち良いね」と声をかけるようなところから始まって、「お友達と遊べて楽しかったね」「ブランコがいっぱいで遊べなくて残念だったね」と、気持ちを大人が言葉で補ってあげてほしいのです。気持ち言葉が足りないせいで、何でも「やばい」で片づけてしまい、お互いの気持ちを理解し合うことが難しくなっているように思います。昔は、家族や親以外との大人との関わりも多くて、コミュニケーションの練習なんていう意識はなかったと思いますが、今はぜひ心がけてほしいですね。

 4つ目は「対話」です。1日の中で、時間と場所を決めて子供と話す時間が作れれば理想ですが、それが難しいとしても、寝る前に添い寝をしながら「今日嬉しかったことを3つ報告し合う」でも良いのです。「今日給食でおかわりできた」といった小さなことでもOK。ポジティブな対話をすることで幸福度が上がることは心理学的にも実証されています。

 5つ目は「親も子供も自分が好きなように楽しく過ごせる時間をもつこと」。小さいときほど、子供は気ままに過ごせる時間が必要です。ワクワクすることに没頭できたり、ボーッとしたりする時間を作ってあげましょう。親も、毎日は難しいかもしれませんが、楽しく過ごしている姿を子供に見せて。親もハッピーでいることは大事だなと思います。

--最後に、読者にメッセージをお願いします。

 子育てをしていると、困りごとやうまくいかないことがたくさんあって当然。それに対して感情に任せて爆発しちゃったりすることもありますよね。でも、それは誰にだってあることだし、いつも完璧な親でいようと自分でがんじがらめにする必要はありません。しんどいときは閉店ガラガラで良いんです。

 ちっとも親のいうことを聞かないし、毎日こんなに困らされている。でもひとつだけ頭の片隅に置いておいてほしいのは、「子供はお父さんお母さんのことが大好き」ということです。

 今のいま、お子さんに対して困っていることも、いずれは困らなくなる日がきます。時間がかかる子もいますが、みんなちゃんとそれぞれのペースで成長していくので、どうか安心してください。子育てには、山もあれば谷もあります。谷にいるときでも、そんなことをときどきは思い出してください。何より、いつも子供の一番の応援者でいてあげてほしいなと思います。

--ありがとうございました。


 理想のわが子と現実のわが子との距離感を考えるのに役立つ言葉がいっぱい詰まった「子育ての困りごと解決ブック!」。なかなか一筋縄ではいかない子育ての渦中にいると、わが子のことなのに見えなくなる、わからなくなることはたくさんある。そんなときこそ手に取ってほしい、すべての親に読んでほしい一冊だ。


ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!
¥1,650
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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